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眠りを覚ます者たち

「ハール・・・何か音が聞こえない?」

私は、ザムアの方を向き、首を縦に振る。金属同士がぶつかる高い音、そして、何かがぶつかる振動音。私たちは、それが何を表すかすぐに分かった。

「シャウ!!」

ザムアと私は、扉を開け、急いで大広間に戻る。しかし、大広間の扉前で、私たちはその音の元凶に出会った。

「まだいたぞ!アンデッドだ!!」

全身鎧を身に着け、剣を構えている集団が、こちらを見つめている。奥には、旗を持ち、他の者とは違う豪華な刻印が刻まれた鎧を身に着けた者が、私達に剣を向けていた。

「やはり、情報通りここは不浄の地だ。我らが浄化せねば。」

リーダー格の男が、物騒な事を宣言する。不浄?浄化?どういう事?!

「ザムア!!今は逃げろ!!」

大広間の扉の奥から、シャウの言葉が響く。しかし、戦闘音も中から聞こえてくるところを察するに、相当の苦戦を強いられているのは間違いないようだった。

「ハール、行けるわよね。」

ザムアの言葉で、私は盗賊から頂いた大剣を両手で構え、相手の出方を探る。

今すぐにでも大広間に飛び込みたいけど、さっきの言葉が気にかかる。そして、体中を何か嫌な感覚が支配する。

「少しだけ、時間を稼いで頂戴。」

ザムアはそう言って、魔法を唱え始める。それに気づいた鎧の騎士が3人、それを阻止しようと私達に襲い掛かってきた。

その騎士たちの攻撃を、私は大剣で受け止める。そして、大きく剣を薙ぎ払い、先頭の騎士の首を飛ばす。

その光景を見た他の2人が、一瞬たじろぐ。その隙を逃さず、近くに居た騎士の頭を剣でたたき割った。

「ハール!引いて!!」

ザムアの合図で、私は後ろに飛び、ザムアの魔法の射線から逃げる。

「エアスラッシュ!」

そう叫んだザムアの手から、真空の刃が騎士たちに襲い掛かる。その刃は騎士たちの鎧をバターのように切り裂く。

切り裂かれた騎士たちは、そのまま地面に倒れこみ、うめき声を上げる。これでもう、こちらに向かってくることはない。

「今行くわよ!シャウ!!」

この集団を指揮していたと思われる、旗持ちの騎士も同じように切り裂かれており、うめき声をあげている。私たちはその横を駆け抜け、大広間の扉を開け放った。

真っ先に目に飛び込んできたのは、さっきまで動いていたゾンビと、原形をとどめていない骨が地面に散らばっている光景だった。

そして、部屋の中には9人の騎士がシャウを取り囲んでいた。

「ひどい・・・。」

ザムアが一瞬動きを止めて、思わず言葉を漏らす。次の瞬間、ザムアの腰に衝撃が走った。

「え?!」

ザムアが衝撃を受けた場所を見る、そこは横腹で、深々と剣が突き刺さっていた。扉を開けたすぐそばに、騎士が居たようだ。

私はすぐにその騎士の首を剣で突き刺した。騎士は兜の隙間から溢れんばかりの血を吹き、そのまま息絶える。

「ザムア!!」

シャウの叫びを聞いた私は、ザムアの傷口を見る。その傷口から、ザムアの体がどんどん崩れていく・・・。これってまさか・・・?!

