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十三話 雨の日はサボろうよ

 豪雨は降り止まないが、すでに色彩(カラー)都市の川の氾濫の恐れは無くなり、人々から石像扱いの進化怪獣アーエは無我の境地で川の中で立ち尽くしている。流石にこの雨と風では怪獣も活動するのは難しいのか、新規の怪獣は現れる気配が無い。同時に、日々の雨に気を重くした人間達も不調が多いニュースが出ていた。


 夢遊病の症状が出ている人間が増えているのである。


 色彩学園の一年一組の教室では、一時間目の始まる前にメカハルが手を上げて教師に訴え出ていた。


「雨の日は憂鬱で体調も悪くなる可能性は否定出来ない。ので保健室へ行きます」


 言うなり前列出入口の席から立ち上がるメカハルは、進行方向をボブの毛先に案内させるよう示し、そのまま教室から出て保健室へ向かう。前列中央の席にいるアンデは付き添おうとするが断られた。やれやれと思いつつも教師は授業を開始した。

 窓側一番後ろの席のツルコと、その隣のヤイツは仲間の行動を見て呟く。


「ハッ! メカハルの奴。サボりだな」


「ゼッテーサボりだ。成績が良い奴は羨ましいぜ」


「そういや昨日、地面を調べてて落ちたコーラグミ食ってたな。何か水色っぽいヤツ」


「水色? カビでも生えたか? でも、もうあんな事はしないだろ。心配無いさ」


「そうだな。薬に耐性があるからってもうあんな事はしないな」


 そして、時間は進んで行き昼休みの時間になる。食堂で唐揚げ定食を食べるアンデ達は雑談をしつつ、保健室にいるメカハルについて話していた。


「……メカハルは一日中保健室だし、様子を見に行くかな。早退したフクオトさんも保健室にいるようだし」


「確かに男子が調理場付近でたむろしてないね。ったく、相手にされねーのに群がるハエは女をわかって無いね」


「ツルコ、お前がそれを言うか。群がられ無い女のひがみ――あっ!」


 へへっと笑いながらヤイツが茶化すと唐揚げ一個箸で刺され取られていた。


「ハッ! タマ取った!」


「ぱっふーん!」


 しょぼくれるヤイツは他のは取られないよう、一気に口に唐揚げを詰め込む。フフと微笑むアンデはテスト週間が近いという事で話をする。


「僕は保健室へ行くけど、昼休み時間は二人共試験勉強もしないとね? チームアンデに赤点とかあり得ないよ? いいね?」


『チュワッス!』


 やけに真面目に敬礼をする二人にアンデはうむと頷いた。

 多少の免除はあるとは言え、学業を疎かにするならチームアンデとしての活動は休止というアンデの考えなので、勉強嫌いのツルコとヤイツに試験勉強に集中するよう促す。

 残りの昼休み時間を使い、アンデは日々の揚げ物で微かに重くなった身体を動かし歩き出す。


「モンブランとコーラグミケーキ一つお願いします」


 購買部に寄り、ケーキを買ってから保健室に行く。その保健室には、最近夢遊病の生徒などが混じっており、そこをアンデ自身も危惧しているので確認の為にも保健室に向かっている。


(色彩都市全体の雨と最近の夢遊病者の関連はあるのか? これが怪獣が原因による夢遊病者の発症ならただ怪獣を倒すだけの戦いとは違って来る。やはり始祖の怪獣達は一筋縄では行かないという事か……)


 そして、ケーキを持つアンデは保健室に入った。すると、保健室の奥から女の声が聞こえる。カーテンで出入口手前が仕切られている為に、奥からの声しか聞こえない。二人が話しているのでアンデは少し待つかと立ち尽くす。女の内の一人であるメカハルは食堂勤務のフクオトに話しかけていた。


「フクオトさんは怪獣に興味があるのですか?」


「ん〜怪獣に興味はあるし、恨みもある。私は怪獣の出現でこの色彩都市に軍の食事担当として採用されてここにいるんだもの」


「それって結構前の話ですよね。もしかして、カラーアンデが怪獣退治専門として活動した事でヤイツパパが仕切る怪獣討伐隊は討伐サポートの任務となり軍縮があった。そのせいで軍から学園の給食係になったのですか?」


