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探し物

2日目の夜が明けた頃、ザムアに被せた布がすっかり人型に膨らみ、復元が終わったことを私達に知らせる。

「ハール、ありがとう。もう大丈夫そう。」

ザムアが手を振り、足を少し持ち上げる。私は、ザムアに掛けてある布をめくって、様子を確認する。

「ちょっと!ハール?!」

私の行動が予想外だったのか、驚いたザムアは飛び起きて布を体に巻き付ける。

ザムアが身に着けた布の切れ間からちらちらと青白い肌が見え隠れし、ザムアの体にしっかりと巻き付けたられた布は、その綺麗なボディラインを表している。

さっきの動きを見ても、ちゃんと硬直も解けてるようだし、言ってた通り、もう大丈夫ね。

私は、素足のザムアに、自分の靴を脱いで渡す。復元したばかりの体に、傷をつけるのもあれだしね。

「ありがとう、ハール。借りるわね。」

そう言って、ザムアが靴を履く。靴を脱いだ私の足は、ミストソーマの効果で革靴が現れている。

私なら別に裸足でも問題ないから、これでもいいわね。

「早く、シャウが帰ってきてくれるといいんだけど。」

少し大きめで、隙間の空いた私の靴を履いて、ザムアが歩き始める。

「ファントムロードの所へ行きましょうか。心配してるでしょうし。」

私は、頷いてザムアの隣に立つ。そして、2人でファントムロードの居る大広間に向かった。

大広間についた私達を、ファントムロードはにこやかな表情で迎えてくれた。

小さなファントム達が、私達の周囲に集まり、嬉しそうに漂っている。

「復元が無事に終わったようで、何よりだ。」

「えぇ、ここは力のある場所のようね。予想より早く復元できたわ。」

ファントムロードが頷いてザムアに答える。

「ネクロピースのある場所だ。その力は、想像に難くないだろう。」

「そうね。復元前より少し調子がいいぐらいかしら。」

自分の復元された体をさすりながら、ザムアが答える。

「それはよかった。」

「ところで、この辺りで私の体に合うような服は無いかしら?」

「ザムアに合う服・・・か?この遺跡の中に冒険者の死体があるとは思うが、だいぶ朽ち果てているだろう。それで良ければ、自由に持って行ってくれて構わない。」

「そうなのね、じゃあ、探してみようかしら。ハール、一緒に来てくれるわよね?」

ザムアの申し出に、私はすぐに首を縦に振って答えた。

光玉を手に、私とザムアがネクロコリスを歩き回る。

「意外と、死体って少ないわよね。」

天然トラップである落とし穴を重点的に調べていく私達。しかし、そうそう落ちて力尽きている間抜けな冒険者は居ないわよね。

それに、見つけたとしても、今回の目的はザムアの服、都合よく女性冒険者の死体なんてあるとは思えない。

最悪、女性冒険者じゃなくても、着れる物があればいいのだけれど・・・。

「やっぱり、湿気が強いのかしらね・・・。」

たまに見つかる遺体は腐敗が進んでいて、装備品は身に着けるのに少し抵抗を感じるものばかりだ。

いくら、病原菌やらなにやらに一切の気を使う必要は無いと分かってはいるけれど、やっぱり自分が身に着ける物とするなら、少しでも綺麗なものがいいわよね。

そして、私達は服探しと同時に、指輪の回収も行っている。どれぐらいの時間が経ってるのかは分からないし、帰りを待ってる人が居るかも分からないけど、出来る事はしておかないとね。

