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自力で現状打破する令嬢シリーズ

【電子書籍化12/25】傲慢天才魔法使いの婚約者へ意趣返しで家を出てやった騎士令嬢のその後。


自力で現状打破する令嬢シリーズ⭐︎一弾目!

ヒロイン視点。




「ちょうどいいじゃないか! 婚約させよう!」

「そうだな!!」


 信じられないほどに軽いノリで、父親同士が子どもの婚約を決めてしまい、口をあんぐりと開けてしまった。


「いい考えじゃないですか。剣が得意なカトリーナと、魔法の天才のユージーン。両家も家族になって、いいこと尽くしだ」

「まぁまぁ素敵ね!」


 兄も母も、反対することなく、和気あいあいと喜んで賛成するものだから、とてもじゃないが、水を差す言葉が出せない。


 向こうの母親はユージーンに「あなたはそれでいいの?」と問うのに、私の家族は私の意思など確認してはくれなかった。

 魔導書を読んでいたユージーンは興味なさそうに「別に……」と素っ気なく返すだけ。嫌がる素振りではないから、承諾と受け取り、彼女も喜んだ。



 誰も私の意思を確認してはくれず、私だけが置いてけぼりで、勝手に盛り上がっていた。



 私の家は、騎士爵から成りあがった家系で、現在、子爵位を持つ父は戦場でも活躍している。

 母も剣を振るう人だが、戦場には出ていない。

 後継者の兄とともに私も訓練をして、魔物や賊と戦えるように鍛えられている。

 多くは、前衛で戦ったり敵を引き付けたりする戦闘員と、後衛で魔法を放つ魔法使いの戦闘員でペアで組んで戦う。


 ユージーンの家は、父親が伯爵位で騎士であったが故に、私の父と親友の間柄で、妻同士も仲がいい。

 おかげで、私達は幼馴染という関係にあった。

 妻の方が力ある魔法使いの家系であり、ユージーンは幼い頃から魔法に夢中で天才と評価される魔法使いだ。

 しかし、ペアは代わる代わる代わっていった。何故なら、ユージーンは天才肌で、他人とコミュニケーションをとることを怠る人だったからだ。

 幼馴染である私と兄も、親しく交流したわけではなかった。伯爵邸に遊びに行ったところで、ユージーンは魔術の勉強のためか、本を読み込んだり書き込んだりしていたから。ユージーンのことは、ロクに知らない。


