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二十三話 転校生・ヤサムゥ

 色彩学園中等部の一時間目が始まる少し前――。

 少し早めに教室に入って来た担任教師の後ろを歩く赤髪ツインテールの美少女に一年一組は男女問わず見とれてしまう。


『……』


 その少女は白いワイシャツに赤いネクタイ。腰には赤と白のストライプ柄のカーディガンを巻いている。白く長い足を際立たせるよう、スカート丈は短い。色彩学園女子の学生服であるセーラー服を着てない美少女が現れ、クラス全体が沈黙した。


 しかし、前列入口に座るメカハルはスマホでゲームをしており反応せず、前列中央のアンデも何を思ったのか目を閉じている。後列窓側のツルコとその隣のヤイツは他の生徒同様に驚愕しままだ。


 そして担任の挨拶が有り、その新しいクラスメイトは舐め回すようにクラス全体を見て話し出す。

 

「アタシの名前はヤサムゥ。数日前に日本に帰国したマッカッカな女よ。まだ制服が間に合って無いなら、アメリカ時代の制服だけどヨロ!」


 何がマッカッカなのかよくわからないが、とにかく目の前のモデルのような美少女に男子達は騒ぐ。女子もアイドルや女優のような美貌を持つ美少女に嫉妬よりもトキメキを感じていた。ただ一人、後列窓側のスケバン少女だけはイラついた目で色彩学園の新ヒロインである不愉快な女を見た。


(やられたぜ。セーラー服を着てなかったから、色彩学園じゃないと勝手に判断してた。アタシは完全にアホだな……)


 同じ制服じゃ無いから勝手に違う中学だと判断した自分のバカさ加減にツルコは嫌気が刺した。そして授業が始まりヤサムゥは入口側の一番後ろの席に座る。そのまま時間は過ぎて行き、大勢に囲まれてヤサムゥは食堂でご飯を食べる。

 その喧騒にチームアンデの面々は暗黙の了解のように関わらず、放課後になった。


 チームアンデの部室という一つの部室内にいるが、いつも通り別々の行動をしている四人の男女。今日はその中でもアンデとツルコだけは溜息をついたり、外を眺めたり、宙を見たりする時間が長い。ヤッちゃんイカを手に持つヤイツは、いつも通りの空気にならないこの空間にストレスを感じていたので話す。


「どーしたよ皆? あの赤髪美少女転校生には興味ナッシングなの?」


「ハッ! オメーこそどうなんだヤイツ? いつもなら率先して話しかけるタイプの女だろ? 何かあんのか?」


「いや、何かあんのはそっちだろツルコ。つーか、アンデ。お前も何かよそよそしかったよな? メカハルはいつも通りだが、お前達二人の反応を見たら早々話しかけるような気持ちにはなれんぞ」


 ヤイツはヤッちゃんイカを噛みながら今日の不思議なアンデとツルコの態度について聞く。その答えに躊躇したのを見たメカハルはボブヘアの毛先の先端をその二人に向けつつ、


「転校生と言っても私には特に関係無いでしょう。変わり者と好かれ者じゃ、相性は悪いわ。アンデとツルコは何かあるなら話してくれないと困るわよ。チームアンデは遊びの集団じゃ無いんだから」


 その言葉でアンデとツルコは意を決したような顔になった。


「じゃあ僕から話そう。実は金曜日の放課後に僕はあのヤサムゥと出会っている。そして彼女はカラアゲリアンのゲリアンレッドのパイロット・モコミに似てるんだ……だからその……揚げちゃダメだけど、揚げたくなるよね……」


「……くだらねぇ」


 いつものアンデを狂わせる女にツルコは激怒し、気弱な自分の顔を両手で挟むように叩いた。


「ハッ! あの女なんか大した事無いんだよ。アタシのあの女を避ける理由は……」


「待って。珍しく部室前に生体反応があるわ。外で立ち止まって中の様子を伺ってる」


 ツルコがヤサムゥを避ける理由を話そうとすると、メカハルは部室の外に誰かがいて中の様子を伺っていると告げた。


 チームアンデの部室前で立ち止まる生徒も教師も存在しない。用があるなら確実にノックをするし、そもそもチームアンデの部室周辺は軍関係者も出入りするので一般の人間が当たり前のように通る道では無い。すぐに外の監視カメラから映像を割り出すと、そこには赤髪ツインテールの女が立っていた。


「そこに居るのは――」


 それを報告しようとするメカハルより先に、スケバン少女は茶色いワンレンの髪をかきあげ戦闘モードになりつつ扉をおもむろに開け放つ。


「ワオっ! チームアンデの部室はここでいいのかしらツルコちゃん?」


「そうだ。ここがチームアンデの部室だヤサムゥちゃん」


 ニコニコと愛想を振りまくヤサムゥと、殺意しか無いツルコ。両者をどうにか戦闘させないようにヤイツは素早く動いてヤサムゥをイスに案内する。メカハルはコーラグミの皿を渡し、アンデは唐揚げをそこに乗せる。すると、歯を噛み締めるツルコはカルピス原液缶を敵と認識してる女に差し出した。


