四話 赤と青の亀盾怪獣
色彩都市の絶景である富士山方面に赤と青の巨大な怪獣が現れた。
亀のような身体の背中に甲羅は無く、その素肌は厚い皮膚で覆われており、左右に赤と青の鉄の盾を持つ怪獣だ。その顔面は普通の亀のように出てはいるが、周囲を確認するとすぐにひっこんでしまう特性があるようだ。その怪獣は戦車のように富士山周辺の木々を薙ぎ倒して色彩学園に侵攻して来る。
学園の校庭の中央に立つアンデは、迫り来る脅威を目にして変身した。
「カラーアンデ出撃! チュワッス!」
アンデは星形の唐揚げが描かれたカラースターウォッチをした右腕を上空に掲げる。シュパァァァ……と周囲にカラースターが降り注ぎ、その少年は一気に身長三十メートルの白い巨人へと変貌する。
白い巨人・カラーアンデ。
その二つの目は雲一つ無い大空のよりも青く、純白の変身スーツからはみ出たような髪はソフトモヒカンであり、白くガッチリした全身の一部には紫色のギザギザ模様が描かれている。胸元にはこのヒーローのキーマークである唐揚げの流星・カラースターが描かれている。カプセルで守られる胸元中央の唐揚げは本物のようだ。
「カラァ!」
そして、白い巨人と赤と青の亀盾怪獣は対峙した。
「ドゥドゥ。現れたなカラーアンデ。その胸元の唐揚げは何故二つじゃないんだ? 一つではバランスが悪いだろう。やはり全ては二で構成されるものが美しいのだ。二、弐、2、ニィ!」
「チュワッス? 何を言っている? この唐揚げ一つのカラースターこそが美しい。二番にこだわっていたら一番にはなれんぞ」
「一番よりも二番さ。二番は二つで支え合う。その二つで支え合う様が美しいのだ。トレビアンとも言える。今は理念を話したから欲望を話してやる。この惑星は怪獣も住みやすくていい惑星だ。お前を倒してこのダブチジ様が支配してやるさ!」
「そんな怪獣のセリフは聞き飽きている!」
飛び上がるカラーアンデは落下スピードを加味したキックを仕掛けた。亀盾怪獣は攻撃を察知すると意外にも早い身のこなしで左右のシールドを全面に押し出しガードする。初手を防がれたカラーアンデはパンチ、キック、チョップを繰り出した後、バック転をして距離を取った。全ての攻撃を防いでダメージの無い亀盾怪獣はニヤリとした顔で言う。
「カラーアンデよ。お前の必殺技を撃って来い。いつまでも炭酸の抜けた抜けたラムネのような攻撃ではラチがあかないぞ」
「怪獣のクセに人間くさい例えをする奴だ。そもそも必殺技を撃てと言われたら警戒されてしまうぞ。まずはその鋼鉄の盾の防御力を確認させてもらう」
両手を左右に開くカラーアンデはVサインの手を胸の中央でクロスさせる。
「カラーディバイド!」
ブウゥゥゥン……とカラーアンデは二人に分身して左右から攻撃を開始する。その最中、チームアンデは仲間の白い巨人の戦況を学園の屋上から伺っていた。その中で金髪マッシュのイケメン気取りのヤイツは亀盾怪獣に同意する意見を言っていたのである。
「やっぱ二番目というのは人気なのか。二番は一番を超える良い数字だからな。ツルコよりヤイツって事だな」
「ハッ! 怪獣なんぞに同意すんな。怪獣は全て抹殺するのみだ。この現状を見る限りあの盾は皮膚以上にかなりの鋼鉄のようだ。カラーアンデが様子見をする攻撃してるって事は単純にカラーゲイザーを撃つだけじゃ勝てないないという事」
「今回は俺が先に行かせてもらうぜ。今日は怪獣出なくて美容室予約してたのキャンセルになった罪は重いからな」
