森のフェルト屋さん
イラストと写真が出てきます。
よろしくお願いします♪
森にある青い屋根のフェルト屋さんは、どんな物や動物でもそっくりに作ってくれると評判です。
今日もハリネズミの親子が赤ちゃんそっくりに作ってほしいとやってきました。
「やだなあ、こんなに小さくていっぱいのトゲトゲを作るのは大変なんだよなあ」
店主のねこさんがぼやきますが、ハリネズミの親子はちっとも気にしていません。
「そう言いながら、ねこさんはいつもそっくりに作ってくれるんだよね」
「まったく――しかたないにゃ」
ねこさんはぼやいていても、照れると語尾が『にゃ』になってしまいます。
うれしそうにしっぽをゆらすねこさんは、ふわふわな真っ白なフェルトのかたまり、茶色とクリーム色とピンク色の小さな瓶、それに針先にギザギザのついたみっつの針とフェルト道具を、ことり、とつくえに置きました。
「さてさて、あなたは何色かな?」
フェルトをちょきちょき切ると、ハリネズミの赤ちゃんをじいっと見ました。
ハリネズミの赤ちゃんは、くりくりの黒目でねこさんを見るとにこっと笑いました。
ねこさんはちょきちょき切ったフェルトに小さな瓶に入っている色たちを、ぱっぱっ、とふりかけます。
真っ白なフェルトは、きれいな色に染まります。
「ふわふわ、ころころ、なに作ろう。ふわふわ、ころころ、なに作ろう」
ねこさんが歌いはじめたら、ハリネズミの親子はねこさんの魔法にかかります。
「ちくちく、さくさく、なれるかな? ちくちく、さくさく、ハリネズミの赤ちゃんになれるかな? ちくちく、さくさく、ちくちく、さくさく――はい、ハリネズミの赤ちゃんになりました!」
ねこさんの小さな手の中には、ハリネズミの赤ちゃんそっくりな小さなフェルトのハリネズミの赤ちゃんが笑っていました。
「まあまあ――! この子にそっくりだわ。やっぱりねこさんはすごいわね」
「――どうもにゃ」
「ねこさん、ありがとう。大切にかざるわね!」
とびきりの笑顔になったハリネズミの親子は仲良く帰って行きました。
次にやってきたのは旅行のお土産に色とりどりのお花をいっぱい作ってほしい白くまさんです。
「やだなあ、こんなにいっぱいのお花を作るのは時間がかかるんだよなあ」
店主のねこさんがぼやきますが、白くまさんは涼しい顔をしています。
「そう言いながら、ねこさんはいつもおまけまで作ってくれるんだよね」
「まったく――おねだり上手だにゃ」
ねこさんは口をとがらせているのですが、やっぱり照れると語尾が『にゃ』になってしまいます。
ごきげんそうにしっぽがふりふり動くねこさんは、ほわほわ色白なフェルトの束と、桃色と若草色と黄色などの小さな瓶をひと抱え、あとは針先にギザギザのついたみっつの針とフェルト道具を、ことん、とつくえいっぱいに広げました。
太さのちがうみっつの針を使うのが、ねこさん流なんだそうですよ。
「さてさて、何色かな?」
フェルトをちょっきんと切ると、ねこさんは目をとじました。
ねこさんの頭の中には、春に見たお花たちが次々に浮かんでいるみたいです。
ねこさんはちょっきんと切ったフェルトに瓶の中にあるたくさんの色たちを、ぱっぱっぱっ、とふりかけます。
色白なフェルトは、色とりどりな色に変わりました。
「ふわふわ、ころころ、なに作ろう。ふわふわ、ころころ、なに作ろう」
ねこさんが歌いはじめたら、白くまさんはねこさんの魔法にかかります。
「ちくちく、さくさく、なれるかな? ちくちく、さくさく、色とりどりのお花になれるかな? ちくちく、さくさく、ちくちく、さくさく――はい、色とりどりのお花になりました!」
