表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漫画世界に転生した巫女はカラーページが欲しい。  作者: サイリウム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/28

10:修行


「あ、あのさ婆ちゃん。」


「ぅん? どうかしたのかぃ、さくら?」


「この修行意味あるの?」



はい、山本さくらです。往霊神社の巫女やらせてもらってます。


今日も今日とてこの霊力バトル漫画の世界に適応すべく、婆ちゃんの意味不明修行に耐えているのですが……。こ、これ意味あるんですかね?


霊力で身体強化しながら片手で逆立ちし、空中浮遊。そのまま滝行しながら婆ちゃんの出してくるクソツヨ式神に対応するため式神を出して対抗したり、結界を出して肉体をガードしたり。挙句の果てには昨日丸暗記させられた合計文字数が文庫本一冊分以上の祝詞を、無理矢理唱えさせられてる。


あ、明らかに色々やり過ぎてて人間びっくり博覧会みたいになってるんですけど……?



「効果のない修行は私の代で……、カタカナでなんて言うんだっけ?」


「オミット?」


「そうそう、そのお~なんちゃらをしてるからねぇ。全部効果あるよぉ。あの子、ママは全く適性が無かったから触れさせてもなかったけど、さくらはすごく凄いからねぇ。全部一気にやっちゃおうねぇ。」



あ、あの。普通こういうのってもうちょっと段階踏んでやるモノじゃ……


え、文句禁止?


ア、ハイ。ガンバリマス……。



(うぅ、ちゅらい。)



婆ちゃんから遠回しに口答えするなと怒られたので、仕方なく祝詞を読み上げながら婆ちゃんの出してくる式神に対処していく。


私が夜な夜な用意した式神も、婆ちゃんが使う式神も同じ方式で作られたものなのだが……、作成者。そして運用者としての経験の差が大いに出ているのだろう。婆ちゃんが動かす1体に付き、5体以上の数を出して対応しないと普通に突破されてしまう力量差だ。


普段の婆ちゃんはすっごく孫に甘くて優しい婆ちゃんなんだけど、修行の時は鬼以外の何物でもないんだよねぇ。霊力の活用で多少のケガは“治せる”からって理由で骨とか結構折られるし……。



「雑念だらけだねぇ。」



式神と結界の合間を縫って、私の腹部に飛び込んでくる婆ちゃんの式神。


そして全身に響く、ボウリング玉で殴られたような衝撃。



「ぉごッ!? ……しゅ、集中します、ハイ。」


「うんうん、いいお返事。じゃあ最初からもっかいだねぇ。」



い、ぃたいです。


お、おんなじ式神使ってるはずなのにスペックが違い過ぎるッ!



(治癒の方法教えて貰っちゃったから、自分で治せって感じだし、何この修行。辛すぎない? 主人公が愛しの先輩とキャッキャウフフしてる裏でなんで私は骨折られなきゃいけないんですか? わ、私は色が見たいだけなのにッ!!!)


「……まだ集中出来てないみたいだねぇ。」


「ッ!? た、『高天原に神留まり坐す……』」



半ばやけくそで祝詞を紡ぎ始め、式神の運用を始める。


そんな私達往霊神社の巫女が使用する式神だが、基本的に昆虫などの魂を再利用させてもらう方式をとっている。霊力とかがある世界なので、普通に魂も確固たるモノとして存在しているのだが……。この“強さ”ってのは意思の大きさで決まっているらしい。人間みたいに沢山考える生物ほど、魂が大きくてパワーがある感じ。ま、その分個々人の意思が強くなるから、式神としての運用が滅茶苦茶難しいらしいんだけどね?



(なんで式神とかの和紙に魂を込めて運用する場合は、虫とかのあまり意思が強くない子を使わせてもらうの。)



んで婆ちゃんから教えてもらった最初の式神が、アリさんの魂を活用したモノ。


死ぬ前の生物的特徴を魂も引き継ぐのか、命令に忠実で魂のサイズと比べればかなりの馬力を発揮してくれる存在。この前の初陣でもこの子たちに頑張ってもらった感じで、攻撃から防御。足場の作成まで何でもこなしてもらった。作るのも比較的簡単で、適当な和紙に霊力を込めながら印を入れて魂を封じ込めることで生み出すことが出来る。


まぁ消耗品だからどんどん作って行かなきゃだし、使い過ぎて壊れちゃった奴は後でちゃんと弔ってあげないと怪異化するって欠点はあるけど、かなり便利な式神だ。



(他にも自分の霊力だけで動かすやつとか、他の生き物の魂使う奴とかあるけど……。今日の修行はとりあえずアリさんだけ。婆ちゃんが使うのも同じ奴なんだけど……。)



つ、作り方とか原材料とか全部同じはずなのに、何でこれだけ馬力さが出るんですか?


例の赤い人ですら3倍だったのに、婆ちゃんが5倍以上なんですけど? しかもアリさんっていう数を揃えやすい式神だからどんどん出てくるんですけど。りょ、量産機が全部5倍以上のスペックとかどう戦えばいいんですか? 言ってしまえば出てくる敵が全部強化後の白い悪魔みたいなもんだよ? ば、婆ちゃんの式神はバケモノかッ!?


