31:寝起
(とりあえず来客用の布団に寝かせたわけだけど……。)
何の意図かは解らないが、あのクソ作者様が私の『隠蔽』を解いていたようで。私は樹里ちゃんとみかんちゃんに直で霊力をぶつけてしまっていた。
あまり自分では自覚がないんだけど、婆ちゃんからすれば私の霊力って異様なほど多いみたいでね? 総量もさることながらその密度も頭おかしいぐらいには極まっているそうなんです。まぁ私って一回死んでるわけですし、転生して三次元から二次元の漫画世界に落ちて来たわけだから“情報量”が多いのは理解できるんだけど……、それが霊力に成って現れるとはねぇ。
ちなみにそんな私の霊力の総量だが、婆ちゃんによると『魂が肉体を凌駕してるねぇ。普通なら体が耐えきれずに破裂してこの辺り全部吹き飛ばしそうなものなんだけど、なんか安定してるねぇ』とのことらしい。……まぁつい先日までそんな記憶“存在しなかった”わけだから『作者が設定を詰め直した』ものなんだろうけど。
ま、元から霊力枯渇を感じたことがない位には多い方ではあったんだけどね? それに明確な規模感が当て嵌められたって感じかな。“漫画内”では語られてない設定だし、いつかまた変更されそうだけど。
(んで話は戻るんだけど……。そんなのぶつけられたら耐えられるわけないよね。っていう。)
ギリギリまで頑張ってはくれていたんだけど、二人はまだまだ初心者だ。
確かに私はまだ実戦経験の少ないペーペーだけど、能力だけはあるつもり。そんな存在のプレッシャーをノーガードで受けちゃったらまぁぶっ倒れるわけで……。私が『隠蔽』の解除に気が付いたときにはもう遅く、その意識を手放してしまっていた。ギリギリ『よく解らん奴がカチコミしに来たと勘違いした』みたいな感じのセリフを“漫画内”に入れることは出来たと思うが、そこで区切られちゃった感じ。
というわけで一応クラスメイトで友人だし、そのまま参道の石畳の上に寝かせては置けないということで五人衆に布団ひかせてその上に転がしてるって感じです。
ついでにいつ『視点』が戻ってきてもいい様に、“読者サービス”として例の子守歌も歌ってあげてます。黒幕に成るつもりはないけど、こういう『もしかして……!』という演出はどれだけあってもいいですからね。まだ描写されていない部分には成りますが、今後の布石ってやつです。
あ、霊力は込めてないのでただの子守歌ですからね?
「『眠れ眠れ 月の涙よ~♪』」
……霊力が活性化し始めたな。もうそろそろ起きそう。
彼女達の様子を注視しながら、先ほどまでの思考を取りやめいつでも“物語”に入り込めるよう準備しておきます。二人が起きる直前に“視点”が戻って漫画が再開されていく感じでしょうし、気合入れておきませんとね。
「『桃の花びら 夢に舞う~♪』」
(にしてもまぁ、“整って”きたなぁ。)
そんなことを考えながら、触れるのは塚本樹里の頬。
新しく埋め込まれた『1巻部分の記憶』とは少し異なっていますが、以前見受けられた作画ブレなどが極端に減り始めています。回を重ねるというか、毎日顔が違っていたモブの顔を統一し始めていますし、みかんちゃんの顔も固定され始めています。前回範囲にて心の中で“ヘボ”と罵倒してしまいましたが、確実に成長が見て取れます。
まだ完璧でないのは確かですが……、褒めてやらねばなりません。
(“顔のブレ”って結構死活問題でしたからねぇ。収まってきているのはほんと助かります。)
何せ毎日顔を合わせる人の顔が違うのです。前世の記憶がなければ確実に狂ってしまっていたでしょう。いや、あったからこそ狂いそうになったんですかね?
