8:隠蔽
(い、いろいろあって一睡も出来なかった……!)
巫女の顔を維持しながらも、誰にもわからぬよう小さくため息を付く。
時刻はちょうど朝。皆の登校が終わり、おのおの教室で朝の会までの時間を潰す感じなんだけど……、いやほんと辛いです。なにせ婆ちゃんのクソ辛い修行の後から初陣、その後に主人公周りのイベントに振り回されたと思えば、婆ちゃんと一緒に後片付け。しかもそれがようやく終わったと思えば神様への詫び神楽を決めて、そこからまた修行っていうヤバすぎるスケジュールだったのだ。
あと普通にここ数日睡眠時間が犠牲になっていると言いますか、婆ちゃんが『寝るより修行して方が強く成れるし健康だし長生きできるねぇ』みたいな意味不明なこと言い始めたせいで全然寝てないの言いますか……。
い、いや確かに体調は無駄にいいんですよ? ただ眠気がヤバくてですね。巫女としての恰好で気合を入れてなければ1時間目から6時間目までのフルタイム爆睡をかます様な状態です。
(ほんとつらい……。けどこっからもっと面倒ごと起きるんだろうなぁ。)
主人公こと、『塚本樹里』。
そもそも彼女は、何かしらの力を持つような存在ではなかったはずだ。
私も婆ちゃんから『時代が時代なら歴史に名を遺すくらいには天才ちゃんだねぇ、……修行もっと重いのにしようか』なんて言われるレベルらしいが、初心者も初心者。一応“感知”なる技術は取得させられたが、偉そうな顔は出来ない。
けれど『塚本樹里』なる人物にこれまで霊力が宿っていなかったのは紛れもない事実。これまで学校でそんな反応は感じなかったし、力の隠蔽を行うもの特有の『不自然さ』も一切なかった。つまり樹里ちゃんは昨日まで無能力者だったはずなんだけど……。
(なんか胸から日本刀出してたんだよなぁ。シュンっ! って感じのオノマトペ出てたし。)
あのタコの怪異、既に祓ったあの相手と邂逅する直前に霊力に眼ざめ視認できるように。
そしてそこから逃亡し何故か雑魚に囲まれた瞬間、覚醒し日本刀が出現。
私よりは少ないけど、確実に霊力に目覚めている感じだ。今朝式神越しに軽く調べてみたんだけど、やっぱり反応アリ。しかも彼女に宿る霊力と、心臓の位置から感じられるあの刀の霊力。二つの力が見受けられる感じ。たぶんだけど、使用者の肉体か心臓を鞘とする感じの霊刀なんだろうね。
ま、まぁこの漫画が『バトルもの』であればこういう主人公の覚醒はよくある事なので、別に問題ないのだけど……。
(さ、作者ァ! 恋愛じゃなかったのかお前お前お前!)
こ、こっち恋愛ものだと思ってわざわざ『占い』習得したのに! 無駄になったじゃないかお前! そもバトル中心ならもっと前から修行してたよ馬鹿ッ! こ、これで色々間に合わなくなったらお前のせいだからな! 何あっても知らないからなッ! あと読者様への説明はしっかりしろよなお前! 筋通すんだぞ筋! この世界の命運を担ってる読者様に『え、恋愛メインじゃないの? なんか萎えたわ』とか思われたらほんとに終わるんだからなお前! マジで気を付けろよ!
……はぁ。まぁね? もうそういう存在が出てしまった手前、霊力異能バトルが始まって行くのは間違いないんだ。それ前提で、カラーページを狙っていくしかないだろう。
(それに、あの“笹沼先輩”の感じ。明らかに暗躍しそうな感じだったし、近いうちに主人公とも戦うはず。でも彼女から先輩への矢印は確実にある感じだし……。バトルメインで進行しながら、恋愛要素もあるって感じにしたいのだろう。)
片思いしてる先輩と戦わなくちゃいけないなんて! っていう苦悩シーンは合って損がない見せ場だ。それに至るまでのワクワクや、うまい具合に情報を散りばめてSNSとかで予想してもらって拡散。良い感じの人気を狙える良い要素だろう。
あとは実際にそれを描写するまで読者様からの人気をかき集めて、編集さんが理解を示してくれれば……、カラーページが狙えるはず。
(となると……、基本このタイプの戦闘って夜するのが基本だし、上手くいけば黒塗りじゃない夜空を見れるってコト!? あはァ! やる気出て来たぁ! 失って初めて理解したけど、夜空って黒一色じゃないんすよ……ッ!!!)