「指輪だけで、5個かぁ・・・。天然の人食い遺跡ね。」

回収した指輪は、私の道具袋の中に入れていく。

「女性冒険者でもいれば、少しは期待できるんだけど。」

ザムアがため息交じりに話す。女性冒険者は、道具袋の中に替えの簡易下着を入れていることが多い。

確かに、私もそんなことしてたっけ。生きてる頃は色々と生理現象もあったし。

「綺麗な水もないから洗濯も出来ないし、最後の手段はこの布を加工するしかないわね。」

幸いな事に、この白い布だけは何故かまだ大量にある。本当に、この遺跡は一体何なのかしら。

そう言いながら、ザムアが纏った布をひらひらとさせる。その度に、太ももあたりがあらわになる。私しか居ないから、結構大胆な事するわね。

私がそんなザムアを見つめていると、その視線に気付いたのか、ザムアが不思議そうな顔を見せる。

「ねえ、ハールは私の体にそんなに興味があるの?」

まぁ、興味が無いと言われたら、嘘になるかしら。綺麗なゾンビの体なんて、見た事ないしね。

珍しいもの、綺麗なものを見たいのは、どんな生物でも同じはずだし、決して私がザムアの裸を見たい訳じゃないのよ。うん。

「だめだ、この骸骨、はやくなんとかしないと。」

ザムアが棒読みで私を見つめながら、あきれ顔で見つめている。そして、確信を得たかのように頷いた。

「うん、ハールには見せない方が良さそうね。」

そう言って、ザムアは白い布をしっかり纏い、その肌を覆い隠した。

ザムアのその言葉と行動を考えると、もしかして、私の考えが全部表情に出てた?それは・・・すごく恥ずかしい。ミストソーマも、考えものね。

「とにかく、もう少し探して、それが終わってから考えましょ。」

そう言って、ザムアがネクロコリスの奥に進んで行く。私は、それを急ぎ足で追いかけた。

そうして、私達はネクロピースが採れる場所から反対方向、つまり上に向かってやって来た。

「このタイプの扉、結構見るようになったわね。」

ザムアがそう言いながら鉄でできている扉に手を当てる。その扉は、右側中央部に出っ張りがあり、それを握って回すことで押して開くことが出来る扉となっている。

しかし、大体この扉を開けた先は階段となっており、この扉の先も例外ではなく階段になっていた。

階段は、扉を起点としていて、下り階段は無く、全て上に登っていくのみだ。

「もしかして、この扉の先は必ず階段があるのかしら?」

ザムアが先に扉を開けて、私が先行して周囲を確認する。階段はしっかりとした造りになっていて、階段の上には今開けた扉と同じ扉がある。

たまに、違うタイプの扉もあるのだが、その先は一本道の通路になっていて、最後にはまた階段の扉が現れる。

「ここまで来れた冒険者は少ないのかしら?」

ザムアが周囲を見ながら呟く。確かに、ここらは荒らされた形跡も、人が立ち入った形跡もない。

まるで、動く者は私達が初めてと言った感じがする。

「ここまで来たら、最後まで行ってみたいわね。」

ザムアの提案に、私も同意する。そして、どんどん階段を上り続け、1つの変化を見る。

「・・・これ、扉?」

私達の前に現れたのは、今までと同じような扉の形状をしていた。しかし、同じなのは形状だけで、材質は壁と同じように岩のようなザラザラとした物で出来ていた。

そして、同じように開けようとしても、扉の出っ張りは全く回らず、開けることは出来なかった。

「何かしら・・・この扉。ファントムロードなら、何か知ってるかもしれないけれど・・・。」

精神体であれば、この扉は全て意味が無いだろう。ここを隅々まで把握していると思われるファントムロードなら、この先を知っていると思った私達は、大広間に戻る事にした。


「おかえり。目的の物は見つかったのか?」

大広間に戻った私達に、ファントムロードが問いかける。その答えとして、ザムアは首を横に振る。

「着れるような物は無かったわね。でも、気になるものはあったのよ。」

「それは、何かな?」

ザムアが、ファントムロードにあの扉の事を説明する。それを聞いたファントムロードは、少し驚いた様子で私達を見つめる。

「で、貴方なら何か知ってると思ってね。」

ザムアの問いかけに、ファントムロードは少し考えて、思い出したことを私達に告げる。

「あぁ、あの上には、石碑があるんだ。」

「石碑?」

「何が書いてあるのかが、全く分からない。相当古い物か、我らの知る言語ではないか・・・。」

「謎の石碑ね・・・。見てみたいけど、あの扉は開きそうにないのよね。」

「開かないまでも、外周から登ってはいけないかな?」

ファントムロードの言葉に、私達はハッとする。中に入れるものだから、外から見るなんて考えもつかなかったわ。

確かに、山の上からネクロコリスを見下ろせるのだから、ちょっと頑張れば側面から登れるかも・・・私はそう思ってたのだけど。

「側面かぁ。結構垂直じゃなかったかしら?」

ザムアの言葉を聞いて、私はネクロコリスの外の様子を思い出す。ザムアの懸念通り、あの側面を私達が登るのは少し辛いわね。

「そうだな、実体を持つものには少し辛いかもしれないな。」

「外から登るなんて、シャウじゃないと出来ないんじゃないかしら?か弱い私達には無理よ。」

ザムアの言葉に少し引っ掛かりを感じたが、無理な事には違いないので、私はそのまま聞き流すことにした。

「あの扉を、開ける方法を探した方が早いわね。」

ザムアの場合、開けるより壊した方が早そうだけど、ここを傷つけるのはさすがに気が引けるのだろう。

しかし、あの扉を開けるには、何が必要なのかしら?

