表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

第17話 ゴブリン討伐 2

ブクマ、星ありがとうございます。


 血と土の匂いが漂う窪地に、ようやく静けさが戻った。

 五人はそれぞれ肩で息をつき、剣や槍を地面に突いて体を支える。


「……やっと、終わったね」

 セリウスが額の汗を拭いながら呟く。


「ふんっ、楽勝とはいかんが、手応えはあった!」

 オルフェは胸を張るが、その大剣は土に突き立てたまま、彼自身の膝も少し笑っていた。


「危なっかしいにもほどがある」

 アランは仲間たちを睨むように見回しつつ、剣を丁寧に拭った。

「オルフェ、あんな突撃は無謀すぎる。セリウスも、視界の外に敵がいたらどうするつもりだ」


「す、すみません……」

 セリウスは頭を掻いて苦笑する。


「でも、うまい具合に、皆で連携できたから、勝てたんだと思うよ」

 リディアが短槍を肩に担ぎながら言う。

「俺の投げナイフだけじゃ押し切れなかったし、レオンの援護もなかったら危なかったぜ」


「ぼ、僕は……必死で詠唱するだけで精一杯だったけど」

 レオンは苦笑いしながらも、少しだけ胸を張った。

「でも、仲間を守るために魔法を使えたのは……魔法を趣味にしていて良かったと思います」


「そうだね」

 セリウスが頷き、皆の顔を順に見渡す。

「危なかったけど……私たち、ちゃんとゴブリンを倒せたね」


 一瞬の沈黙の後――。

 リディアが、にやりと笑って拳を突き出した。


「初めてのゴブリン討伐、成功だな!」


 五人の拳が重なり、緊張の糸が解けたように笑顔が広がった。


―――


 夕方。

 冒険者ギルドの受付に、五人は袋を抱えて現れた。袋の中にはゴブリンの耳が切り揃えて入っている。依頼達成の証拠だ。


「ゴブリン討伐、五体確認。依頼完了ですね」

 受付嬢が淡々と数を確かめ、帳簿に記録する。

「……よくやりましたね。見習いランクの方々で、この数を倒せたのは立派です。冒険者ランクが新人ランクに上がりますよ」


 差し出されたのは報酬の銀貨袋と新しい冒険者プレート。

 ずしりとした重みを感じて、セリウスたちは顔を見合わせた。


「……やったぜ。らが実力からすれば、ランクが上がるのは当然だがな」

「これで、新人冒険者として、新たな一歩踏み出せますね」

「ふふん、次はもっと手強い敵の依頼も受けられるぜ」


「いやいやいや! 次は慎重に選ぼうな!」

 アランの冷静なツッコミに、全員が笑った。


 初めての本格戦闘を終えた五人。

 疲労と安堵の中に、確かな達成感を胸に抱いて、彼らは次なる冒険へと歩み出していった。


 冒険者ギルドの大広間。

 夕刻の鐘が鳴ると同時に、酒場兼食堂スペースは一層の賑わいを見せていた。

 木製のジョッキを叩き合わせる音、笑い声、料理の匂い。冒険者たちの打ち上げの場は、いつもながらの熱気に包まれていた。


「はい、お待ちどうさま! 鹿肉のローストにシチュー、それからパンは焼き立てだよ!」

 給仕の娘がテーブルに料理を並べていく。


「おお、これだこれだ!」

 オルフェが早速大ジョッキを掲げる。

「今日の勝利と、我らの冒険者ランク昇格を祝して――乾杯!」


「かんぱーい!」

 五人のジョッキがぶつかり合い、泡立つエールが飛び散った。


「うまっ! くぅぅ、生きてて良かった!」

 リディアはすでに頬を赤くしながら、豪快に肉をかじる。


「はぁ……やれやれ。お前はもう少し落ち着いて食え」

 アランは呆れ顔で水を口にするが、その口元もどこか笑っていた。


「でもさ、本当に良かったよね」

 セリウスが椅子に背を預け、ジョッキを傾ける。

「危なかったけど、私達、怪我もしなかったし」


「……はい。魔法の詠唱が間に合った時は、僕も少し自信がつきました」

 レオンが照れくさそうに笑い、パンをちぎってシチューに浸す。


「はっはっは、俺の豪快な突撃が功を奏したからだな!」

「どの口が言うんだ!」

 アランのツッコミに、またテーブルが笑いに包まれた。


―――


 腹も落ち着き、酔いもまわってきた頃。

 リディアがパンを頬張りながら、次の話題を切り出した。


「で、次はどうする? また討伐依頼を受ける?」


「次こそは安全なやつにした方がいい」

 アランが即答する。

「今回の戦いで分かったはずだ。無謀は命取りになる」


「でも、薬草採りとかペット探しだけじゃ、鍛錬にはならないだろ?」

 リディアがグイとジョッキを傾けた。


「うむ! 冒険者は常に挑戦だ!」

 オルフェも腕を組んで力説する。


「挑戦は大事だけど……もう少し段階を踏もうよ」

 セリウスはジョッキを置き、皆を見渡した。

「依頼の中でも新人向けで、でもちょっと骨のあるやつを探す。例えば……盗賊退治とか、護衛任務とか」


「護衛なら、危険もあるけれど、無茶な戦いにはなりにくいですね」

 レオンがうなずく。


「ふむ、確かに。俺も剣を振るうだけでなく、指揮や守りを鍛えるべきだと思っていたところだ」

 オルフェが妙に真剣な顔で頷き、皆は「お前に一番必要だな」と心の中で思った。


「じゃあ次は実戦経験は積めるけど無謀すぎない依頼を探す、ってことで」

 セリウスがまとめると、全員が頷いた。


「……でもさ」

 リディアが口元をにやつかせる。

「もしまたちょうどいい依頼が見つからなかったら――?」


「その時は……」

 セリウスが苦笑し、ジョッキを掲げる。

「みんなで相談して決めよう。もう一度、今日みたいにね」


「おう!」

 五人のジョッキが再びぶつかり合い、泡が弾け飛んだ。


 夜はまだまだ長い。

 初めての勝利を祝う笑い声が、冒険者ギルドの大広間に響き渡っていた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