魔王になった勇者とかってタイトル見るから自分なりに書いたんだけど、これなんか違う気がしてきたんだが……
勝利に喜び城下町に住む国民は、まるでお祭り騒ぎの如く活気に満ちてた。そんな城下町とは違い、城の一室は1人の男性が女性に膝枕をして貰いながら抱きしめ、なにかに怯えるように身体をブルブルと震わせていた。部屋の窓は固く閉ざされ、カーテンも閉めきり、部屋は薄暗かった。
女性は、男性を優しい眼差しで見下ろしながら頭を撫でてた。
「貴方様は、民のためを思いやった事なんですから、自分を責めないでください」
女性が優しく耳心地の良い声で男性に話しかけてた。
「それに、私達を迎え入れてくれた事への恩返しと思えば、少しは気も楽になると思いますよ?」
「でも……僕が……僕が今日壊滅させた相手は!……うぅ」
そう言って男性は、身を縮こまし、抱きしめる力を強め、女性の腹部に顔を埋め、泣き始めた。
「お辛いのはわかります。なので、今は思いっきり泣いてください。私が……ずっと傍にいますから……」
それだけ言って、頭を撫でてた手を離し、上から包み込むように男性を抱きしめ、女性も涙を流していた。
男性が今日壊滅させた相手は……最近まで、命を懸けて守った民だったのだ……
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勇者……魔王を倒す事ができる人類の希望……勇者は、勇ましい者、勇気ある者、勇敢な者だと私は小さい頃から聞かされていた。私は10歳の頃、教会で神託を受け聖女となった。父や母は私を褒め、周りの人達は私にひれ伏し祈りを捧げてた。
その時の私は、周りの人達の行動がとても怖かったけど、褒めてくれる父と母の事がそれ以上に嬉しかった。
それなのに……私が聖女となった事で、私だけ協会で暮らすことになり、両親と離れ離れになった。
協教会では、聖女の証である癒しの力を学んだり、聖女としての生き方を学んだりしながらそれとは別に、他の人達と同じく、教会の給仕を覚えさせられた。そして……聖女は勇者を助け、勇者を支え、そして……勇者と結婚する……私は神託を受けた時点で、将来が確約された。
そして私が神託を受けて2年後……勇者が現れた。
その報を聞いた私は、不安と絶望しか無かった……どんな人か分からないし、私の事を大切にしてくれない人だったらと思うと、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
そんな気持ちを抱きながら私は、教皇様と協会の一室で勇者が来るのを待った。
コンコン!
扉をノックされ入ってきた神父様に連れられ、1人の男の子が入ってきた。見るからにひ弱そうで、突然こんな所に連れてこられ、まるで寒さに震えて縮こまってる猫みたいに、震えてた。
「教皇様、聖女様、この者が本日神託にて、勇者とやった者です。こら! いつまでも震えてないで教皇様達に挨拶をしなさい!」
神父様は、そう言って男の子の後頭部に手を置き、無理やり頭を下げさせた。男の子はそのままの姿勢で慌てて自己紹介を始めた。
「き……きょ……今日し……しん、神託を受け、勇者になったア……アレクと言います。よよよろしくお願いします!!」
はぁ……緊張して言葉は詰まるし、私が小さい頃から聞いてた勇者とはかなりかけ離れてて、正直幻滅した。しかも、将来この人と結婚までして子を授かるのかと思うと……私は前世でなにか悪い行いでもしたのかと疑いたくなった。
私が、彼を見て固まってたら、教皇様が軽く咳払いをしたので、私はハッと我に戻り、慌てて挨拶をした。
「聖女のティアです」
「よ……よろしく」
私とアレクは簡単な挨拶を済ますとまた沈黙が部屋を包んだ。
重い……でも話す事とか、聞きたい事とかないのよね……
「全く2人とも緊張してるようですね。2人ともコレから共に助け合っていく夫婦になるんですから、そんなんじゃ身が持ちませんよ?」