「そうよ。あの時は私もギリ十代だし、色々と大変だったけど楽しかった。食事担当でも命懸けでこの色彩都市を守る一員としての誇りもあったし、軍の人達も仲間として認めてくれていたの」


 十年以上前から富士山周辺に散発的に現れ出した怪獣に対して、日本軍は怪獣討伐隊を編成し現代兵器にて殲滅を計った。その軍の活動は富士山周辺の経済的活性化を呼び、軍や怪獣見たさで現れる諸外国の人間達でごった返した時期があった。

 その怪獣ブームの産業計画として応募した一人がフクオトであった。爆発的な怪獣ブームで混乱する富士山周辺は日本政府の方針なども有り、撮影や戦闘に関与する行為は日本軍以外の全ての人間に禁じられる事になった。


 罰則は死罪を含めた実刑――。


 その日本政府らしからぬ強行的な法案により、日本人も諸外国も怪獣ブームから段々と冷めた。しかし、怪獣という酒に酔った人間は数多くおり、それは世界中で死を恐れず怪獣エリアに向かう怪獣マニアを産むだけの結果になっていた。そして、十年程が経ち今がある。


「……複数の戦闘機や爆撃機などで軍が怪獣を倒していたあの時と違い、今はカラーアンデが全てどうにかしてくれるから安心して色彩都市が運営出来てるからね。それは……幸せな事よ」


 その憂を帯びたフクオトの声を聞いたアンデはそっと保健室から去る。入れ違いで保健室に現れた白髪ポニーテールの少年は言う。


「そう、幸せは全ての生物に蜜の味なのさ」


『生徒会長』


 その保健室内に生徒会長カイヒロが現れ、アンデに渡されたケーキを渡す。二人は喜びながら互いの好きなケーキを食べ出す。モンブランを食べるとフクオトは生徒会長に感謝して、保健室に何しに来たのか尋ねる。


「生徒会長として視察に来ているのさ。この雨の多さで色彩都市全体が沈んでいるからね」


「やんなるよねこの雨。夢遊病とか流行ってるらしいし、こんな雨じゃデートも出来ないわ」


「フクオトさんは美人でモテるからね。貴女に退職されると色彩都市全体が暗く沈んでしまうでしょう」


「生徒会長君はお世辞が上手いのね」


 その最中、いつの間にか保健室から外に出ていたメカハルは色々なキーワードを集めて自分の考えを頭の中で吐き出させていた。


「体調不良……夢遊病……大雨……怪獣……暗躍する謎の怪獣……」


 雨が避けられる通路から天を見上げるメカハルはそもそもの原因である雨に注目した。


「そもそもこの雨が原因ならば、調べる事は一つ」


 雨を採取し、地面に座りチェックマシンで調べる。すると、そのマシンから表示されるデータには雨の成分以外の何かが検出されていた。


「これは雨そのものではないわ。やはり最近都市の地面に落ちているこの水色のラムネに関連がある」


 その小さなメカハルの手には水色のラムネのような粒が数個ある。


「これは直接飲んだりしてはあまり意味の無いモノだったのね。雨に濡れて気化してこそ効果がある。飲んでもただ調子が悪くなるだけだったわ。おそらく雨で溶けて気化したモノが人を狂わせている。その正体はおそらくこの水色のラムネのようなタブレット」


 ハンカチで口元を覆い、その水色ラムネを一粒雨に晒す。チェッカーゴーグルをしてその周囲を確認すると、やはり水色ラムネが気化した空気がおかしな反応を見せているのがわかる。冷や汗が出るメカハルはやれやれ……とコーラグミを食べて一息つく。


「ただの脱法ドラッグかと思ったからアンデとかには言わなかったけど、まさかこれがビンゴとはね。何か案外生真面目なツルコの視線が気になったから隠してたけど、これは怪獣が生み出した物だわ。すぐにこれを調べてアンデに知らせないと――」


 その場から立ち上がろうとすると、目の前に誰かの白いローファーが見えた。この学園内でこの色のローファーを履いている人間は一人しかいない。ゆっくりと顔を上げるメカハルはその白髪ポニーテールヘアをした少年の、感情の無い黄色い目を見つめた。

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