第二話 帰宅(デート)
放課後、部活が終わり星華を正門で待つ。
うちの学校では、二つある体育館をバスケ部とバレー部で一つずつ使っている。中等部と高等部の部活終了時刻は同じため、同じバスケ部である俺と星華は、毎日一緒に帰っている。
ちなみに、いつの間にか、途中のコンビニで少し腹ごしらえをして、バスケットコートのある公園で三十分ワン・オン・ワンをしてから帰宅するのがあたりまえになっていた。
俺は星華のことを好きになってから、この帰りの約一時間を大切にするようになった。
部活が忙しくて休日もほとんどなく、二人でどこか行くことなどめったにないため、俺にとって下校の一回一回が貴重なデートである。
しかし、考え方を変えると、一日に一時間は必ず二人きりであるということだ。
部活は週一回は休みなので、週六でこの時間がある。(休みはほとんど平日)
春休み、夏休み、冬休み、テスト週間などの約三か月を考慮しても、一年・約二十四×三百六十五=約八千七百六十時間のうち、約二百二十七時間は二人きりの時間があるということ。
これは、そこらのカップルが一年間に一緒に過ごす時間より長いのではないだろうか。
姉弟だからというのは多少あるのかもしれない。だが、一緒にいる時間が長いというのは素直に嬉し。
たとえハッピーエンドの確率がほとんどないとしても、好きな子と毎日デートできるというのは、男を奮い立たせるのである。ラノベやマンガを読んでいてよく思う。男女関係なく恋の力というやつは、よくわからんがすごい。
一人でいろいろと考え込んでいると、星華が出てきた。
「おまたせ、真。帰ろっ!」
急に笑顔で来られると準備ができてないから、隠せない程照れてしまう。
「何照れてんの。好きな子のこと考えてて、私のこともその子に見えてたわけ?」
「べ、別にそんなんじゃない。ただ、星華が今読んでるラノベのヒロインがしたことと同じことしたから、そのシーン思い出してドキッとしただけ。好きな人なんていない。」
「あやしー。まあいっか。」
「星華こそ好きな人とかいないの?」
「まったく。」
すごく素っ気ない返事が返ってきた。あの程度で照れて取り乱した俺がアホに見えてくる。
まずは、星華と一緒にいてできるだけ照れないようにする。これが当面の目標である。
そして、いずれ必ず、星華を俺にデレさせる。
コンビニに立ち寄り、いつも通り軽食をとり、ワン・オン・ワン。
八時四十五分。だいたいこの時間に二人きりの夜練は終わる。
二人でベンチに座り、帰る準備をしながら今日の夜練のことを話す。
「また勝てなかった。」
「まあ、ちょっとずつだけど、私からポイントとれるようになってきてるし、けっこううまくなってると思うよ。」
「そんなもん?」
「あんたよりうまい私が言うんだから間違いない。」
「どうだか。」
ふいに頭にふわっと何かが触れた。
「大丈夫、ちゃんとうまくなってる。それに、私は真と一緒にバスケができるだけで嬉しい。真とのバスケは試合とは違った楽しさがあるから。」
そう言って星華は、俺の頭を優しくなでた。
俺のことを異性と思ってとった行動ではないことはわかっているが、久しぶりに優しくされたからか、心が温かくなった。
そして、周囲にも聞こえてるんじゃないかと思えるほど、俺の胸は高鳴っていた。
「じゃあ、帰ろっか。」
星華がそう言ったのを最後に、お互いに少し気まずくて、それから家に着くまで話さなかった。
けれど、その時間は、少し星華との距離が縮まったことで生まれた時間だと思うと、ただただ嬉しかった。
その日は何となく、お互いに家に帰ってからも口をきけなかった。
普段言わないこと言ったり、普段とは違う反応を二人ともが同時にしたりしたからかもしれない。
ただ、寝る前に今日のデートのことを思い返したら、とても心が満たされた。特に、頭をなでてもらったところを思い返すと、一番胸がドキドキした。
そのせいで、いつもより寝るのが遅くなってしまった。
けれど、それが嬉しくもあった。