ー 間幕① 雨の中の鯨幕 ー
外は、雨が降っていた。
自身の心を現すかのように『ザー』と音を立てる。
敷地の駐車場の周りには、白黒の造花をあしらった花輪と鯨幕が駐車場内を囲んでいた。
「遠野さん」
その呼びかけに、顔を動かす。
そこには、何度か顔を合わせたことのある女性がいた。
「瑞樹さん……」
「もうそろそろ式が始まりますから声をかけました」
淡々と内容を伝えてくる。
「わかりました」
その言葉の通りに式場へと体を向ける。
「ねぇ、遠野さん」
「どうしました。瑞樹さん……」
「あまり自分を責めないで。遠野さんのせいじゃないんだから……」
やはり、淡々と話してくるがその言葉には少し優しさが感じられる。
「ありがとうございます。瑞樹さん」
「じゃあ、中に入りましょう」
「はい。瑞樹さん」
瑞樹こと、細谷瑞樹を一緒に式場へと向かった。
式場内に戻ると、黒いスーツやドレス、黒い数珠などを手に持つ数多くの人たちの姿があった。
ある人は悔しそうな顔をし、またある人はすすり泣く声が聞こえる。
式場の主役の舞台には、沢山の献花が飾られその中心には大きな写真が飾られる。
見慣れた女性の写真が飾られている。
「■■……」
その写真を見て、やはり現実なんだと思う。
そして、通夜は開始された。
僧侶が入場し、お経を唱える。
式に集まった人たちが、一人、また一人お経を唱える僧侶の後ろに用意された香炉に指で摘まんだ香を入れる。
周りは、香の匂いに包まれる。
そして、参列者の焼香が終わると私の番になる。
香炉の前に立ち、写真姿の■■に目を合わす。
その隣には、■■の妹の瑞樹が同じよう、写真に目を合わしている。
用意された香を一つまみ取り、香炉に入れる。
そして、もう一度同じ動作をする。
最後に、両手を合わせると静かに頭を下げる。
■■が、死んだ理由。交通事故だった。
赤信号を無視したトラックがそのまま突っ込んで走り■■を轢いた。
そう、交通事故の定番とも言える死に方だ。
事故現場にいた人たちによると、■■が小さい子供を庇おうとして飛び出して巻き込まれたようだった。
■■は、妊娠していた。6カ月目。その日は産婦人科の定期検診の日だった。
極力一緒に行くようにしていたのだが、その日はどうしても外せない仕事があり、出社をしなければいけなかった。
「大丈夫だよ。仕事頑張ってきてね」
それが、■■の最後の会話になるなんて思わなかった。
体の子供も事故の衝撃で助からなかった。
そんな簡単な理由で人は死ぬ。理不尽だ。この世界は。
その後、式は滞りなく行われ、式が無事終了し参列者たちがその場から立ち去る。
参列者を見送ると、誰もいなくなった棺桶の前で泣き崩れた。