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〇これまでのあらすじ
黒幕には成りたくない(本人談)な山本さくらはこの漫画世界に転生した女子高生である。初連載時に見ることが出来たカラーページの衝撃が忘れられない彼女は、この『漫画』の読者人気を高め更なるカラーページ、ゆくゆくは全ページカラーを手に入れるため奔走を始める。
しかし『漫画の中』にいるため作者と連携が取れないため独自に動いた結果……、主人公の親友の記憶を弄り戦える戦士にしたり、敵の中ボス的な存在“怪異五人衆”を洗脳改造して自分の手駒にしたり、主人公の家に勝手に忍び込んで仕掛けを施したりとどこからどう見ても黒幕ムーブしかしていなかった。
本人としては『主人公の横辺りで物語を俯瞰できる立場にいた方が動きやすいし、カラーページもたくさん見れるはず』という考えの元で動いているようだが、作者との連携失敗により『五人衆を洗脳したシーン』を読者様に見られてしまっている。
ここからどうにか挽回するために何か企んでいるようだが……。
(……うん、ちゃんとウチの境内に繋がる階段上がって来てるね。裏山に行くわけではなさそう。)
式神と同期させた視界を眺めながら、ゆっくりと息を吐く。
いやまぁ裏山に行ってもらってもよかったんですけどね? こちらとしては神社に直行してもらった方がやり易いと言いますか……。
えっとですね? まず私の現状なのですが、読者様に『怪異五人衆を洗脳して自分の手駒にするシーン』を確実にみられてるわけなんですよ。つまりですね? 読者の方々からすれば、樹里ちゃんとみかんちゃんで構成された正義さんチーム、五人衆や笹沼先輩が分類される怪異さんチーム、そして目的不明の謎の私、って感じに見えてるはずなんです。
(いや急に出現したというか、顔に張り付けられたあの謎布のおかげで顔は解ってないだろうけど……。)
黒布一枚で正体隠せるわけないじゃん。
いや確かに服装も変えておけば全くの別人って捉えて貰えただろうけど、読者様方からすれば巫女って私しかいないわけなんですよ。もしかしたら爺ちゃん婆ちゃんあたりがどっかで描写されてるかもだけど……、明確に『視線』を感じたことはない。未確定ではあるけど、読者様が知る『若い巫女』ってのは私しかいないわけだ。
そんなところに単に布で顔隠しただけの巫女が出てきたら……、うん……。
(作者ァ? お前が“作者”じゃなかったら真っ先に呪い殺していたんだけどなァ……?)
おま、お前なぁ! 隠すんだったらもっと服とか頑張れよバカッ! なんでデザインまるっきり同じな巫女服で出すんだよ! 持ち帰って調べても一切材質が解んないほんとに謎の布出して張り付けて来るならさぁ! 全身真っ黒な巫女服でも着させろよ私に!
というか絶対そっちの方がデザイン的にいいじゃん! 『黒幕』にはなりたくないけど、『黒幕』として動かすなら白地の所を真っ黒に染めた黒と紅と特殊巫女服が最適だろうがッ!
(……え、もしかして私に自分で作れって言ってるのか? いや声とかそういうの一切聞こえないし、意思伝達出来ないから解んないんだけどさ……。い、一応後で用意しておく?)
