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漫画世界に転生した巫女はカラーページが欲しい。  作者: サイリウム


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29:失敗


「払った……、ね? うん払ってる。……ふぅ、良かった良かった。急に無銭飲食しそうになってたから驚いたよマジで。」



色々あった翌日、家にある倉庫で資料を開いていた私は式神からの報告を受けて大慌て。急いで神社から飛び出そうとしていた。


い、いやだって週刊誌の主人公が無銭飲食って色々ダメじゃない。確かにこの『漫画』が公開されてる時期が昭和だったらギリなんとかなったかもだけど、それ以外じゃちょっと、ねぇ? まぁヤンキー漫画とか犯罪系をメインにしてたら令和でもセーフだったかもしれないけど、ジャンルが違うわけですし……。



「“あっちの世界”のこともだけど、こっちの世界でも普通に犯罪だからね。同級生が警察のお世話になるとか色々嫌だし。……うん、何あるか解らないし、視界共有は続けとこ。」



普段は何か動きがあった時以外は強く注視していない監視用式神たちの優先度を上げ、自身の片方の視界と完全に同期させながらさっきまでいた倉庫へと戻っていく。


急いで出発していたためカギをかけていない重い扉を開けてみれば……、ずらっと並ぶ大量の紙の資料に、怪異を滅するこの神社には相応しくない様な邪悪な品々が幾つか。そう、昨日笹沼先輩のお家から奪ってきた品々を一時的にこの倉庫に避難させたのだ。


見分が終われば全て処理するつもりではあるんだけど、品が品だからね? 人目のつかない蔵の中で見てるってわけです。



「にしてもまぁ、あくどいことしてるよねぇ。……お陰様でなんで結界のあるこの地に怪異が侵入できたのか、ってのが解ったんだけど。」



そう言いながら、さっきまで見ていた資料を最初から見直してみる。


軽く読み込んでみればわかるのだが、その内容は邪悪以外の何物でもない。おそらくどの世界においても法を幾つか破っているし、人道も倫理も無視している。それに対し特に強い思いを抱くことはないのだが、発覚した時点で私達の討伐対象にあげられる程度にはマズイ内容だった。



(そもそも、私達が『怪異』という存在には幾つか種類がある。)



基本的に人の魂を貪るバケモノ、という点は大体同じなのだが、発生原因やその肉体を構成するものなど、幾つかに分類できるのが怪異という存在だ。


一応公的な名称だと『第一種怪異』みたいな感じで分別されてたみたいなんだけど、使われてたのは明治から戦前までの一時期でしかも国直営の組織だけ。今じゃ『妖怪よりも弱い奴』を纏めて『怪異』と呼んでいる感じになっている。


まぁ基本的な奴は人の多い所で自然に発生して、周囲を漂っている霊力とかをその肉体の代わりにするんだけど……。



(『笹沼先輩』、彼が生み出していた怪異は原材料が違う。)



この地に張り巡らせた結界に対応するためだろうか、彼が持ち込んだ怪異のすべてが『人』を原料にしたものとなっていた。生きた人間をそのまま原料にすると目を付けられると思ったのか、この町とは違うどこかの霊園から遺灰、焼却場から燃やされる前の死体などを盗み出して怪異としていたようだ。


おそらく独自の闇のルートと言うべきか、それ専用の『業者』というのがいるのだろう。そこから購入したような記録が幾つか発見されている。



(……まぁ運び出した資料だけじゃ“数”があわないから、他にも何かあるんだろうけど。)



人の肉体を再構築し、怪異と為す。この取り組みは倫理を無視すれば、まぁ面白味を感じるものではあった。


何せ『怪異・妖怪』に反応するこの地の結界を騙し切る程の技術だ。祖父の技術力を知っているがゆえに、その穴を付いた術と言うのは単純に興味がある。人の肉体を原料とすることで怪異を生み出し、結界の“認識パターン”をあらかじめ把握しておくことで『怪異を人と勘違いさせる』。言葉にすれば単純ではあるが、高度な技術を重ね合わせて初めて出来るもの。


その技術だけを見るのであれば、評価は出来る。



「ん~、ある程度見逃すつもりではあったんだけど、これスルーしていい奴か?」



怪異五人衆、もとい式神五人衆の作成過程の方も見てみたのだが、此方も同様に人間を素材とした怪異たちだった。まぁもっと正確に言うならば、“霊力”を持った人間と言うべきだろうか? ある程度察することが出来ていた結末ではあったが、色々考えさせられることが多い。


