ポニーテール × ポニーテール
『01 ポニーテールという鎖に繋がれて』
私の長いポニーテールは、あなたが私を操るために伸ばさせたものだ。
犬のリードのように、あなたは私のポニーテールを掴んで、私のことを操作する。
ポニーテールが好きだという、あなたの為なのだから、別にいい。
地肌に感じる強い刺激も、最近は好きになってきた。
付き合いたての頃に、私がはしゃぎすぎて、はぐれてしまったのが、このポニーテールの始まりだ。
全部、私がイケないんだ。
今は、嫌だという気持ちが、少しは薄まってきた。
駄目な私への、愛情から生まれたのだから、しょうがない。
ボーッとして、車道にはみ出したときに、ポニーテールを引っ張って、助けてくれたこともあった。
今日は、久々の一人だから、思う存分、羽を伸ばしたいと思う。
あなたが、一人の時間をくれるなんて、珍しい。
ついつい、スキップが見え隠れしてしまう。
でも、不安たちが次々と、この胸に生まれてくる。
心に、寂しさがたくさんいる。
あなたがいなくなって、初めてこんな不安を感じた。
安心は、あなたが与えてくれていたんだ。
電車のホームに来たけど、混みすぎていて、息が詰まる。
どこか、自然溢れる場所に、逃げたいと思っていた。
なのに、慣れた場所から遠退くほどに、苦しくなっていく。
ホームに、電車がやって来た。
この電車は、通過する電車だ。
ホームの端の、黄色い線ギリギリの場所に立ち、次の電車を待っていた。
すると突然、後ろから何者かに押され、前のめりになった。
目線の先には線路があり、すぐ右には赤い電車が迫っていた。
もう、終わりだと思った。
ここで閉幕だと思った。
線路に落ちて轢かれる想像を、脳がリアルにこなしてしまっていた。
突然、頭に激痛が走り、引き戻され、黄色い線上で仰向けに倒れた。
下に落ちずに済んだ。
「大丈夫か?」
上には、あなたの覗き込む無表情の顔が、アップで存在していた。
『02 あなたのポニーテールは命綱』
人がすごくすごく怖いんだ。
誰も信じられないんだ。
信じると裏切られるからね。
でも、信じてくれたら信じる。
本当に信用してくれていると感じたら、信用する。
僕の行動は鏡みたいなものだ。
まだ、信用した人は少ない。
信用した人は、まだ一人しかいない。
あとにも先にも、一人だけだろう。
一人だけ、心から信じられる人がいる。
まだ出会って日は浅いが、濃い内容の言葉をくれた。
あなたの中には、ぎっしりと優しさが詰まっている。
しっかりとしたポニーテールを持ち、そのポニーテールのように強い。
女性にしかない、芯のある強さがある。
あなたのポニーテールを掴んでいれば、落ち着いて、何も気にならなくなる。
あなたのポニーテールを掴んでいれば、一生穏やかな気持ちで生きていける。
そう、確信していた。
あなたのポニーテールは命綱なんだ。
あなたのポニーテールが、間違いのない日々に、連れていってくれるんだ。
あなたのポニーテールが、突然無くなっていた。
美容室で、切ってしまったらしい。
間違えて切られたのではなく、自らの意向で切ったのだという。
会社の規則で、しょうがなかったらしい。
僕は、かなりかなり落ち込んだ。
あなたのポニーテールに、導かれて生きてきたから。
あなたのポニーテールに、落ち着かされて生きてきたから。
あなたのポニーテールを触らないと、ダメになってしまう。
ポニーテールが恋しい。
ポニーテールがないと、生きていけない。
もう、他のポニーテールを探すしかないだろう。
一人で歩いた。
一人で外を歩いた。
久し振りの一人での外出だ。
不安しかない。
不安に押し潰されそうだった。
途中、道端に座り込んで、動けなくなった。
少しの時間が流れたとき、優しそうな声が聞こえた。
『大丈夫ですか?』
パッと顔を上げると、優しそうなポニーテールの美女がこちらを見ていた。
不安は、スッと顔を隠してゆく。
胸がキュンと、締め付けられるようだった。
『03 ポニーテールは触角なり』
ポニーテールは私の命。
ポニーテールが整わないと、気分が晴れない。
家にいるときも、ずっとポニーテール。
寝ているときも、ずっとポニーテール。
毎日、ポニーテール姿でいる。
誰かとの距離や、何かの感触だったりが、触らずに分かる。
あなたの香りも、あなたの熱も、触らずに分かる。
このポニーテールで、全てが感じ取れるのだ。
この感覚が無いと、不安になる。
無いと、たぶん、誰とも接することが出来なくなる。
あなたの私への気持ちも、ポニーテールで分かる。
あなたを好きなライバルは多い。
だから、あなたと楽しく喋っていると、攻撃される。
教室で普通に、本を読みながら座っていた。
そこに、嫌な感じの女子が現れて、私のポニーテールが切られた。
もう、何も感じられなくなった。
無気力が、これから続くのだろう。
私からポニーテールを取ったら、何も残らない。
ただひとつ、あなたを好きという気持ちだけは、残った。
もしかしたら、ポニーテールよりも、あなたの方が、大事なのかもしれない。