ま、まぁ過ぎたこと。もっと言えば原稿に描かれ掲載されてしまったことはもうどうにもならないのだ。これからのことを考えるしかない。
前々から行っていたが、やはり『黒幕』に成ってしまうと見れる“色”の機会や数が減ってしまうような気がしている。確かに主人公とバチバチの戦闘を繰り広げれば見れる機会は出てくるかもしれないが……。
初連載時に生じた入学式前のカラーページと、みかんちゃんに勝手に霊具あげちゃって婆ちゃんに起こられた時に生じたっぽいカラーページ。これを見る限り、おそらくカラーページを貰えるのは“各コミックスの最初のページ”になると推測できる。
つまり戦闘という“区切り”がしにくい内容だと、色が回って来る順番に割り込めない可能性が高いのだ。
(コミックス勢からすれば戦いの途中でぶった切られるより、その巻内で収まった方が嬉しいだろうからねぇ。……ウチの作者はへぼだが、その辺りの思考はしてもおかしくない。)
となるとやはり、見方陣営。樹里ちゃんやみかんちゃんの陣営に近い方がいい。
しかし既に黒幕ムーブを視られてしまっている手前、何食わぬ顔で『仲間に入れてくださーい』すれば、樹里ちゃんたちはともかく読者様たちの疑念がより深くなってしまう。読者人気はこの世界の存続に最も重要なものだ。彼らが思い浮かべる様な展開と大きく外れてしまえば人が離れる可能性が出てくる。これがまだ“いい意味での予想外”なら大きくプラスに働くだろうが、悪い方に転がれば目も当てられない状況に成ってしまうだろう。
(故に私が取るべき選択は、“中途半端”なもの。味方でありながら敵っぽい動きもしてる。なんか企んでいたり、裏切って来そうな見た目の奴。この不安定でドキドキな感じが、おそらく最適……。)
そこで“昨日の間に準備していたルート”が、『師匠枠』だ。
五人衆の一人である『弓鳥』との戦闘でボロボロになった彼女たちを回復するために忍び込んだのだが、目的はそれだけではない。彼女達が強く成れるように幾つかの布石というか、樹里ちゃんの霊刀に情報を埋め込ませてもらった。
急に傷が無くなったわけだから驚いて集まるだろうし、集まれば昨日の戦闘の反省会に成るはず。そしたらもっと強く成らなくちゃという話になり、“記憶が一部戻った”霊刀が方法を教えればそれに沿って動くはず。
(勿論、『作者』のことも考えてあげてる。私が動き過ぎちゃったというか、五人衆に嘗められてキレちゃった時みたいなことにならないように、あっちには“選択権”を与えている。)
霊刀に入れた修行法は『霊地で精神統一し霊力の流れをより習熟させるもの』に成っている。そしてこの地域に存在する霊地は、ウチの『往霊大社』周辺のみ。彼女達が神社を通らず裏山の滝などに直行するのであれば“作者は私の登場をまだ望んでおらず”、彼女たちが私に真偽を聞きに来るのであれば“作者が私の登場を望んでいる”ということになる。
そう、つまりこれが最適な作戦。
樹里ちゃんやみかんちゃんの意思決定は、作者の意思でもあるのだ。この世界の書き手の意思を推測しながら、同時に読者様により楽しんでもらう。何せ昨日彼女たちが戦った『怪異五人衆の弓鳥』は既に私の式神に成っている。味方の強さも敵の強さも調整できる今、これ以上に動きやすい状況はない。
(ふふ~ん、こんな作戦思いつくなんて。私って冴えてるぅ! ……まぁ半分くらい偶々なんだけど。ま、気にしても仕方ないよね。“確実に読者様に見られる”わけだし、気合入れていかなきゃ。)
少し気合を入れ直し、社殿を背後に構えながら参道へと立つ。
式神に運ばせた落ち葉と、持ってきた箒。これで“ちょうどさっきまで掃除していた”私が出来上がるわけだ。服装も普段着ではなく、滅多に着ないガチの巫女スタイル。怪異五人衆もとい式神五人衆は全員一旦下げているため、この場にいるのは私だけ。
二人を迎え入れる準備は、完璧だ。
軽く箒で参道を掃いてみれば、階段を駆け上がって来る音と、見えてくる人影。
「あ、さくらっち! 居た……」
「や、山本さ……」
「お二人で参拝ですか? 珍しいこともあるものですね。」
◇◆◇◆◇
二人の胸中に生じる、恐怖。
樹里とみかんが自分たちの学友を目にした時、感じたものはソレだった。
最初は、何でもない話だった。樹里の胸に宿る「霊刀」が霊能力者の修行法を提示したがゆえに、早速実践してみようと考えた彼女たち。すぐさま修行に必要だというその“霊地”に向かおうとしたのだが……。それが問題だった。
何せその場所は『往霊大社』の裏山、神社がその所有権を保持し管理している山なのだ。この地で生まれ育った二人だからこそ幼少期から『あの山は神社さんの持ち山だから勝手に入っちゃだめだよ』と言われてきたのは覚えている。いくらこの町を守るための活動だとしても、何かしらの法を犯してしまうことになるだろう。