 つまりは、私はそんなユージーンのペアとなり、そして婚約者となる。

 一種の諦めで、仕方なく務めることになった。



 五年、耐えた。


 結論。

 こんな奴と結婚なんて出来るか、くそったれ。



 騎士として剣を振るう私に令嬢の振る舞いは、誰も期待していない。かといって、口の悪さは披露しているわけではない。

 そもそも口が悪くなるのは、婚約者ユージーンのせいだ。

 彼に対する鬱憤が積もりに積もって、口が悪くなるだけである。心の中で。


 私は、基本的な魔法しか使えない。

 特に身体能力向上の魔法と、小さな威力の魔法攻撃を放つくらいだ。

 時間稼ぎすれば、その五倍は強い威力の魔法をユージーンは放つ。それに彼はどんどん強力な魔法を習得していき、ゆくゆくは叙爵も夢じゃない新しい魔法開発も間近だとか。


 それを素直にすごいと思って言っただけなのに、ユージーンはこう言った。


「君には才能がないんだから、わかったふりをするな」


 不機嫌なしかめっ面で罵ったのだ。

 何かとユージーンは私に魔法の才能がないことを貶した。


 魔法で目眩まししての戦闘をしたら「そんな魔法しか使えないのか?」と鼻で笑い、魔法で足止めしたら「今のは仕留められただろ!」と怒鳴られた。


 何が気に入らなかったのか、わからないが「ちゃんと前衛を務めろ!!」と、理不尽に怒鳴られたことも数え切れないほどある。



 最初は、ペアだけでも解消したいと相談したが、男女のペア=婚約が根付いているからと、世間体が悪いと却下された。


 不仲だと思われては困るでしょ、と母に笑われたが「不仲ですよ」とキッパリと返すと、面食らった顔をされた。


「婚約者の常識すらも、守っていない彼と仲がいいわけがないじゃないですか。贈り物なんて何一つ、もらったことないですよ」


 母は、絶句した。

 知らなかったの? 見せたこともないのに。

 こちらは誕生日プレゼントを贈るが、あちらから贈られたことはない。

 この話をしたのは婚約三年目。その後、二年も何もなかった。


「でも、ほら、ね? ユージーンはああいう性格だから。天才ってそういうところあるでしょ」


 なんて、母は誤魔化して笑う。

 意味がわからない。

 天才は常識に当てはまらない。だから我慢しろと?


 戦場で命を預けられない相手だから、ペアを解消したい。


 父にも相談したが、だめだと返された。

 前衛をしっかり務めれば、あとはユージーンに任せれば、敵を殲滅出来る。

 ユージーンの威力の強い魔法に、絶対の信頼を寄せていた父は聞く耳を持たない。

 同じくユージーンの両親にも相談したが、ユージーンの性格でペアを辞められ続けた二人は必死に引き留めた。私は上手くやれている、と。

 そういう話ではないと言えば、父と同じく、ユージーンの魔法を信頼しろと説得された。


 ユージーン本人には、ちゃんとペア解消の意思を話したが「勝手にしろ」と言うだけ。

 承諾を得られなかっただけなのに、解消が出来ないと言えば「僕ほどの魔法使いを手放せないんだろ」と鼻で笑われた。


 冗談じゃない。あなた以外の魔法使いと組みたいわ。だから解消してくれ。



 私は、必死に訴えた。

 それでも、両親は渋る。婚約解消も、ペア解消も。首を縦に振ってはくれない。


「それは私が戦場で命を失ってもいいと考えているということですか?」


 苦々しく思いながら、私は吐露した。


「何をバカを言っているんだ。ユージーンほどの魔法の威力で消し飛ばない魔物はいないだろ」


 兄のルークは、明るく笑って退ける。


「ならば、私と代わってください。お兄様」

「オレ? オレは、婚約者のニーナがペアだ」

「ええ、だからニーナ様とユージーン様を交換してください」

「お前……ワガママを言うな」

「ワガママですか? 死ぬかもしれないと言うのに、わかってくれないので、実際の危険を知っていただきたくて提案しているのに?」


 憤る兄に臆さずに言ってやれば、もう相手にしてやれないと言わんばかりに席を立って退室してしまった。


「お父様は代わってはくれないのですか?」

「いや、だから……婚約者同士じゃないか。もう五年もだぞ、カトリーナ」

「五年も耐えました。何度も言うように、無理です。戦場にて命の保証はありませんし、夫婦として上手くいくわけもありません」

「……ワガママを言うな、カトリーナ」


 父にも代わってくれと言うが、それはワガママだと片付ける。

 もう堪忍袋の緒は切れた。


「そうですか。たかだか娘が騎士で、息子が魔法使いだから“ちょうどいい”という理由だけで無理矢理婚約させ、戦場でもペアを組ませて、あくまで私を蔑ろにするのですね。これでも最善は尽くしましたが、もう手段は選びません」

