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幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜  作者: 織子


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第13話ー愚行

一緒に行くと言っていたオーガストだったが、結局ロワナは一緒に行けなかった。


オーガストは先に馬で前線の国境へ向かい、ロワナは後から馬車で出発したからだ。


(私だって馬で駆けていけるのに!)

オーガストと同じように馬で駆けていく許可は、皇帝からどうしても出なかった。 


そのため、ロワナはオーガストより2日遅れてヴァルグレイス領に入った。


だから公爵邸に着きロワナは驚いた。国境にいるはずのオーガストが、公爵邸の正門前で出迎えたからだ。



「お兄様?何故ここに?」

「私も先ほど着いたばかりだ。この状況を確認せねばならない」

どこか疲れた表情に、ロワナは緊張した。


「よくない状況なのですか?」

「なんと言うべきか····小公爵が少々無茶をしたようだ。すでに勝敗は付いていた」


(ノクティスが怪我でもしたの?)

ロワナは血の気が引いた。オーガストに更に問い詰めようとした時、正門の扉が開いた。


「皇太子殿下、第二皇女殿下。ようこそいらっしゃいました」

ノクティスより少し明るい赤茶色の髪、現ヴァルグレイス公爵だ。


顔を見るなりオーガストは声を荒げた。

「挨拶はいい。公爵、どういうことだ。こんなに早く収拾がつくとは」


公爵も疲れた顔をしている。目の下にはクマがある。

「とりあえず中へ。状況をご説明致します」


ロワナはノクティスの姿が見えないことに焦った。

「公爵、ノクティス····小公爵はいないの?」


公爵は戸惑いながらも答えた。

「皇女殿下、ノクティスが気になって来られたのですか?ノクティスは今自室で謹慎中です。その事もご説明致します」




執務室に通され、お茶が出された。公爵は眉間にシワを寄せたまま口を開いた。

「アデラジャからの宣戦布告の後、我らが一万もの兵を率いて応戦出来たのはノクティスのおかげなのです。ノクティスはアデラジャの新王が戦を仕掛けていることに気付いていたようでした」


「ふむ。彼の情報網にはいつも驚かされるから納得は出来るが···アデラジャがすぐに兵を引いたのはどういうことだ?」


公爵の目がわずかに泳ぐ。

「今のアデラジャは取るに足らない軍事力です。戦力を徐々に減らし、国境の先の渓谷で迎え撃つつもりでした――ですが、4日前、皇太子殿下からの報告を見たノクティスが、単身アデラジャに入り、新王の首を取り戻ってきたのです」


「――なんだと?」


オーガストが口を開けて唖然とした。無理もない。一国の王を単独で伐とうなどと考える者などいるはずがない。

「冗談―ではないだろうな。正気か?君の息子は前々からおかしいと思っていたが、ここまでとは」

「返す言葉もありません。···殿下にお聞きしたいのですが、うちの愚息になんと連絡したのです?」


オーガストはしばし空を仰いで考えた。

「·······今から第二皇女と公爵領へ向かうと」


黙っていたロワナだが、ここで一気に注目された。その場に居た皆がロワナの顔を見た。


公爵は今度こそ額に手を当てて項垂れた。

「····皇太子殿下、ノクティスがこのような事を起こすとは考えられませんでした。私の不徳の致すところです。ノクティスの爵位継承については考え直さねばならないかもしれません」


オーガストは神妙な顔で首を振った。

「いや、結論を急ぐな公爵。私にも思い当たる節がある。とりあえず公爵は休まれよ。顔色が悪い」


公爵は一礼して部屋を出ていった。


「ロワナも部屋を用意してもらったから、もう休みなさい。明日、一緒にノクティスの所へ行こう」


「はい···」

ロワナは返事をしたが、足はなかなか動かなった。


(ノクティスがレバノンを殺した?)


ということは、ロワナが危惧していた全ての事柄がなくなった。


アリアナの事故、オーガストの脅威、レバノンとの婚姻。気付けばすべてロワナではなく、ノクティスが成したことだ。






❉❉❉❉❉


(ノクティスは今何をしてるのかしら)


充てがわれた部屋に連れて行かれて、湯浴みをすませベッドに横になった。世話をしてくれた侍女が部屋を出ると、ロワナは起き上がった。


回帰した直後は、自分で不運な事を変えるつもりだった。力も付けたし、前世より出来ることは増えたはずだ。


(でも結局私は何も出来なかった。ノクティスが全て変えてくれたのね)


窓を開けると冷たい風が入ってくる。ヴァルグレイス領は北方領土だ。雪の季節ではないが、それでも寒い。視線を感じ、下を見ると、渡り廊下に赤銅色を見つけた。

確実に目が合ったのだが、ノクティスはぐるりと向きを変えて足早に去ろうとする。


ロワナはぽかんとその姿を見ている。


(――な、なんなの)

およそ彼らしくない。ロワナの前では、ノクティスはいつでも落ち着いていた。時折軽口は叩くものの、それこそ兄のように優しい眼差しで見守ってくれていた。


――それがあんなに逃げるように。


「待ちなさい!」

ここは2階だ。落ちても死にはしないだろう。ロワナは窓枠に足をかけ、ヒラリと窓を越えた。


もちろん落ちるつもりはなかった。しかしドレスよりも軽い寝着が窓枠に引っかかり、ロワナは見事にバランスを崩した。





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