第5話 追放令嬢、王宮での初勝利
夜明け前、リリーナ・カルモードは侯爵令息セドリック・ヴォーンの屋敷で最後の準備を整えていた。影の灰が渡した情報を再確認し、王宮内部の裏切り者の動きを予測する。
「今夜、行動に移す」
小さく息をつき、リリーナは決意を固める。追放令嬢として始まった戦いは、ついに具体的な成果を生む局面に差し掛かっていた。
王宮の裏門を静かに抜け、庭園の影を伝いながらリリーナは書庫へ向かう。昨夜の経験で、巡回ルートや警備のパターンはほぼ把握済みだ。影の灰とセドリックが連携し、万全の警戒を敷く。
書庫の奥でリリーナは、前夜入手した書簡のコピーをもとに、新たな証拠を見つけ出した。王子アルフォンスの側近が、貴族の一部と密かに取引を行い、王国を混乱させる計画を進めていることが、はっきりと示されている。
「これで……王子に伝えられる」
静かに呟き、リリーナは近衛兵長に連絡を取る。暗号で情報を伝達し、王子に証拠を届ける手はずを整える。
数時間後、王子アルフォンスから返事が届く。
「よくやった、リリーナ。君の判断力と勇気に感謝する」
リリーナは胸の奥で小さく微笑む。追放令嬢としての屈辱、周囲からの誤解――それらを力に変えて初めての成果を出した瞬間だった。
その直後、王宮内で小規模な混乱が起こる。裏切り者たちは計画を進めようとしたが、リリーナが先手を打ったことで未遂に終わった。王宮の中で、彼女の存在は確実に影響力を増している。
屋敷に戻ったリリーナは、セドリックと影の灰に報告を行う。二人は彼女の成果を喜びつつも、さらに注意を促した。王宮の裏には、まだ大きな陰謀が渦巻いている――。
「これからが本当の戦いね」
リリーナは小さく息をつき、しかし決して迷いはなかった。追放された令嬢としての物語は、ここで初めて勝利を得たが、王国の闇を解き明かす戦いは始まったばかりだ。
夜空に浮かぶ月を見上げ、リリーナは心の中で誓う。
「王国を守る。そして、私の名誉を取り戻す」
その決意は、王宮の陰謀に立ち向かうための、最初の確かな一歩となった。