プロローグ
世俗を離れ一人で生きることを選んだ孤独な隠者様と、出がらしとなったからっぽ聖女の人生やり直し話、始まります。
私は司祭の家系の娘として生まれた。
この国、ヒールニールでは生まれてすぐに赤子は選別を受ける。
様々な職業の刻印…職刻がされた大人のこぶし二つほどの透明な宝玉を、赤子の額にかざすとその子が持って生まれた職刻が光る事で、将来の道がだいたい決まる様になっていた。
一つ光る子もいれば複数光る子もいるが、親は選別を受けると子供が12歳になるころまでには奉公先を探し出し、そこへ送り出しそのまま奉公先で成人して働くのがここでは当たり前の事である。
選別された職…選職について皆何も不満を持つことは無かった、なぜなら他の職を選ぶより圧倒的に『向いている』というのが分かるからで、違う職を試してみたものは、強烈な違和感に襲われ結局元の仕事に戻ってしまうのが常であった。
私が生まれ育ったのはアレンデ、ヒールニール国の北側にある大領地、さらに北にある死の森と言う禁足地との境目である。
国は中央都ヒールニールを真ん中に、森北都アレンデ、山岳東都アスール、海南都ヒルニア、平原西都オニールそしてその間に中・小領地が挟まっている形だ。他にも国はあるのだが、西都オニール以外は行き来が難しく、割と孤立した位置にこの国はあった。
話を戻そう。
私は司祭の家系の娘として生まれた。そのせいなのかどうかは知らないが、生まれた時から特別な職刻を光らせてしまったために、閉じ込められるように育てられ、12の歳にヒールニールの大司祭様の元へ、故郷へ帰る事のない奉公へ出されることになった。
私が光らせた職刻…それは『聖女』の刻印。美しく輝くその白き光に父と母は泣いて喜び、物心つく頃からその職がどれだけ大切なお役目なのかを毎日のように聞かされた。
『聖女』それは国の繁栄に大きな影響を与える特別職で、その親となった者には多額の褒賞が与えられるほどだ。中央都の大聖堂で日々ヒールニールの安寧を祈り、国全体の豊穣を司る存在であるにもかかわらず、その存在は祭事の際にも表に出る事も無く、世間の間では知られることも無い。
奉公中、大司教からの受けたありがたい話の中では、5年に一度必ず複数人は聖女が生まれる様になっているのだと聞いてはいたが、それはなぜかまでは教えられることは無かったし、私の勤めは祈ることのみなので聞こうともしなかったのである。
だけどその意味は…奉公に入って5年後に私は身をもって知る事となるのであった。
「この辺でいいな」
「ああ、大司祭様も慈悲深い事だ、せめて故郷の側で終わりを迎えさせるなんてな」
そう話す男たちの声が聞こえる、何人だろうか、4・5人、馬と馬車の音、瞼が開かないので気配を探るしかなかった。
『聖女』の役目を終えた私は、とうとう捨てられるんだろう、彼らの手慣れた様子から、大司祭様お抱えの者達で、こうやって何度も聖女の後始末をしているのが伺える。
あんなに国の為に頑張ったのに、命を削って祈ったのに、5年で捨てられるとは…故郷へ帰る事のない奉公とはこう言う意味なのか、と切なくなった。
国全体の豊穣を司る大切なお役目は使い捨てなのだと国が秘匿するのは仕方が無い、一人の聖女の命より多くの命を天秤にかけたら、私の…私たちの命など軽いものなのだろう。
聖女は大神殿の巨大な刻印宝玉に力を捧げることで国の豊穣と安寧を支え、その力を失うまで使い倒される、それが真実だった。5年に一度生まれる聖女なんて随分多いなと思ったことがあったけど、そういう事なのか…と最後の力を使い果たし倒れた際に分かってしまった。
そうして動けなくなった私は深夜人目を避けながら荷馬車に乗せられ、故郷のある北へ、さらに通り過ぎて禁則地である死の森との境目へ運ばれ、人から見つけられない様に捨てられたのだった。
そうね、故郷の側なんて本当に慈悲深いのかもね…、しかし…祈るだけの空っぽの人生だったわ、聖女の力も使い果たしたから、何もかも本当に無くなった、お茶を出し切った出がらしになって、このまま森に埋もれて死ぬのだろうか、いやその前に獣に食われてしまうかもしれない。
でも手足の感覚ももう無いし食われても痛みも感じないだろう、意識だってあとどれくらい持つのか分からない。せめて自分がどんな場所で死ぬのかだけでも知りたくて、残りの力を振り絞って重たい瞼をこじ開けた。
視界は霞んでいるが木々からこぼれる光がキラキラと光って美しく、死の森と言われている場所なのに植物の命は力強く、鳥たちの囀る声は軽やかだ。私はどうやら大きな樹の根元に寝かされているらしく、太い太い幹とそこから伸びる枝や根、美しい花をつけた野草が視界の端に見えた。
ああ、案外素敵な所で死ねるのね…、そう思いながら私は意識を手放し力尽きた。
前から書きたいなと思っていたお話を文章にしてみます。
基本絵を描く側なので、つたない文章になると思いますが、お付き合いいただけますと有難いです。
誤字脱字はお知らせくださるとうれしいです、そっと直しておきます…。