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漫画世界に転生した巫女はカラーページが欲しい。  作者: サイリウム


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14/34

14:日常




「昨日はどうなるかと思ったけど、無事に終わって本当に良かった。」


「わかる~、マジでそうだよねぇ。……ふわぁぁ、でもねむ。」


「あ、あはは。どうしても睡眠時間短くなっちゃうからね。」



共に通学路を歩き、靴箱まで到着した二人。


この世界の主人公である樹里とその親友であるみかんは、眠気眼をこすりながら今日も学校までやってきていた。昨日の深夜、正確にいうと今日の3時過ぎ頃まで怪異と戦っていたのだ。その後には樹里からみかんへの弁明や、これまでの戦いの情報共有など色々なことをしており、結局二人が家に帰れたのは空が明るくなり始めたころ。


一睡も眠らずに次の日を迎えれば確実にしんどいということで、無理矢理布団の中に入りほんの少しの睡眠をとった彼女達だが……、そんな短時間で疲れも眠気も解消できるわけがない。『今日授業中に眠っちゃうかも』みたいなことを話しながら通学してきたのも容易に想像できてしまう。



「……にしても、マジで元通りになってたよね。ジュリジュリさ、アレなんかしてるの? あの刀さんの“霊力ぱぅわー”みたいなので。」


「うんん、全然。この前聞いてみたんだけど、解らない感じだった。」



寝不足なせいか普段よりも快活さは控えめだが、少しふざけた動きをしながら樹里に問いかけるみかん。


今日の彼女達の通学路だが、みかんが不安に思ったこともあり少し遠回り。二人で昨日の戦闘を行った場所まで足を延ばしていた。


なにせあの戦闘では、町にかなりの被害が出てしまっている。プロパンガスの投擲は勿論、倒した怪異が壊した家や電柱、さらにソコから延焼した炎など。一応消火だけはなんとかできた彼女達だったが、消防車などのサイレンが聞こえてきて思わず逃亡。自分たちが実行犯扱いされては困る故の選択だったが……。


今朝通ってみればまるっきり元通り、みかんが投擲したガスボンベも全く同じものが置かれていたのだ。まるで昨日の出来事すべてが夢か何かだったかのように。



「怪異、っていうんだっけ? 明らかに不思議な存在だし、私たちの知らないルールとかあるのかねぇ? ほらあんなに騒いでたのに、私達以外の人とか来なかったでしょ? なんかそういう特殊空間だったりして。」


「あぁ、そういうのもある……。あ、刀さんが空間は違うって。」


「うへぇ、そっかぁ。」



怪異が暴れた後は、朝に元通りになる。それまでの常識が通用しない存在故に、まるで物語のように“そういう”世界の法則みたいなのが存在するのかな、と口にするみかん。


まぁ実際はさくらが死に物狂いで修復を行っており、ガスの修復に失敗したがゆえに自費でプロパンガスを購入して元通りにしたり、町全体への記憶処理などをしていたし、樹里たちを現場から離すためにサイレンの音を出したのも彼女だったりするのだが……。二人が知る由もない。


そして彼女たちの話は、分からないことを話しても仕方がないという雰囲気になり、先ほど話題に上がっていた『霊刀』へと移っていく。



「というかその“刀さん”さ。ちゃんと全部話してくれたらいいのにね。」


「仕方ないよ、まだ凄い眠いみたいだし、沢山喋ってくれる人じゃないみたいだもん。大体単語だけだし。」


「ほへー。んな感じなんですねぇ。」



胸の中に何かある。その存在は樹里本人しか理解できないが、彼女が言うには『霊刀』自体に意思が宿っているらしい。


まだ眠いということから真なる覚醒には程遠い上に、そもそも口数が多いタイプではない。緊急時に担い手である樹里に声をかけたり、心の中で呼び出せばすぐに心臓から浮き出てくれるため戦闘などに大きな問題はない状態だが、両手で数えるよりも多いこの疑問を解消してくれる存在ではない様子。


一応最低限の情報だけは受け取っているようで、樹里が理解しているのは3点。敵の名前が怪異であること、それを放っておけば人々に大きな被害が出てしまうこと、そして過去はこの地を守護する存在がいたということは知っているようだが……。



(刀さんも『守護する存在がいたはず』って情報を持ってるだけで、その人たちが誰なのかとか、名前の手掛かりとかは解らない感じみたいだし……。この前一番あり得そうな山本さんに聞いても解んない感じだったし……。)



そう考えを巡らせる樹里。


彼女はまだ学生で、部活動にも入っている。可能であればこんな危ない事は本職の人にお任せして、自分は普通の高校生に戻りたいのだが……、戦える人間が自分しかいないとなれば、そうは言ってられない。小さな怪異ですら少しずつ人の魂を吸い取り最終的に衰弱しさせてしまうこともあるという。


初めてであったタコの怪異の時に逃げてしまった経験からも、彼女は『私が戦わなければ』という気持ちを固めていた。



(……でも、みかんちゃんに話せたのは本当によかった。)



樹里には胸に宿る『霊刀』がいるが、これはそこまで会話を交わしてくれる存在ではない。ほぼ一人でこの町を守っていかなければならないと思っていた所に、怪異が見える上に戦えて、しかもそれが親友だったのだ。これまでの夜の活動の間に怪異が見える人間と出会ったことはあったが、その人も次の日になれば記憶が消えていたし、戦えもしなかった。そんな時に親友が傍にいてくれるのだ、これほどありがたいことはない。