「蔑ろにしてないわよ! カトリーナ! ねぇ、カトリーナ!」


 母が呼び止めるも、足は止めず、私は準備に入る。


 一応、兄の婚約者のニーナ様にも相談して一時的でもペアの交換を、悪足掻きで頼んでみたが、困った顔をされて「ルークがだめだと言ったなら……」と言われてしまった。

 お淑やかなニーナ様は、意見するタイプでもないので、兄が反対したなら自分から説得なんてこともしてくれないだろう。

 未来の義妹から“命の危険を覚えている”と相談されても、だ。行動はしてくれない。



 もう、うんざりだった。

 だから婚約解消とペア解消の旨を一筆した紙を両家の分、用意した。


 危険な場所に居続けるほど、危機管理能力が欠如しているわけではない。


 家族は、娘の私より、親友家族と繋がることを選んだ。


 私が死んでから気付いては、遅いのだから。

 私は逃げるという選択をした。私を蔑ろにした家族から。



 【娘の命すら軽んじるような家には二度と帰りません。さようなら】



 というメッセージだけは残して、私は家を出た。


 意趣返しとして、新聞社にはことの顛末を綴った手紙を送った。


 今時おかしな親同士が決めた婚約。

 婚約者の務めを果たさず、罵倒する傲慢な天才魔法使い。

 いくら訴えても解消してくれなかったこと。


 事実の証明は、私自身が家出をしたことだと書き記しておく。


 【これは意趣返しも含んでいますが、私のように親に強制された婚姻が少しでも減るきっかけになることを願ってもいます。役立てていただければ幸いです】


 そう新聞社には手紙に訴えておいた。

 そのあとどうするかは、新聞社次第だ。

 こんなネタは載せるに値しないと言われたら、それまで。

 新聞に載ってくれれば、社交界でも少しは肩身の狭い思いをして反省してくれると思っての意趣返し。


 私は絶対に捕まってなるものかと、すぐに髪をバッサリと切って、隣国へ移った。


 そこで剣術を頼りに、冒険者として生活を始めたのだ。


 しばらく祖国の新聞を取り寄せて動向を見守っていたが、私の記事が載ることもなかったので、却下されたネタだったかな、と少しだけ落胆したが、新生活が落ち着いた頃、ドーンと載った。


 【失踪した令嬢の事情!】


 とデカデカと書かれた文字。

 どうやら、実家が本腰入れて捜索を始めた、ここぞというタイミングを突いたらしい。

 これだと大注目集めること間違いなしだ。


 送ってよかった、と胸が空いた。


 家族に再三どころか、何年も訴え続けたというのに、相手にもされずに、とうとう家を出ていったご令嬢は、新聞社に自分と同じ目に遭う者を憂いていたため、記事にした。

 という記述があった。やり手な新聞社である。


 【ご令嬢の無事を祈る!】


 ありがとう! と涙ぐみたくなった。


 おかげさまで、実家は元婚約者の家族ともども、白い目で見られるのだ。

 一体、婚約者の務めを放棄していた話には、どう返答するのか、聞いてみたいものだわ。

 五年もの婚約期間中、何一つ贈り物をしていない事実に、冷ややかな眼差しを受けることになるユージーンはどんな顔でたじろぐのやら。フフン、ざまぁー。


 家族も、いかに非常識な態度だったかを、世間様に教えてもらえばいい。フーンだ。



 もう祖国の土を踏む気はない私は、大いに満足して、これからの生活に目を向けた。




 リナという名で、ソロ冒険者として活躍。

 一年やそこらで、肩より短く切ったはずの髪はまた伸びた頃。


 冒険者ギルドから、魔法使いのペアを組まないかと提案される依頼が回ってきた。

 魔法使いの火力がないと少々難しい魔物の討伐依頼。


 魔法使いとペアというだけで億劫ではあるが、何より組む相手が、元婚約者と同じく、天才魔法使いと名高い冒険者だった。最近、相棒の男の妻が身ごもって、ソロ活動をしていたのだとか。魔法使いがソロなんて危険だ。だからこそ、今回の魔物討伐でも、前衛を任せられる私に白羽の矢が立ったのである。


