十一話 殺風景な雨の日
「週末から一週間も雨か。カルピスの原液を浴びるよう飲んでねーと気持ちが落ちるぜ」
色彩学園・チームアンデの部室の窓からツルコは憂鬱な瞳で降り続く雨を見ていた。アンデはカラアゲリアンのサイトをスマホで閲覧しており、メカハルとヤイツはタブレットでブロック崩しゲームで対戦している。
「ぱっふーん! また負けた……ヤイツ君は鬱展開です」
対戦ゲームで負けたヤイツはフラフラとよろめき、床に倒れた。コーラグミの軍資金を得たメカハルはコーラグミを一袋丸ごと大人喰いして勝ち誇る。風呂に入るのが嫌いで洗髪も週一ぐらいで、髪が脂で固まり雨の湿気でも崩れない寝癖風ソフトモヒカンの少年は、唐揚げを一つ口にする。
「鬱展開は良い展開への序曲さ。僕は最近、カラアゲリアンが鬱展開から明るい展開になって来て更に楽しい! 新加入のゲリアンレッドのデザインが暗殺者風で、そのパイロットの赤髪ツインテール美少女めっちゃかわいくてサイコー!」
「? どんな女だ? ブチ殺されてぇのか?」
んぁ? という顔をして微かに呟くツルコはそのカラアゲリアンの新キャラを見る。素早くヤイツとメカハルはその場から離れた。本来なら画面ごとぶち抜いてやりたいが、アンデがいる為に出来ないツルコは気持ちを落ち着かせる為にブラックの缶コーヒーを買って来いとヤイツをパシらせる。
前回戦った自爆怪獣との戦闘の最後に目撃した黒い身体の金色のツノをした謎の怪獣。邪悪な金縁の目つきをしたその怪獣の捜索をチームアンデはしていた。
その敵は確実に人間社会に溶け込み、色彩都市の中で当たり前のように生活しつつ地球の支配を企んでいる怪獣である。ただ地球を支配する為に破壊行為をする怪獣と違う事に、チームアンデは人間社会の闇が怪獣になったような不安感を抱いていた。触覚ボブの毛先の先端でコーラグミを刺したメカハルは窓際のスケバン少女に声をかける。
「ツルコ。イライラするのもわかるけど、こうやってゆっくりする事も大事よ。チームアンデと言っても、まずはただの学生なんだから。黒蛇怪獣はこの雨だからお休みかもね」
「……その黒蛇怪獣はホント、現れねぇよな。手がかりも無いから探すのも無理だ」
「そうね。向こうが動くか、行動している形跡でも発見出来ないとダメね。私達は基本、怪獣が現れてからが行動開始だから」
そうだな……と答えたツルコは最近また風呂に入ってないんじゃないか? と寝癖風のソフトモヒカンの少年のだらけた姿を見て切り出す。
「……でよアンデ君。始祖の怪獣って何なんだ?」
スマホを触る手が止まるアンデはツルコに目を向ける。一瞬、目をそらすツルコはもう一度アンデを見つめた。
「ここ数日、僕に対して話しかけるのを戸惑ってるのを感じてたけど、聞きたかったのはそれか。だからヤイツを外に出した」
「そうさ。軍は怪獣に関する情報を無作為に欲してるし、宇宙開発公社と手を組んで宇宙空間で爆弾の実験などもしてる。宇宙開発を怪獣対策の軍事利用をしてやがるんだよ。カラーアンデとの契約で、軍は怪獣対策サポートに徹する事になってるにも関わらずだ。ヤイツの事は信じてるが、あのヘタレ親父に関しては何かあればチームアンデの解体すら企んでると思う。軍人のメンツは処女より面倒だ」
「私も言うわね。私はあの事件で軍に捕まった時から変わらず軍関係の情報は私が定期的に収集してる。軍は怪獣退治にかこつけて、色々きな臭い事をしてるのは昔からだから。この周囲に盗聴や生体反応、熱源などは無いわ。問題無く話せるわよ」
アンデは二人のチームアンデの少女に対して不安にさせる事はあっても話すべきと確信する。彼女達の覚悟ならば動揺はしても絶望はしないだろうと思ったからだ。
「……ならば答えよう。これは怪獣という存在の歴史を知る事でもある。そして、人間にとっては知らない方が良い事でもある」
そして、アンデは『始祖の怪獣』に関する事を話し出した。それは、怪獣の神へと繋がる話でもあった――。
「始祖の怪獣とは怪獣神が生み出した最古の怪獣。能力や姿は普通の怪獣と同様に様々であり、全てが戦闘に特化している怪獣では無い。怪獣神の遺伝子を持つ怪獣というのが始祖の怪獣達だ。そして、ここからは言い伝えや伝承的な話になってしまうが、千年に一度ぐらいの周期で怪獣神は復活し、どこかの惑星は生贄となる」
『……』
「怪獣神が誕生する為に生贄となる惑星は怪獣の為の世界となり、人類などは文明ごと灰になってしまう。怪獣神が誕生してしまえば、何者も怪獣神には逆らえないんだよ」
言い切ったアンデはイスから立ち上がると窓の外の雨を見つめて続けた。
「この宇宙の摂理については人間が何をしても無駄だからね。だから知らない方が良いのさ。これは他言無用。無駄な混乱を避けるのも、チームアンデの仕事だ」
『……』
