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プロローグ

ある部屋の一室。


キッチンは食器が散乱し、水栓から零れ落ちる水滴が『ピチャン』と音をたて静かな部屋に響き渡る。


季節は夏。


蒸し暑さが増し、部屋中が湿気で充満する。


リビングは、酒の缶や瓶、ゴミ袋が散乱し放置されている。


部屋に設置されたソファーに一人の男が座っている。


髭を生やし、何日も風呂に入っていないせいか髪もボサボサだ。


目は虚ろで遠くを見ている。


ソファーに置かれたスマホが震える。


いつもの電話だと思い、男は無視する。


ソファーの前に設置されたテーブルには、部屋に不釣り合いな桐の箱が一つ、そしてラジオが置かれている。


「…たい」


ぶつぶつと言葉を零す。


テーブルに置かれた缶ビールを手に取る。


缶の重さで中身がない事に気づく。


「くそッ」


手に取った缶をリビングに放り投げる。


『カラン、カラン』と缶ビールが部屋を転がる。


男は、テーブルに置かれたラジオに手を掛ける。


高校生時代に使っていた物だ。


そう、『あの時』に『君』を知るきっかけの。


乾電池式のラジオで、用意していた乾電池二本をビニールから外す。


ラジオの電池カバーを外すと、何年も、交換していないせいか交換前の電池が液漏れしている。


電池を外し、新しくビニールから取り出した電池を装着する。


付くか不安になり、ラジオ本体の側面にスライド式のスイッチを上に動かす。


『ピーィ―――』


耳ざわりな機械音が耳に木霊する。


無事、起動したことに多少安堵する。


起動確認をすると、上部に取り付けられた半円球のダイアルを回す。


『君』に『教えてもらった』あの周波数の番号を。


ダイアルを合わせるとテーブルの上にラジオをそっと置く。


リビングに設置されている時計を確認する。


時間は23時56分。


指定の時間までは、あと4分。


ソファーから立ち上がるとベランダを遮っていたカーテンを開ける。


クレセントを回し、ベランダの窓を開ける。


スリッパを履かず、男は外を確認する。


光に満ちた月が昇り、周りは静かだ。


『満月の日に■■■■■』


『君』に会った日もこの月明かりの下だ。


左腕の腕時計を確認する。


残り1分。


男はベランダの手すりに手をかけ体を乗り越える。


5階からのベランダ下は木々に覆われていている。


「今からいくよ。■■」


時刻は24時。


男はベランダから姿を消した。



※※※


深夜。部屋の外にはサイレンが鳴り響いている。


サイレンと人の声が部屋の中から聞こえてくる。


男が付けたラジオが部屋にノイズを響き渡らせる。


一瞬、すっとラジオのノイズが途絶える。


「ごめんなさい………」


悲しそうな女性の声が流れると直ぐにまたノイズだけが響いている。


※※※

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