 今回限りだと言い聞かせて、私は引き受けた。


 私の一個年下の仏頂面の青年の名は、トランス・グレイ。

 仏頂面ではあったけれど、決して礼儀は欠かさず、人並みの接し方をして、こちらの意図を汲んで話しては動いてくれる人だった。


「元ペアと比べてごめんなさいっ」

「は?」


 思わず謝ってしまうくらい、私は失礼なことをした。

 あの驕り高ぶった非常識人と、まともな人を比べちゃいけなかったのだ。


「ごめんなさい、前に組んでいたペアも天才魔法使いと呼ばれる人だったから、勝手に苦手意識を感じていました」

「ああ、それで。なんか緊張してたんですね」

「はい……トランスさんはとても常識人です」

「オレみたいな不愛想をそう言うほどに、前のペアは酷い人格だったのか」


 渋い顔で頷くしかない私だった。

 トランスさんはツボに入ったようで、お腹を抱えて笑った。


 そうして、ちょっと打ち解けた。嫌な過去も、こんな風に役に立つのね。


 トランスさんは、ユージーンとは違い、攻撃特化の天才魔法使いではなく、支援系も豊富に使う天才魔法使いだった。

 おかげで、依頼された魔物はスムーズに片付けられた。もちろん、トドメはトランスさんの強力な魔法だ。

 貴族育ちのユージーンに引けを取らない強力な魔法だったから、攻撃系も強い天才だと思った。



 恐らく、真の天才魔法使いではないだろうか。



 そんなトランスさんに、冒険者ギルドにも報告して仕事をしっかり終えた後。


「リナさえよければ、ペア活動をしてくれないだろうか? 互いに、ソロは危険だろ?」


 という魅力的な提案がされた。

 打ち解けたこともあり、一も二も無く、承諾。


 こうして、トランスさんとペア活動することになった。



 それからも、元婚約者と比べることが多かった。

 トランスさんもまた、新しい魔法を開発研究をしていたのだ。

 しかも、支援系魔法。自身に身体能力向上の魔法をかけたり、強化する魔法とは別に、他者に魔法をかけるのは少々技術がいる。そんな魔法を平民で独学で開発するのだから、拍手喝采だ。