「シャウが戻ってくるまで、まだ時間がありそうだから、ゆっくり探索しましょ。もう少し、調べられるところは残ってるし。」

ザムアが、そう言って自分の体を見る。そうだ、今回の探索では、ザムアの服は見つからなかったのよね。

そう考えながら、ザムアの事を見ていると、ザムアが何かを感じたのか、私をジトっとした目で見つめてくる。

そして、大きくため息をつき、仕方ないと言った表情を見せる。

「ハール、私の下着を作るから、この布がある場所に行きましょう。」

その言葉を受けて、私の表情が明るくなる。きっと、目も輝いてたと思う。

「見せないからね?」

布をしっかりと腕で押さえながら、念を押すザムア。

私は、ザムアに頷いて見せる。うん、わかってる。流石に堂々と見ないわよ。

そして、私達は布が置かれてある部屋に向かった。

そう言えば、この部屋に2人で来るのは初めてね。そう思いながら扉を開ける。

「へぇ・・・この部屋に布があるのね。」

部屋の中は、人が3人入れるぐらいの小さな空間となっていて、壁際に棚と収納用ロッカーがある。

私は、その中の収納用ロッカーを開き、中から布を取り出す。

「まだまだ、沢山あるのね。」

収納用ロッカーの中を覗き込んだザムアが呟く。

「ハール、その布を縦半分に切ってもらえる?」

私は、ザムアのリクエスト通り、剣を使ってその布を切り裂く。そして、その布2枚をザムアに手渡す。

「ありがとう、じゃあ、次は・・・。」

ザムアが周囲を見渡す。そして、私の方を向いて話しかける。

「少し、この部屋から出ててもらえるかな?」

うん、予想通りの言葉を掛けられて、私は残念そうな表情を浮かべる。

「何かあったら呼ぶわ。」

ザムアは私の背中を押して部屋から追い出す。あぁ、残念。

私が部屋から出ると、扉はバタンと音を立てて閉まる。

それから、扉の外で待つこと数分、扉の中から何か音が聞こえる。

「ハール?居る?」

扉の中から、ザムアが私を呼ぶ。私は扉をコンコンと叩いて存在を教える。

「もう大丈夫だから、入ってもらえる?」

ザムアの許可が出た。私は喜び勇んで扉を開ける。そこには、白い布を纏い、にこやかな笑顔を見せるザムアが居た。

あれ?この展開、少し嫌な予感がする・・・。

「ねぇ、ハール。そう言えば、貴方のその鎧、あの戦いで結構ボロボロになっちゃったわよね?」

そう言われた私は、自分の鎧を見る。確かに、剣で切られたり、突かれたりした跡が残っていて、ちょっと防御に難があるかもしれない。

けど、このくらいの方がアンデッドらしくて私は好みなんだけど、そうね、もう体があるから、不格好と言う意味ね。

「という訳で、ここの部材をを使って、鎧を修理しましょう。」

鎧の修理って、出来るのかしら?前に来た時は、そんな道具なかったけど、何か見つけたのかしら?

そう考えていた私の目の前に、ザムアが白い布を持ってきた。

「まずは、これをさっきと同じように切ってくれるかな?」

私は、訳の分からないまま布を同じように切る。そして、切った布をザムアに手渡す。

「じゃあ、次は鎧を脱いで。これを胸に巻いておいて。」

えっと、布を私の胸に巻く・・・?!それって・・・。そう気づいた私は、ザムアの顔を見る。うん、いい顔してる。

私は、やられたと言った表情を見せながら、仕方なくザムアの言う通り布を胸に巻き付ける。

すると、私の上半身は白い布を胸に巻いただけの状態になり、肌があらわになる。

「やっぱり、綺麗よね。ハール。」

ザムアがまじまじと私の肌を見る。やられた・・・。これがザムアの目的だったのね。

「おっと、見とれてる場合じゃないわね。これを見つけたのよ。」

そう言ってザムアが私に大きめの針を見せる。あ、本当に鎧を直せる部材があったのね。ごめん、ザムア。疑ってた。

でも、革を縫うためのちょっと頑丈な糸がないのだけれど・・・。

「糸は、これを使おうと思うの。」

ザムアが取り出したのは、色のついている細い針金だ。どこにこんなものがあったのかしら?