教皇様は私達を優しい眼差しで見つめながら言ってきた。確かに……夫婦になるんだから、彼の事少しは知らなければね……
私がニッコリと作り笑いで彼を見ながら、どうするか考えようとした時、いきなり彼は驚き騒ぎ出した。
「ま……待ってください! 夫婦ってどういう事ですか!?」
どうやらアレクは何も聞いていなかったらしい。
「聖女様と勇者様が結ばれそして子をお作りになれば、この国に、平和が確約されるとされているのです」
教皇様はアレクに、諭すように説明してた。それを聞いてもアレクは、教皇様に質問をしていた。
「ほ……僕まだ10歳です……そう言うのはまだ早いのでは……」
「はい。ですので今からアレク様は、勇者となるべく訓練や教訓を学び、無事魔の国王……魔王を討伐したら婚姻を結んでいただきます。それまでは、婚約者と言うことになりますね」
「わ……わかりました……」
アレクはこれ以上何を言っても無駄だと判断したらしく、大人しく従うことにした。
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それから6年の月日が流れた。
アレクはあの日から、毎日息をするのもやっとなほど、きつい訓練をしていた。時には大火傷をおってたり、死の淵を彷徨う状態の時もあった。なので私は、毎日癒しの力を使い彼の治療に当たってた。
正直……こんな姿の彼を毎日見る度に心が締め付けられる気持ちでいっぱいだった。いくら国の為とはいえ、ボロボロになる迄訓練をする必要があるのか疑問すら感じてた。それに、最近はいよいよ戦場にまで行く事があり、その時は私も安全な場所とは言え、一緒に着いて行ってた。
そして……彼の心はボロボロになっていた……
その事に私が気がついたのはつい最近……いよいよ魔王を討伐するのが決まった日だ……彼は夜私の寝室に来て、いきなり抱きつきベッドに押し倒された。いきなりの彼の行動に、私は恐怖を感じ、逃げようと暴れたが全く動けなかった。
いつもの彼と様子が違うし……何より力任せな行動が私には、怖くて仕方なかった。
「アレク様!やめてください!」
「ごめん……でも……今だけ……少しでいい……温もりを感じさせて欲しい……」
そう言ってアレクは私に抱きついたまま、特に何もしてこなかった。私も徐々に思考が回り、強姦される訳では無いと理解した。私は恐る恐る彼に尋ねる事にした。
「何かあったんですか?」
「こ……怖いんだ。訓練で死にかけ、戦場でも死にかけ……それなのに魔王と戦うなんて……今度こそ死んでしまいそうで怖いんだ! それなのに、周りの皆は『勇者様なら必ず倒せます』って重圧しか言ってこないし……誰も僕の気持ちなんかわかってくれないんだ……」
そう言って彼は私を抱しめる腕に力を込め震えを抑えようとしていた。怖くなって抱き締められる事は今までもあったが、ここまで怯えてるのは、私も初めて見た。
少し考えたら誰だってわかる事で、16歳の体に国の希望と言う重圧をずっと背負わされてるんだ、彼の心がボロボロになって怯えるのは必然ではないか、それなのに……私は彼に何をしてあげれてるんだろ……ただ体の傷を癒し彼を地獄に送るだけ……そんな私を抱きしめ、心が壊れない様に必死に耐えてるなんて……
私は気がついたら彼を抱き締め返してた。アレクは、初めて抱きしめられたせいか、一瞬体が大きく震えた。私が抱きしめる腕に力を込めると、徐々に震えが収まっていった。
暫くお互い抱きしめあってたら、アレクは力をゆるめ、私から離れた。離れた瞬間寂しさが私を襲った。
「ありがとうティア。 明日、僕頑張るよ!」
そう言ってニッコリとした笑みを私に見せてきた。だが、私にはその笑みは、あまりにも脆く、とても弱々しい感じに見えた。
「アレク様……必ず生きて帰ってきてくださいね?」
「できるだけ頑張るよ……ってティア!?どこか痛いの!?」
「えっ……? あれ? なんで涙が出てるの……?」
