6:初陣
手早くやるよ、ってカッコつけちゃったけど……。
いや私、これが初陣なんですよね。うん。
(速攻で終わらせたいのは事実なんだけど、出来るかな?)
そもそもというか、高校入学前までの私は将来普通の巫女になると思っていた。無論前世で言う所の“普通”であり、死ぬまで神社の道とか掃除してるのかなーって。
両親から祖父母に親権が移動する前から二人が後継者に悩んでたのは知ってたし、何か助けになれればというのは考えていた。育ててもらうという特大の恩を受けているわけだし、特に私は将来したいことがあるわけではない。そもそも人生2週目だし、『目』のこともある。
学費とか食費とか諸々の面倒見てもらえる上に、生来の就職まで面倒見てもらえて、祖父母が管理してる神社自体結構大きな所だとなれば……、ねぇ? もう継ぐしかないでしょ。って感じだった。神主になるための大学のパンフとか既に取ってたし。
それがなんか気が付いたら超オカルトチックな修行三昧になってるし、いつの間にか化け物退治してるわけなんですけど。これも作者ってやつの仕業なんだ……!
(ま、私に色。カラーページを齎してくれる主人公ちゃんが死にそうになってたんだ。飛び出す以外の選択肢はなかったけど……、早まったかなぁ?)
そんなことを考えながら、式神を軽く操作し敵の姿を観察する。
ご先祖が残した資料と、婆ちゃんからの教え。“高校入学前までは欠片も存在しなかった設定”を踏まえて分別すると、眼前のこいつは“怪異”に当たる存在だ。人の恐怖とかそういうのが起因になって生まれた存在で、まだ“名前”を持たない不確かな存在。人の死体がまとわり合ってタコの体みたいになってる10m級の化け物なんだけど……、多分コイツ、弱い方なんだよね。
『言霊』という言葉があるように、その存在を言い表す単語と言うものは時に途轍もない力を発揮する。
今はまだ弱い方な“怪異”だが、人の魂を喰って力と知識を手に入れ、自身を分類する名前を定義すれば“妖怪”になってしまう。今のコイツは何かしらの特殊能力を持っていないようだが、妖怪になってしまうと過去にその名前を持った妖怪が引き起こした事情を再度起こせるようになるらしい。
ま、簡単に言えば“怪異”から“妖怪”に進化する感じで、進化すると“ワザ”が使えるように成っちゃうわけ。
「ちなみに人間が何かしらの名前付けちゃうと、強制進化でクソ強くなっちゃうらしい……、っとォ!」
「ハハハ、ハヤクク、クワ、セロ」
「やなこった!」
相手が振り落としてきた触手を、式神を束にしてガード。
余計なことを考えすぎたらしい。それまでの思考を振り払い、戦闘に意識を集中させる。
「んじゃ準備していきますよ、っと!」
受け止めた触手を式神越しで押し返しながら、跳躍。足元に式神を配置することで、大空を駆けあがっていく。
狙いは単純に、戦場の整理だ。
既に住宅街への被害は出てしまったが、あの巨体だ。暴れ回ればより多くの被害を出してしまうだろう。正直に言えば、顔も知らない他人がどうなろうと構わないが……。ウチの神社、『往霊神社』はこの辺りの守護を受け持っているらしい。そこに所属する巫女となれば、人の命は勿論、建物の被害も抑えなければいけない。
ということで何もない空へと逃げ延びながら、相手の攻撃をこちらへ。市街地への余波を抑えられるよう相手の視界に収まるように動きながらさばいていく。
「十数枚必要だけど、耐えきれるレベル、っと!」
再度触手を式神でガード。
理屈はまだ解っていないが、此方が意図した通りに浮かぶ紙切れたちだ。幾ら霊力を込めた和紙と言えど、ただの紙であるためあの巨体を1枚で何とかするのは難しいが、重ねれば何とかなる。上手く弾いて相手のストレスを上昇。ついでに足場とした式神の上をちょこちょこ動き回りながらヘイトを稼いでいく。
(おわッ!?)
