第4話 追放令嬢、初めての策略
夜の帳が王都を包む中、リリーナ・カルモードは静かに屋敷を出た。侯爵令息セドリック・ヴォーンと影の灰が用意した衣装は、闇夜に溶け込む黒衣。王宮への潜入準備は整っている。
「準備はいいか、リリーナ様」
影の灰が低く声をかける。リリーナは頷き、握った手を軽く震わせながらも、心は確かに定まっていた。
「行きましょう……王国と、私の真実のために」
王宮の裏門は影の灰が示した通り、夜の巡回の隙をついて無事通過。庭園を抜け、書庫への道を辿る。先日の下見で確認済みの巡回ルートは完璧だ。今夜の目的は、王子アルフォンスの側近の動きと、王宮内の陰謀の証拠を掴むこと。
書庫に到着すると、リリーナは素早く扉を開き、中の文書を確認する。紙束の間に挟まれた一枚の書簡が目を引いた。それは、王子の側近の一人が、反乱を企てる諸侯と密かに連絡を取り合っていることを示す内容だった。
「……これは、王宮内の裏切り者か」
リリーナは小さく息をつき、書簡を懐に隠す。影の灰が隣で頷く。
「これで一歩、真実に近づいた。しかし、このままでは危険だ。逃げ道を確保しよう」
庭園に戻る途中、予期せぬ足音が響く。夜の闇に紛れていたのは、王宮の警備隊の巡回だった。リリーナは瞬時に影に身を潜める。影の灰が手を握り、静かに庭園の端へ導く。息を潜める二人の背後を、警備隊が通り過ぎる。
安全を確認した後、リリーナは書庫で得た情報をもとに、侯爵セドリックに作戦の概要を説明する。
「王子側近の一部は、諸侯と結託して王宮を混乱させる計画を進めている。私たちが動けば、その動きを止めることができるかもしれない」
セドリックは慎重な表情で頷く。
「君の直感と知略なら、王宮内部でも十分に立ち回れるはずだ」
リリーナは頷き、心の中で誓う。
「追放されても、私は王宮を取り戻す。そして、王国の闇を照らす」
その夜、リリーナは王宮の通路で、初めての策略を実行に移す。
書簡の内容を王子アルフォンスに届けるため、信頼できる近衛兵を使って秘密裏に情報を伝達する。王子が不在でも、内部の動きを把握できるように手筈を整えたのだ。
策略が成功した瞬間、リリーナはほっと息をつき、しかしすぐに次の行動を考える。王宮内の裏切り者が動き出す前に、次の証拠を掴まなければならない――。
夜明け前、屋敷に戻ったリリーナは、影の灰とセドリックに報告を行った。二人の顔には、静かな驚きと期待が混じっていた。
「これからが本番ですね」
リリーナは微笑む。追放令嬢としての物語は、今、策略と知略の戦いへと確実に進み始めた。