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第19話 連携訓練

 週末の朝。

 学園の講義がない休日、セリウスたち五人は揃って冒険者ギルドへと足を運んでいた。


 通りは市場の開く時間とあって活気にあふれ、焼き立てのパンの香りや果物の甘い匂いが風に乗って流れてくる。

 だが五人はそちらに目もくれず、ギルドの扉を押し開けた。


 中に入ると、冒険者たちの笑い声や武具の音が飛び交う。

 先週、ゴブリン討伐を終えて「見習いランク」から一歩昇格し「初心者ランク」になった彼らは、これまでより幅広い依頼に挑めるようになった。


「さて、今日はどんな依頼が残ってるかな」

 アランが真っ直ぐに掲示板へ歩くと、他の四人も続いた。


 板に並ぶ羊皮紙には「農地の害獣退治」「護衛任務」など、これまで手を出せなかった依頼も含まれている。

 初心者向けの「迷子のペット探し」や「荷物運び」、「薬草の採取」ばかりだった頃を思い出し、セリウスは少し胸が高鳴った。


「おっ、『森の盗賊団の動向調査』なんてあるぜ! こういうのこそ冒険って感じだろ!」

 オルフェが目を輝かせる。


「夏休みにダンジョン探索を行うのが当面の目標だ」

 アランがすかさず却下する。

「ダンジョンに潜れる実力や、ノウハウを身につけるために役に立ちそうな依頼を探そう」


「……だったら、これなんてどう?」


 リディアが指さしたのは『洞窟コウモリ退治』の依頼票だった。それは以前見習いランクに出されていた簡単な依頼である。先週はなくなっていたが、また出されたらしい。見習いランクで、依頼が失敗しての再依頼かもしれない。


「暗い場所で素早い相手と戦うって、まさにダンジョンに似てるじゃない。投げナイフや槍の訓練にもなるし」


「おお、確かに! 暗がりで翼のある敵だなんて、ダンジョンっぽいじゃないか!」

 オルフェが目を輝かせ、大剣の柄を叩いた。

「よし、俺の出番だな!」


「……いや、コウモリ相手に大剣を振り回すのは非効率なんじゃないか」

 アランが冷静に指摘すると、オルフェはむっとして反論する。

「効率だけが全てじゃないだろ! 俺の剣はロマンなんだ!」


「ま、ま、落ち着いてください。注釈に『群れで出ることが多い』って書いてあります」

 レオンが依頼票を覗き込みながら口を挟む。

「集団戦の練習になるのは、確かに役に立つと思います」


「ふふ……暗闇で羽音が響く洞窟」

 セリウスが、楽しげに微笑んだ。

「いいね、私はこの依頼に賛成だ」


 アランは一度目を閉じ、仲間たちの顔を順に見やった。

「……仕方ない。洞窟コウモリ退治にしよう」


「よっしゃー!」

 オルフェが大声を上げ、依頼票を剥がし取った。


 受付に持っていくと、職員が微笑んで印を押した。

「洞窟は町の南東の丘陵地帯にあります。午前中に出発すれば、夕方には戻れるでしょう」


 依頼票を受け取った五人は顔を見合わせ、自然と頷いた。


「じゃ、準備して昼前に出発だ!」

「おーっ!」


 五人はギルドを出ると、まず近くの商店街へ向かった。洞窟の中で戦うとなれば、松明や軽食、水分の確保は必須だ。


「リディア、松明は何本必要かな?」

 セリウスが短槍を肩に担ぎながら聞くと、赤毛の少年は目を輝かせて答える。

「うーん、洞窟の広さ次第だけど、ひとり二本ずつ持っておけば十分だろう。投げナイフも補充しとく」


「僕は薬草を少し持っていきます。万が一の怪我に備えて」

 レオンは小さな袋に乾燥ハーブを詰めながら、慎重に計算した。


「俺は水と食料を多めに持つぞ。昼食抜きで戦闘はきつい」

 オルフェが大剣を背に担ぎ、腰には干し肉をぶら下げる。


 アランは財布から銀貨を出して店主に渡しつつ、皆の装備を点検した。

「うむ、準備は完璧だな。あとは洞窟での連携を忘れずに行動することだ」


 昼前、五人は町の外れにある丘陵地帯へと歩を進めた。緑濃い丘陵の間に、薄暗い洞窟の入り口が口を開けている。鳥の声や風の音が響く中、冒険者としての胸の高鳴りが彼らの胸の鼓動を速めた。


