台風でも雨天決行する夏祭り
『ただいま日本列島に観測史上最大級の台風が接近しています』
『住民の方々は自治体の指示に従い、
できるだけ早い段階での避難を心掛けてください』
『なお、台風は明日の朝ごろに太平洋へ抜ける予報です』
夏祭り。
それは年に一度の大イベント。
近年では感染症の流行もあり、開催しない地域も多かった。
しかし、そんな世界的パンデミックなどガン無視で、毎年祭りを開催する地域があった。
俺の住む町がそれだ。
奴らはバカなのか、例年通りに祭りを開催。
町内でクラスターを大量発生させながらも、夏祭りを断行したのである。
その結果、異様な結束力が生まれ、町は不思議な一体感に包まれていた。
なにがあっても夏祭りを開催しなければならない。
そう、なにがあっても絶対に。
パンデミックでさえ乗り切れたのだから、台風くらいなんともないだろうと町中の誰もが考えたのである。
しかし――自然の脅威はあまりに激しかった。
次々と飛ばされていく屋台。
通行人も立っていられない。
大粒で雨に横殴りされながら、浴衣姿の男女たちが参道を歩いて行く。
いや……歩いているのではない。
はいつくばっているのだ。
強風に吹き飛ばされそうになりながら、さながらロッククライミングのように石畳の隙間に捕まって、じわじわと神社へ向かって前進する浴衣姿の男女。
もはや夏祭りを楽しむどころではない。
びゅおおおおおおおおおおお!
吹き飛ばされた屋台の残骸が人々に降り注ぐ。
アブナイと思ったその時、神輿を担ぐ男たちが現れた。
「わっしょい! わっしょい!」
荒ぶる神輿が残骸を弾き飛ばす。
祭りの参加者たちは、強風をものともしない神輿の勢いに目を見張った。
「わっしょい! わっしょい!」
「台風なんかに負けるな!」
「勝つぞ、俺たちは!」
雄々しい雄たけびを上げ、境内を練り歩く男たち。
神輿は何かのオーラに包まれているかのように神々しい。
「ありがたや、ありがたや」
御神木に身体を縛り付けた老婆が手を合わせる。
人々も地面に這いつくばりながら両手を合わせた。
「ありがとう! ありがとう!」
大勢の人が神様に感謝の言葉を送る。
こうして今年の夏祭りも無事に開催された。
なにがあってもこの町の住人は祭りを――
『台風の中、夏祭りを強行した町で大きな被害がありました』
『幸いにも死者はありませんでしたが、
多数の負傷者が出ているようです』
『避難指示が発令されている時は、
くれぐれも危険な行為は慎んでください』
『マジで』