そもそもの話だが、人間をそのまま怪異にするというのはほぼ不可能に近い事象となっている。死体にすればある程度加工難度は落ちるのだが、怪異五人衆のように『一定の思考能力を残した怪異』を生み出すのには生きたまま加工する必要がある。それが極端に難しいのだ。


解りやすく言えば今生きている人間をカエルそのものに改造するみたいなこと。霊力なんて不思議な力を扱っている私達でも、そのような『魔法』のような事が出来るわけではない。


生まれながらに怪異か、妖怪の要素を持つ人間であればまだ可能性はあるのかもしれないが……。



(“素材”に使われた人間のデータも置いてあったから、それと国が用意してくれてる戸籍のデータを確認したんだけど……。一致しない。更に行方不明者のデータにも当てはまるものは無い。まるで無から生まれた人間をどこから拾って来て、加工したかのような状態。)



いくら笹沼先輩が優れた技術者だとしても、無から人を生み出す様な事は出来ないはずだし、そんな研究資料もなかった。つまり彼がどこかから入手していたことになるんだけど……。その『業者』が何か解らない。


私個人としては改造人間とか改造怪異ぐらいカワイイものだから、どんどん作って樹里ちゃんたちにぶつけて漫画を面白くしてくれればそれでいい。笹沼先輩もまだこの世界に置いて重要な立ち位置だろうから限界まで庇ってやってもいい。


でも『この地の守護者』として『業者』を完全に放置するのは、ちょっと不味いかもしれない。



「ん~、訓練がてら日本全域に式神でもばら撒いてみようかな? 操作できる許容限界もっと伸ばしたいと思ってたし、とりあえず関東全域から。」



一瞬、今現在笹沼が京都に行っていることが私の言う『業者』に何か関りがあるのではと思ったが、あっちは伊勢神宮さんの管轄だ。繋がりがあると言ってもそれはウチの祖父母とのものだし、まだ私の役職は見習い巫女でしかない。あまり口出しできるようなものではないのだ。


勝手に敷地内に式神を飛ばした瞬間、敵対行為と取られてもそうおかしな話ではない。私の無限増殖する式神もそうだが、歴史のある寺社仏閣の当主は大体無法な手段を持っていたりするものらしい。通達なしでそんなことをしてしまえば変に刺激してしまうことになるだろう。



(あとウチの祀る神様がお伊勢様と相性良くないらしいから、色々気をつけろって婆ちゃんに言われてるってのもあるし。……近畿に手を出すのはやめておいた方がいいよね。)



それに対して関東ならば、ウチのネームバリューがバリバリに通用する。


何でも爺ちゃんが私のことを神主たちが集まるグループチャットで自慢しまくってるみたいだから、見習い身分でも私の人を知っている人が多い筈だ。お電話して許可取りをしてしまえば、式神を勝手に飛ばしても文句は言われないだろう。まぁ確実に祖父母にも報告が飛ぶだろうが、事前に許可を取っておけば何も問題はない。



(漫画的にはもしかしたら第二部、笹沼先輩との戦いが終わった後の敵になるのかもしれないけど……。情報だけはあつめておいた方がいいだろうからね。対処に関しては作者の反応を確認しながら。とにかく今は婆ちゃんへの許可取りと他神社への通達、浸透させる式神の作成をやっちゃおう。)



そう考えながら軽く手を叩き、一時的に迦具土命の火をお借りして資料などを滅却。ウチの神様への『他の所の神様の力借りてごめんねメール』こと略式の神楽を踊った後、蔵の外へと出る。


すると待っていたのは、式神五人衆の1人。紅一点の『扇狐』ちゃんだ。



「主様、朝餉の用意が出来ました。」


「あ、わざわざごめんね。ありあり。」



遅めの朝食に呼びに来てくれた彼女。その顔は狐のものではなく、人のものとなっている。洗脳時に施した再改造によって出来るようになった機構だが、おそらく素体となった人間の顔なのだろう。やはりウチの神社で補完していたデータ、国が集めていたデータの両方に合致しない顔だが、今は置いておくことにする。



(……細目の美人さんな感じだし、休日はお守り売り場に配置しておこうかな? 売上あがるかも。)



