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それは、突然の出来事だった……

久しぶりの新作です。

どうぞお楽しみください。

 麗らかな春の日差しが心地よい、何の変哲もない平日の昼下がり。

 静かで落ち着いたモダンな雰囲気が隠れた人気を呼び、根強いファンを獲得している喫茶店のテラス席では、三人の学生が熱心に勉学へ励んでいた。

 ライトブラウンの髪に澄んだ瞳を持つ端正な顔立ちの好青年と、手入れの行き届いたストレートの黒髪に吸い込まれるような円らな瞳を湛えた、まさに「大和撫子」という言葉が似合う美少女。そんな美男美女のカップルが、共通の友人である丸刈りでふくよかな体躯の男子生徒に勉強を教えている――傍目には、そんな構図に映るだろうか。

 まさしく友人同士の麗しい助け合いというものなのだが、その恩恵を一身に受けている肝心の大柄な男子生徒の心は、どうにも此処にあらずといった様子で。

 実際、時折友人たちの向こう――隣の席に座る若い女性へ熱い眼差しを向けていた。

 何とも不義理で無礼な行動ではあるが、ある意味、無理もないことなのかもしれない

 二十歳ほどと思しきその女性は、肩まで伸ばした桜色の髪とナチュラルな化粧が映える美貌の持ち主で、思春期の青年には些か刺激の強い色香を漂わせていたのだから。

 彼女は、自分に向けられた熱視線にも、テラスから見える外の景色にも、テーブルの上で湯気を立てるコーヒーにすらも、微塵の興味も反応も示さず、ただ静かにスマートフォンを弄っていた。

 そのアンニュイな佇まいもまた絵になるもので、美男美女の優等生カップルとて、友人が思わず見惚れてしまう心境を理解できてしまうからこそ、怒る気にはなれなかった。

 それどころか、むしろどこか面白がっている節すらあり、やれやれと言わんばかりに顔を見合わせては肩を竦めて笑い合う。

 そんな恋人たちの息の合った振る舞いにふと気付いた大柄な男子生徒は、漸くハッと我に返ると、どこか気恥ずかしそうに顔を赤らめながら慌てて机上の書類に目を戻す。

 だが、数分もすれば自然と視線が彼女へ戻ってしまい、また笑われる――その繰り返し。

 尤も、こうしたコミカルなやり取りが隣で繰り広げられていても、当の彼女は微塵も興味を示すことなく、ただ黙々とスマートフォンを弄り続けていたのだが。

 ありふれているかどうかは別として、平和で長閑で、取り立てて特別なことなど何もない日常のワンシーン。こんな日常がいつまでも続くと、誰しもそう錯覚してしまうほどに、彼らにとって“当たり前”の光景であったのだが――彼らは誰も知る由もない。

 その“当たり前”の日常が、崩壊するのはあっという間であることを。

 そして崩壊の時は、ある日突然、何の前触れもなく訪れることを。


「……? はっ? えっ? 何、これ?」


 始まりは、漸くスマートフォンから目を離した女性が、ぽつりと漏らした困惑の声だった。

 その声に気付いた学生たちが彼女の方を見れば、彼女の視線は驚愕の表情のまま、テラス席の床に釘付けとなっている。そんな彼女に釣られるように視線を落としてみれば――


「「「……えっ?」」」


 三人の口から、揃って同様の困惑の声が漏れる。

 落ち着いた雰囲気の喫茶店には似つかわしくない、鮮やかな深紅の微光を放つ線が独りでに伸びていき、やがて魔法陣を思わせる円で囲われた奇妙な幾何学模様を描き出した。

 模様はその縁の中に、テラス席にいる彼ら全員を捉えており、その状態で目が眩むほどに強く紅に発光し始める。

 発光は時間にして僅か数秒で収まり、光が消えたと同時に幾何学模様もまた跡形もなく消えた。

 だが、消えたのは模様だけではない。

 同時に、幾何学模様に捉えられていたテラス席の彼ら全員もまた、忽然と姿を消した。

 まるで神隠しにでも遭ったかのように。

 相変わらず麗らかな春の風が吹き込むテラス席には、風に吹かれてページがめくられる参考書やノートと、湯気の立つコーヒーカップだけが、不気味に残されていた。


導入なので、文字数少なめで。

どうぞ次回もお楽しみください。

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