い、いやまぁ修行だから手加減はしてもらってるけどさぁ……。



(まぁ付きっ切りで扱かれてる間は期待して貰えてるってことだし、日々強く成れてる実感はある。あまりにも修行の難易度上昇速度が速すぎるせいでついて行くのもやっとだけど……。これを続けていれば、インフレに置いて行かれるってことはないだろう。)



いまだお話は始まったばかりだが、戦闘をメインに扱うお話はインフレが必須。お話が長く続けば続くほどに敵は強くなっていくものだ。


眼の前にいるボスを倒せば、お話を長続きさせるために新しいボスを。決めていなかった作品の設定から『空白』を見つけ出し、新しく追加することでより多くの展開を生み出していく。


恋愛ではなく戦闘がメインだと理解した瞬間から、私の精神は『対インフレ』に向けられていた。そも私の目的はカラーページであり、それを得るには人気が必須。そしてその人気は長期連載の確約と、更なるカラーページのチャンスを齎すわけだ。つまり備えなきゃ死ぬってこと。


ま、今の段階じゃ主人公が夜にパトロールして細かい怪異をぶっ殺してるだけ。インフレのイすらない状況なんだけどね?



(でもちょっと“お話”的にワンパターンすぎるんだよねぇ。)



相変わらずずっと監視しているのだが、特に大きなイベントは起きていない。


おそらく『本当に夢だったのかの確認』のため、深夜帯に歩き回り怪異を発見。以前と同じように霊刀を使用しそれを討伐した彼女は『人に害をなす存在だし、私が何とかしなきゃ!』と思い毎夜パトロールをすることにしたのだろう。


あの日からずっと独自の見回りをしながら、小物の怪異を狩り続けている感じだ。


一応、成果はあげているみたいで。剣道といういわゆる『競技向け』の動きを『実戦向け』に少しずつ適応させながら、彼女と同じように怪異が見える女の子を助けたり、誰かに取り付いている怪異を払ったりなどしている。


けれどおそらくこれらのエピソードは単なる人助け、『日常枠』に分類される感じの奴だ。物語が大きく動くお話ではない、ってやつ。



(ほら主人公周りの設定とか、“霊力”ってこの世界独自の力を戦闘やお話を通じて説明する感じのお話。色々試行錯誤しながら戦ってたし、ちょっと『霊刀』と喋る様な動きもしてたから間違いはない筈。)



よくわかんないけど、アレ意思があるタイプの刀なんだろうねぇ。それに解説してもらいながら、ちょっとずつ怪異を倒して強くなっていく。私が毎日婆ちゃんに扱かれてるのと比べると途轍もないぬるま湯だ。


まぁそんな感じで、彼女の物語はあまり大きな動きを見せていない。


例の笹沼っていう先輩が主人公と接触してたから、主人公ちゃんが怪異を倒すために夜の街を歩き回ってるところで再度接触するのかな~って思ってたけど、そんなイベントも無し。完全な凪の状態に入っちゃってる。



(私が単なる巫女であれば問題は無いんだけど……、自身の目標はカラーページ。つまりどんどん物語を動かして面白くしながら、読者人気を手に入れなきゃならない。何事にも緩急が必要だから日常回も必要だとは思うけど、そろそろ“こっちから動く”必要があるだろう。)



つまり、物語を動かしてくれそうな笹沼先輩が沈黙を選ぶなら、こっちからイベントを起こしてやろうという寸法だ。暗躍しちゃお、ってわけ。



(となると良い感じの中ボスと、新しい仲間がほしいよねぇ。とりあえずボスは式神で代用するとして、新しい仲間はやっぱり……。)


「……ずっと雑念しかないねぇ。」


「ぉごらばッ!?!?!?」



それまで対処できていたはずの婆ちゃんの式神の出力が大幅に上昇し、式神どころか結界すらも突破されてしまう。


即座に両腕で重要器官をガードするが、全身に響く衝撃は下手なトラックよりも上。


たった紙一枚なはずなのに、超巨大な鉄の塊に轢かれたような衝撃が全身に響き渡り、そのまま滝の岩面に叩きつけられてしまう。な、なんとか内臓は守ったけど骨が死ぬほど折れた。ぃたぃよぉ! 霊力で全身強化してたから死んでないけど、これ普通にしぬやつぅ!!!



「う~ん。なまじ能力があるせいで、すぐに慣れて適応して手を抜いちゃうのはさくらの悪癖だねぇ。お爺ちゃんには止められたけど、もっと修行の速度を上げるとしましょうか。……ほらさくら、さっさと折れた骨治して滝行再開しなさいな。」


「きゅ、きゅうけいさせてくだ」


「もう3秒は休んだでしょう?」


「ア、ハイ。……ダレカタチケテ。」


「自分を助けられるのは昨日までの努力だけだよぉ。」



あ、暗躍する前に婆ちゃんに殺されるぅ!!! ひぃん!!!!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