 興奮抑えきれず「すごいね!」と言ってしまったあとに、同じ轍を踏んだ! と焦ったが。


「ありがとう、リナ」


 トランスさんは、はにかんだ。

 キュンとして、呆けてしまった。


「リナ? どうした?」

「あー、いや……実は、前のペアには”わかったふりをするな”って言われたことあるから……また比べてごめんなさい」

「はぁ? 横暴なヤツだな……」


 この流れで、ユージーンの話を詳しく話すことになった。

 カッチーンと頭にきた様子で憤ってくれるトランスさん。



 ふとした瞬間に、うっかり「元婚約者」と無意識に言ってしまったらしく。


「え? ……元ペアは婚約者だったのか?」


 男だとは聞いていたけれど、婚約者だとは知らなかったと、驚愕された。

 場所が飲食店だったので、私はトランスさんの方へと身を寄せて、声を潜めて打ち明ける。


「あ、私は元令嬢で……親同士が勝手に決めた婚約者だったの」

「……そんな横暴なペアで婚約者だったのか……。逃げたくもなる」


 トランスさんの手が、私の手に重なって初めて、顔が近すぎると気付いた。

 見つめ合いの末。


「……リナのこと、もっと教えて」


 そう告げてきたので、頬が赤くなった。




 冒険者の仕事の時だけではなく、なんでもない休日も、一緒に過ごした。

 それが、一年近く続いて。


「守護の魔法を込めた魔石のお揃いの指輪をはめてくれないか?」


 指輪を贈ることで、告白してくれたトランスさん。

 喜んで受け取った。



 トランスの元ペアは、大らかに「トランスを取られちゃったな!」と笑い退ける。

 私とのペア継続を選んだトランスさんの意志を受け入れて、比較的安全な衛兵職に転職したので、気負わなくていいとも言われた。


 喜んで、トランスのペアを続けて、時折遠出へ行き、そこそこ名を馳せる冒険者コンビとなっている。



 さらに半年経ったあとのある日。


 秘境の湖の幻の薬草を摘みに来た私は、ぶわっと花びらの吹雪を受けた。

 魔法の目眩ましは、トランスの仕業だ。

 何!? と思ったけれど、目の前が見えるようになったかと思えば、跪いたトランスがいた。


 澄んだ秘境の湖のそば、花が咲き誇る場所。

 跪いて、ジュエリーボックスを差し出す恋人。


「この指輪も、一緒にはめてくれないか? 結婚してくれ、リナ」


 湖と同じく、澄んだダイアモンドの結婚指輪。

 視界が潤んで見えなくなる前に、トランスの胸に飛び込んだ。

 花畑に倒れ込んで、花びらが舞った。



 こうして、私はリナ・グレイとなった。



 リナとして生き始めてから、親しくなった人達だけで簡易的な結婚式を行い、トランスと夫婦になった。


 すぐに、周辺国の魔法使いの集いである『魔法お茶会』へ参加することに。


 ペアとしても、トランスの妻としても、パートナーとして参加。


 多くの貴族の魔法使いも来るが、この『魔法お茶会』は交流と情報交換が主。必要最低限のマナーは必要だが、それほどかたっ苦しくはない。


 私も冒険者としてはお洒落な前開きロングスカート姿。腰には、細めの剣を携えている。

 令嬢時代に培ったマナーで、トランスとともに挨拶してはお喋りをしていたが、やがて、かつての名前で呼ぶ人が現れた。


「カトリーナ!? お前っ、カトリーナだろ!!」


 祖国からあまり離れていない場所だったから、知り合いの魔法使いに会うとは予想は出来たけど、まさかの元婚約者。

 コミュニケーション能力欠けてるくせに、こういう場に来るとは意外すぎだ。


 くたびれた様子の元婚約者、ユージーンが私を指差した。


「っ、お前のせいで!! お前のせいだぞ! カトリーナ!!」


 怒りで顔を真っ赤にしたユージーンが詰め寄ろうとしたから、トランスが前に出ようとして、うっかり私が先回りしてしまった。

 あっ。ここは、夫に庇われるべきよね……。前衛の癖が、つい。


「私はもう、カトリーナではございません。グレイ伯爵夫人とお呼びください」


 残念ながら、現在の彼の身分がわからないので、彼をどう呼べばいいかはわからない。


「はっ……? 伯爵夫人、だと? そんな、バカな……グレイってまさか! トランス・グレイ伯爵の!?」


 たじろいで後ずさる元婚約者。

 今度こそ、トランスは私の腰を抱いて前に出た。


「そうだ。オレの妻に突っかかるのはやめてもらおうか」

「ッ!! 鬼才の魔法使いのトランス・グレイ伯爵の……妻っ!?」


 堂々と言い放つ夫の前で、青々に青ざめる元婚約者。

 修羅場だな、と他人事に見てしまう。


 ユージーンが驚くのも無理はない。


 なんと言っても、此度の『魔法お茶会』の主役は、伯爵位を得るほどの魔法開発に成功したトランスなのだから。

 元平民で、現役冒険者ながら、この功績を立てた時の人。


 ほとんどの参加者は、トランスと縁作りしようと集まってきたのだから、挨拶して捌くのが大変だったのである。


 結婚に踏み切ったのも、爵位を得られるからだったとか。

 元貴族の私を貴族の身分に戻したかったという。独りよがりな願いを叶えたかったんだ、とぶっきらぼうに言ったトランスは、この上なく可愛かったものだ。頬が真っ赤だったもの。


「バカな! 何かの間違いだ!! カトリーナは、ちんけな魔法しか使えない能無しの前衛バカですよ!!」


 トランスが私の腰を大事に抱えているにも関わらず、暴言を吐くユージーンは、三年経っても変わらないらしい。

 呆れて額に手を当ててしまう。

 トランスは不快感に顔を歪め、周囲は軽蔑の冷めた目を向けた。


「自分の魔法では、小さな中型魔物も仕留めきれない、身体能力向上系の魔法しかまともに使えないバカだ! 魔法をロクに学んでいないのに、知ったような口しかきけない! 鬼才のあなたの妻には相応しくないです!」