密かに手を握り締め、気合を入れる。
まだ何か作者が突っ込んで来る可能性もあるが、おそらく大筋はそれで問題ないはず。
少々振り回されてしまったが、これさえ分かれば後は上手く動けると思う。バトルもの故に『読者人気を手に入れる』だけでなく、『何が何でも生き残る』という目標が増えてしまうが、やることはそう変わらない。婆ちゃんのしごきに耐えてれば自然と強く成れる。ならば「継続して行っている主人公の行動を監視しながら適宜介入していく他ない。
なにせ霊力バトルという環境の中で、折角『巫女』という輝けそうなポジションを貰えているのだ。まずはこれを上手く活用し、読者人気を最大限引っ張れるような開示タイミングを狙っていくことにしよう。
(っと、そろそろか。素知らぬ顔しとかないと。)
そう考えた瞬間、開かれる教室の扉。
少し思い悩みながら入ってくるのは、この世界の主人公である塚本樹里。親友の夏みかんや、その他の友人から朝の挨拶をされるが……。少々上の空というか、何か考え込んでいるようで上手く返せていない。
(ま、なんでそうなってるのかは監視してるから解ってるんだけどね。)
昨日、小物の怪異を全て切り払った彼女だが、今朝は部活の朝練を休み、あのタコの怪異が破壊した住宅街の方に足を向けていた。
自分のせいで建物を壊してしまい、死んでしまった人がいるかもしれないと思ったのだろう。せめて拝ませてほしいという風に、鞄の中にお供え物を入れて出発したようだったが……。そこにあったのは何もない普通の住宅街。もっと言えば、破壊される前の状態を保った家々が、そこに。
そして更に、まるで何もなかったかのように倒壊したはずの家から出発する人々や、中で日々の生活を送る人たち。まるで昨日のことが全て嘘だったかのような日常が広がっていたのだ。
(うん、私が。いやもっと正確に言うならば婆ちゃんと私が後始末をしました。)
ちょっと術の難易度が高すぎるせいで、大半婆ちゃんが何とかしてくれたんだけど……。私たちはあの場所で、全てが『何もなかった』かのように元通りにする必要があった。
『怪異』という存在は、この前言ったように『人が定義づけすることで進化してしまう』可能性がある。結界などで発生を抑制していなければ何処にでも生まれるのが怪異だ、もし一般に知られていたらそいつらがどんどん進化して大変なことになっちゃうでしょう? ってことでこの存在は一般に知られてないし、もし何か起きたとしても全部元通りにする必要がある。
(なんでまず倒壊した品々に式神を張り付けて、一時的に付喪神化。壊れる前の形に巻き戻らせて、固定。あと術式や降ろす神様とかの関係上ややこし過ぎて婆ちゃんしか出来ない“蘇生”を行って記憶処理。全部無かったことにしたわけだ。)
いやはや、ほんと大変でした。うん。
……お願いだから婆ちゃんがした“蘇生”に関しては突っ込まないでね、ほんとに。
死体を式神化して破壊される前の姿に戻し、黄泉関連の神様から魂を返してもらって籠め直す作業とかマジ意味わからんかったからさ。い、いやまぁ昨日思いっきり扱かれたせいで今日の朝4時くらいから私も使えるようにはなってるんだけどね。色々難解すぎて原理はまだ欠片も理解できてないんだけど……。いやなんで死人蘇生出来てるの?????
あ、ちなみに『怪異によって何も知らない一般人が死亡した』以外の状況で“蘇生”しちゃうと、なんか神様との契約違反になるらしくて、バチクソにキレた神様がやべぇ感じになるそうです。怖いね!
(……いやほんとに何この設定。さ、作者?)
とそんなヤバいことを考えていると、気が付けば何故かこちらに視線を送っている主人公の姿が。
あ、もしかしたら巫女って理由だけで昨日のアレコレについて聞こうとしてる? その直感は滅茶苦茶正しいけど、今の私の口からは『何も知らない』以外の言葉は出せないよ?
いやだって町の平和を守る巫女がおいそれと怪異の情報を一般人に教えるわけにはいかんし、正体ばらすのは読者様的にももっと後の方が面白いだろうし……。
うわマジでこっちに来ちゃった。
「あ、あの。山本さん……。」
「うん? あぁ塚本さんでしたか、如何なさりました? どうやら少々顔色が悪いようですが。」
「だ、大丈夫。そ、それでね。すっごく変なこと聞くんだけどさ……、き、昨日のことって、何か知ってる?」
「はて、昨日。……すみません何か忘れているのでしょうか? 自身には思い浮かぶことがなく……。」
「あ、いいの! 全然、全然大丈夫だから! ……ゆめ、だったのかな。」
申し訳なさそうに私から離れながら、つい零してしまう小言。
全然夢じゃないですよ?
まぁ主人公の力や“これから何が起こるか”っていう未知は大きければ大きいほど期待感膨らみますからね。私が見たい『色』のためにも、もうしばらく思い悩んで頂ければ。
……いやまぁ貴女が胸に秘めてるその刀に関しては私も全く知らないんですけどね? なんか婆ちゃんにもはぐらかされたし、そもそも何であの場に彼女の想い人である笹沼先輩がいて、彼がどういう立ち位置なのかも、欠片も解らないのですが……。
(と、とりあえずいい感じのリアクションの練習しておこうかな? 『驚愕の事実!?』とかいうテロップが出た時の為に。『はぅわぁ!?』みたいな良いオノマトペ出せるように成ろう。……今更だけどオノマトペってどうやって出すんだ?)




