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日常の一片②

咲楽と共に何事も無くデパートに到着する。


最近、完成したばかりのこのデパートは4階建で、1階は食品、2階は衣料品、3階はアミューズメント、4階は家電量販店の構造になっている。


周りを見渡すと子供連れの夫婦、カップル、学生達がデパート内を闊歩する。


デパートに到着した俺たちは、咲楽と一緒に2階の衣料品売り場に並んだ秋服を眺めていた。


あれいいな、これいいなと言いながらかれこれもう一時間はこの調子だ。


元々、咲楽の性格は知っていた。慎重でとても思慮深い。


そのため、付き合っていた時から咲楽には何度も助けてもらっていた。


しかし、だ。この時だけはこの慎重さが仇になっていた。


「……買わないのか?」


「ん-、どうしようか悩んでる」


「どれも、似合うと思うけど……」


「けど、こういうのって流行り、廃りあるから。女としては慎重に選ばないと」


「……」


咲楽の言葉に黙り込む。


いつもなら咲楽と一緒に回るのは苦ではなかった。


しかし、朝の影響かどうも頭が痛い。


足もふらついていた。


「少し、近くの椅子で休んでいてもいいか」


咲楽が、ハッとした姿をこちらに向ける。


「もしかして、体調悪くなった? 晴樹……」


咲楽は、心配そうに顔を覗き込む。


「大丈夫。少し疲れただけ。休めば治るから」


咲楽に心配かけないよう、優しく声をかける。


「わかった。じゃあ私はもう少しだけ……」


「ゆっくり選んで大丈夫だから。それじゃあ少し休んでる」


「うん……」


不安そうにする咲楽と別れ、近くにある休憩所まで足を運んだ。



※※※



休憩所に到着すると、近くにある自販機の前で財布を開く。


何枚かの硬貨を入れると、自販機のボタンが青色に光り出す。


右下近くのボタンを押すとガランと転がる音がする。


自販機の下に手を伸ばし、ボタンの上に表示された黒い缶コーヒーを手に取る。


手に取ったコーヒーのタブを上げ、コーヒーを口元に運び口に含み、そのまま近くにある椅子に腰を掛ける。


椅子の後ろは壁になっており、背をもたせかける。


「何なんだ。今日は……」


頭が痛い。体もうまく動かない。


「疲れているのか……」


耐えられず、その場で目を閉じる。




『カランカラン』




缶の落ちる音で目を開ける。


「寝てたのか……」


確認すると、手に持っていたコーヒー缶と残っていた中身が散乱し、床を黒く染めていた。


「やばい」


俺は、缶を持ち上げようとした時だ。


「なんだよ。これ……」


その場の状況に絶句する。


さっきまで賑わっていたデパートに人の気配がない。


その場を立ち上がり、デパートの吹き抜け部分を覗き込む。


どの階も同じように気配を感じない。


「咲楽!!」


咲楽の眺めていた衣服店へと走る。


到着するが,そこに、咲楽の姿がない。


「何処に行ったんだ……」


その後、1階の食品売り場、3階のアミューズメントへ足を運ぶ。


食品売り場は、レジには今まで会計をしようとしていた状態でそのままになっており、アミューズメントのゲームセンターも同じように遊んでいたであろうと思われる状況だ。


「ここに、いないと……」


一末の不安を感じながらながら、速足で4階に向かう。


家電量販店の状況を確認する。


テレビは全て黒く『受信できません』と表示され、パソコンもブルースクリーンになっている。


フロアを探索する。やはり人影はない。


これが異常事態であることを頭で再認識する。


「咲楽!! 咲楽―――」


「……」


フロアー内に、叫び声だけがこだまする。


「何処に行ったんだよ……」


そう呟いた時だった。


『……き』


「!!」


人の声が聞こえたような気がする。


しかし、周りにを見回しても人影はない。


「気のせいか……」


そう思っていると、


『は……き』


やはり、声が聞こえる。


「こっちから聞こえてきたよな……」


声のする方向へと足を進める。


冷蔵庫、デジタルカメラ、洗濯機を抜けた先に、音楽プレイヤーの売り場に到着する。


最新型のプレイヤーの中に、不釣り合いにラジオが数点置かれている。


「このあたりから声が……」


『はる…き』


やはり聞こえる。そう……聞きなれた声が。


『晴樹……』


「咲楽!!」


ラジオから、咲楽の声が流れてきた。


『晴樹……』


「咲楽。今何処にいるんだ。心配して……」


『聞いて……晴樹……』


その声は、とてもか細くとても悲しそうな声に聞こえた。


『ここから……逃げて……。まだ……こっちには来ちゃ駄目……』


「おい、逃げるって……。何を言って……」


『ごめ……、時間が……い。■■■■■■で……る』


「おい、咲楽。聞こえない。一体何が……」


『ザ――――』


突然、ラジオから聞こえた咲楽の声がノイズ音に変わる。


「咲楽!! 咲楽―――」


叫んだ時だった。後ろから肩を叩かれる。


「どうしたの? 晴樹」


俺は、後ろを振り返る。


そこには、不安そうにした咲楽が立っている。


「咲楽。無事だったのか」


「何、言ってるの?」


「だって、デパートの人が……」


周りを見渡す。するとさっきまで人影すら無かったフロアが人で賑わっていた。


「どうして……」


「心配したよ。休憩所にいないから。一階からずっと探しちゃったよ。最悪迷子センターに行くところだった」


「咲楽……。さっき逃げろって……」


「……本当に大丈夫? 晴樹。今日は帰ろう。やっぱり調子が悪そうだし……」


心配そうに顔を覗き込みながら、咲楽は腕を回してくる。


「夢……。だったのか……」


「……。晴樹……」


咲楽が、ぎゅっと腕を締め付ける。


「お願い。もう何処にも行かないで……。心配になる……」


少し、涙ぐんだ顔で言葉を放つ。


「ごめん……。心配かけた。今日は帰ろうか」


「うん。家に帰ってゆっくりしよう……」


「あぁ……」


俺は、先ほどのラジオを確認する。


そこには、さっきまで咲楽らしき声を発していたラジオだけそこには無かった。

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