十四話 謎の怪獣の正体
「保健室にいたと思いきや、いつの間にか外に出てたね。もう昼休みは終わってるよ。チームアンデとしての功績はあるけど、あまり何かに集中して人を困らせるのは良くないな」
色彩学園生徒会長のカイヒロはメカハルを指導くるよう優しく言う。
黒蛇の怪獣が薬物を使い何かをしている嫌な感覚が抜けないメカハルは、この目の前の生徒会長にも不信感を抱いていた。
「困っているのは私達よ。最近の怪獣はただ暴れるだけじゃなく、色々と面倒なの。そう、今の貴方のようにね」
「? 何か僕に言いたい事があるのかい? それならハッキリ言いたまえよ。生徒会長は生徒の意見を聞く義務があるからね」
「なら聞くわ。貴方も始祖の怪獣なの?」
刺すような口調でメカハルは問う。屋根のある通路に佇む二人の上履きに雨粒が跳ねる。微かに黄色い目を細める生徒会長は大きく息を吸って答えた。
「僕は怪獣ではないよ? 何を言っているのだ?」
「貴方に言ってるのよ。そこにいるわ。雨霧の中にいる怪獣よ」
「雨霧の怪獣?」
生徒会長は背後の薄暗い空間を見つめた。連絡通路の柱の一番奥にある薄闇は、この場所からの位置では中は良く見えない。雨雲の闇と雨音の消音効果でそこに何が潜んでいてもおかしくは無い状況だ。
「そこに雨霧の怪獣がいるのかい? チームアンデは雨霧の怪獣を認識していたのか。なら避難しないとね。それは生徒会である僕の勤めだ」
その一番奥にある柱の奥の薄闇を見つめつつ生徒会長はメカハルに手を差し出す。すると、その手には小さくてブヨブヨした黒い何かが置かれていた。
「貴方の集めたコクーンのデータなどは役に立ってるの生徒会長?」
「小生は、いや僕はただの生徒会長。何故そこまで敵意を持つ?」
スゥ……とメカハルのボブヘアの両端の毛先は敵と認識した白髪の少年に向けられる。
「会長は小生なんて一人称は使わないわ。いきなり自分に話を振られてボロが出たわね。そして、雨霧の怪獣なんて適当な嘘も当たってたか。チームアンデはまだ雨霧の怪獣という個体認識まで至って無いわ。色彩都市で貴方と暗躍してる四番目の始祖怪獣は雨霧の怪獣。そうね謎の怪獣さん?」
「……困ったお嬢さんだ。君が一人になったチャンスを狙い保健室まで来たが、どうやらこれは君の罠であったようだね。どこで小生を感じていた?」
「この一年、怪獣と戦ってきた私の目と勘よ。怪獣が人型になれるのは、もう知ってるんだから。いや、このコーラグミのおかげね。もう一個いる?」
「貴女は余計な事を知り過ぎたようだね」
瞬きより早く金色に輝く瞳をした白髪の少年がメカハルに手を伸ばした。瞬間、ボブヘアの先端の触覚がキビキビと動きメカハルのセーラー服が全てパージされた。
「……!」
「コーラグミィィィィィィィ!」
いきなり目の前の少女が全裸になり叫んだので怪獣である少年は流石に動揺した。
そして怪獣警報が鳴り出し、色彩都市のどこかに怪獣が現れた事を学園全体が知る。歯軋りする生徒会長はまさか隠れて誰かに通信でもしていたのか? と疑心暗鬼になった。
「小娘っ! 小生の正体を通信でバラしたのか?」
「さぁ? どうでしょ?」
「メカハルーっ!」
叫びながら駆けて来るスケバン少女がいた。怒気を放つツルコを見た謎の怪獣である生徒会長は、近くに現れた教師に触れると倒れる。そしてその教師は一目散に駆け出した。
「生徒会長に寄生した怪獣? 本体の姿はわからないけど、教師に寄生して逃げたあれは寄生怪獣ね。そして、色彩都市には別の怪獣が現れている。あらツルコ。お早い事ね」
「何がお早い事ねだ! あのコーラグミの叫びは怪獣警報よりデカくてビビったぞ! 大丈夫かメカハル! って、とにかく服を着ろって。お前アタシより乳があるじゃねーか!」
着痩せしているメカハルに嫉妬しつつ、ツルコはパージされたセーラー服を着せて行く。その手際の良いツルコに感謝しつつ答える。
「乳があるのはコーラグミ食べてるから」
「そんな理由!? な、ならアタシも食おうかな……じゃなくて怪獣だ! 色彩都市に怪獣が現れてすでにアンデ君は向かってる。今度は雨の中で隠れる雨霧怪獣のようだ。やっぱり、色彩都市に雨に隠れて現れてやがったんだよ。それが今更見つかりやがった。今は部室でヤイツがカラーアンデのサポートをしている。アタシ達も早く戻るぞ」
