二十話 打ち上げ花火は唐突に
富士山の怪獣討伐サポート軍基地にある宿営地。
静まり返るこの軍の宿営地に黒い蛇が蠢いていた。その黒蛇は体力が無いのか、息が切れ切れのまま人間のいる方向へ進んで行く。
この軍基地の人間達もマジックラムネの効果で意識を失っているので、もしもカラーアンデに負けた場合の逃げ場として確保しておいた寄生怪獣キドノコは寄生主を探して進む。
(この小生は怪獣神になる存在。宴が始まる前に死んでなるものですか……)
苦々しい気持ちを抱えつつ進んでいると人影が見える。イスに座って下を向いたままの寝てる、寝癖のようなソフトモヒカンの人間を確認した。白シャツに黒のスラックス姿の若い男に寄生怪獣キドノコは寄生しようと能力を発動する。
「ここの眠っている人間に寄生して逃げようとするのかい?」
いきなり目覚めた目の前の若い少年にキドノコは目を丸くして焦った。
「軍人にしてはどうにも若すぎる男だと思ってみたら、お前はアンデ! 何でここにいる?」
「倒せて無いんだからいるでしょ?」
立ち上がるアンデは何故この寄生怪獣キドノコが人型サイズで生き残れたのかを解説した。
「君、さっき脱皮してたよね。ギリギリの所で人間サイズの自分だけは脱皮させて生き残った。蛇らしいと言えばそうだけど、ちょっと厄介だよ」
「な、何故それがわかる……脱皮した皮も消滅して証拠は残って無かったはずだ」
いつの間にかアンデの両隣にはツルコとメカハルが立っている。チッチッチッと背後の薄闇から人差し指を振り探偵のように現れるヤイツは、その指を眉間に当てて答えた。
「一瞬でもお前は脱皮を晒したんだ。剥けてねー人間を誤魔化す事は出来ないぜ」
『自慢になってないけど、お手柄』
「お、おう……お?」
三人のツッコミにヤイツは喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからなくなった。最悪のプランさえ崩れたキドノコは目の前のアンデという少年の言葉に絶望する。
「君が寄生して暗躍してたから、ケガなどの被害が無い学園の生徒達はまだ怪獣が現れた事すら知らない。この富士山エリアもミストジャマーで囲んでるのも失策だった。存在が見えないと怪獣警報も鳴らない」
「……」
「つまり、誰にも知られる事無く、無意味に消えるんだよ寄生怪獣はね」
ブハッ! と粋がるように大きく口を開けて寄生怪獣は言い放つ。
「小生がいなくなれば、マジックラムネによる夢遊病者などは簡単には回復しない。それでも倒すのか? 人間を見捨てるのかアンデよ?」
その口の中にコーラグミを放り込むメカハルはガッツポーズをして、仲間とハイタッチをして答えた。
「それは問題無いわ。この軍基地を利用してコーラグミの成分からマジックラムネの抗体を作る。それを全ての人間にコーラグミとして投与する。これでコーラグミの売上に貢献し過ぎて、私はコーラグミ神と呼ばれてしまうかも……いやん!」
コーラグミ神になる自分を想像して照れてるメカハルはキドノコの背中を叩き、キドノコは血反吐を吐いてのたうち回る。このままもだえるフリをして寄生してやろうと思ったが、メカハル、ツルコ、ヤイツはもう姿を消していた。
(奴等はどこに? くそっ! 小生の怪獣神計画は全て終わってしまうではないか! 何かに寄生しないとならん! そう強いられている!)
絶体絶命のキドノコは、運良く部屋の奥で立ったまま気絶している人間を見た。暗がりでよく見えないが、サイズとしては人間であった。寄生先の光明が見えたが、アンデはそこをズバリ指摘した。
「もう体力も残されて無いな。だから最後の力で人間サイズになり、人間に寄生して力を蓄えようとしてる。僕達には寄生はさせないよ」
「人間は他にもいるさ。軍人達という美味がなぁ」
「美味ねぇ。今頃ツルコとヤイツが軍関係者全ての人間を起こしに行ってる。だから今日は花火大会をするのさ」
「花火大会? 何を言っている。そう、一体何なのだお前は……お前という宇宙人は……」
ふと、目の前の人間の姿をしている宇宙人・カラーアンデという存在が気になった。色彩都市に来てから色々と調べていたが、結局の所どこの惑星から来たのか、何故怪獣と戦い人間を守るのかという本心はわからないままであった。
「……小生も色々調べたが君は一体どこから来た宇宙人なんだ? 君のような宇宙人はどこの惑星の連中に聞いてもデータが無い。それなのにその強さはおかしいんだよ。もしかすると、君は特別変異をしたのか、はたまた滅びた惑星の生き残りなのか……」
薄闇の室内に少しの沈黙が支配する。
その間、ゆっくりとキドノコは自分の身体を進めていた。
何故小生の質問に答えない……と疑問に思うと同時にアンデの口が動く。
「それに寄生は出来ないぞ。それは生命体じゃなくてパーティー用のグミだから」
キドノコが寄生しようとしていた人間は、精巧に作られた人型のグミだった。一番に戻ってきたヤイツはその人間グミを見て驚く。
「軍人共もこんな事が出来るのか。サポート役として機能してるじゃねーか。親父も中々やるな」
「こ、こんな精巧なグミがあるのか? お、おのれーーーっ!」
すると、ツルコとメカハルも戻って来た。そしてアンデは最後の仕上げに入る。
「君に花火大会の主役となって貰おうか。怪獣神を目指すなら大きな花火になってくれよ。なぁ皆!」
『チュワッス!!!』
ツルコとヤイツは寄生怪獣キドノコを拘束するワイヤーロープと、運搬する台車を見つけて来た。それを使ってキドノコを捕獲し外に出て、花火発射台の位置にキドノコを固定する。外にはグミ花火という試作品の打ち上げ花火台が一列に並んでいた。
「さぁ、この怪獣をグミ花火と共に打ち上げよう、」
『打ち上げよーっ!!!』
小生がこんな打ち上げ花火になって散るのか? とキドノコが愕然としていると、アンデは声をかける。
「見下していた人間にやられる気分はどんなもんだ? 最高の美味か?」
最後にアンデは寄生怪獣キドノコに聞いた返事と共に、打ち上げ花火は打ち上げられた。
「――」
「君は復活する能力も無いだろうに。二度も断末魔が同じなんてちょっと引くよ」
真上で爆発する打ち上げ花火を見て、アンデはそう呟いた。富士山中腹付近を満たしていたミストジャマーも晴れ、すでに活気を取り戻している色彩都市の人間は、突如開催された打ち上げ花火に見とれた。
そうして、アンデ達はチームアンデ一周年記念パーティーを楽しんだのである。




