二十五話 アゲミックボム
カラーアンデは闘牛士の怪獣に翻弄されていた。勝利怪獣ウインナーの持つ勝利のカポーテの効果により、ただ攻撃をさせられている状態の白い巨人による全ての攻撃が当たら無い。カラーアンデは赤いカポーテに直進するだけの闘牛に成り果てていたのである。
(攻撃が当たらないのはあの赤い勝利のカポーテの問題ではなく、私が必殺技を直撃させたのに倒せなかったメンタルの問題。そしてカラーゲイザーに耐えられる身体ではどうにもならないという焦りもこの状況を生んでいる!)
例え攻撃が当たったとしても、必殺技のカラーゲイザーのダメージを受け入れ、ウィナーウインナーによるアイテム効果でその攻撃が効かない身体を得て再生した敵にはどうにもならない。
(ウィナーウインナー……厄介なアイテムを使ったな。至近距離から放ったカラービームが全く効かないとなると、カラーゲイザーが効かないというのも本当だろう。最強の光線技を全て防がれるなら――)
蹴りを出し、即座にバックステップをして着地するとカラーカッターを放つ。それを勝利のカポーテで自分の前面を覆うと、レイピアを地面に刺して舞い上がった。放たれた切断攻撃のカラーカッターは地面に突き刺さる。
「光線も斬撃も我には通じないぞ。それだけの耐久力がこのカラーゲイザーをくらった身体にはあるのだ」
「それはやってみなければわからない。カラァ!」
地面に刺さったカラーカッターをコントロールして、背後からウインナーの頭部に突き刺した。唐突な一撃で避けようの無かった攻撃に、違法撮影をする人間やチームアンデの部室にいるヤイツとメカハルも驚く。銀色のレイピアを舐めるように見つめ、切っ先の折れた事にウインナーは目を細めた。
「放出系の攻撃から斬撃に切り替えたか。アイデアは良いが、我には通じない。人も物も怪獣も……我に攻撃するのは全て勝利のカポーテの餌なのさ」
「レイピアの切っ先を当てて威力が削がれたか。それに本来なら背中に当てる予定だったんだがな。それでも痛みはあるはずだ。頭に刺さってるんだから」
奇襲攻撃でレイピアを壊され、怒りのあまり頭に刺さるエネルギー切れのカラーカッターを掴んで粉々にした。カラーアンデの硬質化した毛髪は地面にゆっくりと落ちて行く。
「アモール! とは言え、今の攻撃はある意味危険だったよ。故にただカラーアンデを倒すだけじゃつまらん。絶対的勝利が必要だ。人間の姿の状態で負けを認めてもらうぞ」
「まだ私のエネルギーは残っている。人間姿になるにはまだ早い。勝負は終わるまでわからないぞウインナー」
「奇襲に次ぐ奇襲では驚かないぞ」
ニヤリと笑い背後を向いたウインナーの視線の先にアゲーファイター1が飛行していた。しかしそれは勝利怪獣を攻撃する為では無く、この戦闘区域にいる人間を逃がす為に着陸しようとしている所だった。
ツルコが着陸させようとしているアゲーファイターの後部にどこからか放たれた赤い手裏剣が直撃し、一気に墜落して行く。少し離れたその場所まで一気に移動するウインナーはその戦闘機の残骸から一人のスケバン少女を掴んだ。
「さぁ、これからがショータイムだ! 絶対的な敗北を君に!」
勝利怪獣ウインナーはツルコを拉致し、戦いを挑んで来る。その光景を見た世界中の人々は手段を選ばない勝利怪獣に非難の声を出しつつも、面白い展開になって来てると他人事なので興奮を隠せない。この卑怯な光景すら「勝利」という二文字を得る為には不可欠な代物としか考えない怪獣は勝利を手にする為に命令する。
「変身を解除して人間に戻れ。そうすればこの女は助ける」
「……そうまでして勝ちたいか。それでは人間を支配する事は出来ないぞ」
「非道か? 卑怯か? 外道か? 怪獣にそんな感情は無い。絶対的勝利こそ真の怪獣なのだ」
「……そうか。確かにそうだ。怪獣とはそういう生き物だ。思い出したよ。ありがとう」
カラーアンデの目が紫から赤に変化してまた紫に戻った。それを怒りのゲージと感じるウインナーはもがくツルコを少しお仕置きと言わんばかりに指の力を強めた。そして、カラーアンデは胸のから揚げの流星・カラースターを外し、上空に打ち上げた。
「そう、それで良い」
拘束され声も上げられない泣き顔のツルコはこれにより、カラーアンデの変身が解除されてしまった事に絶望した。部室のヤイツとメカハルも、カラーアンデが勝負を捨てた事に言葉が出ない。そして、白い巨人は一気に人間であるアンデへと戻った。