「ハール!」

ザムアの叫びを聞き、私は、迷わずザムアの体を薙ぎ払った。ザムアの体は胸のあたりから真っ二つになり、地面にどさりという音共に落ちる。

私はそんなザムアの上半身を抱え上げて、シャウの後方へと移動する。

残った下半身は、その場にばたりと倒れ、2度と動く事はなかった。

私は抱えたザムアをゆっくり地面に置き、再び剣を構えて騎士たちの攻撃に備える。

「浄化とはね・・・。」

ザムアはそう呟き、腕の力を頼りに体を起こす。とっさに腕を上げ、切り落とされることを防いだようだ。

「説明は後だ。俺はこいつらを何とかする。ハールはザムアを頼んだ。」

私達が無事と言う事を確認したシャウが、騎士の攻撃をいなしながら私達に叫ぶ。私は、シャウの言葉に頷いて答える。

それで心のつかえがとれたのか、次の瞬間、シャウが室内に居た騎士たちを切り刻んでいった。

しかし、鎧と盾は騎士達の体をしっかりと保護している。ダメージは蓄積されてるようだが、致命傷には程遠い状態だ。

ここに来て、シャウの弱点が出たかと私は思っていた。シャウは動きが早く、奇襲攻撃に長けてるけど、攻撃が軽いから完全武装の敵には分が悪い。

「ハール・・・私、本気を出すから、合図したらシャウと一緒に私の側に来て。」

ザムアの方を向き、私は頷いて答える。ザムアの起死回生の一撃、邪魔させるわけにはいかない。

部屋の中に居る残りの騎士は9人、そのうちの6人はシャウと戦っている。私達の方を向いているのは3人、これならまだ何とかなりそう。

すぐにザムアに駆け寄れる位置で、私は3人の騎士を迎え撃つ。

しかし、騎士は魔法の詠唱に気付いたのか、シャウのに向かっていた騎士のうちの1人が声を上げる。

「メイジが居るぞ!浄化しろ!!」

その声を聞いた騎士の1人が、ザムアに剣を向ける。そして、シャウと戦っていた2人が私とザムアに向かってきて、私は5人の相手をする事になった。

流石に、5人を同時に相手するのは私には荷が重い。でも、ザムアを守らなければ、全員が死ぬ。

どうすればザムアを守れるかを考える。しかし、この人数を一度に相手にする手段は・・・近づいた敵を倒していく、各個撃破しかないわね。

辛い作戦に違いないが、それでもやるしかない。私は覚悟を決めて剣を握りしめる。そして、襲い掛かってきた騎士の剣を受け止めた。

しかし、受け止めた直後に他の騎士が私とザムアに襲い掛かって来る。私は、最初から持っていた剣を左手に持ちその攻撃を防ぐ。それでも、防げるのは追加で1人・・・。

私は、大剣で受け止めていた相手を蹴り飛ばし、ザムアから少しでも遠ざける。しかし、残りの騎士の攻撃はもう防げない。こうなったら・・・。

「ハール?!」

私はザムアを抱きかかえてしゃがみ込み、背中を騎士に向け、騎士の攻撃からザムアを身を挺して守る。

騎士たちは、そんな私の体を何度も何度も切りつける。

その攻撃を、私はなるべく鎧で受けとめた。ギルド支給品だけあって、革鎧とは言え騎士の攻撃も防いでくれている。いつまでもつかは分からないけど。

しかし、騎士は鎧で防がれていない腕と足を狙ってきた。私は、攻撃を受けた場所に違和感を感じる。

私の腕と足は、糸が切れたように地面に落ちる。本来、骨は肉体でつながっていなければ自立できない。自立できてるのは、スケルトン特有の能力のおかげだ。

私は、ザムアの体が崩壊したことを思い出す。あぁ、そう言えば、騎士の武器には、浄化の付与がされてるんだったっけ・・・。だから能力が切れたんだ・・・。

骨が落ちた所を見て、効果があると判断したのか、騎士は今度は私の首を狙って剣を振り下ろす。体はともかく、首をやられたら、もうだめかもね、ごめん、ザムア・・・。

来るべき瞬間を、ザムアを見つめながら私は待つ。ザムアは目を閉じて私の最期を見ないように、悔しそうな表情を浮かべながら魔法を唱え続ける。

しかし、その瞬間は甲高い音と共に消し飛んだ。何が起こったのか、私は体を少しだけ横に捻り、首を音の方向へ向ける。そこには、並んでいた騎士たちがバランスを崩している光景があった。

