01
ギルドの扉を潜ると、数多の視線を感じる。
「お、おい……あ、あれ見てみろよ」
「マジか……『雷姫』初めて見たぜ……声かけてみろって」
「無理に決まってんだろ。手に持ってるアレを見ろよ」
「げっ、ありゃA級モンスター『キングオーク』の首か」
他の冒険者達の視線や小声を気にせずカウンターの方へとずんずん向かう。
受付嬢は、何か作業をしている様子で周りの様子に気づかず、下を向いている。
「すまないが、討伐の証明を頼む」
軽く詫びを入れてから、手に持ったソレをカウンターの上に乗っける。
「はいはい……ひっ!」
受付嬢は顔を上げると、カウンターの上に鎮座しているキングオークの顔と目が合い、悲鳴を上げる。
驚かしたようで申し訳ないな……。目が合わないように顔の向きを変えるべきだったか?
「ギ、ギルド長に報告して参りますので、少々お待ちください」
そう告げると受付嬢は逃げるように奥の方へと去っていった。
さて、ギルド長が来るまで待つしかないか……と考えていると、後ろから声が掛かる。
「ねぇ、そこの彼女」
振り返ると、顔だけはイイが……性根が腐ってそうな男が下卑な笑みを浮かべて近づいてきていた。
「なにか?」
嫌悪感を覚え、声のトーンを下げて返すが気にした様子はない。
「俺達、A級パーティーのヤリサー」
「興味ない」
またこの手の誘いか。
男はまだ言葉の途中であったようだが、容赦なくぶった切る。
男は遮られると思っていなかったのか、一瞬驚いたようだが……すぐに先ほどと同じ笑みを浮かべて近づいてくる。
「い、いやそんなこと言わないでさ……話だけでも」
「そこまでにしてもらいましょうか」
男の話は再度遮られた。
私ではなく、別の誰かによって。
声のした方を振り返ると、強面の中年の男がカウンター越しに立っていた。彼がギルド長か。その後ろには、先ほどの受付嬢が怯えるように隠れている。
「彼女は誰かの下に着くつもりなどないはずです。なんせ、数多くの国が多額の金や名誉を約束しても首を縦に振らなかったのですから……そうでしょう?」
男は確かめるようにこちらを見つめる。
「マジかよ……」
パーティーに勧誘してきた男も自分じゃ太刀打ちできないと気づいたのだろう。
あの軽薄そうな笑みは消えて、困惑しているようだ。
何度も断るのはめんどくさかったので説明してくれたのは助かったが……。
「まぁ確かにそうだな……例外はあるが」
そう呟くと、ギルド長は興味深そうに眉を上げる。
「ほぅ……例外ですか?」
「あぁ、私が従うのはただ一人……プロデューサーのみだ」
自信満々に答えたが、ギルド長もパーティー勧誘の男も困惑の表情を浮かべる。
「プロ……デュー、サー?」
「……初めて聞く名前ですな」
「名ではない。彼が言うには肩書きみたいなものらしいが」
その答えにさらに困惑してしまったのか、ギルド長も受付嬢に「知っているか?」と相談を始める。それはギルド長に限った話ではなく、ギルドホールにいる他の冒険者の面々もその名について興味を持ったようで口々に相談している。
まぁ……彼らが困ろうとどうでもいいのだが……。
手持ち無沙汰になった私はふと天井を見上げる。
プロデューサー……こんなに探しているというのに、あなたは今どこにいらっしゃるのですか?
まぁ、あなたのことですからまたどこかで苦しい境遇の人たちに道を示していると思うのですが……そんな彼らに私の時と一緒で、またあの軽薄そうな言葉で近づくのでしょうね。
「どしたん? 話聞こか?」