六話 色彩学園での爆弾事件
色彩都市・晴・気温二十度。
時刻は午後四時――色彩学園の授業は終わり、帰宅する者と部活へ行く者など各々の行動が行われる中、化学室にて爆発が起きた。怪獣警報では無い警報が確実内に鳴り響き、チームアンデの面々も事件があった場所へ向かう。
たまたま近くをフラフラしていて、いち早く駆け付けたアンデは避難作業をしている生徒会長を見かけた。
「生徒会の指示に従ってー! ほら写真は撮らない!」
爆発のあった化学室前に規制線が貼られ、生徒会委員達が化学室前に立ち塞がっている。野次馬の生徒達に注意を促し、遠くに離れるよう誘導しているのは色彩学園生徒会長のカイヒロだ。
背が低く華奢な少女のような少年だが力は強く、間違った事をしていたら教師さえも注意する熱い心を持っていて生徒からの信頼も厚い。彼は子供の頃の事故のショックで髪が白髪になってしまっている。その白髪をアピールするよう、ポニーテールにまで髪を伸ばしてあえて自分を目だ立たせていた。
好物はミルクコーヒーで、カイヒロスペシャルは九割ミルクで一割コーヒーのほぼミルクである。生徒会長の権限で売られてるが、案外学園内では売れていた。そんな個性的な生徒会長のカイヒロにアンデは、
「素早い対応ありがとうございます生徒会長。これは化学室の実験による事故ですか?」
「あぁ、アンデ君。これは実験による事故では無いらしい。目撃証言によると迷彩柄の人間サイズの怪獣が自爆するようにして爆発したとの事だよ」
「自爆する怪獣……それは会話をするタイプでした?」
「いや、単純に自爆だけしたようだが」
「すると遠隔操作の爆弾か。人型の怪獣爆弾だと厄介だな」
「一応、軍にも調査を依頼するけどこの件は怪獣が起こした事件とし、チームアンデに任せる。いいね?」
「わかりました。この化学室の状況はチームアンデが調査します」
そして、事件現場の化学室にツルコ、メカハル、爆発に驚いてこけたヤイツが集まった。割れたガラス窓は開いているが、多少のコゲ臭さが残る室内で四人の少年少女はこの一件の調査をする。まず、残された証拠品も無いので黒焦げになる室内を見渡すアンデが呟く。
「爆弾だ」
「ハッ! ホントに爆弾かよ?」
「バックダーン」
「ボンバーぱっふーん」
『爆弾の言い方で遊ぶな』
アンデ、ツルコ、メカハル、ヤイツという順番で最後のオチを認められなかったヤイツは全員から突っ込まれた。ダメージを受ける身体を抑えつつヤイツは思った事を言う。
「何で色彩学園内に爆弾があるんだ?」
「生徒会長の情報曰く、怪獣が自爆したとの話だけど、そういう爆弾の可能性もある。ただ自爆するなら僕ごと巻き込んで自爆しないと意味ないからね」
答えるアンデに対しツルコは続けた。
「そういえばこの前の兄弟怪獣は爆発する間際に仇を取るだとか言ってたな。すると、あの兄弟怪獣の仲間という事か?」
うーん……とその場の全員は考えるが、ツルコは更に続けた。
「最近は連続して知性のある怪獣が現れてる。あのパクリ怪獣のアーエから連続してるな」
「本人曰く、一応進化怪獣ね。過去一年のデータを見ても知性を持った怪獣は数体のみしか確認されてないわ。連続して現れたのは今回が初めてね。そして、本当に怪獣が犯人なら学園内部を攻撃された事についても」
地べたに座りコーラグミを食べるメカハルはタブレットで過去の怪獣データを漁っている。何か大きな事が起きる前触れのような予感を感じるアンデは自分で納得するよう頷くと、
「うむ。どうやら何か大きな渦の中に我々は巻き込まれてしまっているのかも知れない……」
『……』
「何はともあれ、もうすぐ軍の調査も入る。決定的な証拠も無い以上、どうにもならない。証拠としては目撃者の証言以上のものは無さそうだ。とりあえず食堂に移動しよう。これは時間のかかる捜査になるかもしれない。軽く腹ごしらえしながら今後の作戦を考えようか」