「仲間は守らないとな!」

どうやら、シャウが既の所で騎士の体を突き飛ばしてくれていたようだ。

「ハール、大丈夫・・・じゃなさそうだな。」

私は、ザムアをゆっくりと下ろし、残された左足と右手に握った剣でゆっくりと立ち上がる。鎧のおかげで、胴体の浄化は免れたようだ。しかし、右足と左腕を失った状態では戦えない。

「ピンチって奴だな・・・。」

私たちの周りを、9人の騎士が取り囲んだ。

「ありがとう・・・。」

その時、ザムアが低い声を放つ。私とシャウは思わずザムアを見る。

「ありがとう、仲間を、私をこんな目に合わせてくれて。」

ザムアの体がゆっくりと浮かび上がる。そして、私達と同じ目線まで浮かび上がった所で止まり、騎士たちをにらみつける。

「我が名はザムア・アンティ・フィリア・レギス。太古の魔王の娘。」

突然のザムアの言葉に、私以外の全員がどよめく。そっか、シャウには言ってなかった。忘れてたわね。

「これは大物だ、司祭様もさぞお喜びになる!行くぞ!」

騎士の1人が興奮した声を上げ、周囲を鼓舞する。しかし、その様子を冷たい視線で見つめるザムア。

「あなた達では、私達には勝てない。」

ザムアが両腕を広げる。それを見た私は、驚いて放心状態のシャウの肩を揺らし、手を引いてザムアのすぐ後ろに立つ。

「死を授けます。」

広げた両腕を少し上に動かし、手を握りしめる。すると、騎士たちの体が僅かに宙に浮く。

いきなりの事で驚く騎士たちだが、次の瞬間、鎧が赤い液体を噴き出しながら1枚の鉄板になる。

一瞬の事で、中の人は何が起こったのか理解は出来ないだろうが、もう理解する術も必要もないようだった。

その後、ゆっくりと地面に降りていくザムアを私は右腕で抱える。しかし、バランスを崩して尻もちをついてしまった。

「ふふふっ、ハール、ありがとう。」

私に笑顔を見せるザムア、そして、まだ呆然としているシャウに対して、ザムアは声をかける。

「シャウ、本当にありがとう。あなたが居なかったら、私達、浄化されてたわ。」

「あ、あぁ。仲間を助けるのは当然だからな。こっちこそ、助けてくれてありがとな。」

少しよそよそしい感じで答えるシャウ。まあ、あの力を見せられた後だと、仕方ないわよね。

「黙っててごめんなさい。隠すつもりはなかったのよ。」

「あぁ、判ってる。それに、まだ終わりじゃないしな。」

そう言って、シャウが大広間と通路を繋ぐ出入口を見る。そして、扉に向かってシャウが歩き始める。

そうよね、この中に居る騎士たちが、部隊全員って事はあり得ないわね。

私は、剣を杖代わりにして立ち上がろうとするが、その姿を見てシャウが私の肩を叩く。

「大丈夫、さっきは逆に奇襲をかけられたが、今度はこっちの番だ。」

そう言って、シャウは私達に不敵な笑みを見せる。私とザムアはそれを見て、安心して任せる事にした。

「シャウ、気を付けてね。」

シャウは、後ろ手に手を振り、分かったという仕草を見せた。

その姿を見届けた私達は、少し胸をなでおろした。険しい表情だったザムアも、今はすっかりいつもの表情に戻っている。

「それにしても、お互い、久しぶりにひどくやられたわね。」

ザムアは、既に崩壊した自分の下半身と、私の落ちてボロボロになった骨を見ながら、しみじみと話しかける。

「そう言えば、ファントムロードもやられちゃったのかな?」

私たちは周囲を見渡し、ファントム達を探す。しかし、その姿は見られない。

「小さい子も、居たのよね・・・。」

寂しそうに呟くザムア。確かに、居たわよね。

杖代わりの剣を頼りに、私は立ち上がり、倒れてしまった鉄の置物の影を見る。

そこで、私は置物の一部が光っているのを見つける。これって・・・?!

