十六話 食堂とパーティーと怪獣と
色彩学園食堂――。
長らく続いた大雨も上がり、都市全体を覆っていた憂鬱な感覚も消え、夢遊病者も現れなくなっていた。学園の生徒達も元気に外で遊び回り、今まで通りの日々を取り戻している。
昼休みの食堂では、様々な学年の生徒達がごった返している奥の方でチームアンデの面々は固まって食べていた。
アンデ・唐揚げ定食+牛乳
ツルコ・麻婆定食+カルピス原液
ヤイツ・ハンバーグ定食+つぶつぶオレンジジュース
メカハル・コーラグミピザ+コーラ
黙々と自身の栄養を補給している面々を見るヤイツ。ふと、その耳にある話が聞こえた。雨も上がったし皆で集まれるイベントの計画をしている周囲の人間達の話を聞いたヤイツは、
「……確かに最近、雨でどんよりした日を過ごしてたな。色々忙しくて出来なかったけど、チームアンデ一周年記念を過ぎてるけどパーティーをしよう!」
『パーティー?』
ん? と思いつつ同時に呟き、三人はヤイツを見た。反応は悪く無いと感じた金髪マッシュヘアの少年はニヤリとし、
「文化祭とかじゃない限り学園全体ってのは難しい。だからチームアンデの一周年記念パーティーだよ」
「一周年記念だ? 女みたいな事言いやがって」
カルピスの原液飲むツルコは言うが、すぐにアンデが反応する。
「確かにそれは良い企画だね。最近は怪獣のレベルも上がってるし、精神的に疲れてる。ここは一度、パーティーで気晴らしした方がいいかも知れない」
そのアンデの言葉でツルコは納得し、ヤイツは後はメカハルだと視線を送る。そのボブカットの少女はゴクリとコーラを飲み干し炭酸で震える。
「わかった。開発中の人間サイズグミが出番のようね」
『うん』
ここでもグミかと思うが全員は反論するだけ無駄なので返事をする。そして、アンデはテレビに映るニュースを見て色彩都市の補修作業に当たる軍の面々を見た。
「すまないなヤイツ。今回は完全に都市部での戦いになって被害が膨らんでしまった。ヤイツパパには迷惑をかける」
「親父の軍なんてそれぐれーしか仕事無いんだからやらせときゃいーの。アンデが活躍し過ぎて軍の風紀も弛んでるようだしな」
自分の父親がニュースのインタビューを受けてる姿が嫌なヤイツは、自分の親父が隊長を務める怪獣討伐サポート軍の近況も伝えるように言う。
「軍もやる事無くて暇なら打ち上げ花火でも用意してくれって頼んどくよ。つか、怪獣討伐盛り上げ担当にもなれるな軍は!」
そんな話をしつつ、チームアンデは一周年パーティーをする事になった。そして、食堂からの帰り際に食堂職員の男子学生憧れの的であるフクオトに言う。
「フクオトさん、今日はパーティーする唐揚げをチームの分を含めて少し多めに頼むよ。雨のせいで少し痩せたからパワーを取り戻さないとね」
「はーい。寮に戻る前に早めに寄ってね。大事なデートがあるから!」
「チュワッス!」
学園の授業が終わると、アンデはヤイツから自転車を借りて都市の方へ向かう。向かっているのは進化怪獣アーエがいる川である。紫色の大きな怪獣はしっかり川に流れる濁流を安定させる為に流れを調整していた。
「チュワッス! 元気してるかアーエ?」
「……チュワッス。元気なわけないだろ。こんな川で一日中突っ立ってたら、暇で死にそうだ」
「君も寄生怪獣に利用されているだけかも知れないよアーエ」
「寄生怪獣? この前お前が戦っていた雨霧怪獣の仲間か? つか、その怪獣を倒せばお前と戦っていいな?」
「寄生怪獣は僕が倒す。とりあえずまだ川にいて。ニュースだとまだ山からの濁流が都市に向けてあるんだ」
「くっ! その濁流が全て解決したら戦えよ! それと、カラアゲリアンの録画も見せろよな!」
口元を笑わせるアンデはカラアゲリアンは怪獣にもハマる要素があると喜ぶ。
「わかってるさ。とりあえず軍が川の横にモニター設置しとくから見てて。新キャラのゲリアンレッドに乗るモコミは激カワだよ?」
「俺様は人間よりも、あのゲリアンパープルのメカ的デザインが好きなのだ! 人間にうつつを抜かすお前はカラアゲリアンの本質をわかっていない!」
「き、君がそんな事を言うなんてな……進化怪獣はダテじゃないという事か」
アーエがカラアゲリアンの主役機のゲリアンパープルのロボット感を出して進化した姿を思い出し、こらからパクリ元がそこになると辛くなるな……と絶望した。
※
放課後のチームアンデの部室。
アーエに会いに行ってから部室に来るアンデはすでにヤイツが部室を飾り付けているのに行動が早いと感じでいた。部屋中が祭りの飾り付けをされ、チームアンデ一周年記念パーティー! と書かれた額が軍から運び込まれて部屋の奥の上段に飾られる。そして、各々がパーティー用の準備をしてパーティーが始まろうとしていた。舞台の中央にいるアンデは紙コップに入る牛乳を片手に言う。
「じゃあ長い話は抜きにして、チームアンデ一周年記念パーティー始めます! 乾杯!」
『乾杯!』
いきなり開催されたパーティーだったが、部屋の模様替えをしただけで気分が違くなるなとチームアンデ全員が思い、各々のストレスはここで解消されて行った。これで、次の怪獣とも強い気持ちで戦えると思いチータラを食べるアンデは、打倒寄生怪獣の話をするチームアンデに言う。
