第17話 ゴブリン討伐 2
ブクマ、星ありがとうございます。
血と土の匂いが漂う窪地に、ようやく静けさが戻った。
五人はそれぞれ肩で息をつき、剣や槍を地面に突いて体を支える。
「……やっと、終わったね」
セリウスが額の汗を拭いながら呟く。
「ふんっ、楽勝とはいかんが、手応えはあった!」
オルフェは胸を張るが、その大剣は土に突き立てたまま、彼自身の膝も少し笑っていた。
「危なっかしいにもほどがある」
アランは仲間たちを睨むように見回しつつ、剣を丁寧に拭った。
「オルフェ、あんな突撃は無謀すぎる。セリウスも、視界の外に敵がいたらどうするつもりだ」
「す、すみません……」
セリウスは頭を掻いて苦笑する。
「でも、うまい具合に、皆で連携できたから、勝てたんだと思うよ」
リディアが短槍を肩に担ぎながら言う。
「俺の投げナイフだけじゃ押し切れなかったし、レオンの援護もなかったら危なかったぜ」
「ぼ、僕は……必死で詠唱するだけで精一杯だったけど」
レオンは苦笑いしながらも、少しだけ胸を張った。
「でも、仲間を守るために魔法を使えたのは……魔法を趣味にしていて良かったと思います」
「そうだね」
セリウスが頷き、皆の顔を順に見渡す。
「危なかったけど……私たち、ちゃんとゴブリンを倒せたね」
一瞬の沈黙の後――。
リディアが、にやりと笑って拳を突き出した。
「初めてのゴブリン討伐、成功だな!」
五人の拳が重なり、緊張の糸が解けたように笑顔が広がった。
―――
夕方。
冒険者ギルドの受付に、五人は袋を抱えて現れた。袋の中にはゴブリンの耳が切り揃えて入っている。依頼達成の証拠だ。
「ゴブリン討伐、五体確認。依頼完了ですね」
受付嬢が淡々と数を確かめ、帳簿に記録する。
「……よくやりましたね。見習いランクの方々で、この数を倒せたのは立派です。冒険者ランクが新人ランクに上がりますよ」
差し出されたのは報酬の銀貨袋と新しい冒険者プレート。
ずしりとした重みを感じて、セリウスたちは顔を見合わせた。
「……やったぜ。らが実力からすれば、ランクが上がるのは当然だがな」
「これで、新人冒険者として、新たな一歩踏み出せますね」
「ふふん、次はもっと手強い敵の依頼も受けられるぜ」
「いやいやいや! 次は慎重に選ぼうな!」
アランの冷静なツッコミに、全員が笑った。
初めての本格戦闘を終えた五人。
疲労と安堵の中に、確かな達成感を胸に抱いて、彼らは次なる冒険へと歩み出していった。
冒険者ギルドの大広間。
夕刻の鐘が鳴ると同時に、酒場兼食堂スペースは一層の賑わいを見せていた。
木製のジョッキを叩き合わせる音、笑い声、料理の匂い。冒険者たちの打ち上げの場は、いつもながらの熱気に包まれていた。
「はい、お待ちどうさま! 鹿肉のローストにシチュー、それからパンは焼き立てだよ!」
給仕の娘がテーブルに料理を並べていく。
「おお、これだこれだ!」
オルフェが早速大ジョッキを掲げる。
「今日の勝利と、我らの冒険者ランク昇格を祝して――乾杯!」
「かんぱーい!」
五人のジョッキがぶつかり合い、泡立つエールが飛び散った。
「うまっ! くぅぅ、生きてて良かった!」
リディアはすでに頬を赤くしながら、豪快に肉をかじる。
「はぁ……やれやれ。お前はもう少し落ち着いて食え」
アランは呆れ顔で水を口にするが、その口元もどこか笑っていた。
「でもさ、本当に良かったよね」
セリウスが椅子に背を預け、ジョッキを傾ける。
「危なかったけど、私達、怪我もしなかったし」
「……はい。魔法の詠唱が間に合った時は、僕も少し自信がつきました」
レオンが照れくさそうに笑い、パンをちぎってシチューに浸す。
「はっはっは、俺の豪快な突撃が功を奏したからだな!」
「どの口が言うんだ!」
アランのツッコミに、またテーブルが笑いに包まれた。
―――
腹も落ち着き、酔いもまわってきた頃。
リディアがパンを頬張りながら、次の話題を切り出した。
「で、次はどうする? また討伐依頼を受ける?」
「次こそは安全なやつにした方がいい」
アランが即答する。
「今回の戦いで分かったはずだ。無謀は命取りになる」
「でも、薬草採りとかペット探しだけじゃ、鍛錬にはならないだろ?」
リディアがグイとジョッキを傾けた。
「うむ! 冒険者は常に挑戦だ!」
オルフェも腕を組んで力説する。
「挑戦は大事だけど……もう少し段階を踏もうよ」
セリウスはジョッキを置き、皆を見渡した。
「依頼の中でも新人向けで、でもちょっと骨のあるやつを探す。例えば……盗賊退治とか、護衛任務とか」
「護衛なら、危険もあるけれど、無茶な戦いにはなりにくいですね」
レオンがうなずく。
「ふむ、確かに。俺も剣を振るうだけでなく、指揮や守りを鍛えるべきだと思っていたところだ」
オルフェが妙に真剣な顔で頷き、皆は「お前に一番必要だな」と心の中で思った。
「じゃあ次は実戦経験は積めるけど無謀すぎない依頼を探す、ってことで」
セリウスがまとめると、全員が頷いた。
「……でもさ」
リディアが口元をにやつかせる。
「もしまたちょうどいい依頼が見つからなかったら――?」
「その時は……」
セリウスが苦笑し、ジョッキを掲げる。
「みんなで相談して決めよう。もう一度、今日みたいにね」
「おう!」
五人のジョッキが再びぶつかり合い、泡が弾け飛んだ。
夜はまだまだ長い。
初めての勝利を祝う笑い声が、冒険者ギルドの大広間に響き渡っていた。