「ありがとう。チームアンデ」


 ヤサムゥはチームアンデの歓迎に感謝した。コーラグミと唐揚げを食べ、ヤイツのヤッちゃんイカは好きじゃないと拒否したヤサムゥはカルピス原液缶を飲む。


「土曜日の夜に怪獣を見たんだけど、ツルコの出撃は早かったわ。いつもあんな感じなのかしら?」


「最近怪獣が落ち着いてるから、逆にアタシは何か落ち着かなくてな。アゲーファイターでシュミレーターをしてたら怪獣警報が出たから早く到着しただけさ。アタシは帰るぜ。怪獣が出ないしな」


 カバンを持ったツルコはそのまま部室を出て行こうとする。それを視線で追うヤサムゥは、


「八つ当たりして何かを壊さないようにね」


「……」


 物凄い勢いで扉を閉めたツルコにチームアンデの全員はやれやれ……という顔をし、ヤサムゥは唇を尖らせた。

 そこから話題を変えようとするヤイツはいつの間にかタバスコをコーラグミと唐揚げにかけている事に驚きつつも話す。


「ヤサムゥちゃんはアメリカ帰りだって聞いたけど、アメリカでもまだまだカラーアンデブームは凄いの?」


「アメリカはまだまだカラーアンデについてはブームよ。日本でも未だに無断で撮影してる外国人はいるでしょ?」


「いるな。親父の軍がしょっ引いてるけど、ゼロにはならない」


「アメリカや他国の人間は強制送還と、捕まえた時にかかった実費の請求もある。自国で刑務所送りの実刑にも関わらず、無断で撮影してる輩は後を立たないわ。だって、怪獣との戦いは見たいじゃない?」


 アンデ自身も戦闘中に外国人の人間を目撃する事があった。あまり危険に巻き込まないようには戦っているが、その点は軍のサポートを借りないと対処出来ない面がある。それについてタバスコに興味を持つメカハルは言う。


「一年の実刑判決でも結局は自国の刑務所だし、犯罪者を使って撮影させてる人間達もいる。怪獣と戦うリアルな戦いは商売になるからね。このコーラグミのように」


 タバスココーラグミを食べ、目が充血して意識が飛んだ。それを介護するアンデはメカハルのご冥福を祈り、目の前の部外者に質問した。


「ヤサムゥ。君は怪獣が好きなのか? それともカラーアンデが好きなのか?」


「どっちもよ。怪獣とカラーアンデは同じ場所にしか現れない。だから二つ共好きなの。殺したいぐらいにね」


 口の中でから揚げとタバスコが混ざり合う姿と音を感じるアンデは寒気がした。そして、自動蘇生したようなボブカットの少女は何かに反応している。


「怪獣だ」


 と言うメカハルに全員は反応した。メカハルタブレットを見ると、色彩学園の近隣の森方面に怪獣監視レーダーに反応があった。すぐに学園全体にも怪獣警報が鳴り出す。


「んじゃ、アタシは避難するから」


 タバスコのついた赤い唇を舐め、ヤサムゥは一般生徒として避難を開始する。





「我は勝利怪獣ウインナー! 絶対的な勝利のみを追求する最強の怪獣なり! 地球人共め我に平伏せ。アモール!」


 色彩学園近くの富士山手前の森に怪獣が出現している。額に赤いウインナーのようなVの飾りがある。赤地に勝利と描かれるカポーテを持ち、人型の牛のような闘牛士に似た黄色い怪獣である。


(おそらく第六の始祖か……)


 それを学園の入口で知るツルコは避難する生徒達と逆を歩く赤髪の人間を見た。


「あらツルコ。また会ったわね」


「帰宅出来なくなったからな。怪獣が来たせいで」


「アタシを見て言わないでくれる?」


「ウッセーよ」


 言うなり近くにあるカラーコーンを蹴り飛ばした。避難する生徒達は横目で二人の少女を見ていたが、ツルコがいるのでヤサムゥに声をかけられる者がいない。遠くから聞こえる怪獣の叫び声が二人の耳にも届く。


「クラッシャーツルコ。アンタは本当に恐れられてるのね。昼休みに他のクラスや学年からも話しかけられて大変だったアタシを、今避難する人間は無視していたわ。十年という月日は重いわねぇ」


「ウッセーよ。早く逃げろ。一般人なんだから」


「そうねぇ。勝利怪獣ウインナーですって。食べちゃいたいわねぇ……エエーーーッ!?」


 発狂したように目を見開いて恫喝するような態度に出たヤサムゥに、怪獣が出てる今は反応せず冷静に答えた。


「怪獣は全て抹殺。怪獣には負けねぇのさ」


「そうね。カラーアンデはぜったい負けない常勝無敗。なら、勝利至上主義の勝利怪獣を相手にしたらどうなるのかしら?」


「ヤサムゥ……テメーがあの怪獣を呼び寄せたのか?」


「さぁねぇ。それを疑う理由を聞かせてもらおうかしら」


 舌打ちをしたツルコはチームアンデの部室に戻る。そうして様々な思惑が蠢く中、勝利怪獣ウインナーとの決戦が始まった。

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