第三話 委員会と姉の友人
星華と距離が縮まったのでは
と思っていました。
しかし、あの日以降変わったことは全くなく、ものすごーくいつも通りの生活が続いていた。
あんなイベントがあったらふつう何か進展があるものだろ。ラノベとかでは、ああいうのがきっかけで恋に落ちていくとかあるじゃん。
くそ、やっぱり三次元はプレイヤーに厳しい。
まあ、攻略対象が一番難易度が高いからというのが大きいが。
というか、そもそも現実で恋を成就させるなんてのは、元々ハードルが高いのだ。
好きだというのをバレないようにポーカーフェイスだったり、好きでもない相手に思わせぶりな態度とったり、ギャルゲーとは全く違う。
学校で誰が誰を好きなんてのが全くわからない俺にとって、ギャルゲーで得た知識は、ヒロインを攻略するのに重要な役割を果たすはずだった。
だが役に立たないとわかり、しかも、星華と距離を縮められてないなんて、実質ふりだしに戻った気分だ。(まあ、ほぼふりだしだけど。)
そんなこんなで、新学期が始まって二週間が経とうとしていた。
俺は図書委員として、中等部校舎と高等部校舎の間にある二階建ての大きな図書館のカウンターで、本の貸し借りなどの仕事をしていた。
図書館は自習場所として生徒によく利用されているが、本の貸し出しとかはあまりないため、ただ閉館時間まで座っているだけでいいというとても素晴らしい委員会活動だ。
つまり、今俺は委員会の仕事とという名の部活さぼりをしている。
放課後に静かな場所で、誰にも邪魔されずラノベが読めるなんて最高だ。
一年の時たまたまなった時から、高等部を卒業するまでこの委員会をしようと決めたほどだ。
委員は各クラス一人で、中等部と高等部の生徒がペアを組んで仕事をする。だいたい二週間に一回登板が来る。
昨年も一昨年も知らない先輩で何かと楽だったが、今年は違った。
雪穂姉の友達である、東条紗英とペアだった。
彼女は雪穂姉と同じ高等部二年で、同じ文芸部に所属、そして、オタ友。
まあ、要するに雪穂姉の親友だ。
俺もオタクなので、家に遊びに来てる時なんかに話したことがある。
・・・察してもらえたと思うが、
彼女に話しかけられまくり、俺の学校での癒しの時間はあっさり消えてしまった。
だが、東条紗英と話す時間は、別に嫌ではなかった。むしろ、楽しかった。
自分の知らない雪穂姉を知れること、雪穂姉や蘭丸以外でラノベやゲームの話ができること、俺にとって新鮮なことが多くすぐに仲良くなれた。
決め手はこれだろう。
「世間では、妹好きが多い。それに、妹物のラブコメや妹キャラの優遇などが最近多い。だけど、妹より姉の方がいいですよね紗英先輩。たしかに、かわいい妹の面倒を見たり、かわいい妹に頼られるのがいいのはわかります。けど同じ主人公視点なら、美人だったり、かわいい姉に面倒見てもらったり、頼ったり、甘やかされたりする方が良くないですか?」
紗英は少し考えて、
「うーーん。私は、好きじゃないと面倒見るのは大変だってわかってるから、姉キャラに面倒見てもらうってのはいいかもって思う。それに、姉キャラは姉妹にしろ、姉弟にしろ下の子のことを大切にしてるキャラが多いしね。」
「まあ姉キャラは、妹キャラよりだいぶ少ないですけどね。もっと、姉キャラを登場させて欲しいものです。」
「雪穂に聞いてた通り、姉キャラ大好きなんだね。」
「最近では、時間があれば姉キャラのまとめサイトでも作ろうかと考えたりしました。運営が大変そうだから断念しましたけど。」
「へぇー、面白そうじゃん。もしやる時は声かけてね。手伝うからさ。」
「ありがとうございます。周りは妹キャラの方が好きなやつばかりで、同士ができたみたいで少し嬉しいです。」
この会話をもって、俺は彼女と同士、いや、友人となった。
図書館でラノベを読む時間は減ってしまったが、俺は、これまでより楽しく過ごせそうだと胸を躍らせていた。
まだ随分と先のことだが、彼女と仲良くなったことは、俺にとっていいことだけをもたらすわけではなかった。