「あのロッカーの中、こういうのも入ってたのよ。一体、この部屋は何なのかしらね?」

ザムアが指さしたロッカーを、私は覗きに行く。そのロッカーには、工具箱や何かロープのような物がが巻いてある束が無造作に置かれている。

ロープのようなものの中には、ザムアの持っていた針金が詰まっていた。こんなものがあるなんて、本当にこの遺跡は謎だらけね。

「それにしても、ミストソーマって不思議よね。ハールの胸って、無いはずなのにね。」

不思議そうに工具や謎のロープを調べている私を見ていたザムアが、自分の胸をちらりと見てため息をつく。

私も少し気にはなっていたのよね。私は確かに胸に布を巻いている。骨の上に巻いてるから、本来はくっきりと骨の形が見えるはずなんだけど、私の上半身は布を胸に巻いただけの姿になっている。

身に着けている衣類が、ミストソーマで反映されるようね。うん、どう考えても、ザムアに利用される未来しか見えないわ。

そう考えていた私に、ザムアが話しかける。

「ハール、中に入れる布はこれでいいかしら?」

ザムアが修理途中の鎧を私に見せる。私は、それを受け取り、鎧の内側を探ってみる。中は綿よりも硬い感じがしたけど、さっきよりは随分と着心地が良さそうだ。

私は、頷いて、これで良いという事をザムアに伝えた。

「じゃあ、これで縫っていくわね。」

ザムアは手際よく黙々と鎧を縫い合わせる。こういった作業は、私の手だとやりにくいから、とても助かるのよね。

私は、再び周囲のロッカーの中を開けて調べてみる。さっきみたいな道具類は入っていないけど、内側に色々と模様が書き込まれているロッカーなんてものもあった。

「その辺りは、全部調べたけど、便利そうな道具は無かったわよ。はい、出来た。」

ザムアが修理の終わった鎧を私に見せる。傷口はしっかり針金で縫われていて、裏側で硬くねじりこんであり、開く事は無いと思う。

私は、その鎧をしっかりと抱きしめる。そして、それを側に置いて、私はザムアに近寄る。

そして、笑顔のザムアを私はぎゅっと抱きしめて感謝の気持ちを伝える。

「ハール、これからもよろしくね。」

私は、ザムアの言葉を聞いて、口を動かしてみる。それを見たザムアが、驚いた表情を見せる。

「こ・ち・ら・こ・そ・・・そう言ったの?!」

私は頷いてそれが正しいことを伝える。声は出ないけど、言葉が伝わった。それが、涙が出るくらい嬉しかった。だって、言葉はもう伝えられないと思っていたから・・・。

「私も、勉強しなきゃね。ハールともっと詳しく話したいし。」

そう言うザムアを、愛おしく思った私は、もう少しザムアを抱きしめる。

「ハール、ちょっと苦しいから、緩めてもらえるかな?」

ザムアが私の肩をポンポンと叩く。それを合図に、私はザムアを開放する。

そして、早速ザムアの修理してくれた鎧を着こむ。やっぱり、慣れ親しんだ鎧はしっくりと体に合って、気持ちがいい。

「あれ?ハールの姿って、一番外都側の衣装が反映されるのね。」

ザムアの言う通り、私の姿はいつもの鎧姿に変わった。少し気になった私は、もう一度鎧を脱いでみる。

すると、姿が再び布を巻いただけの上半身が現れる。しかし、それを見ているザムアが、驚いた様子で私をじっと見ている。

そして、いきなり自分の纏っている白い布を脱いで、私に纏わせる。

何かしら?そう思って、私は纏った布の隙間から、もう一度上半身を見直す。そこで、ザムアの謎の行動の意味が分かった。それと同時に、私の顔も真っ赤に染まる。

「・・・ハール、なんか、ごめん。」

そう、私の胸から布が外れていたのだ。おそらく、鎧の内側の針金に、布が引っかかってしまったのだろう。そして、その姿はしっかりとミストソーマが再現している・・・。

下着姿のザムアが、申し訳なさそうに私に頭を下げる。あれだけ見たかった姿なのだけど、今の私の頭ではそんな事を考えられる状態ではない。

私は胸を隠してしゃがみ込み、頭を抱える。ここまで再現しなくてもいいじゃない・・・。

