八話 自爆怪獣ソーイとの戦い
色彩学園内部で暗躍していた自爆怪獣ソーイに逃げられた翌日の放課後。
自宅に帰宅するつもりのツルコは学園近くの商店街の自販機エリアのベンチで気だるそうにカルピスの原液缶を飲んでいる。朝、銀のスキットルに補充した分は昼前に飲み干していた。
「……最近の調査続きで疲労が隠せないアンデ君はメンタルチャージのアニメチャージの時間で一人で寮に篭っちゃったから『シソ』とか言うの聞けなかったな。アニメ見せとかないとホームシックみたいになって動けなくなるからアニメチャージの時間は必要。けど、今は爆弾魔の自爆怪獣が何なのかを知りたい……」
飲んだカルピス缶をブン投げてゴミ箱に入れた。かなりの轟音の為、近くにいる人間達は投げたスケバン少女を一瞬だけ見る。何だよあのクラッシャー……また何か壊す気か? と呟く連中もおり、ツルコの昔を知る色彩学園の連中は遠巻に見ながら帰宅して行く。
「ったく、メガネ多いんだよ。イライラするぜ」
「色彩学園消滅させられたらかなわねーよ。行こうぜ」
その一人の生徒の言葉を聞いて、燃え盛る幼稚園の光景を思い出し、ハッ! うっせーわ! と言わんばかりに自販機に正拳突きをくらわしてボタンを押し、同じカルピス原液缶を買う……が、
「ハッ! 出てきたのは無糖コーヒーか。人生甘くねーって事かよ」
パンチのヒットする瞬間がズレていた事がわからなかったツルコはワンレンの髪をかき上げ、チビチビと苦いコーヒーを飲みつつ鉛色の空を見上げる。
「自爆怪獣は人間サイズになれる怪獣。学園の中で何かを調査しているかのような行動。そしてアンデ君の『シソ』という謎の言葉……わかんねー!」
と、ツルコは叫ぶ。それに反応するよう、色彩学園の校庭が爆破された。そして避難警報が即座に発令される。
「チッ、部活終わりの下校時間に怪獣か。また部室に戻る必要があるな。おそらくまだメカハルはいる。ヤイツはお仲間達とチンタラ下校してるだろ。つー事は早く部室まで戻れそうだ。これ飲んで一気に行くぜ!」
無糖の缶コーヒーを一気飲み干してその苦さに苦しみ咆哮を上げ、商店街の連中にすぐ近くに怪獣がいると勘違いされたツルコは口を拭い駆ける。すると、商店街の入口にある揚げ物屋で友人とたむろしていた金髪マッシュヘアのイケメン風の少年を見かけた。
「いたな。あの怪獣討伐サポート軍・隊長のバカ息子」
そのままヤイツ達に駆け寄るツルコはそこにあった黄金の自転車にまたがっていた。
「さぼってんなよヤイツ! もう怪獣が現れてんだ。自転車借りるわよ!」
「お、おう! 新品だからあんまり手荒に扱うなよ!」
それに対する返事は無く、ツルコは黄金の自転車のペダルを漕ぎまくる。すると、色彩学園近くに迷彩色の人型怪獣。自爆怪獣ソーイの姿が見えた。校門を抜けて変身してカラーアンデに変身するアンデを見つつ、自転車を乗り捨てた。
倒れた自転車はぐへぇ!? とうめき声を上げて車輪の動きが止まる。ツルコはチームアンデの部室に急ぐ。
※
カラーアンデは自爆怪獣ソーイに対して、遠距離から攻撃するしか無い状態で戦っていた。接近戦で攻撃が当たった瞬間、ソーイが必ず自爆してしまうからである。自爆すると、新しいソーイが現れるように出現してカラーアンデは無限ループのような戦闘を繰り返していた。Vサインから放たれる低出力だが速射型のカラービームをくらわし、ソーイを倒す。すると、爆発した煙の先に迷彩色の怪獣のシルエットが映る。
「……また復活するように現れたか。エネルギーを溜めて自爆して周囲を吹っ飛ばす。自分もいずれは消滅するぞ。イカれてる怪獣だな」
「ボン……ボン」
接近する自爆怪獣ソーイからバック転をして距離を取り問う。
「学園を吹き飛ばしてどうするつもりだ? お前には学園地下のコクーンエリアで何か目的があるはず。その為にこの一週間近く爆弾事件があったはずだ」
「ボン……ボン」
「昨日のように話す事はやめてダンマリかソーイ!?」
機械のように単純な言葉を呟くのみのソーイはそのままやられる為だけのように色彩学園に向けて進み、カラーアンデに倒され続けた。アゲーファイター2で出撃したヤイツは空から周囲を見渡した。