私は、アレクが死んでしまうかもと考えたら、涙が止まらなかった。明日、死ぬかも知れない彼の負担にならないように笑顔で送り出さないといけないのに……
「ティア……必ず戻ってくるから泣かないでよ?」
「約束……ですからね……」
アレクはそれだけ言って部屋を出ていった。きっと振り向いたら私が引き止めると思ったのだろう……きっと止めて逃げようと言ってだろう……
1人残った部屋で私はただ彼が生きて戻ってきてくれるように祈ることしか出来なかった……
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アレクは満身創痍になりながらも、どうにか魔王を倒した。これで、私達は夫婦になるのかと思ってたが、魔王討伐してから1ヶ月が経つのに、なんの話しも無かった。それでも私達は同じ家に住むようにはなってたから、色々忙しくて後回しになってるだけだろうと、この時はあまり気にしてなかった。
そして次の日、私達の運命が大きく変わる事件が起きた。朝早くからアレクは王様に呼ばれ城へ出向いてた。私は、彼の帰りを待ちながらのんびりパッチワークをして過ごしてた。穏やかな時間を楽しんでた私の前に傷だらけのアレクが血相を変えて帰ってきた。
私は慌てて癒しの力で、アレクの傷を癒し何があったのか聞いた。
「アレク様! 一体何かあったんですか!?」
「ティア……兵が……僕を殺しに来たんだ!」
「なんでそんなことになってるんですか!?」
「わからない……ただ、殺したくないから必死に逃げてきたんだ」
なぜいきなり国の英雄に刃を向けたのか、私には理解出来ず何が起きてるのかわからなかった。
アレクもいきなり命を狙われ、やっとの思いで帰ってきて私にしがみついたまま、脅えていた。
私達が戸惑ってたら、外から声が聞こえてきた。
「勇者アレク様! 大人しくその命を民の平和の為に、捧げてください! 魔王亡き今、貴方様の力が脅威なのです! なので民を安心させる為にも、最後のお勤めを果たしてください! 聖女様は我々が大切にしますのでご安心を!」
私達は、それを聞いて状況をやっと理解した。つまりこの国は自分達が無理やり育てたアレクが、邪魔だから消そうとしてるのだ。
それを知って私は、怒りを隠さずにはいられなかった。
「ふざけないでください……散々アレク様を、苦しめこき使っておきながら、用が済んだら死んでくださいって、あまりにも……あまりにもアレク様に酷いでは無いですか!」
私は掌から血が出そうな位に拳を握りしめ、兵達に聞こえてないのがわかっててもそう叫んだ。どうにかここから脱出しないと……でも脱出しても何処へ行けば……
私が色々考えてたら、アレクが震えながら、潤んだ瞳で私の方を見つめてきた。
「僕と一緒に魔の国へ逃げないか?」
「魔の国!? そこって……魔王がいたあの?」
私はなぜアレクがあの国へ逃げようと言ってるのか意味がわからなかった。そんな所に逃げたって、今度は向こうの人に殺されちゃうんじゃ?
「そう、実は……魔王が死ぬ前に僕に言ってきたんだ。『時期に貴様の命の危機に瀕する時が来る。その時は愛しの者とこの地へ来て、我の跡を継いでこの国を守ってくれ』って言ってきたんだ」
アレクは、魔王のその言葉を信じて逃げる場所として言ってきてるが、私はますます意味がわからなかった。
魔王は……この未来を予言してた……?とりあえず他に行くあても無いし……
「わかりました。アレク様と何時までも……何処までもお傍を離れたくありません!」
「ティア……ありがとう……」
アレクは、私にお礼を言って1枚のスクロールを取り出してきた。私は、そんなスクロールが家にあった事にすら気が付かなかった。
「このスクロールに、書き記してる魔法陣を使えば、魔の国迄一気に行けるんだ」
「な……なぜアレクがそのようなスクロールを……」
もしかして魔王から渡された? だとしたら、アレクも心のどこかでこうなる事がわかってた?