樹里もみかんも精神的に少し追い詰められた状況ではあるが、大きく道理を外れようとは思わない。一度入って良いかと聞き、許可を貰えたのであればそのまま修行。出なかったのであれば他の方法を考えるか、こっそり入ってしまうかのどちらかを考えていた。
『ま、さくらっちのお家だし? ちょっと甘めに見てくれるでしょ! 理由聞かれたら困っちゃうけど……。』
『……みかんちゃん。やっぱり、聞いてみた方が良いと思う。』
そしてわざわざ“彼女”に会いに行くのであれば、樹里の胸中に引っかかるものが一つ。これを解消すべきだと彼女は考えていた。
塚本樹里は一度、山本さくらに“怪異”のことを質問したことがある。その時は朝の朝礼前で、場所も教室の中。人の目も耳も多い場所で聞いてしまったがゆえに、樹里の問いかけも的を得たようなものではなかった。
霊地というあからさまな場所を、神社が抑えているのだ。もしかしたらあの時は誤魔化されただけで、ちゃんと聞けば教えてくれるかもしれない。自分たち以外に頼れる存在がいないからこそ、樹里は無意識に“誰か”を求めていたのだ。
そしてそれは、みかんも同じ。
『……うん、賛成。もし解んなくても、さくらっちだったら黙っててくれるでしょ。ま、私達はちょっと頭のおかしい人って思われるだろうけど~♪』
『あ、あはは。それはちょっと、いやかなぁ。』
少しふざけて空気を和らげながらも肯定する彼女に、笑みを返しながらほっと一安心する樹里。
彼女達はそんなやり取りをしながら、この神社までやってきていた。
連なる鳥居と長い階段。
霊力と言う不可思議な力を手に入れたからこそ、より理解できる『往霊大社』の重く澄んだ空気。霊刀から教えられるまで気が付かなかったが、確かに霊地だと納得させられるだけの凄みを彼女たちは感じていた。だからこそもしかすれば“彼女”も首を縦に振ってくれるだろうという淡い期待も。
そしてその参道を上り切り、彼女の姿を視界に入れた瞬間……
「あ、さくらっち! 居た……」
「や、山本さ……」
「お二人で参拝ですか? 珍しいこともあるものですね。」
感じる、恐怖。
霊力に満ちたこの地だからこそ理解できる、強い違和感。そこに“彼女”がいるはずなのに、霊的には一切何も感じられない。まるで周囲に散らばる霊力と一体化したかのような存在が、そこに。怪異が見えない一般人ですら多少の霊力を持っているのに、彼女から一切それが感じられないのだ。
そしてその違和感を認識した瞬間、叩きつけられるプレッシャー。
急激に自身に降りかかる重力が何倍にも膨れ上がる様な感覚。この世界そのものが自分たちを否定し排除して来るような感覚。眼前にいる“彼女”を中心に、絶望が襲い掛かって来る。
気が付けばその場に膝をつき、呼吸が荒く浅くなっていく。全身から汗が吹き出し、この場から逃れたくて仕方がない。けれど足どころか全身が言う事を聞かない。
何も、出来ない。
二人がそれを理解してしまった時、“彼女”が一歩前に進む。
「? どうかしましたかお二人とも……、ぁ。」
ほんの少し漏れる音が響いた瞬間、さくらの体が不気味なほどに固定される。
そして紡がれる、二人の耳では拾い切れない程小さな声。
(やっべッ! 『隠蔽』出来てないッ!? え、さっきまで張ってた……、解除されてる!? 誰がッ? 私……、じゃない! というか痕跡がないッ! と、ということは……、作者ァ!?!?!? お、おおお、お前! な、何してんの!? というか術にも干渉出来るのお前! は!? い、いやそんな場合じゃない。ど、どうしよどうしよどうしよっ!)
樹里もみかんもそれどころではなかったためその顔色を視界に収めることは出来なかったが、すぅっとさくらの顔から色が消えていき、真っ青に。まぁ“彼女”からすればずっと同じ『白色』なままなのだかが、そんなことを考えている場合ではない。
即座に『隠蔽』を掛け直し、『あ、そうだ!』と二人には聞こえない声で何か思いついた彼女は、慌てながら非常に申し訳なさそうに樹里とみかんに近づいて行く。
「も、申し訳ございませんっ! 霊具を持ってこられていたのでてっきり襲撃を仕掛けに来たのかと……ッ! だ、誰かッ! 早くこっち来てッ! 急患~~~~ッ!!!!!」
〇隠蔽
さくら:自身を世界から切り離し“そこにいない”ことに出来る術式
作者:ほぼ創造神、紙面に書いたのなら“そこにいる”
別件で大変申し訳ないのですが、自身が原作をやらせて頂いている『ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 アホかわいい最強種族のリーダーになりました』のコミカライズ第1巻が本日11/27に発売となりました。よろしければ是非お買い求めくださいませ……!
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