三話 カラーアンデの日常
色彩学園中学二年生の宇宙人・カラーアンデ。普通の人間姿になる学園内ではアンデと言う名で通している。
地球を守る巨大ヒーローであるアンデは一年前に地球に現れ日本の富士山に近い色彩都市に住んで、日々現れる怪獣達を倒していた。
寝癖のようなソフトモヒカンの髪型のアンデは放課後になり、部活に行く前にいつも通り食堂でオヤツを貰いに来ていた。
「フクオトさんチュワッス! おやつ貰いに来ました!」
「はーいアンデ君。いつも怪獣倒してくれてありがとね♪」
フクオトとは長く艶やかな黒髪の美女。大きな二つの目は人の心を溶かす暖かさを感じる。赤いルージュをした唇は全ての生物を刺激する悪魔の香りを漂わせていた。スタイルが良く、男子中学生の憧れの的であるが、アンデにとっては唐揚げを上手く揚げれる憧れの的であった。
そのフクオトは、今日は大人気アニメ・カラアゲリアンのゲリアンパープルのパイロットである繊細な少年のエプロンをしている。紙袋に大量に入る唐揚げを受け取るアンデはその温かさと食欲をそそる匂いで昇天しそうになった。
「毎日、毎日ホント唐揚げ好きねアンデ君。私の揚げる唐揚げが天才的なのは仕方ないけど、揚げ物は腹部にゆっくり時間をかけて溜まるわよ。憎きアレが」
「うっ……それは最近健康診断で言われたけど許容範囲内なので一旦無視です。全ては怪獣優先なので自分の健康とかは無視です。つか、僕の心配より自分の心配した方がいいですよ。だってフクオトさん二十九歳独身だし、もうおば……」
しまった! と思ったアンデは一瞬顔を逸らしてからフクオトの顔を見たが、絵に描いたような満面の笑みで黒い事を言い出していた。
「んー? 言いたい事はハッキリ言わないと伝わらないわよアンデ君? 怪獣も宇宙人も、意思疎通は大事よね? 何か、人型の唐揚げ揚げたくなってきたなぁー? アハハ?」
「あ、あはは? 揚げちゃダメだ……揚げちゃダメだ……」
フクオトの持っていたオタマがいつの間にか両手で押し潰されて平べったい板に成り果てていた。
(フクオトさんパワーが怪獣レベル!? い、今のは迂闊だったぞ。あのお姉さんはおばさんと言ったら人であろが何だろうが揚げられる噂がある。僕はふと本音を話してしまうから注意しないと……。人間社会も大変よね。唐揚げ食べて、アニメ見よ。アゲアゲ!)
唐揚げを感謝して一礼するアンデは早足で部活に向かう。
その部活はチームアンデ部。
怪獣から地球を守る巨大ヒーロー・カラーアンデをサポートするアンデが信頼する三人の仲間の部活だ。
基本的に怪獣が出ない日は部室内で雑談したり各々が好きな事をしている。今日は特別に話す議題も無いので、アンデはタブレットでカラーゲリアンの過去話を見ていた。
「カラアゲリアンの面白さは阿修羅。タイトルからしていいかねぇ。カラアゲリアンを直訳すると唐揚げとの絆……カラアゲ+リアン。何て素晴らしいアニメなんだろう。揚げちゃダメだ!」
ヘッドホンをして自分の世界に入ってしまっているアンデはそんな無意識の呟きに気付いていない。部室の正面にある大型スクリーンにはカラーアンデをサポートするチームアンデが映されている。
それを茶髪ワンレンスケバンスタイルのツルコと金髪マッシュヘアのヤイツは見ていた。一応、サポート担当のメカハルもいるがタブレットのシューティングゲームに夢中でスクリーンは見ていない。
大型スクリーンの映像はチームアンデの紹介をしていた。
チームアンデは基本的に戦闘機アゲーファイターなどで戦いをサポートをするスケバンスタイルの少女ツルコ。
色彩学園内からタブレットを使い敵の特性や弱点を調べる謎の天才少女メカハル。
父親が怪獣討伐サポート軍の隊長を勤めているアゲーファイター2パイロット・オシャレイケメンのヤイツを含めた三人組である。
ツルコは茶髪ロングのワンレンヘア。
スカート丈が長いスケバンスタイルで有り、幼稚園時代には園を破壊したクラッシャーとも呼ばれて色彩学園ではヤンチャな少女だ。成績は良くないが、地球の平和を守るチームアンデのリーダーなので教師もあまり何かを言う事が出来ない。
サポート担当のメカハルは内巻きの毛先が触手のように動いている時がある黒髪ボブの少女。低血圧で刺激を求めてコーラを飲んで、全身を感電させて生命力を出すらしい。主食はコーラグミ。
エリート軍人の息子であるヤイツは金髪に染め上げたマッシュヘアー。流行り物が好きで熱しやすく冷めやすい。ノリが良くバカのボンボンと周囲から嫉妬される事もあるが、それは人の上を行く存在として仕方ないと自覚している。
何故、この三人がヒーロー・カラーアンデをサポートするチームなのかと言うと、アンデ曰く地球に来た時お互いに助けられたからだそうだ。
色彩都市にはヤイツパパが隊長を務める怪獣対策の怪獣討伐サポート軍も一応警戒はしているが、通常兵器では怪獣の足止めが限界で有りカラーアンデと怪獣の戦闘後の再建作業員と化している。
カラーアンデとしても、軍の通常兵器では怪獣への決定打にはあまりならないし、戦闘の邪魔になり死人が増えるから自分のチーム以外には戦闘に極力参加させないようにしていた。
そのチームの支援機と言えばカラーアンデのエネルギーから生み出された特殊な戦闘機・アゲーファイター。これはカラーアンデの信頼を得た特別な人間でないと動かせない代物だ。だから軍人は基本的に戦闘には参加しないのであった。