「聞いたものより酷いな。オレの妻を蔑まないと我慢出来ない病気にでもかかっているのか?」


 視線を鋭くさせて、トランスは冷たい言葉を吐き捨てた。


「っ! ええ! ええ! 酷いんですよ!」


 大いに動転して、正しく言葉を受け取っていないユージーンは、私のことだと思い、なお言い募る。


「三年前に勝手に家出するわ、新聞社に虐げられたって嘘の情報を送りつけて記事にするわで、酷い奴なんです! おかげで白い目で見られて、当時婚約者だった僕は今も実力を認められず! カトリーナの実家だって、実の兄の婚約まで解消されて社交界でも肩身の狭い思いして、次の縁談もペアも決まらず! 最低な奴なんですよ!」


 驚いた。

 兄のルークとニーナ様は、破談になったのか。

 あの記事が思う以上に効果覿面すぎて、気弱なニーナ様は逃げたのだろう。

 私もニーナ様も逃げたあの家に、新たな縁談は難しすぎる。


 ユージーンに関しては、ちっとも噂を聞かないから、功績が立てられないとは薄々気付いていたが、私のせいにされても、だ。


「ああ。()()()()()()()! ()()()()! ()()()! ()()()()()()()()()!」


 トランスがわざわざ強調して声を上げて、周囲にも聞かせてくれた。


「事実なんだろ? 嘘だと言うなら、名誉毀損で訴えて身の潔白を表明しただろうに。五年も婚約しておいて、贈り物一つ贈らなかったことは、バレただろ?」


 どよっ、とするパーティー会場。

 ユージーンが顔色を悪くした。



「事実で我が妻の意思を尊重せずに蔑ろにしたから、報いを受けたのだろう。それなのに、反省もせず、今もなお罵倒するか。我が妻は、優れた前衛で、安心して後衛支援して戦える。妻も背中を任せてくれる。素晴らしいパートナーだ」


 ドン、とトランスは言い切ってくれる。



「だが、お前がペアでは命の危険も感じたらしい。当然だよな。前衛バカと罵り、前で戦ってくれる相棒を軽んじる奴に命を預けられるわけがない! 相棒の有り難みを感じないのは、この場でお前だけだ!!」



 トランスの言葉で、ようやく初めて、周囲の冷たい軽蔑に気付くユージーン。

 前衛とペアを組んでいる魔法使いが多く、ユージーンの考えが理解出来ず、侮蔑の視線を突き刺していた。


「恥を知れ!!」


 トランスの怒声に、今度は羞恥で顔を真っ赤にしたユージーンは踵を返して逃げ出した。



「……ありがとう、トランス」


 ちゅっ、と頬にキスをする。


「これくらい当たり前」


 ぶっきらぼうにそっぽを向いたかと思えば、トランスの方からもキスをされた。


「面白い余興でしたな」


 なんて年配の魔法使い達がホッホッと笑って退けて『魔法お茶会』の交流は再開される。



 その後、元婚約者が功績を立てたような噂を聞くこともなく。

 元家族もどうなったかなんて、知る気もなく。



 私は私を認めて思いやり愛してくれる家族と、幸せに生きたのだった。




 end


自力で現状打破をする令嬢シリーズの一弾目でした!

婚約解消を突き付けて逃げ出した先で幸せを見つける系。

そして、ざまぁも一緒に! というハッピーエンド。


1万文字以内!(パチパチ。


自力で現状打破をする令嬢シリーズの二弾目は、

番解消を頑張る白い豹の獣人令嬢のお話、長編の予定です。

あくまで予定です!


よかったら、いいねとポイントをよろしくお願いします!

ブクマもよかったら!


2023/12/17

挿絵(By みてみん)

2024/12/25 コミックシーモア様にて電子書籍が先行配信しました!

タイトルは『傲慢天才魔法使いの婚約者へ意趣返しで家を出てやった騎士令嬢のその後。 ~新しいパートナーは真の天才魔法使いで私を溺愛してくれます~』です!

溺愛アップ! 幸せアップ!

家族愛で満ちたハッピーエンドです!

ぜひ読んでくださいね!


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