表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/63

第38話 二度目のダンジョン探索 4

 

 倒れた黒騎士の残骸を踏み越え、セリウスたちは祭壇の周囲を調べ始めた。

 瓦礫に埋もれた一角で、オルフェが金属を叩くような音を響かせる。


「おい、こっちに来てみろ!」

 瓦礫をどけると、黒ずんだ鉄の宝箱が現れた。

 鎖で厳重に縛られ、表面には古代文字のような刻印が施されている。


「罠かもしれん。慎重にな」

 アランが剣を構えて警戒し、リディアが屈み込んで鍵穴を覗き込む。


「……ふむ、魔力の封印付きだな。けど、そう強力な仕掛けじゃない」

 器用に工具を差し込み、かちりと音を鳴らす。

 鎖が解け、箱の蓋が重々しく開いた。


 ――ぱあっ。


 中から光が溢れ出し、洞窟の壁を黄金色に照らす。

 中に収められていたのは、煌びやかな装飾を施された指輪と、青白く輝く魔石だった。


「こ、これは……!」

 レオンが思わず手を伸ばす。

「きっと古代の魔導具ですよ。外に出たら鑑定士に見てもらいましよう!」


「本物の古代の魔導具か!? こんなところに、そんなお宝が眠ってるのかよ……!」

 オルフェが目を丸くする。


 セリウスは宝を手に取ると、仲間たちに視線を向けた。

(もしかしたら、『性転換の魔道具』かもしれない。いや、そんな簡単に出会えるはずはないか……)

「分け前は帰ってから相談しよう。今は、無事に生還するのが先決だ」


 五人は互いに笑みを浮かべ、束の間の達成感に浸る。

 しかし、その背後で――祭壇の割れ目から、墨のように濃く黒い液体がじわりと滲み出していた。


 じわり、と祭壇の割れ目から滲み出した黒い液体は、やがて土に吸い込まれることなく、地表を這うように広がっていった。


「……なんだ、これ」

 オルフェが剣先で突こうとした瞬間、液体はしゅうっと煙のように揮発し、消え去った。


「魔力の残滓……?」

 リディアが険しい顔で呟く。


 アランが胸で腕を組み眉根を寄せる。

「黒騎士を倒したことで、別の何かが目覚めた可能性があるかもな」


 レオンの喉が鳴る。

「ま、まさか……まだ終わってないってことですか?」


 セリウスは拳を握りしめ、仲間を見渡した。

「ここに長居はできないね。先へ進むか、引き返すか?」


 そう言って石段を降りる通路へ足を向ける。

 地下へと続く階段は冷たい風に吹かれており、その奥からは、かすかに金属が擦れるような不快な音が響いていた。


「下層に……まだ何かが待っている。先に進もう」

 アランが低く言い放つ。


 振り返った仲間の瞳に、不安と決意が入り混じる。

 ――そして五人は、更なる深淵へと歩を進めた。


 階段を下りきった瞬間、あたりの景色が一変した。

 そこは先ほどまでの石造りの回廊ではなく、広大な地下空洞だった。天井は高く、ところどころから垂れ下がる鍾乳石が、まるで牙のように冒険者たちを見下ろしている。


 足元には黒ずんだ水溜りが点在し、踏みしめるたびにぬかるんだ音が響いた。

 空気は冷たく湿り気を帯び、鼻を突くような腐臭が漂う。


「ここが地下三階層。……う、うわ……臭いがひどい」

 レオンが鼻を押さえ、顔をしかめる。


「ただの地下水の臭いじゃないな。死臭に近い」

 アランが剣を抜き、周囲を警戒する。


 そのとき――カラン、と金属の落ちる音が洞窟の奥から響いた。

 全員が反射的に身構える。


 だが目に映ったのは、誰の姿でもなかった。……闇。……闇以外は何も見えなかった。

 代わりに、奥の闇の中で「何か」が這いずるような音が続いていた。じりじりと、近づいてくる。


「……さっきの黒い液体、あれの影響じゃないだろうな」

 リディアの声が、緊張でかすれる。


 オルフェが肩を怒らせ、大剣を構え直した。

「どんな相手でもいい……来るなら、迎え撃つだけだ!」


 松明の明かりが届かぬ闇の奥で、青白い光がぽつりと点った。

 一つ、二つ……やがて十を超える光点が、静かに揺らめき始める。


「眼……?」

 セリウスが思わず呟く。


 その瞬間、湿った大地を震わせるように、無数の骨がぶつかり合う音が鳴り響いた。

 光点は一斉に揺れ、カラカラと鳴動しながら、こちらへと歩み出してくる。


 やがて、松明の明かりが、その正体を照らし出した。


 ――スケルトン。


 骨と錆びた甲冑をまとった亡者たちが、列を成して姿を現す。

 その数は十や二十ではきかず、ざっと見ただけでも五十を超えていた。


 青白い眼光が一斉に灯り、暗黒の大広間を蒼白に染め上げる。

 甲冑が擦れ合う金属音と、乾いた骨の軋む音が重なり、まるで軍勢の行進のようだった。


「ご、五十……いや、それ以上!?」

 リディアの声が裏返る。


 アランが冷ややかに呟く。

「……これは、ただの群れじゃない。まるで軍隊だ」


 先頭に立つスケルトンが剣を振り上げ、甲冑の胸を打ち鳴らす。

 それを合図に、全軍が一斉に武器を掲げ、ずらりと刃の壁を築き上げた。


「く、くそっ……これ、絶対無理だぞ!」

 オルフェが思わず後退りする。


 レオンが冷静に魔導書を開いた。

「数が多すぎる。……これは、魔法を放ちながらの撤退戦ですね」


 スケルトンの群れは間隔を詰め、戦場のような整列を崩さぬまま、じりじりと迫ってくる。

 その一歩ごとに、洞窟の大地が低く震えた。


 セリウスは剣を抜き、仲間の背を振り返った。

「急いで逃げなきゃ、捕まったら帰還できない! 絶対振りきろう!」


「逃げろ!」

 アランの素早く決断した号令が飛ぶ。


 五人は互いに頷き、降りてきた階段を上り始める。

 松明の炎が、彼らの危機感を映すかのように激しく揺らめいた。


 だが、スケルトンの軍勢は、地響きを立てながら一斉に突撃を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