そして、怪獣を倒すヒーローであるが故に、日本政府の多額の資金で飼われてるアンデはある程度の自由が認められた特権を持っている。
怪獣とは日本の富士山に突如出現した「カラアゲート」と呼ばれる未知の超エネルギーを有するゲートから現れる。
カラアゲートは富士山周辺にしか現れない特殊なゲートで有り、そこから得られる「カラアゲイン」という、唐揚げ風の宝石は原子力の三倍のエネルギーが有りながらも、環境汚染の無いクリーンなエネルギーの為に日本は世界でもトップのエネルギー大国になっている。
「……というのが、俺の親父がカラーアンデネットで流しているカラーアンデと日本の歴史。編集俺だしいい感じだろ?」
『……』
ヘッドホンをしてカラアゲリアンに夢中のアンデは仕方ないにして、二人の少女の反応は無かった。微妙な空気の悪さを察しつつもヤイツはそのまま話を進めた。
「怪獣の出ない海外でも巨大ヒーロー・カラーアンデを知りたい奴が多いからこう言う映像がめちゃくちゃウケるんだよな。ただのプロモーションレベルなのに全世界でもトップのPVだぜ!」
「オメー、アタシの事をセンコー共が注意出来ないとか余計な事入れてんじゃねーぞこのヤロー」
とアクビをしたツルコにツッコまれたヤイツはアンデに助けてもらおうと近寄る。アンデの唐揚げをひとつまみし、首にまとわりつくヤイツを見たツルコは大型スクリーンの壁を拳で破壊した。
「おい、自分アピールウザイぞボンボン」
「コーラグミ百トン発注してボンボン」
「それはグー! じゃあ僕は唐揚げ百トンでお願いボンボン」
ツルコ、メカハル、アンデという三人からツッコまれたヤイツはメンタルをやられてフラつきながらも反論する。
「人をボンボン、ボンボン言うな! 映像の内容だって唐揚げを食べる為にやって来た宇宙人であるカラーアンデが富士山に住み着いた事により、カラアゲートが生まれたんだろ? 間違ってねーし」
「アンデ君は日本の富士山に出現したカラアゲートから現れる怪獣を倒す為に地球に来たのよ。文句があるなら富士山が怪獣に都合の良いワープゲートエネルギーに使えるカラアゲインがあった事を恨んどけ」
一瞬にしてアンデの後ろに立つツルコはヤイツのつけたホコリなどを払い、自分も首に絡みつこうとしてみるがサラリと回避され出来ない。溜息をつくメカハルはタブレットの世界一のスコアを更新した画面に映る自分の名前の羅列を見て言う。
「唐揚げ目当てだったかも知れないけど、カラアゲインが今後怪獣に利用されない為の行動でもあるわ。ほれ、これが図解ね」
タブレットで説明するメカユキにツルコとヤイツは注目し、アンデは横目で一瞬その内容を見た。
1.地球の富士山だけに遠い惑星からでも瞬時に移動出来るワープゲートであるカラアゲートを生み出す為のエネルギー結晶体カラアゲインがあった。
2.カラアゲートが発生した後にはカラアゲインが複数生まれる。
3.カラアゲインは原子力の三倍とも言えるエネルギーとクリーンな要素がある。
4.その為に日本には怪獣が侵略者として現れる事になったが、日本は怪獣に被害を受ける金額以上にカラアゲインを他国に売る事で莫大な利益を得ていた。
「説明は以上ね。色彩都市には様々な怪獣がゲートを通りやって来るけど、実際怪獣やらを倒す経費としては破格の安さでしょ。唐揚げとアニメだけで済むようなもんだし。私の好きなコーラグミも高く無いしね」
「つー訳だよボンボン。アンデ君は怪獣達と違って私利私欲で動かない正義のヒーローなのさ。お前も少しは見習えよ」
ツルコは言いつつカルピスの原液が入った銀色のスキットルをポケットから取り出して飲む。それを不意に手に取り、一口飲んだアンデはヘッドホンを外して言う。
「僕は地球が好きだからね。学園は楽しいし、アニメは面白いし、唐揚げは美味しいしで風呂に入るのすら忘れるよ」
「宇宙人だからって風呂に入らないのはマズイぜ? 臭く無くてもたまには風呂に入れよ」
「うーん? やっぱりカルピスは薄めて飲まないと美味しくないよ? ツルコ流は難しいね」
「ハッ! アタシのスタイルはアタシにしかわからないからね。アタシレベルになるとカルピスは原液を飲むのが通なのさ。ハハハッ!」
うちわで仰ぎ出すツルコはアンデと関節キスをした事で動揺していた。そんなこんなで怪獣が現れない日はグダグダしつつチームアンデの面々は日々を過ごしている。そして夕日が見え出し、部活の時間が終わる。部室を出ようとするアンデは皆に挨拶する。
「よし! 帰って唐揚げ弁当食べてからカラアゲリアン最新話の時間だ! じゃあ皆、明日アゲッ!」
『明日アゲッ!』
すると、色彩学園に緊急警報が流れ出した。これは怪獣が現れたという知らせである。全員はこの音で一瞬、思考が止まる。
『……』
チームアンデの三人は怪獣襲来に緊張しつつも、アンデがこれから始まるカラアゲリアンの最新話をリアルタイムで見れない事に同情した。膝から崩れ落ちるアンデはすぐに立ち上がり口が動く。
「揚げちゃダメだ……揚げちゃダメだ……揚げちゃ……」
何かブツブツ言いつつカラアゲリアンを見たい気持ちを抑え、地球を守るヒーローとしてアンデは怪獣と戦う為に駆け出す。