2人の間を、気まずい空気が流れるのを感じる。さっきまでのいい感じの雰囲気を返してほしい。私は心からそう思った。


私とザムアがネクロコリスでこんな事をしている間、シャウはプルロアに戻り、私達の依頼をギルドに報告していた。

来るときには、2日かかった道だが、獣人のシャウだけならば、1日で戻れる距離のようだ。

「シャウさん、お疲れさまでした。」

ギルドの職員、ドリアードのイーレクスがシャウの報告を受け、笑顔を見せる。

「ところで、リーダーのザムアさんは大丈夫なのですか?」

「あぁ、今頃は復元が終わってると思う。あいつらの事なら、イーレクスの方がよく判るだろ。」

シャウの答えに、イーレクスがほほ笑む。そして、報告書を記入し終えたイーレクスがカウンターの下にある金庫を開ける。

「それでは、報酬をお渡ししますね。」

開けた金庫の中から、重そうな革袋を取り出す。その袋をカウンターに置き、シャウの方へ少し押し出す。

「こんなにあるのか?!」

「3人分ですからね。ちゃんと分けてください。」

革袋を確認するシャウに、イーレクスが釘をさす。

「大丈夫、ちゃんと分けるさ・・・。あぁ、そうだ。イーレクスに聞きたいことがあるんだ。」

「はい、何でしょう?」

「女性用の服が一式欲しいんだ、どこか良い場所を知らないか?」

「女性用の服、ですか?」

シャウの質問に、イーレクスは首をかしげる。その仕草を見て、シャウはイーレクスに理由を伝える。

「あぁ、ザムアに頼まれてな。アナスタシス教団に襲われた時に服を無くしたんだ。」

「そうですか、てっきり妹さんにプレゼントするのかと思いましたよ。」

イーレクスに言われて、シャウが思わず笑いだす。

「あいつは、詩人だからな。魔導士の服は似合わないだろ。」

「そうでしたね。それでは、私がいつも行ってるお店を紹介しますね。」

そう言って、イーレクスはメモにさらさらと地図を書き上げる。

「ここで、欲しい服を伝えれば、良い物をお勧めしてくれますよ。」

「ありがとう。行ってみるよ。」

メモと革袋を取り、シャウは冒険者ギルドを後にする。そして、イーレクスのメモを見ながらザムアの服を探しに向かった。

「ここは・・・。」

シャウはメモと現地を見比べながら、間違いはないと確認する。

間違いはないのだが、中は女性客ばかりで、流石のシャウも入るのに躊躇する。

しかし、周囲をうろうろとするのも、不審者にしか思われない。シャウは意を決して店内に入った。

「いらっしゃいませー」

おしゃれな服を着た店員が、シャウに声をかけてくる。何食わぬ顔でそちらを見て小さく頷いたシャウは、きょろきょろと店内を見渡す。

中には、服を着たマネキンが中央に2体飾ってあり、その服装は如何にも戦闘用ではないカジュアルなものだ。

そして、マネキン両脇には、棚状のショーケースが並んでいて、そこには綺麗に畳まれた服が置いてある。

それ以外の服もハンガーにかけられており、何人かの客がそれを持って奥の部屋に入っていく。扉の上には、試着室と書かれた名札が刺さっていた。

そのまま、視線は壁の装飾に向かう。壁にはキラキラとした装飾が散りばめられており、普通の冒険者用の装備を求めてきたシャウは場違い感に戸惑っていた。

「想像していたのとは、全く違うな・・・。」

シャウが思い浮かべていたのは、もう少し無骨な、落ち着いた店だと思っていたのだが、ご覧の通りだ。

「困ったな、何を選べばいいのやら。」

周囲にある服を眺めながら、首をかしげるシャウ。それを見ていたのか、店員がシャウに近づいてくる。

「お客様、どうされましたかー?」

その声に一瞬驚くが、シャウは丁度いいと考え、自分の求めている物を店員に伝える。

「魔導士用の服、ですか?」

きょとんとした表情を見せる店員。

「あぁ、ちょっと仲間が服を無くしてしまってな。」

「戦闘用の服は、こちらでは扱ってませんよ?」

「やっぱりそうなのか。」

周囲の商品を見ていると、確かにここには戦闘用の装備は無いだろうと思っていた。

「それなら、適当に見繕ってくれないか?」