「……洞窟、ってだけでワクワクするな」

 オルフェが興奮気味に呟くと、リディアが笑った。

「このワクワク感は、戦いの予感ってやつだな」


 アランは仲間たちの表情を順に見渡す。

「うん、皆落ち着いて。怪我をしないよう、無理せず連携を意識しよう」


 五人は一列になり、慎重に洞窟の中へ足を踏み入れた。薄暗い空間に差し込む陽光はほとんど届かず、松明の炎だけが頼りだ。


「光を前方に置いて進めば、暗闇でも戦いやすいはず」

 レオンが松明を掲げ、先頭に立つ。


「よし、まずは偵察。群れがどこに潜んでいるか確認しよう」

 リディアが短槍を構え、周囲の音に耳を澄ます。


 洞窟の奥に、かすかに羽音が響いた。

「……来たな、準備はいいか?」

 アランが仲間に目配せし、五人は互いにうなずいた。


 次の瞬間、洞窟の暗がりからコウモリの群れが飛び出した。翼を羽ばたかせ、甲高い鳴き声が響く。


「うおおっ!」

 オルフェは大剣を振りかぶり、突撃する。だが、洞窟の狭さと素早い敵の動きに、最初の一撃は空を切った。


「ちょっと待て、突っ込みすぎだ!」

 アランがセリウスとオルフェの間に入り、指示を出す。

「一体ずつ対処しろ! 群れに突っ込むんじゃない!」


「了解!」

 セリウスが冷静に剣を構え、壁際に飛び出すコウモリを迎え撃つ。金属音が洞窟に反響する。


 リディアは身を低くし、投げナイフを次々と放った。素早く動くコウモリの翼をかすめ、一体が地面に落ちる。


「やっぱり暗闇での戦闘は手ごわいな!」

 レオンが魔法を詠唱し、手のひらに光を集めると、仲間たちを包む防御結界が展開された。光の帯が洞窟の壁に反射し、少しだけ視界が明るくなる。


 コウモリは数を増やし、天井から襲いかかってくる。オルフェは体勢を崩しながらも大剣を振り、セリウスは冷静に斬撃を加える。


「リディア、右! 翼を切れ!」

 アランが指示を飛ばすと、赤毛の少年は短槍を振り、羽音の間隙を突いて敵を突き刺した。


 一体、また一体とコウモリが倒れていく。だが、洞窟の奥からはさらに群れの影が迫る。


「集中だ、皆!」

 セリウスが声を上げ、仲間たちは互いに連携しながら戦い続ける。松明の炎が揺れ、翼が影を作り、金属音と羽音が洞窟に満ちる。


「残りはあと数体だな!」

 アランが低く声をかける。目の前のコウモリは、まだ元気に翼を広げて襲いかかろうとしている。


「リディア、飛び上がる奴は任せた!」

 セリウスが右手で指示を出すと、赤毛の少年はすばやく短槍を振り上げる。飛び上がったコウモリが、見事に槍の先に突き刺さった。


「よし、オルフェ、次はまとめて蹴散らすぞ!」

 アランが残る二体を指さす。オルフェは大剣を肩から振り下ろし、壁際で暴れるコウモリに斬撃を放つ。


 その瞬間、レオンが詠唱を完了させ、手から光の閃が飛ぶ。洞窟内の薄暗い空間に、光の直線が走り、残りのコウモリを捕らえる。防御結界の光と相まって、敵は逃げ場を失い、次々と地面に落ちた。


「みんな、一斉に! 最後の突撃だ!」

 アランが号令をかける。オルフェは大剣で真ん中の敵を押さえ、リディアは横から鋭く突き、セリウスは冷静に周囲を監視しながら向かってくるコウモリに反撃。レオンの魔法が安全を保障する。


 短く、しかし力強い一連の連携で、ついに洞窟のコウモリは全て倒された。羽音は止まり、洞窟内は静寂を取り戻す。


「……つ、疲れたぜ」

 オルフェが息を切らしながらも、大きく笑う。


「連携は、完璧だった」

 アランが剣を鞘に収め、仲間たちを見渡す。


「投げナイフも槍も、魔法も、皆でカバーし合えたしね」

 リディアが胸を張る。


「暗闇での戦闘でも、皆で支え合えば勝てるんですね……」

 レオンは満足そうに頷き、手のひらの光を消す。


「ふふ……これで一つ、ダンジョン攻略の経験値が上がったね」

 セリウスが微笑む。


 五人は互いに笑い合い、息を整えた。戦闘は終わった。ここで手に入れた経験と連携は、ダンジョン攻略に大きな糧となるに違いなかった。



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