私は、倒れた鉄の置物に腰を下ろし、ゆっくりと鉄の置物をトントンと叩く。

すると、鉄の置物から小さなファントムが顔を出す。そして、次々と小さなファントムがそこから飛び出してくる。

「皆、無事だったのね!」

ザムアが嬉しそうな声を上げ、顔を手で押さえる。

小さなファントム達が、私とザムアの周りを飛び回る。そして、鉄の置物から最後に出てきたのが、ファントムロードだった。

ファントムロードは、周囲に落ちている赤い鉄板を見て、全てを把握した。

「助けてもらえたようだな。礼を言う。」

頭を下げるファントムロードを見て、私は首を横に振る。その理由を、ザムアが答えてくれた。

「まだ、終わってないわ。恐らく、表に本隊がいる。」

「・・・そうか。」

ファントムロードが口惜しそうに呟く。そして、本隊が居るであろう方向を見つめる。

「今、シャウが対応してる。」

「あの獣人か・・・。」

それから、私たちは静かにシャウの帰りを待つ。私も、ザムアも、シャウが絶対に帰ってくると信じてる。

そして、その時が来た。徐々に足音と何かを引き摺る音が聞こえる・・・。え?引き摺る音・・・?

私はそっと剣を構える。シャウがやられるなんて考えたくはないけど、そうなったら、今度は私が・・・。

「おっと。ハール、物騒なものはしまってくれないか。」

扉から覗かせた顔を見て、私は安心して剣を落とし、膝をついた。それと同時に、シャウが引き摺っていたものも目に入った。

「シャウ、何を持ってきたの?」

皆の疑問を、ザムアが代表して問いかける。

「ここを襲ってきた奴らのリーダーだ。」

着ている服が血に染まっていて、顔は傷だらけ、死んではいない様だけど、相当痛めつけられた感じね。

「この男が、惨状の元凶なのね。」

ザムアが静かに、怒りを込めた低い声を出す。

「そんなに単純なものじゃなさそうだぜ。」

そう言って、シャウの道具袋から一枚の布切れを取り出し、それを広げる。そこには、何かの紋章が描かれている。

「全員が付けていたこの紋章、見覚えはあるか?」

私とザムアは首を横に振る。しかし、ファントムロードはそれを見て表情を曇らせる。

「これは、アナスタシス教団の紋章・・・。」

「アナスタシス教団?聞いた事が無いわね。」

私も、ザムアも聞いた事が無い名前が出てきた。もちろん、シャウも聞いた事が無いと言った表情をしている。

「最近出来た新興教団だ。アンデッドを不浄として、徹底的に浄化する事を信条としている。私の元居た場所も、この教団に浄化されてしまった。」

「なるほどね・・・でも、こんな風に害を及ぼさない人たちに危害を加えるって事は、過激派集団と言ってもいいかしら?」

「その認識で合ってるだろうな。」

シャウの答えが正しいと、ファントムロードは頷いてみせる。

「ギルドに詳しい情報が無いか、確認してみるわ。」

そう言って、ザムアが指輪に手をかざして、ギルドとの通信回線を開く。

「ギルド、聞こえる?」

『はい、聞こえます。どうしましたか?』

「少し教えて欲しいことがあるの。」

『どんなことでしょうか?』

「アナスタシス教団について知りたいのだけれど、何か情報はあるかしら?」

『少しお待ちください。』

そう言って、しばらくの静寂の後、指輪から応答が返って来る。

『お待たせしました。アナスタシス教団の件ですが・・・。』

ギルドから、アナスタシス教団の詳細が告げられる。

その情報によると、アナスタシス教団は、ギルドから要注意団体として登録されているそうで、今から10年程前に誕生し、生命を脅かすアンデッドの一掃と、アンデッドと言う存在の消滅を教義として活動している。