言うなり、ヤイツはどこかに向かって駆け出す。それをツルコは見送り、タブレットで戦況を見るメカユキの視界に青い戦闘機が映し出された。カラーアンデ支援戦闘機であるヤイツ搭乗のアゲーファイター2が現れる。
「加勢するぜカラーアンデ。ヤイ! ヤイ! ヤイツ!」
「ヤイツ! 全部逆で頼むぞ!」
「逆ぅ? 引き過ぎず、寄り過ぎずやってやるぜ!」
一気に機体を加速させたヤイツは、二体になりカラーアンデが亀盾怪獣に攻撃を仕掛ける背後にミサイル全弾を撃ち込んだ。それを見たメカハルはタブレットに映る煙だらけの映像を見て言う。
「そこよ。そのまま浮いた身体の下に入ってひっくり返すのよ。そこに勝機はあるわ。全弾発射してひっくり返す。勢いだけのヤイツにしては計画的な作戦ね」
「え? あ、そうだよ。そうなんだよ! 亀ならびっくり返せば勝ちだもんな。ぱっふーん!」
フンと疑問を鼻で表現するツルコは髪をかきあげて戦況を見据えた。ミサイルの着弾による煙が晴れると、アンデは一体になっており亀盾怪獣を持ち上げられてもいなかった。前と後ろにシールドを突き出し、全ての攻撃をガードしていたのである。
うへっ? という顔をしつつ青いアゲーファイター2を旋回させて距離を取るヤイツは、
「コイツは隙を突いて攻撃した後ろ側も平然と防御してる。後ろに目でも付いてんのか? って、仕返しかよ――」
その亀盾怪獣は地面に崩れた岩石を後ろ足で蹴り、アゲーファイター2に散弾のように飛ばす。
「ジュテーム! お前は二番目としてつまらない!」
全ては避けられない岩石の雨にヤイツは死を覚悟した。瞬間、カラーアンデはクラウチングスタートの構えで技を放つ。
「カラーマッハ!」
カラーアンデは音速のスピードで撃墜されそうなアゲーファイターを岩石の散弾から守った。アゲーファイター2を抱えるカラーアンデは地面に転がる。マズイ! とツルコは屋上の柵を握り、メカハルは冷静にカラーアンデの残りエネルギーを計算した。ニヤリ……とそれを待っていたと言わんばかりの顔をする赤と青の亀盾怪獣は両手のシールドを一体化させ、高速で突っ込んだ。
「モナムール! 攻防一体! ドゥドゥシールドタックル!」
「それを待っていた! くらえ――カラーゲイザー!」
倒れつつ両手を開いて全身のエネルギーを解放し、カッ! とその目に唐揚げを映し出すと同時にカラーアンデは紫の必殺エネルギーを放った。両者の必殺技はぶつかり合い大爆発を起こす。
※
カラーアンデと亀盾怪獣の必殺技による爆発に巻き込まれたアゲーファイター2は放棄し、パイロットのヤイツは近くにあった自転車で学園方面に駆ける。それを部室から出て肉眼で見える学園の屋上の臨時基地で確認したメカハルはタブレットの右下に映るヤイツを確認した。ゆらゆらと動く触手のような内巻きボブの先端がコーラグミを口に運んでいる。
「屋上に来るので疲れたわ。ん……ヤイツは爆発から生還して帰還途中。カラーアンデもエネルギー切れに近いけどダメージはほぼ無い。それは敵にも言えるけどね」
革靴で屋上の柵に蹴りを入れたスケバンスタイルのツルコは、
「おそらくカラーアンデは敵の必殺技と自分の必殺技の力比べをして、自分の技であの二枚のシールドを破壊して亀盾野郎のプライドまで壊す予定だったはず。それが予想以上に亀盾野郎のエネルギーが強かったって事か」
「そうね。左右のシールド自体は変形しているけど、カラーゲイザーに耐えるだけのエネルギーは凄いわね。怪獣二体分のエネルギーでも無い限りあの必殺技を防ぐのは不可能だったのに」
