18:再度
「さくら。何で呼び出されたかは……、解ってるよねぇ?」
「ナ、ナンノコトデショ」
「とぼけても無駄だよぉ?」
遺書を書き終え帰宅した私は、速攻で婆ちゃんに捕まり処刑台に乗せられております。
まぁウチの神社に処刑台なんかありませんし、普通に居間に座らされて全身グルグル巻きにされてるだけなんですけど……。あ、あはぁ! この縄メチャ堅い! 確実に術で強化されてる奴だわ! 霊力ありきだけど、片手で車引き裂けるくらいの握力あるのに!
……この術式後で教えてもらお、すごく便利そうだし。
「……とぼける以上に他の事考える余裕があるなんて、偉くなったもんだねぇ。」
「あ」
「無許可で霊具作った上に、それを一般人に与えるなんて。一体どんな思考でやったんだろうねぇ? 禁止されてることだってのは知ってるよねぇ? ……忘れたとは言わせないよ。」
「モ、モチロンデス」
結構初歩的なことになるのだが……、一応この国では霊的な存在に対する“法整備”が行われている。
早い話、怪異や妖怪をそこら辺の山で出てくる熊と同じ扱いにして、霊能力者に狩ってもらう制度だ。実際の狩猟免許と比べると色々違うし、そもそも怪異自体が公的に出来ない存在だから公開されてない法律になるんだけど……。一応法律で『これやっちゃだめですよ』ってのは決まっているのだ。
(でも、すごくふわっとしてるんだよね。一通り目を通したけど、明確な罰則がマジでない。)
何と言いますか、そもそも私達みたいな霊力を扱える人ってすごく少ないんですよ。
怪異や妖怪を信じる人が減ったので弱体化や数の減少は起きてるんですが、信じる人が減ったせいで成り手が更に減ってしまうような状況。特異な才能が必要になる仕事なのに、成り手がさらに減るっていう結構ヤバい状況なんです。更になんですが、戦前まで国が保有していた霊能力集団を敗戦を機にGHQが『気味が悪い』ってことで解体されちゃって、復活させようにも予算が出ずにそのまま自然消滅しちゃって……。
はい、実は現在国に『霊的な対抗策』が一切ない状況なんですよね。
(一応ウチみたいな『大社』レベルが地域のまとめ役して、相互補助しながらやってるので崩壊はしてないんですが……。)
ルールはあるけど、強制力はないって感じです。なにせ取り締まる側に力がないんですもの。国もそれを解っていますし、対応できない怪異案件を各地の霊能力者たちにお願いしている身なので、縛る法もふわっとしてる感じですなんですね。
ただそうなると悪さする奴らが出てきますので……、昔ながらの方式。各地に散らばった『大社』がその地域一帯の寺社仏閣、より詳細に言うと霊能力者を取りまとめるって方式をとってます。
ふわっとした法を元にして、前例などから判断。まとめ役もまとめ役で仕事は多いですから『悪い事しない限りは放置』って感じで何とかうまくやってる感じです。一応お国も頑張ってはいるそうなのですが、知る人が増えれば増えるだけ怪異は強くなりますので人員の増強は早々できません。全国を繋げるネットワークの維持にだけ予算を投じ、何かあった時は私が来たことで余裕の出来たウチや『出雲』さんの方にお願いする、って感じ。
(それでまぁ、今回の件を纏めますと……。)
ウチ、『往霊大社』は『大社』。地域のまとめ役です。
んでウチの婆ちゃんはクソ強いので……、地域飛び越えて地方のまとめ役みたいな感じになってます。『東の往霊、内の伊勢、西の出雲』って感じですね。んで私はそこの次期後継者扱いに成ってまして……。
つまり、『お偉いさんの馬鹿孫が勝手に違法な武器作って一般市民に投げ渡してた』って状況なんですね。今。
う~ん、死刑かな?