「……そう言えば、アーエに会ってきたけどアーエは寄生怪獣と違い他者を利用するような手は使わないから。寄生怪獣がコッチの手の内を知ってるとなると、まさかこのチームアンデの中に……」
その言葉で一斉に自分を見たヤイツがのり塩ポテチを喉に詰まらせつつ焦る。
「い、いや。何で俺の方見るの?」
「いきなりパーティーやろうとか変だと思われても仕方ないな。証拠を確認しておこう。ヤイツは幼稚園時代にケガしてケツに大きなアザがあるよな。見せな」
そのツルコの言葉にへぇ? と思うアンデとメカハルも興味が沸く。おい! と思うヤイツはツルコの昔話をして話をそらした。
「幼稚園時代ってお前のクラッシャー伝説が生まれた時じゃねーか。そんな前の事を……」
「アタシが色彩幼稚園を破滅させた話はいいんだよ。早くケツ見せな」
「い、いや俺もう毛も生えて来てるし……そんな事は……」
「前じゃなくて後ろの話だ。つか、まだ生え揃ってないのかボンボンが」
いつの間にかメカハルがヤイツの足を抑え、アンデが後ろから両腕を掴み、前からツルコがテキパキと事務的にズボンを脱がす。
「きゃああああーーーっ!」
と、ヤイツの声が部屋中に響き虹色のトランクスが宙を舞う。その綺麗な身体をしたヤイツのケツには、すでにアザは消えていた。宙に浮かぶパンツを取ろうとするが、アンデに掠め取られてしまう。伝説のアイテムのような虹色のパンツを手にしたアンデは宣言する。
「このように全ての人間を疑うのは大変だ。けど、人の習慣や好みを完璧に把握して立ち回るのは不可能。寄生怪獣は必ず僕達の近くにいる。そして、もう決戦の時だろう」
全員が最近起きていた色彩都市での始祖怪獣事件の黒幕との決戦が始まる決意を新たに頷いた。傷心のヤイツにタオルで下半身を隠させたツルコは、
「ここで最後の乾杯と行きたいが、アンデ君。一つ忘れ物があるよ?」
「やっば! 僕、フクオトさんから唐揚げ取りに行くの遅れてしまってた! 行ってくる! ヤイツは戻るまでパンツを履かない事!」
「ブ、ブラジャー……」
ヤイツの頭にパンツを被せて親指を立てた。食い意地の強いせいか、怪獣が現れた時より素早くフクオトからおやつの唐揚げを受け取りに行く。
残された三人はソファーや床で眠りについてるのか、倒れたままであった。そこに一人の人間が堂々と入り込み、周囲を見回してからツルコに近寄る。気絶なのか眠りなのか、二人の少年少女は仲間のピンチに気付けないままであった。スケバン姿の少女の茶色い髪にその人物の手が伸びて行き――。
「フクオトさん。どうしたんです? 部室に何か御用ですか?」
「!? ア、アンデ君。楽しそうなパーティーだったようね」
「えぇ勿論です。それと食堂にあった唐揚げは受け取りましたよ。どうやら僕達入れ違いだったんですかね?」
「そのようね。皆はパーティーが終わって眠ってしまっているようね。まだ夕方なのに」
「何か原因があるからじゃ無いですか? そもそも、おかしいですね。ヤイツは初めからパンツを頭に被っていたんですよ。なのでパンツを履いている状態がおかしいのです」
何を言ってるのかしら? と艶やかな黒髪ロングのフクオトは不思議な顔をしまま、その豊かなボディを自分で抱き締めるような格好をする。淡々とアンデは事実を述べて行く。
「メカハルが言ってたマジックラムネによる夢遊病者や無気力者を生み出す効果。それはこの短期間じゃ対策は取れない。成分として大きな害は無いと判断したメカハルの考えで、二人もあえてマジックラムネの効果を浴びる事になったんです。全ては貴女を誘き寄せる為に」
「話の内容がよくわからないな。怪獣の件は私に話しても仕方ないわ。デートもあるし、それじゃあね」
「そうですフクオトさん。僕と大事なデートの時間といきましょう」
全く表情を変えずにアンデは唐揚げを食べてる。その無表情な顔のアンデを無視するよう部室から出ようとするフクオトに、強烈な一撃のパンチが叩き込まれた。
「な、何するの!?」
頬を抑えて倒れたフクオトは、いきなり殴りつけて来たアンデを見た。一瞬、フクオトの身体から黒い影が見えていた。溜息をつくアンデは、
「なら、この唐揚げの中にある水色のラムネは何だ? 食べ物で遊ぶなよ寄生怪獣」
大雨の時期にメカハルが道端で見つけ、寄生怪獣と出会った時にその成分が判明したマジックラムネがあった。から揚げの中に仕込まれていたならば、この一連の事件の犯人は間違い無く目の前の女であろう。
先程までパーティー会場であったこの部室内は、殺伐とする死の舞踏会へと変わろうとしていた。相変わらず三人の仲間達は倒れたままで起きる気配は無い。
「……」
まだ笑顔を装いつつも確実に目は怒りの炎を燃やし、ゆっくりと立ち上がる目の前の食堂職員のフクオトにアンデは感謝のポーズをする。
「パーティーには呼んでないのに、わざわざ来てくれてありがとう。始まってすぐ終わりとなって残念だけど、このパーティーもお開きとしようか寄生怪獣」