「アゲーファイター1はまだ出てないのか。ツルコの奴、俺より早く来たはずなのに。それにメカハルもいないな。チームアンデは俺一人かよ!」
「チームアンデの諸君は怪獣に集中するんだ! 生徒の安全は我々生徒会が行う!」
生徒会長のカイヒロは白い白髪をなびかせながら生徒会としての義務を行う。モタモタしてる生徒や、怪獣に興味津々の生徒を叱咤した。
「スマホで撮影してるなら逃げろよ! これ以上やるなら軍に報告して懲役刑にしてもらうぞ!」
その光景を見るヤイツは怪獣に慣れてしまっている人間達のモラルの無さを嘆く。
「生徒達も怪獣が現れた時は避難命令を聞かない者は懲役刑という法律忘れてるな。死者が大勢出ないとやっぱ人間ダメになる。まー、その生徒を狙うならもっと大きな爆発をすればいいのに……これじゃただの時間稼ぎじゃねーか。ん? そうか! これは――」
「カラァ! これはシステムとして動いているダミー怪獣だ。自爆怪獣ソーイ本体は別の所にいる! 感謝するぞヤイツ!」
「カラーアンデ? お、俺の美味しい所……。ま、それはこっから楽しむとするぜ!」
学園外に倒しても倒しても連続して現れる自爆怪獣はヤイツの乗るアゲーファイター2の足止めによって防ぐ事になった。
「ツルコがいないが問題は無いさ。アンデはソーイ本体を叩いてくれ!」
「そうそう。私の指示があれば、ヤイツ程度でも自爆怪獣のダミーは始末できるわ」
「おいメカハル! 遅いぞ!」
「自爆怪獣がまた学園地下のコクーンに行こうとして出現したのよ。その反応を追跡してたら上手く巻かれて遅れたわ。だからカラーアンデはソーイ本体の退治をお願い」
「任せろ! チュワッス!」
そして、自爆怪獣ダミーの処理はヤイツとメカハルに任せた。人間サイズへと小さくなるカラーアンデは色彩学園地下へ続く列車ゲート付近に現れた。すると、目の前には迷彩色の怪獣の背中が見えたのである。
「またこのパターンだな。目立つ所で自爆騒ぎを起こし、本体は影で動く。嫌な事をしているな爆弾魔」
「……自爆と爆弾は似て非なるモノだよカラーアンデ」
「素人にはそんな事はわからないさ」
ギロリ……と自分の美学を理解しない敵に怒りを感じるよう、額に手榴弾がある吊り目の怪獣は振り向いた。
「ソーイ本体はやはり学園内部にいた。そして、目的は学園地下にある巨大空洞・コクーンの調査って所だな。真実を話した方が身の為だぞ」
「この世に真実の姿を公表されて無いコクーン内部を知る事は必要でね。ここで儀式を起こすらしいからな」
「儀式? 一体何の目的で動いている?」
「俺は知らないさ。ただ神の繭とも呼ばれるコクーンは大掛かりな儀式に必要って言葉だけは知ってる」
「やはり始祖に関連した話か?」
「答えは力で勝ち取ると良い。怪獣とは基本、力の上下関係しか無いだろう?」
「……そうだったな。だが、貴様の乗りたいその列車の行先のコクーンまでの走行ルートは閉じられてる。自爆してもコクーンに続くまでの装甲板を破壊するには時間とエネルギーがかかる。諦めろ自爆怪獣。ここまでの力があるなら、他にも生き方はあるはずだ」
「始祖の怪獣は特別だが、何もかもが普通の怪獣より優秀なわけではない」
「何の話だ?」
「故にどんな方法でも使うという事さ。これは人間社会で学んだ事の一つだよ」
「き、貴様――!?」
自爆怪獣ソーイが指差す方向にはコクーンへ向かう列車が有り、その内部には誰かが乗っていた。意識を失っているのか反応は無く、茶髪のワンレンヘアの少女は窓によりかかるように項垂れている。
「このツルコもいう少女を利用させてもらう。アンデがコクーンへ調査に行くと生徒会長を使い教えてあげると、すぐにここに来たよ。愛されてるねカラーアンデ」
「ツルコを解放しろ!」
「下手に動くと自爆に巻き込むぞ? ツルコを生かして欲しければコクーンまで案内しろ。列車ゲートの開放だ。問題無くコクーンに到着したら返してやるさ。さぁ、これは答えの決まっている交渉だよ。返答を聞こうか?」
「……」
そして、カラーアンデはメカハルに連絡し、目の前の列車ゲートの解放を要求した。自爆怪獣ソーイは不気味に微笑み、重くズッシリとしたゲートは解放される。ツルコと自爆怪獣を乗せた列車は地下空間コクーンへと進んで行く。