そして、その手法は一言でいうと『強引』。今回のようにアンデッドの情報がある場所に教団の騎士・・・教団的には御使いと呼ばれる者達を派遣し、調査、殲滅、占領を行って規模を拡大しているそうだ。

確かに、アンデッドの居る場所は、誰も支配していないことが多い。そんな場所を浄化と言う名目で自分の領地にする、これほど生者にとって合理的な方法は無いわね。

でも、それは過去の話。今の時代、倫理的には完全にダメになったわね。

理由は簡単、アンデッドは、すでに世界の一部であり、私たちのような冒険者も居る。教団はそれらの存在する権利を一方的に脅かすだけの存在。故に、ギルドの情報にも要注意と記載されていると言う訳ね。

「ありがとう、よくわかったわ。またよろしくね。」

『ザムアさん、ハールさん、お気をつけて。』

指輪の光が消え、ギルドとの通信が切断されたことを示す。

「予想はしてたけど、それを上回る事実って・・・虫唾が走るわね。」

ザムアが大きくため息をつく。そして、シャウが引き摺って来た男に目を向ける。

「で、こいつはどうするの?」

「この部隊の隊長みたいだからな、お前たちに処遇を任せようと思って連れて来た。」

そう言って、シャウが男の襟首をつかみ上げ、仰向けにさせる。

「ザムア、少しこいつから話を聞きたい。傷を治してやれるか?」

「気が進まないわね。あれでも使えば?」

ザムアが自分の下半身があった場所を指さす。そこには、崩壊の影響を受けなかった道具袋が転がっていた。

「傷薬か。」

「悪いわね。私、そこまでできてないから。」

そう言ったザムアの気持ちはすごくわかる。問い詰めるためとはいえ、ここの楽園を荒らした奴に、そこまで優しくなれるほど私達は出来てない。

「気持ちはわかる。でも、こいつからは話を聞きたいんだがな。」

「私が治そう。」

そう言って、ファントムロードが手をかざす。その直後、男の目がゆっくりと開かれる。

「ここは・・・」

目覚めた男の第一声が、いかにも記憶障害が起こっている答えだ。

「目が覚めたか。まずは名を聞いておこう。」

ファントムロードが男を見据えてゆっくりと話しかける。

「ひぃ!!」

男は私達の姿を見て、怯えた声を出して逃げ出そうとする。しかし、シャウが先回りして出入口に立ちふさがる。

「ひ・・・人?」

シャウにすがろうとする男を、シャウは足で振り払う。

「た・・・助けて!助けて!!!」

必死に命乞いをする男を見て、私たちは冷めた視線を投げかける。そもそも、まだ私達は殺すなんて言ってない。

「どうするの?これじゃあ話にもならない。」

ザムアがあきれ顔で男を見る。それを見て、男はさらにパニックに陥る。

「し、死体がしゃべった!!」

「ねぇ、シャウ。これ、もう壊れてるんじゃない?」

ザムアが両手を広げて、やれやれと言ったジェスチャーを見せる。

「刺激が強すぎたみたいだな。御使いとか大仰通名が付いてるから、それなりの信念と力を持ってると思ったんだが。」

正直な話、私もがっかりしている。ここを壊滅させた部隊の隊長がこれなんてね・・・。

「仕方ない。処遇は任せた。」

どうやら、シャウも匙を投げたようだ。

「あなたは、どうしたいの?」

ザムアがシャウに尋ねるが、シャウは少し考えて答える。

「さっきも言ったろ。これは、お前たちアンデッドの問題なんだから、お前たちで決めてくれ。」

シャウは私達に全ての選択を委ねる。

「私は、許せないから、このままそこの鉄板と同じ目にあってもらいたいんだけど。」

ザムアの希望は、こいつの命のようだ。私もどちらかと言えばザムアと同じかな。

「・・・しかし、それでは再びここを襲いに来る可能性があるな。」