「一年前より会話も出来る怪獣が増えてるし、怪獣のレベルが上がってるという事だな。それにしてもかなり重い一撃だ。そう何度もくらうとコッチもやられるな……」
「その可能性は否定出来ない」
コーラグミをムシャムシャ食べるメカユキと自分も動こうとするツルコの耳に嫌な音が聞こえた。踏み切りの音に似たアンノウン♪ アンノウン♪ という音がカラーアンデの残り時間を知らせる。
『……』
余力の無いカラーアンデと余力を残す亀盾怪獣は互いに動き出す。これまでの戦闘から、顔面に攻撃が当たれば倒せると考えていたカラーアンデは頭部のソフトモヒカンヘアを硬質化カッターとして放つ「カラーカッター」を使う。
「――!? は、放てない!?」
両手のシールドでガードしそうになる亀盾怪獣もよくわからないまま停止する。舌打ちをするツルコはこの現状を説明した。
「そりゃそうだ。アンデ君の奴、最近また風呂に入ってないから髪が脂で固まってやがる。カラーゲイザーで倒せる敵ばっかだったから油断してたな」
「それは自業自得ね。まだ手札はあるのかしら? 私のコーラグミは残り二つ」
「もう時間切れに近いぜ。メカハル、作戦はあるか?」
「アンデも同じ事思ってるけど、敵が前で左右のシールドを閉じるまでの一瞬に攻撃するしかないね。顔面が弱点であるからこそあの防御体制だろうし。出来るといいねぇ」
「それをやるんだよ。メカハル、資材倉庫を開けてそこにアタシのアゲーファイターをスタンバらせておいて。おい! 聴こえてるなヤイツ!? お前とお仲間連中に倉庫のシャンプーをアゲーファイター1用のカーゴに詰め込んでおいてくれ」
耳の無線機に手を当てるヤイツの自転車は学園に到着する。そのまま指示を聞き自転車を飛ばす。
「――おうよ! って、シャ、シャンプーを? シャンプーじゃあの怪獣倒せねーぞ?」
「シャンプーじゃ倒せないさ。アタシが風呂に入って無いカラーアンデをキレイにしてやるだけさ」
そして、ツルコの乗るアゲーファイター1が発進した。その最中、二度目の必殺技をくらうカラーアンデは学園のプールに倒れ込んでいた。
「ドゥドゥ。終わりだカラーアンデ。エネルギーが切れる前に死ぬがいい」
「……ナイスタイミング。任せたよツルコ。君なら出来る」
「何が出来る? 戦闘機の爆撃などは効かないぞ?」
アゲーファイター1はプールに倒れるカラーアンデにシャンプーを投下した。
「それはシャンプーだ! 頭を洗えカラーアンデ!」
「チュワッス! なるほどね。助かったぞツルコ!」
シャンプーをし、プールの水で脂で固まる髪を洗うカラーアンデは突っ込んで来た亀盾怪獣をジャンプして回避する。上空を向く亀盾怪獣は夕日の光に目を細めた。空中で敵の顔面に狙いを定め、現れたソフトモヒカンヘアから切断必殺のカラーカッターが放たれた。
「カラーカッター!」
その紫の切断必殺のカラーカッターにて、亀盾怪獣を真っ二つにして倒す。二つのシールドを閉じる一瞬の間を狙った攻撃が決まったのであった。
『……』
地面に着地するカラーアンデと、チームアンデの面々は勝利に浸る顔をしていない。二つに切断された亀盾怪獣は、何故かモゾモゾと動き出しているのである。それはやがて一つの亀盾怪獣へと変化した。
「ジュテーム! 二つになっても俺は強い」
「モナムール! 何故なら俺達は二番目に強いからだ」
『怪獣が二体いる!?』
先程まで戦っていた赤と青のカラーをした亀盾怪獣タブチジより小さい怪獣が生まれている。片側に赤と青のシールドがある二体の怪獣は自己紹介をした。
『俺達は兄弟怪獣ダブチジ。お前の人生にミゼラブルを!』