第1話「竜人魔法」
《 真・ソード&マジックワールド 》
昔、父親が高校生くらいの頃に流行ったTRPG《ソード&マジックワールド》をベースに、急速に発達したAI技術を用いて作られたPC向けコンシューマーRPG――
それが《真・ソード&マジックワールド》だ。
物語の骨格となるストーリーや町、ダンジョンの構成、モンスターデーターはTRPGをベースにしている。
プレイヤーはAIとのチャットや対話を通して物語を進めていく――そんな新感覚のRPGだ。
他のRPGと決定的に違うのは、まったく同じ道筋を二度と辿れないという点だ。
AIが天候やNPCのセリフを動的に変化させるため、同じ選択をしても少しずつ流れが変わり、最終的な結果は常に違う形で現れる。
キャッチフレーズは『1000回遊べるRPG』。まさにその言葉通りのゲームだった。
俺、**廻 明楽**は学生の頃、このゲームにどっぷりハマっていた。
そして社会人になり、薬品卸会社で営業マンとして働きはじめた今――ゴールデンウィークの真っ最中に、再びこのゲームにのめり込んでいた。
「いやー、今回は初めて竜王バハムートと共闘してクリアできたな。やっぱドラゴンとの共闘は胸熱展開だよな!」
「学生の時は何度やっても共闘までいけなかったけど、今回はなんでいけたんだろう?」
このゲームはAIが膨大なフラグを複雑に管理しているため、攻略法というものが存在しない。
ネットの掲示板には「この手順でクエスト発生!」なんて報告が山ほどある。
でも同じことをやっても、結果は毎回バラバラ。AIが勝手に話を変えるから、攻略なんて存在しない。
「まぁ……バタフライ・エフェクトみたいなところが、このゲームの面白さなんだけどね」
「それにしても、明後日からまた仕事か……毎年この時期になると五月病になっちゃうんだよね」
「うーん……でもせっかくだし、念願のバハムートとの共闘もできたし。明日まで徹夜でやりこむかな」
――そのとき、ふと画面に見慣れない選択肢が現れた。
―――種族 :竜人に転生しますか?―――
このゲームでは、基本的にヒューマン・エルフ・ドワーフ・ビーストの四種の”人類種族と呼ばれる種族から選ぶ。
進行によってオークやドレイク、ジャイアントといった他種族も登場するが、プレイヤーが選択できるのはこの四つ――のはずだった。
「”竜人”って、ドレイクのことか? でもカタカナじゃなくて漢字表記……何か違うのか?」
「まさか、AIが自律的に生み出した新種族イベント……?」
過去にも、SFを舞台にしたFPSゲームでAIが開発者の想定を超えた行動をとり、プレイヤーを翻弄したという話があった。
あるいは2Dドット時代のレトロゲームで、発売から二十年以上経って未発見の内部データが見つかった――そんなこともある。
今のキャラデータの一部を引き継ぐことが出来るみたいだし、こんな面白そうなイベントを見逃す手はない。
「よし、YESをクリックっと!」
「あ、やっぱりキャラメイクから入るんだな」
このゲームのキャラメイクは、TRPGらしく6面ダイスで各能力を決定する方式だ。
ただし今回はやり直しなしの一発勝負らしい。
基本種族なら何度でも振り直せるが、この『竜人』だけは特別仕様のようだ。――いいね、気に入った。
《バハムートから授かる恩恵》
―――竜人魔法LV1を習得しました。竜人魔法LVは全て使用できます―――
―――竜人魔法Lv2〜6の中から、ランダムに6つ選択されます―――
―――竜人魔法Lv7〜10は強力なため、作成時点では選択できません―――
1.ドラゴン・ウィング 竜の翼を背中に生やす
2.ドラゴン・スケイル 竜鱗で身を守る(あらゆるダメージを1点軽減)
3.オール・コミュニケート 人類種およびドラゴン族、あらゆる人類と意思疎通が可能
4.ファイアブレス 前方約10mに炎を吐く
5.ドラゴン・パワー 竜の力を一時的に開放する
6.ドラゴン・ブラッド 竜の血による加護(ダメージ軽減)を得る
―――2回ダイスを振り、出目が被った場合は再判定―――
竜人魔法……つまり、ドラゴンたちが使う魔法や特技か。
雑魚ドラゴンでも《ファイアブレス》はよく使ってくるよな。
魔法レベルは職業ごとに設定されており、最大はLv10。
初期状態でLv6までの魔法を2つも覚えられるとは、かなりのアドバンテージだ。
―――判定結果―――
3.オール・コミュニケート
6.ドラゴン・ブラッド
―――ドラゴン・ブラッドの加護点を決定します―――
「お、《オール・コミュニケート》は微妙そうだけど、Lv6の《ドラゴン・ブラッド》は強そうだな」
「ここで6を出しておきたいところ……」
―――加護点 4―――
「よし!4点のダメージ減少はデカい!」
序盤の敵、ゴブリンの平均ダメージは5点。
初期の冒険者レベル1に装備によるダメージ減少、さらに《ドラゴン・ブラッド(4点)》の加護を足すと――ほぼノーダメージだ。
……まあ、最低でも1点は食らう仕様なんだけどね。
それでも序盤の生存率は段違いに高くなるぞ。
「これはもう勝ったな。がはは」
次は能力値の決定だ。
このゲームでは、種族ごとにダイスの数や固定値が違う。
人間は全能力にダイス4個――平均はオール14。
エルフは魔力・精神が高く筋力・生命が低い。ドワーフはその逆。
ちなみに、能力値は見た目にも影響するので注意が必要だったりする。
エルフ(女)の筋力をMAXにして、イベント報酬などなんやかんやで筋力20とかにすると――
『ダッダ―――ン!! ボヨヨンボヨヨン! ダッダ―――ン!!』
筋肉モリモリ・マッチョマンなエルフ(女)が爆誕するのだ。
細マッチョ派は要注意。
さて、”竜人”の平均能力値は――
筋力:21
器用:13.5
敏捷:17
魔力:17
生命力:21
精神力:20
「つ、強い……!」
器用だけ平均より少し下がるが、誤差レベルだ。
俄然やる気が出てきた。さっそくダイスを振る。
―――結果―――
筋力:36
器用:13
敏捷:19
魔力:12
生命力:30
精神力:26
「完璧だ……!」
筋力カンスト、生命力もほぼ上限。魔力は少し低いが、それ以外は申し分ない。
装備は自動購入機能に任せて――
今のうちに“竜人魔法”を調べておこう。
◆竜人魔法Lv1
アイアン・ストマク:あらゆるものが咀嚼可能で消化し、栄養とする
ピアッシング・クロー:ドラゴンの鉤爪を生やす
コミュニケート・レプタイル:爬虫類と意思疎通可能
サーモ・ビジョン:物体の熱を視覚化
ストロング・フット:強靭な脚を得る(移動・跳躍力上昇)
「ふむ……“魔法”というより、身体変化系のスキルに近い印象だな」
しかも、他の魔法と違って詠唱が不要らしい。
強くイメージするだけで発動できる――だから杖などの発動体や金属鎧といった装備制限もなし。
前衛職と相性が良さそうだ。
「《サーモ・ビジョン》も探索で役立ちそうだな……」
Lv2以降にも、まだまだあるようだけど―
「続きは……明日にしよう。いや、でも明後日から仕事だし……」
「せっかく珍しい種族でプレイできたし、もう少しだけ……」
――ああ、でも……眠いな……。
新シリーズも頑張って完結させます。