「クワセロ」
神楽を踊るように回避していると、それまで石畳程の堅さを保っていた式神が、急に沈む。
バランスこそ崩さなかったが、相手からすれば明確な隙。怪異の持つすべての触手が私に向かって飛んでくるが……、許容範囲。周囲を漂っていた式神すべてを呼び集め、球状に展開。そのすべてをガードしながら、原因となった式神を呼び寄せてみると……。
「あぁ成る程、破れかけてるのか。まぁ元々ただの紙だし、籠めてるのも蟻の霊だからそんなもんか。んじゃ、有効活用しなくちゃねぇ。」
ガードのみならず足場にも使えるこの式神。
一応攻撃にも転用できるので、教わった時は『これだけで十分じゃん!』と思っていたが……、どうやら耐久性に難のあるものだったようだ。まぁこまごまとした反省は後にすることにして、これ以上使い続ければ他の式神にも綻びが出るのは確実。相手の行動パターンも大体わかって来たし、コソコソ動いてた“結界”の方も完成済みだ。
反撃といこう。
「タベルタベルタベル」
「ハイハイ、食べれたらいいね、っと!」
球状に固めていた式神たちを外に向かって放出し、敵の攻撃を一旦全てパリィ。そして見えるのは、一本の道。
攻撃にも防御にも使える触手を全てさっきのガードを崩すために使っていたんだ、弾かれてしまえば無防備なタコの怪異が出来上がるだけ。ま、おつむがそんなに良くない化け物ちゃんだったみたいだからね、仕方ないね。
「“防御指令”解除、“突撃命令”。」
式神たちに出していた指令を変更し、なぞらせるのは生み出された道。
真っ先にほつれた式神を筆頭に敵の胴体へと飛びついて行く彼ら。相手もそれを身じろぎして回避しようとするが、触手も使えない巨体で避けることなど不可能。
瞬く間にその胴体全てが式神の“白”に埋め尽くされていき……。
「“自爆命令”、及び“収束”。」
起爆。
一体が爆散した瞬間、連鎖的に破裂していき、その胴体全てを吹き飛ばしていく。
その衝撃によって薄めの黒粘体や人の死体を模った怪異の欠片がどんどんを散らばっていくが……、それを受け止める淡い白色の結界。こちらの合図に合わせて徐々にその範囲を小さくしていくそれは、破片のみならず触手丸ごと徐々に圧縮していく。
最初に張った『逃げられるのを防ぐ』結界を利用し、『怪異を閉じ込め廃棄する』効果を付与したものだ。何でも怪異の肉体って欠片でも残っちゃうとそれが原因で体調崩したりする人が出てきたり、新しい怪異の種になっちゃうようなのだ。
だから纏めて掃除しちゃおうってやつですねぇ。
そんなことを考えている内に、より圧縮が進み、宙へ浮かぶのは真っ黒な球体とそれを包む淡く光る線たち。既に行動不能にまで追い込んでいるが完全に退治できたわけではない。……じゃ、フィニッシュと行きましょうか。
「『火産霊の命に願ぎ奉り、禍を焼き祓ひ給へ』」
そう唱え終わった瞬間。私の身体の中から何かがガクッと削られ、同時に結界の内部で巻き起こる真っ白な炎。
神の炎をお借りして完全にこの世から怪異を消し飛ばすという行為。祖母から許可が出た故に使える祝詞だったが、想像以上に霊力の消費が激しい。……まぁ神の炎であることは間違いないのだ、確実に浄化することが出来るだろう。
ちなみにウチが祀ってる神様は別の方なので、後で『違うとこの神様の力借りちゃってごめんちゃい、機嫌損ねないでね♡』と謝りに行かなければいけない。婆ちゃんによるとそこまで嫉妬深くない方なのであちらからの許可が出ているのならば好き勝手に色んな神様の力借りて良いらしいんだけど、筋だけ通しておかないと最悪人柱要求されるらしい。
(これも修行始まってから教わった事実なんだけどさ、話聞く限り『神様実在する』みたいなんだよね。そんな話これまで欠片もなかったのに。……これも全部作者のせいだ。)
そんなどうでもいいことを考えている内に、真っ白な炎が徐々に消えていく。
夜を照らす光が収まったと思えば、宙に浮かぶのは私が張った球状の結界だけ。内部にあったタコの怪異は、無事に全てが焼き消されたようだ。
「よっと。うん、初めてにしてはよくやった方じゃない、私。」
「だねぇ。花丸上げちゃうよぉ。」
「……ほんと婆ちゃん音もなく現れるよね。」
地面に降りながら一息つくと、何故か既に私の横に出現している祖母。
……単なる気配だけじゃなくて、霊力の操作技術とかも教わったから索敵能力は各段に上がってるはずなんだけど、一切接近に気が付けないってホント何者なんでしょう。この人。いやまぁ修行が鬼厳しい以外は良いお婆ちゃんだから何者でもいいんだけどさ……。
ちなみにソレ、私も出来るようになる?
「さくらも頑張ったら出来るようになるよぉ。あとお友達が逃げてったみたいだけど、様子見に行かなくていいのかぃ?」
「あ!? そうだった!!! ごめん婆ちゃん、様子見てくる!」
「はいはい。んじゃ婆は後片付けしておきましょうねぇ。」




