第10話「ギャンブル」
今、俺は草笛亭の食堂で、リナラさん、ジギーさんと3人(+幽霊)で座っている。
向かいには、さっきギルドで声をかけてきた《先輩冒険者》――名前はカインというらしい――がいた。
そして俺たちは、どうやら“とある勧誘”を受けている真っ最中だった。
最初は、初心者支援からのギルド勧誘系かなと思っていたのだが、まったく違ったようだ。
そう――カイン先輩は、俺たち新人3人を賭博場へ誘ってきたのだ。
まるで裏スロの呼び込みみたいだ。
要するに、稼ぎがそこそこあった新人に声をかけて釣ろうとしているのだろう。
しかし意外なことに――
最初にきっぱり断ったのは、ジギーさんだった。
しかも理由がまたすごかった。
「ギャンブルは非合理的すぎる!」
あの世紀末な風貌からは想像もできない、冷静な数学的・確率論的分析によって、ギャンブルの期待値というものを完膚なきまでに叩き斬ってしまったのだ。
(読み書きが苦手そうだったのに、計算だけは得意なのかな……?)
そしてさらに意外なことに、賛成したのは――エルシナーデさんだった。
正確には、
「どんな種類の賭けがあるのか、もっと詳しく聞いてみて」
と俺に頼んできた、という形だ。
リナラさんは勝負事が好きなのか「一回くらいならいいかな」という感じ。
ジギーさんだけは「俺は行かんからな!」と言い残して午後の探索へ出かけていった。
俺はカイン先輩に、どんな賭け事があるのか詳しく聞いてみた。
種類は日替わりらしく、大まかに以下の4つだという。
【1】10面ダイスを2つ使用した“出目当て”
奇数か偶数かでも賭けられるらしい。
00はどちらでもない特殊枠。
……要はバカラのダイス版みたいなやつだ。
【2】昆虫モンスターの相撲
“胎内”で捕まえた小型モンスター同士を切り株の上で戦わせる。
小学生の頃のカブトムシ相撲を思い出した。
【3】ファイトクラブ
言わずもがな。地下格闘技で勝つと予想した方にお金を賭ける。
【4】カードゲーム
手札の役によって勝負するというもの。ポーカーの様なものだ。
この【4】の説明を聞いた瞬間――
俺とエルシナーデさんに電流が走る。
そこで、カードゲームに興味があるようにカイン先輩へ話をふり、対戦方法を詳しく聞いてみる。
「2~4人多くても6人くらいでテーブルを囲んでやるものだよ。
自分の手札は絶対に相手に見せたらいけないし、見ようとしても駄目だ。
イカサマをしたら掛け金全部没収の上に出禁になるね」
まんまポーカーだな、俺はエルシナーデさんとアイコンタクトをとる。
……そう。
エルシナーデさんは俺にしか姿が見えず、声も聞こえない。
つまり――
「対戦相手の手札、全部教えられるじゃん……」
「完璧にバレないイカサマが成立するじゃん……」
という、同時閃きだった。
二人とも口元が”ニチャァ”と粘着質のある悪い顔になった。
◆◆◆
その日の夜。
俺はカイン先輩の紹介で賭博場へ足を運んだ。
「ここだよ。俺の紹介がないと入れないから、少し待っててくれ」
カイン先輩は鉄の扉を一定のリズムでノックした。
どうやら合図になっているらしい。
覗き窓で二言三言。
それから軽いボディチェックを受け、中へ通された。
中は――想像以上に豪勢だった。
「お、やっと来たね」
いつの間にかエルシナーデさんは内部に入っていた。
幽霊なのでセキュリティは無意味なのである。
「係の人は全員、武器を持ってるよ。奥には武器庫っぽい部屋もあったし。
まぁ、予想通り、裏社会系の場所だね」
「その根拠は?」
「カインと入口係の会話を聞いていたんだけどさ。
あんたのことを『良いカモが釣れた』『有り金巻き上げる』みたいなこと言ってたよ」
「わ~~~お! やっぱり最初からハメる気満々だったんですね!」
「まぁいいじゃん。罠を仕掛けるってことは、逆に罠にハマる覚悟もあるってことでしょ?」
二人して再び“ニチャァ”と悪い笑顔を浮かべる。
「アキラ君はカードゲームがご希望だったね?