シャウの頼みに、店員は頷いて問いかける。

「では、お客様の種族は何でしょうか?人狼族ですか?」

「いや、アンデッド。ゾンビの女性だ。」

「ゾンビですか。でしたら、全身を覆うような、汚れにくい物がいいですね。」

そう言いながら、驚く様子も迷いなくもなく店員が商品を持ってくる。そして、その服を広げてシャウに見せる。

「ゆったりとして、汚れを弾く付与が施されていて、尚且つシックに仕上がってますよ。」

そう言って見せられたのが、暗い青色のワンピースだ。シャウはそれを手に取る。

生地は少し分厚くて、スタイルが強調されないようにゆったりとした凹凸のないデザインだ。

「これは、最近はやりのラインワンピースで、多様な種族の方でも安心して着れる一着ですよ。」

シャウは、小さく頷いて店員に話す。

「これを貰えるか?後、すまないが、下着とかもセットで欲しいんだが。適当に頼めるか?」

そう聞いた店員は、少し難しい顔を浮かべる。

「すみませんが、下着に関しては、サイズの事もありますし、ご本人が来られた方ががいいかと。」

「そうか。仕方ないな。」

シャウはそう店員に告げて、会計を済ませる。

「ラッピングはいかがいたしますか?」

「持って行ったらすぐ着るだろうから、簡易で頼む。」

「分かりました。」

「代金は、これでいいか?」

シャウが革袋の金貨を取り出し、カウンターに置く。それを店員が確認し、笑顔を見せる。

「ありがとうございましたー。」

そう言って、店員は手早く服を包んでこちらに手渡し、深々と頭を下げた。

シャウはそれを見て店を出る。

「・・・女物の服、高いんだな。」

包みを見ながら、シャウは呟いた。あの代金なら、男物の服なら何枚も買える。戦闘用品の店に行けば、もっと安いのがあっただろうが、紹介された店に行かないわけにはいかないだろう。

「まぁ、快気祝いと言う事にしておこうか。」

そう言いながら、シャウは次元球の中に包み紙を入れて、ネクロコリスに行くための道具を補充するために道具屋へ向かった。

そこで、食料品と水、そしてアナスタシス教団との戦いで傷ついた自分の装備の一部を買い替え、ザムア達の道具を納めるための少し大きい道具袋を買う。

「さて、戻るか。」

そう言って、シャウは再びネクロコリスに向けて出発した。


私とザムアは、互いに気まずい雰囲気になりつつも、大広間に戻る。

戻って来た私達に、ファントムロードが声をかける。

「戻ったか。着るものは見つかったか?」

「ま、まぁね。」

ザムアが明らかに動揺しながら答える。ファントムロードは、すこし首をかしげるが、気にしないようにしたみたい。

結局あの後は、私はすぐに鎧を着て姿を変えたわ。そして、念願だったザムアの姿も、あの状況だとはっきりとは見えなかったわ。

でも、綺麗な肌は見れたから、良しとしておくわ。私も見られたし・・・。

「後は、シャウが帰って来るのを待つだけかしら。」

ザムアが、私に話しかける。その答えとして、小さく頷く。

「あの者の足なら、明日には戻って来るだろうな。」

「そうね、そのくらいかしら。」

私達が、昼夜を問わず歩き続けて1日半かかる。来るときは、シャウが私達に速度を合わせてくれていたのよね。

そう考えると、シャウの気遣いに、私達は助けられっぱなしなだったと改めて感じた。

「予定外に長くお邪魔しちゃったけど、ありがとうね。」

「気にするな、同士だからな。」

ファントムロードが頷いて答える。

「さて、今日はここにはアンデッドしかいない。楽にしてくれ。」

「いつも楽してるけど、もっとお言葉に甘えるわね。」

ザムアの言葉に、私とファントムロードは笑顔を見せた。そして、その夜は小さなファントム達と楽しい時間を過ごした。


そして、そんな時間は唐突に、大きな衝撃音と共に終わりを告げる。

それは、アンデッドの私達にとって、絶望の始まりとなる音だった。

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