お空のカラスさん?? 1
風がざわめき、木々の枝が不穏に揺れる。迷いの森の空は曇り、頭上から落ちてくる光は弱々しかった。
紗凪はロゼリオのすぐ後ろを歩きながら、小枝を踏む音にびくりと肩を跳ねさせる。
どこまでも続く森の景色は、どこか現実味を欠いていた。
「ねえ、あとどのくらい歩けば⋯⋯」
言いかけた瞬間だった。
突如、頭上から鋭い悲鳴のような鳴き声が響き、灰色の影が急降下してきた。
「きゃっ――!?」
風を切る音と共に、何かが紗凪の肩を鋭く掴み、そのまま宙へと引き上げた。彼女の足が地面から離れ、視界がぐるぐると回る。
それは――鳥のような羽根を持ち、女の顔をした魔物、ハーピー。
「紗凪っ!!」
ロゼリオの叫びが響いたが、ハーピーはすでに頭上へ。翼を大きく広げて、紗凪を獲物のように抱えて飛び去っていく。
「いや! やだっ、離してっ!!」
紗凪は必死に暴れるも、空中ではどうすることもできなかった。
しかしその時――
赤黒い蔦が、どこからともなく伸びてハーピーの脚に絡みついた。
「ギャアアアッ!!」
ハーピーの飛行が乱れ、翼が引き裂かれるようにして羽ばたきが崩れる。そして紗凪の身体が放り出された。
「きゃああああっ――!」
幸いにも落下地点は緩やかな苔に覆われた斜面だった。
地面に転がるようにして落ちた紗凪は、土と草の匂いに包まれながら、なんとか意識を保った。
⋯⋯ロゼリオは? ハーピーは? ここどこ?
息が乱れ、喉が乾く。周囲には誰の気配もない。森は静かで、鳥の声さえ止んでいる。
「はぐれ⋯⋯ちゃった⋯⋯」
紗凪は起き上がり、震える足でとぼとぼと歩き出す。草を踏む音がやけに大きく響き、不安が胸を占めていく。
一方その頃――
「逃げられるとでも?」
ロゼリオは巨大な枝の上に立ち、目の前で羽ばたくハーピーを見下ろしていた。
その手にはすでに複数の蔦が絡みつき、まるで意志を持つ蛇のようにうねっている。
「ッ、ギィィィ――ッ!!」
襲いかかろうとしたハーピーの翼を、蔦が瞬時に締め上げた。鋭い羽根も足も締めつけられ、次第に動きを失っていく。
「我が伴侶に指一本でも触れれば、その指は根元から刈り取られる」
ロゼリオの目が怒りと静寂で燃える中、ハーピーは最後の絶叫を上げると、蔦の力に押し潰されるようにして倒れた。
――その後、彼はすぐに紗凪を探して森を駆けた。
紗凪が見つけたのは、巨大な木の根元だった。どこからでも見えるような太く隆起した根。何より、空が少し開けている。
「⋯⋯ここなら⋯⋯ロゼリオにも見つけてもらえるかも⋯⋯」
その根元に座り込んで、膝を抱えた。重く冷たい森の空気。心細さがじわじわと染みてくる。
どこかでハーピーの断末魔のような声が響いた。ロゼリオがきっとやってくれる、そう信じたい。でも⋯⋯。
「⋯⋯ロゼリオ⋯⋯来てくれるよね⋯⋯?」
その問いに、森は何も答えない。風が梢を揺らし、ただひたすら、時間が流れていく。