一応、生徒会長に聞いた目撃者数人に自爆したような怪獣の話を聞いた。特に新たな情報も新しい捜査の切り口も見つからないまま、チームアンデは食堂のイスに座る。もう夕方の五時近いので食堂はがらんとしており、寮生達は夜食は各々の部屋で自炊をするのでここにはほとんど人は来ない。無人の食堂の匂いを嗅ぐアンデはじっくりと周囲を見渡した。
「うむ。この時間だとフクオトさんとか調理スタッフもいないな。気兼ねなく話が出来る」
「ハッ! そうだな。それと自爆する怪獣の話はしない方がいい。無駄に混乱を招く事になる。そもそもその怪獣の本体がどこにいるかもわからないんだから。わかったなヤイツ?」
呆れた顔のツルコは手鏡で前髪をチェックするヤイツにちゃんとしろと釘を刺した。パチン! と指を鳴らし無駄にカッコつけるヤイツは、
「俺はかわいい女の子達を怯えさせる事はしねーさ」
「それはいいとして、アンデはこれからどういう作戦で自爆怪獣を探すの?」
タブレットの怪獣データにアンノウン・自爆怪獣という欄を既に入力しているメカハルはこの調査の作戦内容を聞いた。
「うむ。これは危険な賭けになるけど、僕達が囮になるしかないよ。もうすでに怪獣が学園内にいるならば、自分達をターゲットにさせる為に動いた方がいい。その覚悟をしつつ、学園内の調査をするのが一番だと思う」
「だな。アンデ君の意見で行こうや」
すぐにイエスと答えたツルコの意見にメカハルとヤイツの二人は頷いた。そして、アンデは誰がどこの調査をするのかという話をする。
「各々気をつけつつ学園を探索しよう。敵は組織的に動いているのかも知れない。さて、まず調査の場所だけど、やはり僕は食堂を中心に調べるよ」
『ダメ』
「……何故?」
三人の威圧感を感じるアンデは身を後退させつつ唖然としていた。
「アンデ君はどうせ夜勤の警備員さん達の為に多めに作ってある唐揚げ食べたりしちゃうでしょ? フクオトさん優しいからって甘えちゃダメよ」
「そうですよ。唐揚げの中にコーラグミを入れて欲しいやら、コーラグミを揚げても美味しくなるようにしてなどと無理難題を言ってはダメです」
『……』
そ、そんな事を言ってたのか……と少し唖然とした顔をする三人にメカハルは? の顔をして首と触覚ボブの毛先を捻る。そしてコーラグミをヤイツの口に投げ入れ、
「でもヤイツでいいんじゃない? 敵が現れてくれるなら、ヤイツが囮になってくれた方がいい。私とかじゃ力が無いから抵抗出来ない」
「だよねー。アタシもか弱い女子だから無理だわ。無理ぃ」
「オメーは色彩学園最強スケバンだろうが」
下手なぶりっ子をしたツルコにヤイツはやれやれといった顔でツッコむ。キラーンと目を唐揚げにして光らせ、ニヤリとするアンデもヤイツに続く。
「君なら出来るよ……嘘です」
目の前のスケバンから冷酷な殺気を感じたアンデは明後日の方向を見ながらヤイツの後ろに隠れた。色々察したヤイツは、ぱっふーんと空を仰いでから言った。
「んじゃ、このヤイツ様が食堂中心に調べてみるわ」
『お願い』
と、やけに三人の仲間から懇願されたので俺は信頼されてるな……と多少の照れを見せる。すると、ワンレンの髪をかき上げるツルコは立ち上がると一言告げる。
「食堂エリアは外部から搬入された資材とか多いからしっかり調べろよ。いーな?」
「ぱっふーん」
うげぇ……という顔をヤイツはする。
罠にはめられたという事実を噛み締めるヤイツを残し、チームアンデは各々の調査に赴いた。
そして、人気の無い食堂横の通路に一人の黒髪ロングの美女が通り過ぎる。目ざといヤイツはそのフクオトをナンパするように言った。
「フクオトさーん! これからバイトしませんか?」
「残念ねヤイツ君。私はこれからデートなの。怪獣探し頑張ってねー」
「ぱっふーん」
撃沈するヤイツは一人で一番大変な食堂から調査する事になった。微かに残る唐揚げの匂いに心を奪われつつ……。