無論。樹里からすれば親友であるからこそ、危険なことには近寄って欲しくなかったのだが……。



「あ、また除け者にしようとしてるでしょ、ジュリジュリ。」


「え、いや、そんな。」


「私だって親友が危ないことしてるのはすっごく嫌なんだからね! ま、でも? 今日からはこのみかん様が付き合ってあげるから、感謝するのですわ! おほほほ!!!」


「……あは! 何それ! ……うん、そうだよね。」




今日の深夜の一度だけ、しかしその一度だけで理解してできたこと。


親友でずっと一緒にいたこともあり、お互いのことが理解できるからすぐに連携が取れる。まだ細かい所を詰めていく必要はあるだろうが、もし完璧な動きを生み出すことが出来れば巨大な怪異ですら全く怖くないと思えるぐらい。みかんからの申し出は樹里にとってこれ以上ない言葉だった。


しかしその胸中に宿る、不安がいくつか。



(……みかんは元気いっぱいな子だけど、運動とかはあんまり好きな子じゃなかったはず。だけど昨日はすっごく動けてたし、体が戦闘を知ってるような動きだった。武器は持ってないのに、剣の道を学んでる私と同じくらいに強そうだった。)



それに、今日もその手に着けている特徴的な手袋。指を出すタイプで、今までみかんが持っていなかったような品。


いくら親友とはいえその持ち物全てを把握していることはないのだが、少なくとも樹里の記憶にそんなものは無かったし、『昔から何かと着けてたじゃん』という本人の言葉に合致する記憶もない。そして彼女の心臓に眠る霊刀がこぼした『霊具、同質だが別物』という単語。



(もし、何かあったら……。)


「みかん! それに樹里ちゃん~!!!」



この不安をみかん本人に伝えるか否か。そんな考えを吹き飛ばすように鼓膜を震わせるのは。クラスメイトの声。


みかんと共にそちらの方を見てみれば、手を振りながら走ってくるのは松原。みかんから『まつっち』のあだ名をつけられ、さくらの隣の席に座る少女だった。かなり困った顔をしているため、すわ怪異かと身構えてしまう二人だったが、まつっちは完全なる一般人。強張らせた体を緩めながら、彼女を迎え入れる。



「どったのまつっち、そんなヤバげな顔して。」


「ま、マジヤバいってアレ。ちょ、ちょっと教室覗いてみてよ!」



そう言われ、思わず顔を見合わせる樹里とみかん。言われた通りに彼女に付いて行き、自分たちの教室を覗き込む二人だったが……。即座に身が固まる。


教室の隅に自身の席を構えるさくらが、明らかにヤバいのだ。


表情はいつも通り柔らかな笑みを浮かべているはずなのだが、感じるのは根源的な恐怖。というかなんかもう全身から不機嫌オーラが溢れ出ているというか、その周囲だけ闇に染まっているというか。もうマジでなんかヤバい状況になっていた。さくらが常時展開する『隠蔽』の効果ゆえか霊力を感じ取ることは出来なかったが二人だが、『あ、これ話しかけたら殺されるわ』と確信してしまうような覇気。他のクラスメイト達が限界ギリギリまで距離を取っているのも頷ける話だろう。


まぁそれもそのはず、樹里とみかんが現場から離れたその瞬間から彼女はデスマーチを敢行していたのだ。町中の人々に記憶処理を施さなければならなかったし、壊れた町の修繕もしなければならなかった。


これだけならまだ許容範囲だったのだが……、なんと昨日は彼女にとって久々の何もない日。祖母が出張のため修行がない特別な日にそれをやられたのである。正直いつ寝たのか覚えてない程に修行漬けなさくらからすれば、『暗躍終わったら2時間は寝れるかなぁ。』と思ってたのが、完全に0になってしまったのだ。


ようやく手に入ると思っていた安らぎの時間を、急に入った仕事に奪われる。


それはもう、バチクソにキレていた。



(サクシャコロス)



まぁまだ良心は残っていたのか、その殺意を頑張って怪異退治した樹里やみかんに向けることは無かったが……。


そのイベントを途中から差配していたこの世界の作者に対しては、マジでキレていた。何せさくらはメタ的な視点を持つ上に、前世の記憶まであるのである。『他の作品みたいに、町の修復とかは自動でやる設定にしろよ』というこれまで何とか呑み込んでいた文句を、胸中で叫び続けるぐらいにはキレていた。



「「ぅ、うわぁ……。」」


「み、みかんさ。ほら昨日山本さんと一緒にカフェいったんでしょ? そ、その仲良しパワーに免じて祟り神ならぬ祟り巫女を治める栄誉を授けるので生贄になって♡」


「い、いやいや! 仲良しレベルで言ったらまつっちの方が高いでしょ! いっつも話してるし!」


「それはそうだけど……、あ! そうだ! 樹里ちゃん! 樹里ちゃんならいけるっしょ! 山本さんちょっと樹里ちゃんのこと気にしてるみたいだし、捧げものにしたら多分いい感じになる奴……!」


「わ、私!? い、いやそもそもあんまりお話したことなぃ……。」



徐々に小さくなっていく樹里の声に疑問を抱いた二人だったが、すぐに理解する。


何せ周囲を見渡せば、理解できてしまうこの“暗さ”。そして全身に襲い掛かる、プレッシャー。思わず先ほどまでの席の方を見てみれば誰もおらず、視界の端に映る他のクラスメイト達がこちらに向かって手を合わせ始めている。


悪い予感が外れるよう、神様に祈り始める3人だったが……。


背後から、声。






「お三方。何を……、お話で?」


「「「ぴゃ、ぴゃぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!」」」






……うん、今日も世界は平和ですね。はい。




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