「多少はねぇ、目をつぶるよぉ? たとえそれが偶々目覚めた『霊刀使い』を24時間ストーカーレベルで監視してても、気が付かれていない以上“実害”は出ていないからねぇ。あっちも無許可だし、『悪い事してないか見張ってる』って名目はつくからねぇ。」
「オッシャルトオリデス」
「でもねぇ。霊具は、霊具は駄目なのよぉ。『恋占い』程度の可愛い奴なら黙認してあげられたのに、アレだけのものを勝手に作ってあげちゃうのは……。罰する以外の選択肢はないねぇ?」
「ソノトオリカト」
婆ちゃんが危険視するあの『グローブ』、ちょっと前に私が『戦闘機レベル』と称したあのグローブだが……。おそらくその評価は間違っていない。
使用者に対する悪影響は一切無い様に組み上げたのだが、今後のインフレも加味したせいでちょっとヤバい性能に成ってしまい……。単なる一般人でも装着した瞬間から『本来見えない怪異が見えるようになる』、『身体能力が大幅に上昇する』、『霊的な防御力が向上する』、『霊力をストックし溜め込む』の能力が使えるようになっちゃってる。
強化率も大体戦闘機ぐらいなので、私は『搭乗者の思考通りに動き回る燃料弾薬切れナシの戦闘機』を勝手にプレゼントしちゃったってことだ。一応こっちで出力できるパワーの上限を操作できるようにしているので、みかんちゃんが『経験を積むごとに徐々に強くなっていく』ことを表現できるようにしているのだが……。
やばいもの渡しちゃったことには、変わりない。
「何か、申し開きはあるかぃ?」
「イ、イヤ。私ナリニモ理由ガアリマシテ……」
「ほぉ?」
あ、あのタイミングでみかんちゃんにテコ入れしないとこの世界のお話がつまらなく成りそうと言いますか、読者様の評価を頂くためにはあそこしかなかったと言いますか、この漫画がカラーページを手に入れるためには暗躍するしかなかったと言いますか……。
ぐッ! 婆ちゃんに言ったとしても確実に気狂い扱いされる! だって『この世界は創作物! 漫画なんです!』って言っても私なら『ア、ウン。ソウダネー。』ってヤバい人扱いして普通に流してその後距離取るもん! 言えるわけがないッ!
ど、どうすれば……。
(そ、そうだッ!)
即座にこの場にいるもう一人、自身の祖父に当たる人物に視線を送る。
婆ちゃんからは見えない角度で、一瞬だけ非常に潤んで助けを求める視線。無表情で無口で職人さんみたいな気質を持つ爺ちゃんだが、孫の私には滅茶苦茶甘くていいお爺ちゃんなのだ。私が困ってたら、絶対に助けてくれるはずの完全なる味方! この人を味方に付ければ……!
「婆さん、さくらも反省しているようだ。家の中で収められる範囲でもある、そう怒らんでやっても……。」
「あなたは黙ってましょうねぇ。」
「……しか「黙れ」……うむ。」
じ、爺ちゃんッ!
し、尻に敷かれているッ!!!
まぁ結界とかそういうのは爺ちゃんの方が上だけど、総合的な戦闘力は婆ちゃんの方が各段に上だもんな。仕方ないのかも。い、いや仕方なくないぞ! わ、私の味方がいなくなってしま
「さくら?」
「ア、イヤ、ナンデモナイデス、ハイ」
え、じゃあもうどうしよ。正直に色見たいからって言う? 一瞬全部例の彼、笹沼先輩のせいにしようかと思ったけど、婆ちゃんがあの人ぶっ殺して終わりになっちゃうし……。
……うん、二人も『私の目』のことは知ってる。信じてもらえないかもしれないけど、『霊力』なんて不思議な世界に身を置いている人たちだ、受け入れてくれる耐性は両親よりあるだろう。それに、ある程度ぶっちゃけた方が今後動きやすくなるのは確か。
伝えるだけ伝えた方が、いいかもしれない。
そう思い、口を開こうとした瞬間……
世界が、変わる。
(なッ!?)
自身に生じる強烈な違和感。
まるで自身を除くすべてが書き換えられていくような感覚。
私の肉体や、魂に掛かる力ではない。世界そのもの、そしてここまでに起きた過去の事項ですらも変えてしまうような強制力、それが一気に全身へと襲い掛かって来る。半ば反射的に霊力による防御を取ろうとするが、より上位の力によってかき消されてしまった。ただ気を強く持ち“耐えよう”とするが……。
自身の記憶の一部が、書き換えられていくのを感じる。
……いや、違う。
並列した記憶が、無から生じた。
(私が見たはずの“景色”が、より鮮明。いや綺麗に描写され直されている?)
私が持つ記憶に変化は起きていない。代わりに生まれたのは『それと全く同じ内容』の記憶。
言葉選びの違いや、視界に映る人の配置などは違えど、大まかな内容は全く同じ。しかしながらその差は歴然で、『この世界の作者』が描写しきれていなかった部分がより綺麗になっているというか……。いや待て。もっと身近な記憶。例えば、隣の席の松原さんのような……ッ!
(やっぱりッ! 顔が統一されてるッ!!!)
本来彼女は、準レギュラーのような存在ながら作者の力量の低さ故か、ほぼ毎日若干違う顔で描かれていた。なんとなく同じパーツは使われているのだが、顔を合わせるたびに他人というか、少しだけ似てる人に成っていたのだ。そのせいで顔を覚えることが出来ず、声だけで判別するようになったのだが……。
そんな彼女、いや彼女を始めとしたキャラクターたちの顔が『新しく生えた記憶』では完全に統一されている。まるで、全て書き直された……。
待て。
書き直す?
(ッ! そうだ! 一巻! 一巻出せたんだッ! そのタイミングで全部統一し直したんだッ! やったッ! やったぞ! 単行本出せるぐらいには何とかなってるんだッ! まだこの世界は続くんだ!!!)