「そして、僕に対しても不信感はあるだろう? その反応はナンセンスでは無い。それでも君達は見知らぬ宇宙人の僕を助けた。本来なら怪獣扱いして攻撃するのが当たり前の状態にも関わらず。その信じる心は僕の正義と一致した。だからこそ、君達をチームアンデとして仲間に勧誘したんだ」
結露している窓にハートマークをアンデは描いた。メカハルはコーラグミの袋を握ったまま語らず、どこか遠い存在に感じるアンデに悲しみを感じたツルコはおもむろに立ち上がり言った。
「あの時、心が荒れていた私達は各々の好奇心で怪獣に近寄ってしまい、怪獣に踏み潰されそうだった。突然現れた貴方はそれを守りながら怪獣と戦い、怪獣と貴方を攻撃する軍にも手を出さなかった。助けられた人間達も怪獣の仲間として貴方を非難する者が多かった。だけど、私達は貴方を信じた……」
そして、ツルコ、メカハル、今はここにいないヤイツの三人は白い巨人である宇宙人を怪獣では無いとネットやチラシ、街頭で声がけをして人間達に信じさせる行動に出た。初めは誹謗中傷もあったが、謎の白い巨人は常に人間側に立ち戦っていたので、軍も人々も怪獣では無いとの認識をし、人間との友好的接触を果たした。
その後、カラーアンデという宇宙人は現れる怪獣との最前線において活躍しているのである。
『……』
窓に描いたハートマークが崩れ、外の雨は強さを増す一方の状況に微笑むアンデは、部室の入口を開いてヤイツを中に入れた。アンデとの話に聞き入り過ぎてツルコの野生も働かず、メカハルのタブレットの生体反応感知表示にすら認識出来ない程の状態だった。
少し話を聞いてしまっているヤイツはツルコに促され、イスに座る。そしてチームアンデの面々にアンデは語る。
「懐かしい過去だね。もう、あれから一年以上も経つのか。でも最近の事件で君達が不安になるのは仕方ない。知性のある始祖怪獣が現れるという事は、人類にとっては完全な厄災でしなかいからね。これからも現れる始祖怪獣に対して、常に勝利を勝ち取れるかはわからない。それが君達との信用を無くす結末になってしまうかも知れない……」
チームアンデの三人には各々にカラーアンデの敗北と、怪獣神の誕生で人類が消滅してしまう事を想像した。そして窓の結露を大きく手で払い視界を良くし、仲間である三人の男女に外を見たまま告げる。
「僕は宇宙人だ。宇宙で起こる事件などはある程度知ってる。だけど、僕は地球が好きだ。それだけは信用して欲しい」
『信用では無く、信頼してるよ』
アンデの背中に、暖かい人間の温もりが伝わって来た。ツルコは感情のままに背後から抱きついており、ヤイツはアンデの左手を握ってからチャンピオンのように掲げ、メカハルは触覚ボブの先端でアンデの右腕を突きながら言う。
「はみ出し者だった私達は各々のはみ出し方でここまで来た。間違いを犯していたけど、今は過去とは違う。一人で塞ぐ事も無く、光の道を歩いて行けるわ」
「ハッ! そうだな。つー事だアンデ君」
「ぱっふーん。そゆこと」
「うむ。ありがとうみんな!」
そしてチームアンデの四人はかの三国志における桃園の誓いと言わんばかりに唐揚げを手に取り、乾杯をし、それを口に入れ唐揚げの誓いをした。微かに、外の雨が弱まったような気がしてチームアンデは暗い雨雲も突き破る強い気持ちを持った。
すると、メカハルのタブレットに赤い危険マークが点在し出し、色彩学園全体に怪獣警報が発令された。メカハルはすぐにタブレットで情報を収集した。
「色彩都市内部に怪獣の反応? 街に入られる前に気付かないの?」
「うむ。この豪雨に紛れて活動されてたら見失ってるだけかも知れないね。レーダーに頼るより実際に調査した方が早い」
アンデが言うと、せっかくの良いムードをブチ壊してくれた怪獣に静かな怒りを見せるツルコはヤイツの買ってきたブラック缶コーヒーを一気飲みし、くはーっ! と苦みと冷たさで下を向く。
「ハッ! 空気が読めねー怪獣だな。一体どこのスカポンタンだ?」
「そりゃあツルコレベルの……」
「ナイスツッコミヤイツ」
ツルコが動く前にヤイツの脇腹にアンデのチョップが炸裂した。そして唐揚げを数個食べるアンデは少し出てる腹を叩き、
「アゲーファイターはこの雨では出せない。視界が悪くて戦いの邪魔になる。ヤバイ事にならない限りは待機ね。よろしく!」
するとアンデは小走りで外に向かう。ツルコは残された唐揚げをがぶりと食べ、アンデのスマホに映る新キャラのゲリアンレッドを睨みつけた。
「……おいヤイツ。アタシが唐揚げの誓いで泣きそうだったからわざわざ怒らせる事言ったな?」
「ん? んなわけないさ。俺はいつも通りの無神経な一言しか言ってませーん。ぱっふーん」
「ハッ! そうかよ」
ツルコはヤイツの口に唐揚げを詰め込んだ。メカハルはついでにコーラグミまで詰め込み、ヤイツは泡を吹いた。泡を吹くついでにまた余計な一言を呟く。
「……ったく、女は余計な事まで聞きやがる」
「女は確認が必要なのさ。あんがとよ」
チームアンデとして三人の男女は、改めてカラーアンデのサポートをして行こうと決意を固めた。