「オッケー。それと、雨霧怪獣の仲間はおそらく寄生怪獣。さっき生徒会長に寄生してたね」
駆け出そうとするツルコは足を止め、転びそうになった。
「寄生怪獣だと? って、生徒会長気絶してんな。寄生怪獣が出てったせいか?」
「教師に寄生して逃げたわ。でも情報は引き出せた。あの逃げ方からして他人に寄生している怪獣に間違い無いわ。そして一人称を間違えるという事は、寄生怪獣は生徒会長一人に寄生しているわけじゃない。それは色彩都市全体の流行病の夢遊病者に答えが見出せると思う」
寄生怪獣は数多の人間に寄生しているから、不意をつかれるとどこかで相手の反応より自分の反応が出てしまい間違えてしまうという話だ。いまいちピンとこないツルコはとにかく、謎の怪獣の正体が掴めて気合いが上がる。
「人間の体内に入り操る寄生怪獣か。人間に伝染病のように寄生されて移動されたら、追い詰めるのも難しく厄介だ。自爆怪獣の時もこんか感じだったよな?」
「その前に雨霧怪獣よ。ハッキリ言って、これだけの人間が夢遊病になって寄生怪獣に乗っ取られる原因を作る怪獣を倒す方が先。週末までは色彩都市は雨。雨の日は……苦手なのよね」
「何でだ?」
「雨の日はグミも湿気に影響されるから」
「……」
グミに湿気とか関係あるか? と疑問に思うが、グミ博士の言う事なんだからそうだろうと思い込んで行動を開始する。
※
色彩都市内部のビルの群れの中に白い巨人と水色の亡霊が対峙していた。
第四始祖・雨霧怪獣テーギ。
空中に浮かぶ水色の霧状の身体をした亡霊のような怪獣である。足は存在しないのか消えており、黒く蠢く両目とハサミのような両手がカラーアンデを威嚇していた。
「……チクショーめ! アーエが川にずーっといたせいで、オラの雨霧隠れの術であるアメーコロイドの粒子化が甘くなっていたようだなぁ。やっぱアイツが川にいたせで怪獣同士の気配のストレスあったよなぁ。なぁ?」
「アメーコロイド? その雨霧に隠れる能力はこの雨の中なら無敵じゃないか。進化怪獣アーエを第三勢力のように使おうとした効果がいきなり現れるとは、コッチにしたらラッキーだ」
「アメーコロイドは無敵なのだ! 本来ならアーエが出て来なければ、戦うのはオラだったのだ。それを邪魔してくさりやがって。許さへん!」
「貴様は始祖の四番目の怪獣か。本来なら雨霧に隠れながら攻撃を仕掛けるのが貴様の戦闘方法。まさか色彩都市で暗躍する謎の怪獣とグルでは無いだろうな?」
目の前の雨霧怪獣テーギを警戒しつつ、周囲にあの黒蛇金ツノ怪獣がいないかを見る。首を振るテーギは両手のハサミをカチカチかせた。
「謎の怪獣? オラはそんなのは知らんぞ? なぁ?」
「聞きたいんだが、なぁ? 怪獣同士は自分の縄張りに他の怪獣は入れない。始祖同士で何か利害関係があると見た」
「……」
「その沈黙は雄弁に語ってくれるな。貴様は寄生怪獣に利用されているのがよくわかる」
「そんなに黙ってないだろうに! なぁら教えてやるわいタコ助が」
カラーアンデのペースに巻き込まれているテーギは協力関係である寄生怪獣について話し出した。
「全ては始祖怪獣の宴の戦を勝つ為にオラは寄生怪獣と協力してる。これから始まる怪獣神への宴……その宴が行われる地球に早く到着したオラと寄生怪獣は後から来る怪獣達に対してイニチアシブがある。全ての始祖を倒し、怪獣神復活の宴を行うまでのパートナーだ。だから寄生怪獣とオラは――なぁ!?」
ふと、多弁になっていた事に気付いたテーギはうむと頷いているカラーアンデに怒りを燃やす。
「フフ……おそらくそれを話したら寄生怪獣は怒るだろう。他言無用の内容のはずだ。協力者は寄生怪獣。教えてくれてありがとう。なぁ?」
「なぁ? くそっ! オラは余計な事を話すサービス精神が強いから黙ってろと言われたのにミスった! な、な、な、なぁ!」
まるで進化怪獣アーエのような誘導しやすさがあると感じるカラーアンデは、案外憎めない目の前の敵に同情すら感じていた。
「寄生怪獣の話した内容は本当だろう。だが、寄生怪獣の話した事以上の事はある。普通の怪獣とは考え方が違うあの寄生怪獣が何を企んでいるのか、もうすぐ明らかになるはず。前座として貴様を倒すぞ、雨霧怪獣テーギ!」
雨で視界の悪い色彩都市内部にて、カラーアンデと雨霧怪獣テーギの戦いは始まる。




