第一話 変わり始める生活と新学期の始まり
「ねえ真。牛乳ちょうだーい。」
「わかった。コップ一杯でいいだろ?」
「うん、早くしてー。」
風呂上がりの星華に、牛乳を注いで渡すのが俺のいつもの日課である。
しかし、好きになってからはこの時間が大変で仕方ない。
風呂上がりで、薄着で日課のストレッチをしているため、星華が少しでも前傾するとシャツの襟元がゆるみ、胸の谷間や、ノーブラの胸が顔を出す。
見たい気持ちと、見てしまって興奮してはいけないという気持ちが心の中に同時に現れ、混乱して、どうすればいいか、元々はどうしていたのかがわからなくなりプチパニックになってしまう。
見て興奮してしまった時は、前かがみになりながら動かなくてはならなくなり、見なかった時は、後でめちゃくちゃ後悔する。
俺は、星華が風呂に入りに行ってからストレッチが終わって寝巻に着替えるまでの時間が、一日の中で最大の興奮と、最大の我慢を繰り返すという悪魔のような時間になってしまっていた。
この時間をどうにかしようと、日課である牛乳の受け渡しをさっぼったこともあるが、後で星華にボコボコにされた。
星華の体の至る所が俺の体に当たって悪い気はしなかった。というか、正直感触は気持ちよかった。が、非常に痛かった。
まあ、こんな感じで、家にいる間は俺にとっては、何かと大変になってしまった。
けど、この大変な生活になってから、救いになる時間もできた。
それは、義理の姉・雪穂との時間であった。
これまでも毎晩一緒にアニメを見ていた。
けど、最近はそれだけでなく、雪穂姉が書いているラノベを読んで感想を言ったりなど、アニメを見る以外のことも一緒にするようになった。
それは、俺にとって新鮮で、とても楽しい時間になっていた。
俺が星華への恋を自覚してから、徐々にだが俺たち姉弟の関係は変わり始めた。
そして、俺が春休みの間に変わった新しい生活に慣れ始めたころ、ついに新学期が始まる。
今日は始業式で、クラス替えなどがあるため部活の朝練が禁止になっているため、姉二人と一緒に登校する。
普段は、朝練がある俺と星華が朝早くに一緒に登校して、文芸部所属で朝練のない雪穂姉は、友達と一緒に登校している。
ただ、朝練禁止の日は姉弟で登校することになっている。(なぜだかわからないが)
だから、今日は三人で登校だ。けど、三人で登校するとき、いつも悪目立ちして、周りからの嫉妬とかの視線が痛くて、三年目なのにちっとも痛みに慣れない。
いい加減にやめて欲しい。
本当にやめてもらいたい。
そんなことを考えていると、いつの間にか学校の正門に着いた。
「それじゃ、行くね。」
「いってらっしゃい、真!気を付けてね。」
「また、部活の帰りにね。」
俺はそう言う二人に手を振り中等部の校舎へと向かう。
校舎前に着くと、それぞれの昇降口の前にクラス名簿が張り出されていて、なかなかの人混みだ。
少し待ってからでいいかと思っていた時、幼馴染で親友の瀬尾蘭丸がこっちに向かって走ってくる。
「おっす、真!やっぱり同じクラスだったぜ。俺たちは八組で、担任はまたれいちゃんだ。」
「まあ、小学生の時から違うクラスになったことないしな。けど、三年連続で担任はれいちゃんか。やったな蘭丸。」
「ああ。やっぱ、若くてかわいくて、優しくてしかも、授業もわかりやすい。れいちゃんはほんと最高だよなぁー。」
「そうだな。まあ若い女教師よりも姉の方が何倍もいいがな。」
「何言ってんだ、たしかにおまえの姉はレベル高いし、年上お姉さんてのもいいが、やっぱり、妹こそ最強。妹こそ至高。妹こそ正義だ。」
「ちっ、この妹バカのロリコンが。」
「そういうお前も、春休み中に姉バカは治らなかったみたいだな。」
「まあ、お互いここまで来たら治らないだろ。」
「たしかに、むりだな。」
などと姉・妹談義をしているとあっという間に教室が見えてくる。
「そういえば、どんなやつがいたクラスメイト?」
「人が多くて俺ら以外はあんま見れてないけど、たしか生徒会長とかいたぞ。」
「同じクラスなったことないけどどんなやつだろ?まじめすぎじゃなかったらいいけど。」
「それわかるわー。」
扉を開けて教室に入る。
まだあんまり人はいなかった。そして、知ってる人もいなかった。
とりあえず、黒板に張り出された座席表を確認して自分の席に荷物を置く。
今年の始めは窓側の後ろから二番目。非常にいい。
と心の中で歓喜していると、
「真は窓側後ろから二番目とかせこくね。れいちゃん来たら、黒板が見えにくいとか言って俺と変わってや。」
「ぜったいにいや。真ん中の前から二番目とか一番教師の目に着くとこじゃん。まあ、日頃の行いってやつだな。席替えやる中間テストまで頑張れよー。」
俺は勝ち誇った顔で蘭丸の肩をたたいてやった。
「けっ、その席でだらけて成績落として、強制的に真ん中の一番前になればいいのに。」
「ふっ、誰が一年の時のお前みたいなヘマするかよ。」
キーン、コーン、カーン、コーン
予鈴と共にクラスで散らばって話していた生徒たちが自分の席につく。
俺の隣の席に戻ってきたのは生徒会長だった。
「私は、一応中等部の生徒会長をやってる東条萌絵です。これから一年間よろしくね、神野くん。」
「こちらこそよろしくね、東条さん。」
「萌絵でいいよ。みんなにそう呼ばれてるし、早く仲良くなりたいから。だから、神野くんのこと真くんってよんでもいい?」
「別にかまわないよ。それじゃあ、改めて一年間よろしく萌絵。」
「うん。よろしく真くん。」
ちょうど朝礼のチャイムと同時に、担任教師である鈴木れいは教室に来た。
それから、体育館に移動して始業式などのめんどくさい工程を終え、また教室に戻ってくる。
「じゃあ、簡単に自己紹介を。このクラスの担任の鈴木れいです。文芸部の顧問をしてます。担当教科は国語です。一年間よろしくね。それじゃあ、廊下側の生徒から順番に、先生がしたような簡単な自己紹介をお願い。」
自己紹介が始まったが、クラスの半分が終わっても知ってるやつが一人もいない。
そのまま自己紹介は淡々と進み、何事もなくなく終わった。
(蘭丸が目立とうとしてすべったことは言うまでもあるまい。)
最終的に、蘭丸と萌絵とれいちゃん以外は全然顔と名前が一致しなかった。一学年何人いるのか知らないけど、まさかここまで知らない人だらけのクラスだとは思ってなかった。
俺はクラスメイトの顔と名前を覚えることから始めないといけないらしい。
「はぁー。」と口から溜息がこぼれそうな心境で俺の新学期は始まった。