02
俺には趣味がある。
それはプロデューサー業だ。なにもアイドルを育てるっていうのではない。
例えるなら……そう、ダイヤの原石を見つけ出し、彼らが輝けるようにアシストすること。そして、彼らが成長し、みんなから認められていくのが好きだ。なんなら、最初だけアシストしてその後は彼らの活躍を酒場の噂話で聞くのも最高だ。
ふふっ……そんな彼らをプロデュースしたのは俺なんだぜ? って思うと酒が進む。まぁ、間違っても酔った勢いで俺のおかげなんて言ったりはしないけどな。彼らの才能のおかげでもあるし、D級冒険者だからほら吹きにしか見えないだろうし。
最早趣味と言うか、生きがいになっている。そのため新たな原石を探して、初めての冒険者ギルドを訪れたわけだが……。
ここ最近、ギルドホールに入り浸って粘っているんだけど、なかなかピンと来る人物は見つからない。
はぁと溜息をついて机に突っ伏す。
「どこかに困ってる冒険者いないかなぁ〜」
「困ってるギルド職員ならここにいますよ?」
顔を上げると、ギルド職員の少女がこちらを怪訝な目つきで見つめていた。
「アヤトさん暇ならいくつか依頼書を消化して欲しいんですけど?」
「ごめんね、俺は待っているんだよね」
「待っているって、何をです?」
「そりゃぁ……運命の原石さ」
俺がドヤ顔で返すが、ギルド職員の少女は理解できないようで何言ってたんだコイツみたいな目線で睨まれる。
さてと、人間観察に戻るかと思っている矢先、ギルドホールの扉が開かれ少年少女らのパーティーが入って来た。ん……? 彼らにくっつくようにもう一人の少女が入って来る。彼女もパーティーの一員か?
「……彼らのこと知ってる?」
そう尋ねると、ギルド職員の少女も俺の目線の先に目を向ける。
すると「あぁ」と言った感じで説明を始める。
「新進気鋭のD級パーティー『ルーキーズ』ですね、実力は伸びてきているようなんですけど……」
説明を続けていたが、途中から口を閉ざした。
何か言おうとしていたようだけど……。
「けど?」
「すいません、忘れてください」
ふーん……なんだか気になる口ぶりだが、一ギルド職員が一パーティーの内情を暴露するのも問題か。
「では、私は仕事に戻りますので、アヤトさんも依頼書をお願いしますね」
「うんうん。そのうちね」
ギルド職員の少女は、俺の様子を見てやる気がないと判断したのか溜息を吐く。だが、それ以上口を出すことはなく、カウンターの方へと戻っていく。
そんな少女の背を見送りながら、手元にあった酒を飲もうと口に着けるが……ほとんど空だった。
しまった……去る前に注文しとくべきだったか……。
どうしようかなと思っていると、突然大きな声がギルドホールに響き渡る。
「お前必要ねーわ! 今日からクビな」
声のした方に振り向くと、先ほどのD級パーティーの少年少女らが、一人の少女と対峙していた。少年の後ろでは他のパーティーメンバーがクスクスと笑っている。かくいう一人の少女は、焦っているのか汗を流して追い縋ろうとしている。
「え、ちょ……ちょっと待ってください」
「もうこれ以上待てねーよ。散々クエストに連れて行ったけどよ、お前強くなんねーじゃん。俺たちはこれからも上を目指すつもりだし、必要ないんだわ」
「で、でも……荷物持ちでもなんでもしますから」
少女は必至に弁解しようとしているが、少年はめんどくさそうに頭を掻き「ちっ」と軽く舌打ちする。
「もういいわ。正直に言うけど、お前……才能ねーよ」
「え……」
「じゃあな。もう関わってくんなよ」
そう言って少年少女らは少女の前から去る。
少女は……床に座り込み、頬を涙が伝う。
……ひどい一幕を見せられてしまったが、彼女は本当に才能がないのだろうか?
俺はこの世界に来た時に貰ったスキル『審美眼』を発動する。
……見つけた。
俺は思わず嬉しさにニヤける表情を抑えながら、席を立つ。
そして、できる限り警戒されないように笑みを浮かべて少女に近づく。少女は俺が近づいてくるのに気づいたのか、顔を上げ目線が交差する。
出来る限り、警戒されないように出来る限り優しい声で話しかける。
「どしたん? 話聞こか?」