第六話 休日(夜)
電車を降り、家に向かって歩き始める。
すると、雪穂姉がこんなことを言い出した。
「ねえ真、なんか物足りなくない?まだ何かしたくいない?私はもう少し遊んでから帰りたいんだけど、真はどう?」
「今からどこかで遊んで帰ったら、家に着くのが遅くなるから別にこのまま帰ったんでいい。けど、あんまり時間がかからないならどこかに寄ってもいいよ。」
「ならカラオケはどう?二時間なら九時より前には家に着くし。」
「一時間ならいいよ。」
「わかった。きまりね!」
こうして、カラオケに行くことになった。
しかし、このときの俺は気づいてなかった。
二人でカラオケに行って、一時間で時間が足りるわけがないということに。
カラオケといったら、採点勝負が基本だろう。
例にもれず、俺たちも勝負することになる。
「まずは私からね。」
そう言って、雪穂姉は歌いだした。
もちろん、アニソンである。
雪穂姉が歌っている間に、何を歌うかデンモクでいろいろと検索しながら考える。
一応勝負だから負けたくない。
けど、せっかくカラオケに来てるんだから、高得点が取れそうな歌を歌うより、好きな歌を歌いたい。
結局、好きな歌を歌うことにした。そして、やはり一曲目は負けた。
こうして勝負を繰り返していると、あっという間に一時間経つ。そして、決着がついていなかったためもう一時間延長することになる。
結果は俺の負けだった。
けれど、悔しさはあまり感じなかった。俺はかなりの負けず嫌いのはずなんだけど。
カラオケを出ると、外はすでに日が落ちていた。夜空は晴れていて、三日月と星がよく見える。
帰り道では、今日一日の話、主にさっきまでしていたカラオケの話になる。
「真ってけっこう歌うまいんだねー。姉弟なのに全然知らなかった。」
「そう・・なのか?自分じゃ歌がうまいとかよくわからないけど。」
「平均九十点はうまい方だと思うよ。」
そう言って、雪穂姉はふいに上を向いた。そして、夜空を見てつぶやいた。
「月が綺麗だね。」
「うん、星もきれいに見えるよ。」
俺はそう返していた。すると、雪穂姉は急に俺の方見る。
「それにしても、久しぶりに楽しく休日を過ごせた。ありがとね真。」
「別に感謝されるようなことは何もしてないけど。」
俺がそう答えると、雪穂姉は俺より少し前に行き、手を後ろで組んで、振り返って満面の笑みでこう言った。
「真と一緒だったから楽しかったんだよ!休みが合えばまた一緒に二人で出かけようね。」
破壊力抜群だった。
星華のことが好きな俺が、ころっと雪穂姉のことを好きになってしまいそうになった。姉弟である俺でさえこのざまだ。たぶん他人であるほとんどの男は、今ので恋に落ちてしまうだろう。
それほどの破壊力だった。ぶっちゃけ、押しキャラのデレくらいの破壊力だった。
雪穂姉の強烈な一撃をくらった場所が家の近くでよかった。なぜなら、照れているのをからかわれないで済んだからだ。
家に帰ると両親と星華は夕食を終えていた。だから、雪穂姉と二人で食事をする。ただ、会話はなかった。俺としては先ほどの一件があるから助かったが、雪穂姉が話しかけてこなかったのは謎である。
食事を終え、風呂に入り寝る準備をする。今日が休日だったとはいえ、明日からまた部活が始まる。朝練があるから早めに寝なければたぶん起きられない。そう思い早くから布団に入ったのに全然寝付けなかった。
確実に雪穂姉のせいである。
あんな男を落とす一撃必殺のようなやつをくらったら、落ちなくてもすぐに思い出してしまうに決まっている。
そして、思い出すたびに照れてしまう。こんなに胸がどきどきと高鳴っているのは、星華とのあのデート以来だろう。
なぜ俺は自分の姉ばかりにどきどきしているのだろうか。かわいい子なら学校に何人もいるのに。
自然に雪穂姉のことから離れ違うことを考えていた俺は、いつの間にか眠っていた。
この日は俺も、久しぶりに楽しく休日を過ごすことが出来た。