「とりあえずこれ以上ここに居たら危ないし、話は向こうでしよう」
そう言ったアレクが、スクロールに魔力を流すと、そこに描かれてた魔法陣が光だし、突然私達以外の全てが歪んだ。
歪みが収まり当たりを見渡すと、玉座みたいなものが見えた……その場にいた兵らしき人達は、私たちの方を見ながら何か話してた。微かに聞こえてきたのは、「やはりこうなったか」「あのクソ王国め」等、どうやらここにいる人達は、状況を理解してるようだった。
アレクは、私を背中で隠すように前に立ち、警戒してた。いつも震えてるのにこの時ばかりは震えておらず、不謹慎にもそのギャップにドキリとしてしまった。
大臣らしき人が私たちの目の前に来るといきなり膝まづいて頭を垂れた。
「お待ちしておりましたアレク様。いえ……魔の国の王」
「え? 僕が王?……魔王!?」
「はい、先代魔王様を倒し、国を追われた勇者はこの地で次代の魔王となるのです。と言ってもあの国が勇者を手厚く扱っていたらならなくても良いのですが……」
「でも……それじゃ……」
私はある疑問が生まれ思わず口に出しそうになった。
「はい、お妃様のご想像通り、魔王と勇者の戦いは、国同士で承認してる茶番劇です」
「戦なんて! 民は悲しむし、命だって奪われたりするんですよ!? それを国同士が承認してるですって!? しかも茶番劇って!」
あまりにも、ふざけ過ぎてる現実に私は、悲しみよりも怒りが勝ってしまった。アレクはそんなふざけた事のためだけに、あんなに死ぬ思いをしてきたって言うの?私はキッと睨みつけてた。
「あ……あはは……あはははははは!」
突然アレクが笑いだし、私を含め皆が彼に驚いた。
「許さない……許したくない……」
「ア……アレク様?」
「良いよ。なってあげるよ魔王に……あの国が攻めてきたら皆やっつけてあげるよ」
「なっ!? アレク様、何を仰ってるのか、わかってるのですか!?」
「わかってるよ……わかりたくないけど、わかってるよ……」
そう言ってアレクは泣きながら私を抱きしめてきた。抱きしめる力が徐々に強くなり、少し痛みが感じるぐらいだった。
「あの国を許してはおけない……僕達がいなくなったから、次の僕達が神託で選ばれちゃう……だから……」
「だから……国を滅ぼすと?」
「滅ぼすんじゃなくて、考えを変えてもらおうと思ってる。つまり守りながらも、交渉の席を設けて話し合いとか……」
「魔王様、恐れながら、それは無理だと思います」
大臣らしき人がアレクの考えを否定してきて、そのまま説明を始めた。
「それで変わるなら、とうの昔に変わっております。あの国の上層部にとって、今の状況が良いのです。それに次勇者が現れるのは、30~40年後です」
「え? なんで次の勇者がいつ現れるのが分かるんですか?」
「それは、それぐらいの時期になると魔王の年齢もいい年になるので、世代交代の意味もあるのです」
「でも……神託で……まさか……!?」
「神託とは……また面白い催しをしているのですね、あの国は」
私とアレクはその言葉を聞いて、体中の血がサーっと引いていった。アレクは、歯を食いしばり何かを考えてて、私は、何も考えれず、ただただ泣くことしか出来なかった……
「あの国が、攻めてきました!」
「コチラに来るのは想定内ってことですか!」
突然走ってきた兵が大声で叫ぶと、苦虫を噛み潰したような顔で大臣らしき人が声を荒らげた。
「魔王様! どうか、この国の民達を助けてください!」
「「お願いします!!」」
大臣や兵は改めてアレクにひざまついて助けを求めてきた。
「わかった……僕1人でやってくる。ティアは危ないからここに居てくれ……それとティアに何かあれば、僕がどうするかわからないから」
それだけ言って、アレクは出ていった。数名の兵は案内を兼ねて付いていった。
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そんな事があって、帰ってきたアレクは、私にしがみついて、部屋で泣いてた。
彼は泣き疲れたのかいつの間にか穏やかな寝息が聞こえてきた。私はお互いの涙を手で拭い、彼には聞こえてないのがわかっててもそっと呟いた。
「アレク様は、これからも、みんなの為にとご無理をなさいますでしょうが、私が……いえ、私だけが、貴方の身も心も癒して差し上げますので、頑張ってくださいね」
そう言って私はそっと彼の頬に口付けをした。
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