ファントムロードが1つの可能性を示す。確かに、部隊が全滅したら、それ以上の部隊を差し向けるのは想像に難くないわ。

でも、一体どうすればその可能性を消せるのかしら・・・。

「じゃあ、アンデッドにする?」

「それも、相手の神経を逆撫でするだろう。」

アンデッドを許さないと言っている教団に、アンデッドを送り込む・・・火種にしかならないわね。

「残った案は・・・魂ごと食べちゃうとか・・・。」

ザムアの提案を聞いている男の表情が、どんどん消えていく。全部の提案が自分の命の行方だから、仕方ないかもしれないわね。

でも、その提案がどんどんまずい方向に向かって行く。いい加減に止めないと、火種どころか、火の魔法石を大量に投げ込む事になりかねない。

「お前に問う。お前は、戻って教祖と対話することが出来るのか?」

ファントムロードが男を指さしながら問いかける。男は必死に首を縦に振った。

「それが真実であれば、ここから解放してやろう。」

「ほ・・・本当ですか?!」

必死の形相の男が、ファントムロードに懇願する。

「この親書を教祖に渡して欲しい。」

ファントムロードの目の前に、1つの手紙が現れ、それが男の前に浮かぶ。

「さぁ、それを手に取れ。そして、この地に再び足を踏み入れる事を未来永劫禁ずる。いいな?」

「は、はい!!」

男が手紙を手に取り、急いで立ち上がって部屋の外に向かう。

「待ちな。出口まで案内してやる。道を間違えたら死ぬからな。」

シャウが男の前に立ちふさがり、着いてこいとジェスチャーを見せる。そして、2人は大広間から出ていった。

「・・・本当にいいの?私は、信頼できないわよ?」

ザムアがファントムロードの方を向き、真意を尋ねる。その質問に、ファントムロードは口を開く。

「それでも、あの者はアナスタシス教団の唯一のパイプだ。まずは対話を試みてみるしかない。」

その答えを聞いて、ザムアは少し思うところがあるのか、手を額に当てて目を閉じる。

そして、ファントムロードを見つめて、自分の思いを伝える。

「貴方のように、自分の感情を超越しないと、統治者にはなれないと言う事ね・・・。」

「そうだな。しかし、貴方も統治者の血筋だったか。ザムア・アンティ・フィリア・レギス・・・懐かしい名前だ。」

少し意外な答えが返ってきて、ザムアは少し驚いている。

「そう、知ってるのね。」

ファントムロードがザムアの問いかけに頷く。

「でも、もうあの国は無いわ。はるか昔に滅んだ、遠いおとぎ話の国よ。今の私には関係ないわ。」

ザムアの話に、ファントムロードが興味を示す。

「ザムア、貴方は本当に私達とは違うのですね。」

ファントムロードがザムアの前に立ち、少しかがんでザムアを見据える。

「この姿になって、長いからね。いつまでも過去に執着するのは止めたのよ。私も、今を生きていたいから。」

「今を生きる、ですか。究極の不変と言われる、死者の言葉とは思えませんね。」

「そうね。そんなアンデッドが居てもいいでしょ。」

ザムアがファントムロードに笑顔を見せる。

「不変ではあるが、多様ではある。なるほど、その考えも興味深い。」

ファントムロードとザムアの2人がそんな話で盛り上がっている間、私は無事だった子供のファントム達の相手をしていた。

相手と言っても、私の側に寄って、静かに私にしがみついているだけ。直接触れないけど、私はその子たちの頭をゆっくりと撫でながら、シャウの帰りを待った。

そして、シャウの足音が大広間の前に戻って来た。

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