もうそれしか考えられないッ……!
ずっとカラーページが欲しい、色が欲しいと願い動いてきたが、それはそもそもこの世界が。『この漫画』が続いていなければ意味がない。
一部の読者人気を得ても“数字”が出なければ編集さんはお話を続けさせてくれないのだ。そしてそもそも掲載紙によっては単行本を出してくれなかったりすることもある。ずっと私はそんな漠然とした不安、しかし『この漫画の世界』にいる限り絶対に解消できない不安を抱えていたのだが……
それが今、解消された。
売れ行きや一巻に対する読者様の反応など、こっちから観測できないことが多いのは確かだが『単行本』を出してもらえる環境であることは把握出来たのだ。そして今の感覚から『単行本が作られる時の感覚』、そして『単行本が作られるだけの話数』まで把握することが出来たのだ。
「よかった、よかった……! 本出せてもらえるんだ、これがその感覚なんだ! それにまだ1巻、多くても6話か7話ぐらいの進行度!」
「……さ、さくら?」
「起きたイベントを分割して“コマ割り”すれば、大体の感覚はつかめる! 今後の動き方がずっと解りやすくなる! それに、多分このペースだったら『まだ大きく動かなくいい』! あぁ、あぁ! 本当に……!」
これほど嬉しいことはない。
最初の色、初連載時の4Pカラー時の感情を歓喜とするならば、今は深い安堵。
まだ先は見えないのは確かだが、あの瞬間を区切りとして世界はまだまだ続くし、私が色をもう一度見れる可能性も続いて行く。後はこのまま大筋を見ながら上手い事更に暗躍、大体3巻発売時ぐらいに事態がより大きく動くようにしていけば……。
「あれ、ちょっと待って?」
「さくら、さくら!?」
初連載時にカラーを編集さんからもらえたとなれば、1巻発売時にも貰えてもおかしくはない。この作品の人気次第には成るだろうが、タイミングとしては悪くないはず。流石に大量のカラーを貰えることはないだろうが、裏表1枚。2P分ぐらいだったらお恵みを貰えてもおかしくないかもしれない。
……となると。
世界が再構築されたその次の瞬間に、“色”のタイミングが来るのでは?
「……あッ!!!」
私がその思考に辿り着いた瞬間。
白と黒しか解らないはずの私の瞳に、ほんの少しだけ“色が灯る”。
うっすらと、常人では認識すら出来ない様な淡く薄い色。しかしながら私にとっては待ち望み続けた大事な色。たぶん、発生源はここから離れた場所にあるのだろう。世界全てに色が灯るのではなく、一部分だけに色が灯され、その地点から遠ざかる程に薄くなっていく。
そして、そんな薄っすらとした私の希望が……。より薄まっていく。
「まってッ!!!!!」
何故か思うように動かない体を無理矢理動かし、徐々に引いて行ってしまう色に向かって走り出す。
もっと、もっと見させてほしい。
どんなに薄くてもいい。
こんなクソみたいな白黒な世界に色を、色を。
「ぁ」
自身の体が家の外に出た時にはもう遅く、世界から急激に色が消えて行ってしまう。
いつの間にかこの世界は夜に切り替わっていたようで、様々な色や光が入り乱れ永遠と眺めたくなるような夜空は、一瞬にして“張り付けられた”ものへと変わってしまう。もはや見慣れてしまった、トーンの空。どれだけ見つめても、点と線で構成された白と黒の薄っぺらな空。
「あぁ、ぁぁ……」
見逃し、た。
…………ッし!
落ち込んでる場合じゃないよね! 薄っすらだけどせーっかくあんなにきれいな夜空が見れたんだもの! ということは次の切り替え、2巻発売時はもーっと綺麗な世界が見れるってことでしょう? あはー! そう考えると俄然やる気が出てくるわね! もっともっとこの世界を、この漫画を面白くして読者様からの評価を集める! そしたらもっとカラーページの機会は回って来る!
初連載の時と比べて各段に短かったから多分2P、1枚目のカラーページを1巻発売用の宣伝に使ったのなら今回の『漫画本編の描写』に使われたのは1Pだけ。ちょっと色々世知辛く成って来るけど、さっきの夜空で大分元気もらえたし、これからどんどん作者の尻叩いて! もっと面白いの書かせてやろ!
目指すなら夢は大きくフルカラー! やったるぞー!!!
「さ、さくらッ! どうし……、ッ!!!」
「ん? アレ婆ちゃん。どったの……? あ、めんごめんご! そう言えばお説教の最中だったよね。すぐ戻る!」
「い、いや。いいんだよ。……もう夜遅いからねぇ、顔洗って寝ちゃいなさいな。明日またゆっくり話そうねぇ。」
「そう? ならいいけど。」
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