ねこさんの小さな手には、春のお花にそっくりな色とりどりの花束をもつ白くまさんそっくりな小さなフェルトの白くまさんがいました
「わああ――! この森のお花が咲いたみたいだね。それにすてきなおまけまで作ってくれて、やっぱりねこさんは最高だね」
「――またあそびにくるにゃ」
「ねこさん、ありがとう。北極の家にかざるよ」
笑顔の花が咲いた白くまさんは北極へ旅立ちました。
「さてさて、もうおしまいにするかな」
白くまさんを見送ったねこさんは、お昼前ですが店じまいしてしまいます。森のフェルト屋さんはねこみたいに気まぐれなのです。
「フェルトも色も少なくなってきたなあ。天気もいいからもらいに行こうかな」
ねこさんはそう決めると、リュックに必要なものをつめこんで出かけます。思い立ったが鯛日って言いますからね。
もこもこな桜の木を見つけたねこさんは、やさしくなでなですると空っぽの瓶を取り出します。
「さあさあ、おいで、さあおいで。あなたの色よ、さあおいで」
ねこさんが歌いはじめたら、もこもこ桜はねこさんの魔法にかかります。
キラキラした桜色が空っぽの瓶に吸い込まれていきました。
「ありがとう」
桜色がこぼれないように、フタをきゅっとしめました。
ねこさんはこうやって森のみんなから、ちょっぴり色をわけてもらっています。
菜の花やチューリップ、つくしにイチゴ、沢山の色をもらったら、たくさんあった空っぽの瓶はぜんぶいっぱいになりました。
「そろそろ、フェルトをもらいにいこうかな」
空色のフェルト靴をはいているねこさんは、雲さんの近くまで伸びる高い木に登ると、そのまま空を歩きはじめました。
「春の雲は、いいフェルトになりそうだなあ」
ねこさんのフェルトは雲からできているので、こうやって空まで取りにくるのです。
空色のフェルト靴は、たっぷりの雲から作っているので雲みたいにふわふわ浮いて、空を歩くことができる特別な靴なんですよ。とってもすてきですよね。
ねこさんはフェルトにするために、雲をどんどん腕に巻いていきます。いっぱいになったらリュックにつめて、また雲を巻きつけてどんどん雲をあつめていきました。
「やあやあ、ねこさん。また雲を集めにきたのかい?」
「どうも、お月さまこんばんは。雲をあつめていたら夜になっていて、こまったよ」
ねこさんがぼやきますが、三日月のお月さまはやさしくまわりを照らします。
「ははは、ねこさんらしいや。今日は泊まっていったらいい――ねこさんのすばらしいフェルトのはなしを聞かせておくれ」
「まったく――少しだけだにゃ」
ねこさんは困ったようにしているのですが、照れると語尾が『にゃ』になってしまいます。
うきうきとしっぽが動いてしまうねこさんは、夜おそくまでお月さまにフェルト屋さんのお客さまのおはなしをするのです。
「ねこさん、おはよう。そろそろお店が見えてくるぞ」
「ふわあ――お月さま、おはよう」
三日月のお月さまの上で寝ていたねこさんは、あくびをひとつしました。
フェルト屋さんの青い屋根が見えてきました。
「お月さま、またね」
「ねこさん、今度はわたしのフェルトを作ってきてくれないかい?」
「まったく――色々なお月さまを作ってくるにゃ」
にっこり笑うお月さまに手をふったねこさんは、たっぷりつまったリュックをよいしょ、と背負うと森のフェルト屋さんに戻りました――。
ここは青い屋根が目印の森のフェルト屋さん。
店主のねこさんはどんな物や動物でもそっくりに作って、お客さまの笑顔まで作ってしまうと評判です。
なかよくなると空をおさんぽできる空色のフェルト靴を作ってくれるかもしれませんよ?
さあさあ、あなたもあそびにきてみませんか――?
おしまい