「……変身解除完了か。おい、その辺のカメラマン。人間であるアンデを撮影しろ。そして、また変身しないか注視しておけ。約束通り、このツルコも生きて返す事を先に撮影するのを忘れずにな」
高笑いが止まらない勝利怪獣ウインナーは、約束通りツルコを生かして地面に置いた。泣きじゃくるスケバン少女はウインナーの指に蹴りを入れ、急いでアンデの元へ向かう。
「我もアンデの敗北の顔を見てやろう。勝利の快感と相手の敗北の顔を見る瞬間……これだけはどんな美酒を飲んでも叶う事の無い最高純度のアルコールだ」
極上の美酒を超えるアルコールを体験する為にウインナーも前へ進む。すると、その学ランの少年は両手を動かして何かをしていた。
「アモール。何をしているカラーアンデ? 絶対的な敗北になって狂ったか?」
「指揮だよ」
「指揮?」
「指揮者が居なきゃ、オーケストラが困る」
「何の話をしている? 我が見たいのはそんな顔じゃあ……?」
気が付くと、周囲にいた盗撮魔達をツルコが遠くに逃げるよう案内している。それは決死の形相であり、カメラを持つ外人達も本来の目的を忘れて全速力で逃げていた。
「何だ……あの小娘に買収でもされたのか? これからが最高のクライマックスなのに。これがオーケストラと関係あるのかアンデ?」
「そうだ。途方も無く熱く、巨大なオーケストラさ」
さっきから意味のわからない事をほざく! とイライラしてきた勝利怪獣は、肌に刺すような熱さを感じ出した。同時に、何かの摩擦音が耳にも影響を及ぼす。
「何だ? 何か熱い……そしてこの摩擦音は何だ――あれは?」
自分の真上に真っ赤な巨大から揚げがあるのを見た。まるで太陽のような熱さの唐揚げにウインナーは黙り込む。その自分の精製した必殺技を曲と称して指揮をする寝癖のソフトモヒカンの少年は淡々と口を動かした。
「この曲の紹介をし忘れてたね。星の生命や人々のエネルギーを集め、揚げ度を増す。集められたエネルギーが巨大な球体になり、正義の意志で揚げられるアゲミックボム」
「……」
「どんな手段を使っても勝つと言うなら、私も非情になろう」
「……まて、これは……卑怯だ」
「何を言ってるんだい? これが怪獣の真理だろうに。アゲミックボムを防ぎ切らないと、勝利にはならないよ。今はカメラの撮影も入ってる。逃げるのは敗北だよね」
「バカめ! すでにそのカメラマンはツルコとかいう小娘が逃したわ! 我の行動を撮影する者など――」
「アゲーファイターは二号機まであるんだよ?」
その戦闘区域の上空には、ヤイツの乗るアゲーファイター2が存在していた。Vサインをするヤイツは全て記録してるぜ! と笑っている。
「それにカメラならこの周辺にも数は多くないけど存在するし、この戦闘が記録されない事は無い」
「ア……アモー……れのれーーーっ!」
「勝てるかな? 意志を持った太陽に」
そうして、巨大な唐揚げの太陽「アゲミックボム」は勝利怪獣ウインナーに直撃した。それを色彩学園の屋上から見物していた赤髪ツインテールの少女は呟く。
「怪獣神は太陽にだって勝つのよ」
すると、アトミックボムに押し潰され、その熱でウインナーは燃え尽きてしまった。巨大な唐揚げのエネルギー体は地面を蒸発させ、やがて消滅する。
カラーアンデの新必殺技に戦いを鑑賞していた人間達は歓喜の声を上げた。これにより、第六始祖・勝利怪獣ウインナーとの決戦に勝利したのである。
富士山の一角に巨大なクレーターが生まれてしまったが、何とか一人の盗撮魔の怪我人を出さずに済んだツルコは色彩学園に戻り、その連中を軍に引き渡した。自販機でカルピスの原液缶を買い、それをチビチビ飲みながら歩く。
(あの怪獣が完全勝利に執着しなきゃ死んでたな。にしても、いきなりアタシのアゲーファイターに攻撃した敵。あれは間違い無く……)
何とか怪我も無く生き残ったツルコは赤髪ツインテールの女を見つけた。少し離れた校舎の壁に寄りかかり、真っ赤なタバスコから揚げを食べるヤサムゥを睨み、手に持つ缶を握りつぶした。流れるその白い液体は地面に文字を描くよう流れる。二人の少女は見つめ合ったまま動かない。
『……』
ツルコはそのまま歩き出し、空き缶を両手で左右からも潰す。カルピスが流れる地面をヤサムゥは見つめる。
そこには、白い液体で「抹殺してやる」と描かれていた。




