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140字小説が14編収録されています。
【ep.01 - 喫茶店】
一杯の珈琲につられて死神がやってきた。
死神は俺しか飲まない俺の珈琲を好きだと言ってくれた。ある日、死ぬから飲み過ぎには気をつけろと言われた。でもお前は飲みたいんだろ、と死神に言った。死神はお前が死ぬから迎えに来たことを思い出したと言った。だから今、この死神と俺で店を営んでいる。
【ep.02 - 電話】
おかけになった電話番号は現在使われておりません。おかけになった電話番号は現在使われておりません。おかけになった電話番号は現在使われておりません。おかけになったいのちの電話は現在使われておりません。おかけになったあなたの電話は現在使われておりません。おかけになったあなたは、今、どこ
【ep.03 - 手】
ぼくのすきなおんなのこはぼくよりせがたかい。ぼくのすきなおんなのこはぼくよりもあたまがいい。
ぼくのすきなおんなのこはぼくよりもあるくのがはやくて、いつもぼくよりもまえをいってしまう。
きみのためにぼくはなにができるだろうとかんがえて、かんがえてたら、いつのまにかてをむすんでいた。
【ep.04 - 癖】
私が神様の国へようこそ。
はい。先ずはこの黒スーツに着替えてね。え?ネクタイの結び方がわからない?あっちではワンタッチだった?知らないよそんなの。
はあ、次までに自分で結べるようになってよね。着終わったらバイクと銃の免許を取りに行って。全部終わったら君を助けてあげる。
優しいでしょ?
【ep.05 - チューニング】
チューニングを始めてください。
あー……、僕。ボク。ぼく。うん、今日はボクかなぁ。あんたは?あんたが私なら僕を使うけど……ワタシじゃない?わたくし?はあ、女型は種類が沢山あるからいいよなぁ。ボクもはやく私の使用許可がでるといいんだけど、まだ出ないんだよ。いつになったら出ることやら。
【ep.06 - 体験版】
無料体験版の人生とやらを送ってみた。
親が二人いる。
親は二人いるものなのか。
先生がいる。
先生は一年ずっと同じなのか。
卒業をした。
二番目のボタンがない学ランを初めて見た。
就職をした。できたんだ。ちょろ。
無料体験版はここまでです。この先の人生は有料版でお楽しみください。
【ep.07 - 鏡】
『鏡よ鏡。この世でいちばん美しいのは魔女さんです』
はい、続けて真似をして。
「いちばん綺麗なのはママだよ?」
それはあなたがまだ私しか映してないからよ。
「ううん。わたしに魔法をかけてくれたママがいちばん綺麗だよ」
「ママにしか言わない」
はあ、これじゃ売りに出せないじゃない。
【ep.08 - たまご】
大きな卵を拾った。
コンコンと割って中身を出すと、とても大きな黄身が出てきた。溶かして甘い卵焼きにしようか。それとも目玉焼きにしようか。ああ、冷凍のミックスベジタブルが冷蔵庫にないな。外から叫び声が聞こえる。大雨と共に雷鳴が鳴り響いている。窓が割れそうでも俺は構わず調理を続けた。
【ep.09 - 絵画】
星月夜が好きだと言うと「ゴッホのね」と言われて会話が終わる。違うよ、私が好きなのはムンクの星月夜なのと言っても「叫びの?」と笑われて終わり。叫びだって一作だけじゃないの。何作もあるんだよ。絵画が好きだって言ったじゃん。
ゴッホモネルノワール。みんな好きだから好きなだけじゃないの?
【ep.10 - 赤信号】
近所にいつも赤信号の交差点がある。
理由は誰も知らない。みんなルールを破って赤信号のまま横断歩道を渡っている。車も、人も、みんなルールを破っている。
ある日、深夜にその交差点の前を通った。点滅する青信号の交差点を使っていたのは、手を挙げ、走りながら渡る小さな妖怪たちの集団だった。
【ep.11 - 海】
海は君の血の色で染まっている。
そんな海を見ながら僕の天使は静かに微笑んでいる。お父さん、と僕を呼ぶ声にノイズがかかっている。君を作った僕はようやくこの海に帰れる。僕が作った子供は今からこの世界の母になる。
海は君の涙の色で染まっている。
透き通った海は僕の罪の色で染まっている。
【ep.12 - お砂糖】
にがい夜にお砂糖をくださいなと空に向かって言った。すると、ころんと甘い流れ星が私のティーカップに落ちてきた。白くてあまい流れ星は私のティーカップの中で小さなお月様になった。
「お月様なら願い事を叶えてくれる」
「星は祈らせておしまいなの」
「叶えてくれた試しなんてどこにもないわ」
【ep.13 - 眼鏡】
眼鏡をかけたらきみの顔がよく見えるようになった。
「きみはそんな顔をしていたんだね」
照れてるきみも可愛いね、と僕が言うと頬を一発叩かれたような気がした。
透けてる手も可愛かったけど、きみの白くて美しい手がはっきり見えるのは嬉しいな。
次は僕の手がきみに触れられるように頑張るね。
【ep.14 - はやく、はやく、はやく】
『あなたの作品は死後財団に保管されます』
『あなたの作品は多くの人を幸せにしました』
『あなたの作品は多くの人を不幸にしました』
『あなたの作品は多くの人を救いました』
『あなたの作品は多くの人を殺しました』
『あああなたの作品は死後財団に保管されます』
『ですからら、はやく』
ありがとうございました。