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1話

 なに? なになになに?

 何かついてくるんですけど!


 学校帰りに寄ったいつもの神社でお願いをして出てきたら、いつの間にか後ろから得体(えたい)の知れない何かがついてきている。

 それも、2匹? いや2体?

 柴犬ほどの大きさだが、2本足ですっくと立っている。


 少女は下校途中に近所の神社へお参りをして帰るのが日課になっていた。

 この日もいつもの通り神社でお参りをすませ、家に帰る途中に後ろの気配(けはい)に気付いた。


「なによこれ」


 少女の名前は春日 陽子(かすが ようこ)、この春に高校生になったばかりだ。


 陽子の後ろには、何者かがまじまじと陽子を見つめている。

「いつからついてきてるのよ……」

 ちょっと後ずさりしながらつぶやいた。


「神社から」

 2体のうちの1体が、陽子のつぶやきに答えた。


 声に驚いた陽子の心臓は飛び跳ね、(いきお)い余って一瞬宙に浮いたかもしれない。

 激しく鼓動する心臓と、乱れた呼吸を整えた陽子が、声を絞り出す。

「しゃ、しゃべった……」


 な、なんなのよこれ、しゃべるんだ。

 妖怪やお化けって夜に出るものだと思っていたけれど、夕方も出るの? そもそもこれって妖怪なの? お化けなの? これって、あれだよね、どうみてもあれだよね?


 驚きはしているが、陽子の顔はそれを怖がっているふうでなく、少し警戒(けいかい)しながらもじっとそれを見ている。


 それは幼稚園児ほどの身長で、上半身は裸、虎模様(とらもよう)腰巻(こしまき)をまとい、髪の毛はもじゃっとしていて、2本の角が生えている。

 2体いるそれは、左側のやつの肌は青く、右側のやつは白い。2体とも少し丸めのころっとした体形をしている。目玉もまん丸で、どこか愛らしい。


 鬼だわ、どうみても鬼だわ。


 その風貌(ふうぼう)は節分の時期にスーパーやコンビニで見かける、鬼のお面そっくりであった。子供を怖がらせる気のまったくない、可愛らしい鬼の面と同じ顔をした鬼がそこに立っている。


「オ……ニ……」

 陽子はしゃべったほうの、青い鬼の目をみながらつぶやいた。


「ほう、お前にはわしが鬼に見えるんか」

 鬼にしか見えないそれは、鬼と言われたことに不満をもったような声で陽子に問いかける。


「どう見ても青鬼じゃない」


 そういわれた青鬼は白いほうに目をやり、

「こいつのことはどう見えてるねん」

 と、探るように聞いた。


「し、白鬼……」

 陽子は自分の答えに自分でも納得できないが、見えるままに答える。


「なんやそれ、ふつうは青鬼とくれば赤鬼やろ、なんで白やねん」


 こ、こっちが聞きたいわよ。

 そう思いながら、青鬼の言葉に違和感をもった。


 なんか緊張感に欠けるわね、 ――!?

「あ、あんた、なんで関西弁なのよ」


「関西弁?」

 ちょっと顔を下に向け、何かを考えるように右手をあごにあてる青鬼。

「わし、関西弁しゃべってるんか、ほんで、わしのことが鬼に見えてるゆうんか」

 顔をあげ、陽子に言われてやっと自分のことがわかったような、そういう言い方をした。


「なるほどな、お前は得体(えたい)の知れんもんは鬼に見え、どういうわけか関西弁をしゃべるんやな、おおかたお笑いが好きで、ちょっと関西弁に(あこが)れもってるんやろ」


 そう言われた陽子は声にこそ出さなかったが、口元をぴくっとさせ、激しく動揺(どうよう)した。


 陽子の父親は、節分の日に鬼のお面をつけて、(うれ)しそうに鬼の役をかってでるような人だった。陽子が小さい頃から、スーパーで可愛らしい鬼のお面を買ってきては、子供が怖がらないようにと、ほどよく鬼を演じていたのだ。

 そんなことがあったからか、陽子は幽霊やお化け、妖怪といった(たぐい)のなかで、得体の知れないものを想像するとき、まっさきに思いつくのが父親の演じていた可愛らしい鬼だった。


「お前、関西弁しゃべるわしにちょっと親近感もっとるやろ」


「なんで私がお笑いを好きなこと知ってるのよ」

 青鬼のいうことには答えず、質問を返した。


「わし、名探偵やで!」

 青鬼は得意げに胸をはり、探偵映画の主人公を気取って、(あご)に手をあてて円を描くように歩きながら続ける。


「推理したんや、わしが関西弁しゃべってるんは、お前がそう望んでるからや、いろんな方言がある中で、関西弁ほど全国に馴染みのある方言はない、その理由はお笑いや、そこでピンときたんや、こいつお笑い好きやなと」


 なんなのよこいつ。なにが名探偵やで! よ、鬼のくせになんでそんなこと知っているのよ。


「とにかく、わしのこと見えてるんやったら話は早いわ、帰ろか」

 さも当然(とうぜん)かのように、陽子のほうをちらりと見て、先にたって歩き始める。

 数歩踏み出した青鬼がふと足を止めて、

「わし、お前の家知らんわ」


「な、なに勝手なこと言ってんのよ! 家になんか来ないで!」

 家に来ると言われて、あわてて叱りつけるように言い(はな)った。


「そんなこと言われてもなあ、わし、お前に取り()いてるんやで」


「え?」

 (おさ)まったはずの陽子の心臓が再び激しく鼓動をはじめ、足は青鬼を警戒するように少し後ずさりをした。


「と、取り憑いてるって、ど、どういうことよ」

 意味はわかるが、理由がわからず、恐る恐る問い()める。


「まあまあまあ、落ち着いてくれ、あとで説明するから、立ち話もなんやし、とりあえず帰ろか」

 一緒に家へ帰ることが決まっているような口ぶりで帰宅を(うなが)す。


「し、白鬼も来るの?」

 陽子は何も言わない白鬼を見た。


 白鬼はこくりと(うなず)いただけで、表情ひとつ変えない。


「なんやねん、お前も来るんか? お前ときどき神社のすみっこでふわふわしてる奴やな?」


 なんやこいつ、なんでついてくるねん。ふわっとして存在感のないやっちゃなあ。わしの邪魔せえへんかったらええけど…… なんかの役に立つかもしれんし、連れていくか。


「神社のすみっこでふわふわ?」

 なんなのこれ、あの神社にいたってこと? 白鬼も私に取り憑いたってこと? 神社にいたってことは、悪いものじゃないってことよね? 早く帰らないとお母さんが心配するし、どうしよう……


 陽子は不安を残しつつ、鬼を連れて歩き始めた。


第1話を読んでいただきありがとうございます。

この物語は全5話で完結いたします。

面白そうだな、続きが気になるなと思われたあなた様、ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけますとシリーズ化へ向けて励みになります。


作者はあなた様の応援が三度の飯より好きです。

是非、ご協力をお願いいたします。


鳥居 結

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