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幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜  作者: 織子


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第15話ー迷走


「陛下、お話があります」

ロワナは朝から皇帝の執務室を訪れた。10年前は、膝下丈のドレスを着て使用人たちに見守られ、皇宮内を走って訪れた部屋だ。もちろん今はそんなことは出来ない。



「どうしたロワナ。改まって」

皇帝は柔らかい微笑みでロワナを見た。年月が経ち、深く刻まれた皺も見え始めたものの、まだオーガストに皇位を譲るほどではない。


ロワナは意を決して言った。

「私を、ヴァルグレイス公爵家に嫁がせるおつもりでしょう?考え直してくださいませ」


「ふむ?どこでその話を聞いた?」

皇帝は首をかしげた。

「どこでも何も!今社交界でも、皇宮内でも噂になっております」


「ほう?あやつが外堀から埋めようとしているな」

皇帝は呟いた。

「お前の言う通り、降嫁先の有力候補ではある。だがまだ決定ではない」


「でしたら···」


「だが、我が国初の大公家だ。アリアナはカスティヤ王国に嫁ぐことが決まっているし、お前が行くに相応しいと思っている」


「私は自分が大公夫人に相応しいとは思えません。どうか考え直していただきたいです」

ロワナの必死の訴えに、皇帝は眉を顰めた。


「ふむ。お前がそこまで言うとは、あやつの落ち度だな。私は娘に無理強いはしたくない。無理に嫁がせることはないから、安心しなさい」


皇帝の言質を取り、ロワナはホッとした。


ノクティスが私との結婚を望んでいる訳がない。ようやく、ノクティスの望んでいた公爵位――今は大公に昇爵したが。それを継承するというのに、彼にとっての懸念事項はなくしておきたい。


(全く誰よこんな提案をした人は)


婚姻という誘惑は、ロワナの決意をあっという間に揺るがした。欲がでてしまうから本当にやめてほしい。

何より、ノクティスにロワナが望んでいると勘違いさせてしまうのが怖かった。


回帰前、眼を奪っておきながらまだ望むのか。――と。







❉❉❉❉❉❉


「お兄様!」


馬車に乗り込む手前で、ロワナはオーガストを呼び止めた。


「やぁロワナ。今日は本当に行かないのかい?君も招待されただろう」

「はい。私は残ります。ただ、私からのお祝いの言葉も伝えてほしいのです」


今日は皇都のヴァルグレイス公爵邸で、爵位継承のパーティーが開かれる。名実ともに、ノクティスが爵位を引き継ぐ日だ。


「まったく大公も気が早い。ノクティスが成人したらすぐに爵位を譲り渡すなど」

「そうですよね。確かに小公爵は優秀らしいですが、こんなに早いとは」

「大公は早く爵位を譲って軍部に専念したいのだろう」


オーガストは複雑そうな眼でロワナを見た。

「ロワナは、大公家に嫁ぐのだろう?私が皇帝になっていれば、少しでも時期をずらしただろうに。ノクティスはすぐにお前を連れて行くだろうな」


「お兄様?」

「寂しいなんて言えば笑うか?まだ妹離れが出来ていないのだ」

ポンと頭に手を置かれる。


(??お兄様は何を言ってるのかしら)


「私、ヴァルグレイスには嫁ぎませんが?」

「なに?」


驚いたからか、手がパッと離れた。

「お兄様、小公爵は大変な苦労をされて爵位を譲り受けるのです。その褒美が私などであって良いはずはありません。陛下にもこの件は白紙に戻すように言いましたし、他の大臣達も説得します」


(お兄様の耳にまで入っているなんて。確かにヴァルグレイスと皇家の繋がりが濃くなるのは国にとってよいことだけど、ノクティスをもう犠牲にしたくない)



「はははは!お前はこの件を大臣たちの仕業だと思っているのか?政略的なことだと?」

「そうでしょう?」

「なるほど。なるほど。妹離れはゆっくりで構わなそうだ」


にこにこしながらオーガストは馬車に乗り込む。

「あ、お前が陛下に進言したのはいつだ?」

「今朝でございます」

「となると、もうあちらに早馬で届いていそうだな。ふふ。どんな反応なのか楽しみだ」


オーガストがにやにやと悪い笑みを浮かべている。


「ロワナ。今日は自室でなく、他の部屋に身を隠すことを勧める」

「はい?」

「ではまたな」


ご機嫌のオーガストを乗せた馬車を見送り、ロワナも部屋へ戻った。もう日が沈んでいる。ノクティスは今日、皆に祝福され爵位を継承する。

目を閉じてオーガストの立太子式を思い出した。


(正装したノクティス、カッコよかったな)


もともと回帰してから、自分とノクティスの縁は限りなく薄くなっている。本当は今日も行きたかった。正装したノクティスを目に焼き付けたかったけど、今日は笑顔で祝福出来そうになかった。


自分の護衛騎士だった彼はもういない。晴れて権力を持ち、この国の大公になるのだ。


(何年か経てば、大公になった彼に会っても動揺しないはず)










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