ちょうどテーブルが空いたようだからどうだい?」
「はい。あと、最初の数ゲームはルールを教えてほしいんですが、大丈夫ですか?」
「ちょっと待ってな。ディーラーに聞いてくる」
カイン先輩はテーブルを仕切る男と話し、戻ってきた。
「OKだ。2~3ゲームは掛け金なしで練習していいってさ」
どうやら無事、了承を得られたようだ。
ここに来る前に簡単な説明はされたけど、大まかなことしか教えてもらっていないからな。
そうして、席に通され俺のそばにカイン先輩が付き他に4人が着席した。
(さて……どんな手口で俺をハメにくるのやら)
練習を3ゲームやって、役や配当システムを教えてもらった。
ほとんどポーカーと同じだ。
エルシナーデさんも理解したようだ。
「アキラ君、ルールは覚えたかい?」
「はい。次から賭けに参加します」
「GOOD! じゃあ本番だ。ディーラー、チップを」
俺は500G分のチップを交換してもらう。
「それじゃ幸運を祈ってるよ。俺はちょっと仕事があるからまたな」
カイン先輩は奥へ消えていった。
ボスに報告でもしにいくのだろうか。
その間に、エルシナーデさんは当然のように対戦相手の背後へ移動していた。
ディーラーがカードを配る。
手札を確認すると普通の役だった。
「この入れ墨の男、アキラより強い役持ってるよ」
(はい降りまーす。)
もちろんエルシナーデさんの声が聞こえているのは俺だけだ。
彼女の存在のおかげで、対戦者4人は手札を丸裸にされたも同然だった。
なんて楽な賭け事だろうか。
この勝負は俺に勝ち目がないのですぐに降りる。
次のセットへと移る。
今度は俺が強い役。他は弱い。
大勝はできないが小さく勝つ。
「せっかくいい役が来たのに、相手みんなブタで残念だねぇ」
エルシナーデさんはぼやく。
しばらくは大勝も大負けもない勝負が続いた。
やがて――
かなり強い役が俺の手札に揃った。
「お、この紳士っぽい人も強い役だよ。しかもアキラよりは弱い」
よし、ここは勝負。
掛け金を上乗せしていくと、紳士の人も追ってくる。
他のプレイヤーはすでに降りた。
そして、俺が紳士の人と掛け金を合わせたら勝負となった時。
「まった! アキラ。こいつイカサマしてるよ。
カードの役がすり替わってる」
「!?」
なに!イカサマをするとはふてぇ野郎だ!ギャンブラーの風上にも置けん!
「どんなイカサマをしたか分かります?」
俺は小声でエルシナーデさんに尋ねた
「ごめん、カードオープン前に確認で覗いた時には既にすり替わっていたから方法はわからない」
むむむ。確かに俺をハメようとしているのだからイカサマしてくるとは思ったが…
それでも、今掛け金を合わせると大負けする。
仕方ないが、ここは降りるしかない。
「お客様、どうかしましたか? 勝負されますか?」
マスターが訝しげに聞いてきた。
「あ、すみません。ちょっと悩んでただけです。声に出てました?」
「ええ、掛け金も大きくなってきましたからね。さて、どうされます?」
「考えたけど……降ります」
俺はカードを伏せたまま置く。
「なんだなんだ、せっかくの勝負が台なしだな。男じゃないねぇ」
紳士の人が煽ってくる。
「本当によろしいのですか? 掛け金は戻りませんよ?」
「はい。急に怖くなっちゃって」
「っち、腰抜けが!」
まぁ、好きなだけ言ってくれ。
手持ちのコインはまだ十分ある。
本番は――“次”からだ。
(イカサマを暴くのはエルシナーデさん任せだけどな!!)
第10話も読んで下さりありがとうございました。
次回は11月30日(日曜日)18:00の投稿を予定しています。
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次回もよろしくお願いします。




