ネオ陰キャな山賊は「ヒャッハー」って言いたくない
基本的には陰キャだけど、必要な場面では社交的になったり、陽キャな振る舞いをする…… それを「ネオ陰キャ」と言うらしい……。
「ヒャッハー、ここで会ったが運の尽きだ。その馬車の荷物は全部置いていきな。ヒャッハー」
俺がそう言うと仲間達は馬車を襲った。
俺は山賊だ。
俺が所属する山賊団は、俺を含めて10人いる。俺はその中でも中堅に位置する。
俺達は家族同然だった。朝起きてから夜寝るまで行動を共にしている。作戦で二手に分かれる場合や休日を除き、ほとんど一緒に生活する。
だから、旅人を襲うときも…… 行商人の馬車を襲うときも…… 俺達は華麗なチームワークで、誰1人傷つけず金になる物や食糧を奪っていた。
しかし、俺には悩みがあった。
それは、陰キャだということ……。
仕事上は仕方がなく、山賊団を盛り上げたり、弟分たちの面倒を見たりする……。陰キャだろうがなんだろうが、仕事は全力で行う。
時折、弟分たちは旅人や馬車を襲う前に怖じ気づくことがある。
そんな時は俺を頼り
「アニキ…… 景気づけに、いつものアレやってくださいよ」
と、言ってくる。
俺もその期待に応え
「ヒャッハー、野郎ども今日も任務を完遂するぜ! びびってる奴なんて、いねぇよな!? ヒャッハー」
とか言っちゃったりする。
でも…… めっちゃ苦痛……
ほんっとうに、ストレスが溜まる……
出来れば、「ヒャッハー」とか言いたくない。
お頭に「ヒャッハー」係を任されていなければ、もっと落ち着いた感じのセリフが言いたい。
俺は元々そんなキャラじゃないのに……
陰キャなのに…… 陽キャの様に振る舞っちゃう。
世間では、これを「ネオ陰キャ」と言うらしい。基本的な性格は「陰キャ」だが、場面によっては社交的になる…… それが「ネオ陰キャ」だ。「陰キャ」が覚醒し「ネオ陰キャ」になるらしい……。
でも…… めっちゃ苦痛……
ストレスがガチめのガチでヤバい、マジでキャパい!!
だって~ 山賊って1人になれないじゃないですか~。常に、誰かしらいるわけじゃん? 寝るときも個室があるわけじゃないし……。
マジ……1人になりたい……
そっとしておいて欲しい……
そう思うときが多々ある。
そんな時は森に1人で入っていく。
初めの内は、「森で隠れる訓練をしてくる」と言っていた。しかし、その内、弟分が「お供しやす」とか言い出してきた。
だから、今は「用を足す」ということにしている。森にいる時間が長いと、「アニキ、今日のはビッグベンですか?」とか聞いてくる……。
でも、俺はそれで良い。たとえ、「ウ○コマン」と呼ばれようが、1人になれる時間が作れるならそれで良い……。
俺は1人になると、毎回反省をしている。
今日の「ヒャッハー」は元気がなかったとか、アイツ、集中してなかったからサポートすれば良かったとか、その日の出来事を繰り返し思い出して、反省をする。
金目の物や食糧を大量に強奪できると、全員に休日が与えられる。
そんな時、俺は1人で過ごすことが多い。アジトに1人でいたり、町を1人でブラブラしたりする。
うちのお頭も、休日によく町に出ている。たまに見かけるが、気付かないフリをする。だって、折角の休みを邪魔するのは悪いじゃない? それに、俺もオフの日は社交的にはなりたくない…… 自然体の自分でいたいじゃない?
万が一、お頭に気付かれたときは、「え、いらっしゃってたんですか? 全然、気付きませんでした」とか言い訳する。
そのように、基本的には1人で過ごすのだが、みんなに遊びに誘われないと不安になる。誘われなかったら、「え、俺、何かした?」「嫌われてる?」みたいに考え、原因を探ったり要らぬ心配をしたりする。
逆に、誘われたら誘われたで、約束したことを後悔する。当日、急に行きたくなくなることがよくある。だって、自由でいたいじゃないですか~ 何かに縛られたくないじゃないですか~。
ある日、俺達の山賊団に5人もの新入りが来た。
俺は、それを喜んだ。なぜなら、仲間が増えれば俺の序列が上がり、「ヒャッハー」係を卒業できるからだ。
俺は、新たな「ヒャッハー」係の育成に努めた。来る日も来る日も、弟分の指導に当たった。1人になりたい時もあったが、「ヒャッハー」係から卒業できると思うと、日々の指導が苦痛ではなかった。
そして、俺はついに立派な「ヒャッハー」係を育て上げた。
「ヒャッハー」係として、初めての任務の日…… 今回、上手くチームの士気を上げられれば、アイツは正式な「ヒャッハー」係として認められる。最終試験のようなものだった。
アイツはとても緊張し、不安に駆られていた……。しかし、俺の教えを忠実に再現し、アイツは「ヒャッハー」係を見事にやりきった。無事に強奪も完了し、俺達はアジトに引き上げた。
その後、俺はお頭に呼び出された。
「アイツの『ヒャッハー』係は、立派だったな……。お前と比較しても遜色がなかった」
俺は、その言葉を聞いて喜んだ。
アイツが認められたことも嬉しかったが、それ以上に「ヒャッハー」係を卒業できると考えたからだ。
しかし、お頭は意外な言葉を続けた。
「だが、山賊団の人数が増えた分、『ヒャッハー』係が1人では、盛り上がりが欠けると思わんか?」
俺は、正直なところ、盛り上がりとか、士気を上げたりしなくても任務を完遂できると考えていた。仲間達には十分にその力があったからだ。
もっと仲間を信頼してやりましょうよ。アイツらなら、「ヒャッハー」係が1人でも大丈夫ですよ。
俺は、お頭にそう伝えたかった……。
しかし、言えなかった……。
お頭が恐かったわけじゃない……
お頭の意見を否定して、傷つけるのが恐かった……
気が付くと、俺はお頭の意見に同意していた……。
「じゃあ、お前も『ヒャッハー』係を引き続きやってくれ。2人になれば、今まで以上に盛り上がるだろ? 頼んだぜ」
お頭はそう言うと、俺の肩を軽く叩き去って行った。
「……はい」
俺は、消え入るような声でそう答えると、膝から崩れ落ちた……。
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