そもそもの話ではありますが……。まだ物語に出てきていない“私の祖父母”ですらこの漫画ではモブ扱いとなります。
これすなわち自身がこれまで出会ってきたすべての人間、両親を含めたすべての人物が、モブであったことを表しています。樹里ちゃんたちと出会えたのは今年に入ってからですからね。まぁつまり、これまで出会ってきた人の顔が顔を合わせるたびに変化していたというわけでして……。えぇ、はい。実はなのですが、両親の顔をしっかり認識したことが無いんですよね。毎回顔が違うせいで出てこないんですよ。
「『父母のぬくもり 包まれて~♪』」
(最近固まり始めたおかげで祖父母の顔はある程度“こういう感じ”と思い浮かべられるんですけど……。両親がなぁ。)
多分作者としてもそこまで描写する気がないのでしょう、数少ない3人が写った写真すら顔の所が白く塗られてしまっています。まぁ私のせいで崩壊した家庭のようなものですから、今歌っている子守歌のように父母のぬくもりが恋しいというわけではないのですが……、思う所は結構あります。
作者の作画能力向上によって、このようなことがこれからどんどん減っていくわけですから……。嬉しいのは確か。色々と文句はありますが、感謝せねばならないんでしょうね。……あ、もしかして常に回復術を送ってるおかげだったり? 急に倒れて連載が吹き飛ぶみたいなことは避けたいですし、お礼を込めて今後は倍の出力で回復してあげるとしましょう。
っと。そろそろですね。
「『そっと見守る 星の音~♪』」
「……ぅん、ぅ、た?」
「あら、樹里さん。起きましたか?」
頬を触っていた手を頭に移動させ、ゆっくりと頭を撫でてやりながら優しく問いかけてやる。
するとまだ寝ぼけているらしい彼女の小さな声が。
「ぁ、ぅん。はぃ。……ひぃぃぃいいいいい!!!!!」
「ぅぅん、ジュリジュリ煩い……、ってほわァァァああああ!!!!!!」
「元気ですねぇ。」
急に飛び上がり、部屋の隅に逃げる樹里ちゃん。そしてその声で目を覚まし、同様に叫び声を上げながら同じ方向へと逃げ始めるみかんちゃん。おんなじ行動で、とっても仲良しですねぇ。
あと“私と敵対した場合”、部屋の隅っこに逃げてもどうにもなりませんよ? 少なくとも国内であれば確実に追跡できますし、逃げ場などありません。まぁビビらせるだけなので口にはしませんけど。
……さて、謝罪から始めるべきですかね。
「お二人とも、この度は誠に申し訳ありませんでした。」
「ぇ、ぇ!? ぇ!?!?!?」
「た、食べるの!? 食べられちゃうの私!?」
「いや何言ってるんですかみかんさん。」
人を食べるわけないじゃないですか。
まぁ確かに質量的に食べれないとは言いませんが、いくら私でもカニバリズムはしたくありません。
「んん! 話を戻しまして……、先ほどは圧をかけてしまい、大変申し訳ありませんでした。届け出のない霊具をお持ちになっており、事前の連絡もありませんでしたのでてっきり襲撃者かと……。」
「しゅ、襲撃者……?」
「……え! と、届け出って!」
「あぁはい、お近くの寺社仏閣に……。も、もしかして丸っきり知らなかった口ですか?」
自分でも白々しいし、読者様にも『何言ってんだお前』と思われそうなものだが……。感情を抑え非常に驚いたかのような表情を浮かべながら、そう口にする。
二人の反応から、やはりこの世界の“霊能力者”についての情報を全く持っていないことが見て取れる。急に作者が霊刀か何かに情報をぶち込んだり、記憶を無から生成したりする可能性があるので一応の確認だったが、要らなかったかもしれない。まぁここから説明をつけやすいので聞いて損はなかったかもしれないが。
「確かに、何も知らなかったのであれば色々と理解できます。少々酷な話かもしれませんが……、ご説明させて頂きますね?」
「「は、はい……。」」
さーって、読者様への世界観の説明のためにも。気合入れていきませんとねぇ!