他の五人衆も同様だが、流石に一般のお客さんも来る神社で動物の頭は駄目だろうということで、人の顔と白の装束を着せている。白の衣に白の袴ね?んでわざわざ人型にした式神をそのまま部屋の隅っこに置いておくのは非効率だろうってことで、面倒な家事を押し付けたってわけです。


ま、彼らからしたら『主人に仕事貰えて嬉しい!』って感じみたいだしね? 私は面倒な仕事が減って嬉しい、彼らは仕事があって嬉しいのWIN-WINな関係ってわけですよ。



「扇狐ちゃんには食事の用意を任せたけど……、大丈夫だった?」


「はっ。初めてのものばかりではありましたが、主様にご希望通りのものが用意できたかと。」


「まぁ怪異は料理作らないもんね。んで全員分の用意は……、出来てるならいいや。全員集めちゃって。」



特に水道とIHが気に入ったらしく、謎の熱弁を続けてくる扇狐に愛想笑いを送りながら、他の式神たちへの通達をお願いする。


一応私も出来るし、そもそも式神なので飯の必要はないのだが……。まぁ元人間みたいだし、味覚も常備されているようだった。ならまぁ食わせた方がいいだろうということで私+五人衆の用意をさせた形になる。


あぁちなみに棒猿と弓鳥の二人が境内の掃除、槍鹿に裏山の見守り、覇熊に社殿の掃除を任せている。ウチってかなり大きな神社だからね。掃除だけで一苦労なのよ。他の人の目が無かったら式神に任せられるんだけど、ほら神社っていつでもだれでも入れるように開けてるもんでしょう? 運が悪いと一日中掃除することもあってさ……。


うん、正直人で増えてすごく助かってるんだよね。洗脳&改造して良かった!!!



「あぁそうそう。キーは作動したみたいだけど、なんか樹里ちゃんたちがこっち向かってるしもしかしたら“話に来る”のかもしれない。応対の準備だけはしておいてね。」


「例の御二人ですね。畏まりました。一応には成りますが、弓鳥には下がっておくよう伝えておきます。」


「ありがとう。」



さっきは食い逃げしそうになって慌てていた樹里ちゃん達だが……、今は切り替えて何故かこちらに向かってきている。さっきまで思考を深めるために映像しか見ていなかったので何を考えているのかは解らないのだが、もしかしたら『もう一度私に聞きに来る』のかもしれない。


単に修行するよりも、誰かからの指示を受けた方が効率的。私が仕組んでいたキーで修行法を入手したとしても、更にそこからより詳しい詳細を知る師を探す行為はおかしくない。樹里ちゃんが『最初に聞いた時が学校だったから誤魔化されたのかもしれない』と考え直したがゆえに、この『往霊大社』にやってくるのは可能性として十二分にあり得る。


そして彼女たちがその思考に至るということは、作者がそれを望んだということ。



(なら、全力でもてなしてあげないとね。)



無論、いきなり大きな成果を要求するわけではない。以前までの弓鳥に対してギリギリ勝利できるぐらいまでを目安に育て上げ、ちょうどいいタイミングで弓鳥に襲撃の命令を送る。……うん、やってることは完全に黒幕だけど『物語』としては完璧な筈だ。


滅茶苦茶現実から目を背けたいけど、手順はこれでいい筈。後は“巫女”として受け入れられるように、朝ご飯食べた後に着替えに……



「……ぇ、ちょ、ちょっと覇熊!? な、何をやって、は!?」


「うん? どしたの扇狐ちゃん」


「た、大変申し訳ございません主様。ど、どうやら覇熊が掃除中に浴室の風呂桶を踏み抜いてしまったようで……。」




…………いやほんとに何やってんの?????





〇式神五人衆


弓鳥:弓使い。手先が器用で、主の前以外は口が荒い。仕事は丁寧。

棒猿:棒使い。機転と環境の利用が得意、凝り性なせいか完璧な掃除をしようとし作業が遅延。

槍鹿:槍使い。索敵が得意なため神社保有の裏山をパトロール中。口数が異様に少ない。

扇狐:扇使い。紅一点で術にも堪能。何故か食事の用意のため井戸と薪を探しに行ったため作業が遅延。

覇熊:拳使い。一番戦闘能力が高いが、さくらの前では誤差。その体重でバスタブを粉砕した。不器用。



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